仕事をする上で、あなたは何にやりがいを感じますか?

「お金を稼げればいい」だけでなく、仕事を通じて「社会の役に立ちたい」「社会をいい方向に変えていきたい」と考えている人も少なくないのではないでしょうか。

社会の課題を事業によって解決しようとする“社会起業家”は、まさに「仕事をしながら社会の役に立つ」を実践する人たち。

認定NPO法人フローレンスの代表・駒崎弘樹さんは、「病児保育問題」「待機児童問題」「赤ちゃん虐待死問題」など、保育を軸にした社会問題に取り組む“社会起業家”です。しかしながら意外なことに、大学時代には保育とはまったく縁のないITベンチャーの社長を務めていた経験を持ちます。

“社会を変える”を仕事にするとは、どういうことなのでしょうか。また、問題を解決していくためにはどんな視点や考え方が求められるのでしょうか。 「言うだけでなく行動を起こして、まずは実績を作ることが大事」という駒崎さんにお話を伺いました。

ITベンチャー社長から、保育業界へ。「日本社会の役に立ちたい」

駒崎弘樹
駒崎弘樹(こまざき・ひろき)。認定NPO法人フローレンス代表理事。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2005年、日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスの提供を開始。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長、内閣府「子ども・子育て会議」委員を務める。

── 駒崎さんは慶應義塾大学在学中にITベンチャーの社長になり、その後「病児保育問題(※)」を解決するためにNPO法人を立ち上げられています。あまり接点がなさそうに思えるのですが、どういった経緯ですか?

※「病児保育」とは、発熱や体調不良になった児童を保護者の代わりに預かること。37.5℃を超える発熱、または感染症を疑われる場合などには保育所に預けられないため、保護者が仕事を休まざるを得ないことが多かった。

駒崎弘樹さん(以下、駒崎):ITベンチャーを経営していた時、事業自体はうまくいっていたんですが、自分が提供するサービスが本当に社会の役に立っているのかわからなくなってしまった時期がありました。そんな時に休暇をとって、温泉で体育座りをして自己対話してみたんです。

── 自分探しのようなことでしょうか。

駒崎:そうです。大学ノートを久しぶりに開いて、思い浮かんだことを書き込んでみました。その時に、「日本社会の役に立ちたい」と青くさいことを走り書きして自分でも驚き、これが本心なんだと気づいたんです。

── そこから「病児保育問題」を解決しようという考えに至ったのは?

駒崎:温泉からの帰り道、当時ベビーシッターをしていた母親との会話を思い出しました。「子どもが熱を出して、会社を数日休まなきゃいけなくなったお母さんが、そのことを理由に仕事をクビになったらしい」というんです。

── え? そんなことがあるんですか?

駒崎:当時、「子どもが熱を出した時の預け先がない」というのは、そこまで社会全体に問題意識がありませんでしたが、子どもの病気という誰にも起こることが失職のリスクになる理不尽を、事業で解決しようと考えるようになりました。

フローレンスのタグラインは、「新しいあたりまえを、すべての親子に。」

── 若くして起業されていますが、年齢がネックになったことはありますか?

駒崎:そうですね。年齢もそうですし、僕が保育業界の素人だったということもありまして。大学卒業してすぐに起業したんですが、保育の勉強をしたわけではなかったですし、医師でもなかったので、とにかく無謀だと言われました。「女性がやるんだったらまだわかるけど、男性で子どももいないくせに」といった誹謗中傷もありましたね。

── 男性に対しても女性に対しても失礼な話ですね……。イノベーションを拒んでいる分野だったかもしれません。

駒崎:それに加え、保育ってやっぱり福祉ですので、事業にすることを良しとしない風潮があったんです。僕は保育であったとしても、サービスを届け続けるために持続可能な事業モデルを作らなければいけないと思っていたんですが、「金儲けのためにやってる」みたいに当時は言われましたね。今となっては、そこそこ信用は出てきましたけど、20代の頃は散々でした。

── そこから、どうやって社会的な信用を得ていったのでしょう。

駒崎:それは本当に積み上げていくしかないです。自分たちの事業モデルを確立し、成果を出して、メディアなどにも露出して、信用に足る要素を積み上げていきました。

── 逆に、若いからこそよかったことってありますか。

駒崎:リスクを取れたことでしょうか。決して儲かりそうにはない領域で起業するって、本当にリスクの高いことなんです。「妻子を養わなきゃいけない」みたいな表現は好きじゃないですが、少なくとも自分が守らなきゃいけないものがあったら、リスクを取れなかったと思います。その時の自分には何もなかったからこそ、挑戦できたのかなと。

困難を乗り越えた原動力は“不条理な社会への怒り”

