漫画・アニメの舞台化が人気となり、そこで活躍する「2.5次元俳優」が注目を集めています。

「2.5次元」界の王子様と呼ばれる若手俳優、黒羽麻璃央さん。

ミュージカル『刀剣乱舞』では三日月宗近役をつとめ、紅白にも出場。

ジュノン・スーパーボーイ出身、順調なキャリアを築きながらも、全部やめて地元に帰ろうとしたこともあったそう。“自分は何もできない”という不安を乗り越えることができたのはなぜなのか、伺いました。

“2.5次元界の王子様”と呼ばれて。

黒羽麻璃央
黒羽麻璃央(くろば・まりお)。1993年7月6日生まれ、俳優。宮城県出身。AB型。左利き。第23回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト準グランプリ。ミュージカル『テニスの王子様2ndシーズン』や、ミュージカル『刀剣乱舞』など舞台で活躍の他、映画「広告会社 男子寮のおかずくん」ドラマ特区「コーヒー&バニラ」、木ドラ25「テレビ演劇 サクセス荘」テレビバ/YouTubeオリジナルドラマ「寝ないの?小山内三兄弟」シリーズなど多数出演。

──“2.5次元界の王子様”と呼ばれていますね。ミュージカル『刀剣乱舞』で紅白にも出場されて。

黒羽麻璃央さん(以下黒羽):ありがとうございます。ぼくらというより、『刀剣乱舞』という作品の力が大きくて。

──刀剣女子が増えたり、全国的なムーブメントを起こした作品ですよね。黒羽さんは舞台以外での活動も増えていますが、“2.5次元界出身”と言われることについてはどうですか?

黒羽:正直“それだけじゃないんだけどな”と思っていたこともあります。でも、2.5次元がなかったら僕の存在価値は今なかっただろうし。2.5次元も作品自体も、広めていくことがひとつの使命なんだろうと、今は考えていますね。

──テレビドラマや映画でも活躍していますし、“それだけ”というイメージではないと思いますが……。

黒羽:最近はちょこちょこ映像のお仕事をさせていただいてますけど、やっぱり舞台を観る文化がある地域が限られているというか。

──観る習慣がない人もいますよね。

黒羽:そうですね。僕も地元にいた時は舞台を観る習慣がなかったし、特に地方ではなじみが薄いのかなと。だから僕が毎日舞台で頑張っていても、地元の知り合いからは“アイツ今何やってるんだろう?” “テレビに出てないから売れてないな”と思われているんだろうなと。

──活躍していても、不安が。

黒羽:2.5次元という言葉が一般的になってきたのもわりと最近ですし。今は本当に、変わりましたけど。

―元々、舞台を目指して俳優になったわけではないのでしょうか。デビューのきっかけは?

“就職活動が終わった”感覚でデビュー。

黒羽麻璃央

黒羽:高2の時、周りから推薦されて、思い出作りくらいのノリで、ジュノン・スーパーボーイ・コンテストに応募したんですよね。それで準グランプリ賞をいただきまして。敗者復活戦からだったし、本当に驚きました。

──イケメンコンテストの代表。やはりずっとイケメンで……。

黒羽:そんなことはないかと(笑)。子どもの頃はぽっちゃりしてましたし。かっこよくなりたいとかも全然なくて。子どもらしく。

──ぽっちゃりの気配、今はないですね……。

黒羽:友達に誘われてバスケをやってたんですけど、野球をやりたいって転向したんです。それが、初めて自分で決断した思い出。それもあってたくさん練習していたら、いつのまにかぽっちゃりではなくなっていて。

──野球少年からジュノンボーイに。受賞した時はどんな気持ちでした?

黒羽:周りより少し早めに“就職活動が終わった”みたいな感覚だったんです、その当時は。

──仕事についてはもう安泰! と。

黒羽:受賞したら、“仮面ライダーから月9に”みたいな王道が約束されていると思っていたんですよね。勝手なイメージで。

──実際どうでした?

黒羽:17歳の僕がふわふわと想像していたものと、現実はまったく違いました。

肩書きに意味はない。役者の世界では一番下・ド新人。

黒羽麻璃央

──仕事が自動的に舞い込むわけではなく。

黒羽:全然。オーディションも落ちまくりました。

──有名人になって生活が急に変わったわけでもないんですね。

黒羽:地元で高校に通いながら、ふつうにバイトも続けていました。フルーツジュースを作ったり、ホームセンターで洗剤やお米を運んだり。

──その後、上京の時にはミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンで青学(せいがく)菊丸英二役が決まっていたんですよね。

黒羽:経験もない僕を選んでいただいたのは、本当にうれしかったんです。

──走りながら歌うとか、大変そうです。

黒羽:体力的なキツさもあるけど、そもそも“お芝居する”ということが、わかってなかったんです。そのままの状態で稽古に入ってしまったので。

──突然知らない世界に入って、戸惑いますよね。

黒羽:“ジュノン出身”が、肩書きとして通用すると思ってたんですよ。でも蓋を開けてみたら何もできない自分がいて。役者の世界では一番下、ド新人。それは痛感しました。

上京したてでまだ友達もいなくて、稽古の後はひたすら部屋にひきこもっていました。

「全部やめて地元に帰ろうかな」

黒羽麻璃央

──お仕事を辞めようと思ったこともありますか?

黒羽:何回もあります。一番強く思ったのは、プライベートなことも重なって精神的にすごく落ち込んだ時。もう全部やめて地元に帰ろうかなって、両親にも電話でポロッと。

──なんと。どんな反応でした?