─ 多くの困難があっても続けられたモチベーションは何だったのでしょう。

駒崎:“怒り”ですね。子どもが熱を出すのも、病気の子どもを看病するのも当たり前のことなのに、それによって職を失ってしまう理不尽で不条理な社会への怒りです。

── たしかに。そんなことがあったら子育てができませんね。

駒崎:その後も「待機児童問題」「障害児保育問題」「赤ちゃんの虐待死問題」など、なんでこんなバカげたことがあるのかと、政治や社会に対して怒りがあったわけです。

── フローレンスでは、そういった「解決したい問題」を軸にして、事業を展開されていますね。

駒崎:そうですね。なんとか自分にできることがないかを模索していった結果が今の事業につながっています。こういった事業を続けてこられたモチベーションは“怒り”だけじゃなくて、感謝されたことも大きいです。ひとり親の方に、「病児保育があったから子どもが熱を出しても休まなくてよくなって、パートから正社員になれたんですよ」とメッセージをいただいたこともありました。

フローレンスのホームページより。さまざまな社会問題を解決するために事業を展開している。

── とても励みになるメッセージですね。

駒崎:自分たちがやったことによって、誰かの困った部分を穴埋めできたっていう実感が、自分たちを支えてくれていたなと、すごく思いますね。

── 自分のしたことが社会の役に立っている実感を持てそうですが、その一方で、「福祉の領域はやりがい搾取になりがち」という話も耳にします。

駒崎:マネタイズの難しさは課題ですが、事業収益や補助金、寄付などの支援も組み合わせ、やり方次第ですね。フローレンスでは大企業とはいわずとも、中小企業くらいのお給料は払えるようにしています。

──給与などの処遇は本当に大切だと思います。

駒崎:スタッフの自己犠牲に頼るのではなく、働きに見合った処遇が保障されていなければ継続することは難しいと思います。また、「働きやすさ」や「働きがい」も報酬だと思うので、これらをしっかり提示することが大事ですね。

フローレンス本部では、柔軟性・拡張性のある職場環境を目指してフローリングの小上がり席も設置。

 “言う”と“やる”には100光年くらいの差がある

── 駒崎さんが事業を展開されてきた保育の領域もそうですが、旧体制の分野こそ変革するのが難しいのではないかと思います。体制を変えていくために必要なことってなんでしょうか。

駒崎やってみることですね。実際にやってみて成功事例を作れたら、そこを風穴にして変えていける可能性があると思います。

── やってみること? 具体的に教えてください。

駒崎:僕は最初の頃、官僚や政治家なんて敵だと思ってたんですよ。ふざけた社会を作った戦犯たちだと思ってて(笑)。でも、実際に会って話してみると彼らは一生懸命やってるんですよね。

──敵ではなかったと?

駒崎:はい。ただアイデアが浮かんでいなかったり、現場で何が起きているか見えていなかったりするだけ。だったら、こっちが教えてあげたらいいんじゃないかと思ったんです。ただし、「こうしたらいい」って言ってるだけだと、彼らは聞かないんですよ。なぜならそう言ってくる人はたくさんいるから。

── なるほど。

駒崎:「ああしたらいいんじゃない?」って提案したところで、彼らからしてみると、「できないから困ってるんだよ」って思うわけですよね。彼らは法律などの知識もあるから、「これをやろうと思ったら、この法律を改正しなくちゃいけない、でもこの法律はこの法律と組み合わせられているから改正できない」だとか、そういう仕組みをわかっている。

駒崎弘樹
旧体制の分野を変えるために必要なことは「やってみること」と、即答した駒崎さん。

── 仕組みがわかっているからこそ「できない」が先にきてしまうんですね。だから、ただ「言っているだけ」だと門前払いされてしまう。

駒崎:やってみて、「ちゃんと成功してますよ」っていうものを見せると、「じゃあ、やってみましょう」となるのが早いんです。でも、やってみることがすごく大変。言うのとやるのは100光年くらい差があります。本当にそれを解決したいのか、言いたいだけなのかが試されますよね。

── 実際にやるとなると、リスクをとらなきゃいけないですもんね。

駒崎:そうですね。でもそのかわり、ソリューションさえ見せられれば世の中が変わるのは早いです。

──ひとつの成功例が風穴になって変化が起きるというのは、会社組織や仕事のやり方でも同じことが言えそうですね。駒崎さんの場合、具体的にはどんなことがありましたか?

駒崎:待機児童問題を解決するために始めた「おうち保育園」を例に出すと、認可保育所の仕組みって70年くらい変わっていなかったんですよ。認可保育所とは、児童福祉法に基づいて、施設の広さや保育士の人数、給食設備など、国が定めた基準を満たした保育所のことです。その条件の中に、児童を20名以上受け入れられなければ認可できない、というものがありました。

── 20名以上を受け入れるとなると、広い土地が必要になるのですぐに増やすのは難しいですよね。

駒崎:そこで発想の転換をしました。都心の空き物件を活用し、0〜2歳児を対象とした定員19人以下で作ってみたんです。すると、2012年に「子ども・子育て支援法」で「小規模認可保育所」が制度化されました。2010年時点では一園だったんですけど、2015年に本格施行されるとあっという間に増えて、16年には3700カ所くらいにまで増えていきました。

「問題」を解決するためには「構造」を知る必要がある

駒崎弘樹
自分が解決したい問題を見つけた時にはどうすればいいのか、駒崎さんに聞いてみた。

── もし、「これを解決したい!」という問題を見つけた時に、必要となる視点や考え方はありますか?