黒羽:どストレートに「帰ってきていいよ」って。

──どう思いました?

黒羽: 内心、止めてほしい気持ちがあったんですよね。1ミリぐらい。でも驚くでもなく励ますでもなく、「あなたが芸能界にいてもいなくてもどっちでもいいよ」って。それで肩の荷が、全部おりました。

──いい言葉ですね。

黒羽僕がどうあろうとも変わらない場所があることに気づいて、逆に“じゃあやってみよう”っていう気持ちが持てました。それで、視界が広がって。

──気持ちの持ち方が変わったということでしょうか。

黒羽:大きく変わりましたね。あの時期にいろんなことがあって良かったんだろうなというのはあります。人生のターニングポイントです。

自分の気持ちが変わったら、世界も変わった。

──考え方が変わって、お仕事にも影響はありました?

黒羽:それまでは俳優をやめた自分というのが、ある程度想像できたんです。今はもうまったく想像できないですね。

──帰れるところがあることで、逆に本気度があがったということでしょうか。

黒羽:フラフラしていた気持ちが落ち着くことで、自分で作っていた殻に気づけたのかも。ちょうどその頃、演劇プロジェクト「タクフェス」の『歌姫』に参加して、役者としてやっていくんだという意識も強くなりまして。

考え方ひとつで、世界がどんどん変わるんだなということを実感しました。

──仕事としての意識も強くなって、変わったことはありますか?

黒羽:僕は元々、素敵な役者さんにはヤキモチを焼くんですけど、負けたくない気持ちも強くなりましたね。基本的には“みんなで仲良く”の精神を持っているんですけど、ライバルでもあるので。

──そして、お仕事の幅も広がりましたよね。

黒羽:役者としての意識が強くなったら、元々この世界に興味を持つきっかけになった、映像のお仕事もしたいという欲もでてきまして。ありがたいことに今、少しずつやらせてもらっています。

──以前はあったという、“何もできない”という不安はなくなりましたか?

黒羽:まったくなくなったわけではないです。お客さんの感想とかは、今も気になります。

でもそれって、思い込みですよね。そのせいで可能性をせばめていたところがあるのかもしれません。

──またそういう不安が浮かんだら、どうしますか? 気にしない?

黒羽:たとえば“この演技がうまくできない”という不安があるんだったら、練習しかないですよね。反復練習。何度もやる。

―なるほど。自分ができることをやるんですね。

黒羽:初めてのことはみんなできないし、練習しないで誰でもできるんだったら、役者という職業がいらないですよね。他の役者さんと話すとみんな同じ悩みを持っていたりするんだけど、そういうのも最初のうちはわかってなかったのかな。

腹八分目で、次に動けるように。

黒羽麻璃央

──黒羽さんはご両親との電話をきっかけに気持ちの持ち方を変えられたということですが、きっかけがなくても、前向きに考えるにはどうしたらいいと思いますか?

黒羽:僕は「腹八分目」という言葉が好きなんですけど、それを意識するのがいいんじゃないですかね。

──どういうことでしょう?

黒羽:食べ物の話でも、腹八分目くらいにしておいたほうが“じゃあ次はこれを食べたいな”とか、“明日はこれが食べたい”とかと思えますよね。

──余力を残しておく?

黒羽:少し余力を残しておくことで、違う視点で物事を見たり、チャンスを受け止められることもあると思うので。一生懸命頑張ることは頑張るんだけれど、どこか八分目スタイルを意識の中に持っているといいんじゃないかなって。

──全部を求めすぎないというか。

黒羽:そうですね。“こう思われているかもしれない”とかの不安って、自分ではどうしようもないですよね。100%満足を目指していると、変えられないものが気になってしまうんじゃないかと。だから、自分でできることがあるとすれば、八分目くらいを目指すのがいい。

──なるほど。黒羽さんも、「帰ってきていいよ」と言われて力が抜けたことによって、逆に本気で望むことができたんですよね。

黒羽:いい意味で、「てきとう」でもいいのかなと。抜け感とか、脱力感が好きなんです。個人的にもそういう俳優さんが好きで、リリー・フランキーさんとか。あこがれています。

──いつか、そんな雰囲気のある役も……。

黒羽:そうですね。やれるものなら。

今の僕は、抜け感にはほど遠く、実力をつけたいなと思うことばかりですけど。どれだけ大口たたいても、実力がなければカッコ悪いだけですし。圧倒的ななにかを身につけられるよう、勉強中です。腹八分目で。

黒羽麻璃央

黒羽麻璃央(くろば・まりお)

1993年7月6日生まれ、俳優。宮城県出身。AB型。左利き。第23回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト準グランプリ。ミュージカル『テニスの王子様2ndシーズン』菊丸英二役 や、ミュージカル『刀剣乱舞』三日月宗近役など舞台で活躍の他、映画「広告会社 男子寮のおかずくん」「いなくなれ、群青」「鹿沼」「耳を腐らせるほどの愛」、ドラマ特区「コーヒー&バニラ」、木ドラ25「テレビ演劇 サクセス荘」テレビバ/YouTubeオリジナルドラマ「寝ないの?小山内三兄弟」シリーズなど多数出演。第9期「みやぎ絆大使」もつとめる。

Twitter:@vithmic_mario

Instagram:@mario_kuroba

WEBサイト:黒羽麻璃央 OFFICIAL SITE

取材&文/樋口かおる(@higshabby
写真/シオヤミク ヘアメイク/泉脇 崇(Lomalia)