駒崎:それには大きく2つあります。ひとつは「手段」と「目的」を履き違えないこと、もうひとつは問題の「構造」を知ることですね。

──それぞれどういうことなのでしょうか。

駒崎:まず「手段」と「目的」についてですが、「こういう課題を抱えている人がいるから力になってあげたい」と感じて、ある解決策を思いついたとします。それはあくまで「手段」であったはずなのに、「目的」になってしまうことがある。

──手段と目的が逆転してしまうということですね?

駒崎:はい。本来、目的を達成できれば「手段」は何でもいいはずなんです。たとえば事業を起こすというやり方もあれば、制度を変えるというアプローチもあるかもしれないし、既存にある制度を紹介することで解決できるかもしれない。でも、「手段」が「目的」になってしまうと、他にもっとよい方法があったとしても、ひとつのやり方に固執することになってしまう。

── 柔軟に選択できるようにしたほうがいいと。

駒崎:また、「問題」を解決するためには、その「構造」を知る必要があるんです。わかりやすく話すと、溺れる赤ん坊のメタファーというものがあります。

【溺れる赤ん坊のメタファー】

あなたは旅人だ。

旅の途中、川に通りかかると赤ん坊が溺れているのを発見する。

あなたは急いで川に飛び込み、必死の思いで赤ん坊を助け出し、岸に戻る。

安心して後ろを振り返ると、なんと赤ん坊がもう一人川で溺れている。

急いで赤ん坊を助け出すと、さらに川の向こうで赤ん坊が溺れている。

そのうちあなたは、目の前で溺れている赤ん坊を助けることに忙しくなり、実は川の上流で一人の男が赤ん坊を次々と川に投げ込んでいることには、まったく気づかない。

駒崎:このたとえからもわかるように、目の前の問題に対策していくだけではなく、構造を変えなければ根本的な解決にならないこともあるんです。

── 目の前の「問題」にとらわれすぎず、俯瞰的に見つめる必要があるんですね。

駒崎:はい。「何がその人を苦しめる状況を生み出しているのか」を問うことで、「構造」が見えてきます。「構造」を理解することで、「問題を解決できるかもしれない」という「仮説」を得られるんです。

── 社会を変えるために活動されていると、やればやるほど困りごとが集まったり、次の課題が見えてきたりするのでは? それに対してどう考えていらっしゃるんでしょうか。

駒崎:そうですね。やればやるほど、いろんな課題が向こうからやって来るんですよね。それはもう、そういうものかなと思っています(笑)。すべての課題が解決されたパーフェクトワールドなんてきっと、こないと思うんですよね。きっと自分の代じゃ終わらなくて、次の代、次の次の代って、どんどんバトンを渡していくものだと思うんですよ。

課題が次から次へとやってくるのもウェルカム。

── たしかに、何らかの課題を解決できたとしても、それによって新たな課題が生まれることもありそうです。

駒崎:1年、2年の短い期間ですべてを解決するのは無理なので、世代を超えて課題に取り組み続けていくことが必要だと思うんです。「僕が生きている間に、ここまではする」という線引きをして、次の世代にはそれを超えて、より良い社会を作ってもらいたいと思っています。

── 駒崎さんはお子さんを持つ父親でもありますが、「次の世代へ」みたいな気持ちは、お子さんへの思いでもあるのでしょうか。

駒崎:そうですね。やっぱり自分に子どもができると、この子たちに今の社会をそのまま渡したくないなって思います。たとえば、小学校3年生の娘が大人になった時、就活セクハラに遭ったらとか考えるともう、心は穏やかでいられないですよね。

娘と息子に、今の社会の良くない部分をそのまま残しちゃ絶対だめだと思うんです。幸いなことに、あと十数年はあるので、それまでに「明らかにこれはおかしいだろう」っていうところは、僕の代で何とかしていかなきゃって。そうして、次の世代へバトンを渡したいと思います。

駒崎弘樹

駒崎弘樹(こまざき・ひろき)

1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、2004年にNPO法人フローレンスを設立。日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスを首都圏で開始。2010年から「おうち保育園」を展開、2014年には「障害児保育園ヘレン」を開園。2016年、「フローレンスの赤ちゃん縁組」事業をスタート。現在、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長、内閣府「子ども・子育て会議」委員を務める。著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(英治出版)ほか。

取材・文/栗本千尋(プレスラボ・@ChihiroKurimoto
写真/クロダミサト(@kurodamisato