日々働く中で、上司の意見や会社の決定に疑問を感じながらも「見当違いの意見だったら……」「反対されたら……」と口をつぐんでしまうことはありませんか。

少し言いにくいような話題に対する意見を動画で発信し、話題を集めている人がいます。沖縄を拠点に活動しているお笑い芸人・リップサービスの榎森耕助さん、通称“せやろがいおじさん”です。

政治や社会問題に果敢に切り込み、多くの若者から「よく言った!」と共感されているせやろがいおじさん。その姿を見て、「どうしてこんなに自由に発言できるのだろう」と感心する方も多いのでは。ですが、榎森さんは「いつも自分の意見には自信がない」と言います。

今回は、榎森さんが“せやろがいおじさん”になるまでのお話、自信が持てなくても意見を発信できている理由について伺いました。

僕の動画を見て、議論してほしいんです

せやろがいおじさん
榎森耕助(えもり・こうすけ)。1987年、奈良県天理市出身。お笑いコンビ・リップサービスのツッコミ担当。沖縄を拠点に活動しており、琉球朝日放送の「お笑いバイアスロン」では四連覇を達成。沖縄の青い海を背景に、赤いハチマキ、ふんどし姿で世間に物申すキャラクター「せやろがいおじさん」の動画を発信している。

──いつも榎森さんの動画を見て、「よく言った!」とスッキリしています。

榎森耕助さん(以下、榎森):本当ですか! それはとてもうれしいです。実際動画を見た方からは、批判的な意見だけでなく、「よく言った」との声をコメント欄やDMやらで多くいただくんですよね。

──これまで来たコメントの中で、特に印象深かったものってありますか?

榎森:「同性婚を認めたら国が滅ぶと言ったお偉いさんに一言」という動画を出した時に、LGBTの当事者の方から「あのニュースを見てから感じていた生きづらさが少し解消された気がします。ありがとうございました」と言われたことですかね。僕の動画で救われる人がいるのは、すごくうれしいなと思いました。ただ、動画を作る中で最近はちょっと迷っていることもあって……。

──迷っていること?

榎森:ストレスや違和感を解消するガス抜きのような存在から、議論のきっかけとなる存在になれたら理想だよなって思うんです。

──どういうことでしょうか。

榎森:僕の動画では、難しい問題を噛み砕いたり、笑いを交えたりして、知ってほしいことやちょっと考えてみてほしいことを伝えるように意識しています。でも、単に「よかった」「すっきりした」で終わるのはもったいないと思っていて。できれば、その一歩先、動画を見てくれた人たちが自分の意見を持ち、議論するきっかけにしたいと思うんですよね。

はじまりは、「芸人として名をあげたい」という欲だった

せやろがいおじさん
何気なく着た赤いTシャツが、いつしか“せろがいおじさん”のトレードマークとなっていたそう。

──ところで、せやろがいおじさんを始めたきっかけは、なんだったんですか?

榎森:もともとただのローカル芸人なんですが、芸人として名をあげたくてYouTubeチャンネル「ワラしがみ」で動画の発信を始めました。でね、最初はよくあるバラエティー番組風の動画とかをやってみたんですけど、まあ再生回数が伸びない。人気YouTuberの方や、有名な芸人の方と同じことを同じ土俵でやっても勝てないんですよね。皆、興味ないんすよ。

──たしかに……。それで今のスタイルになったと。

榎森:そうです。とりあえずSNSで共感されたらリツイートされるんじゃないかと思って、「あるある」を言ったり、主張を言ったりするものにしてみようかなって。そしたら、2回目に出した「AV」あるあるがTwitterで2600リツイート、24万回再生されて、初めてバズったんですよ。んで、その時にせやろがいおじさんのスタイルを思いついたんです。

──なにかコツを掴んだんですか?

榎森:共感の向こう側が大切なんだなって気づかされたんです。AVの動画が思った以上に業界の方々からご意見をいただけて! 単に共感されるだけじゃなくて、モヤモヤとか困りごとがあったほうが見られるって。「わかる」だけでなく、「よく言った」っていうのが大事なんだなと学びました。

──でも、そこからの政治ってテーマが結構ガラッと変わりましたよね? きっかけはなんだったのでしょう?

榎森:沖縄県知事選で知事が決まった後で「沖縄終わった」みたいな意見がたくさん見受けられたんです。それを見て「沖縄のことを真剣に考えていた候補者に対しても、投票した人に対しても、その意見は失礼じゃない?」って、我慢できなくなって投稿したんです。沖縄で芸人やっている以上、目を背けることができない問題だし、扱いやすいことだけを扱うのもごまかしてるみたいですし。

──政治はほかのテーマと比べて意見を言いづらいように感じるのですが、動画を出すのは怖くなかったんですか?

榎森:いや、怖かったですよ。実際Facebookのコメント欄なんて、差別発言だらけで地獄のようでした。

──そうなんですね……。

榎森:でも、この動画をきっかけに「そもそも政治って、自分たちが住んでいる国の大事な問題なのに、なんでそれを話すのがタブーなんだろう?」って考えさせられたんですよ。それで、僕の中で出た答えの一つが、語り方が悪いなってこと。

──語り方?

榎森:そう。政治への反対意見って、汚い言葉で相手を攻めている印象ですよね? じゃあ、僕は芸人だし、笑いのエッセンスを混ぜ込みながら話せばいいんじゃないかなと。そうすることで、政治に興味を持つきっかけになってほしいし、「政治=タブー」というイメージがなくなって、もっと気軽に話せるテーマになってほしいなと思っています。

意見を発信する時は、自分を正しい人だと思わないようにする

せやろがいおじさん
「どんな問題も白黒つけるのは難しい」。反対意見を聞いて、自分の考えが揺れ動いてもいいそう。

──榎森さんの意見には説得力があるように感じるのですが、どんなことに気を付けているのでしょうか?

榎森:基本的に、世の中には100%間違っていることも、100%正しいこともないと思っているんですね。だから、自分の発する言葉で反対側の意見の人は嫌な思いをしないか、当事者の気持ちを理解していると見せかけているだけで、上辺だけの意見になってないかと言葉を点検するようにしています。

──なるほど。意見を言う前の「言葉の点検」が大切なんですね。

榎森:そうです。SNSで、自分と考えの合う人のことしかフォローしていない方って結構いると思うんです。たしかにそのほうが居心地はいいとは思うんですけど、僕はあえて真逆の意見の人とか汚い言葉ばかり相手にぶつけるような人のこともフォローするようにしています。

──反対意見も視野に入るところに。

榎森:同じ考えばっかり目にしていると、自分を正しいと思い込み過ぎて、言葉の選び方にも影響が出るんですよ。言葉が尖ってしまうと、目的も変わってしまう。政治に関して言うと、本当は「この国をよくしたい」という同じ目標を持っていたはずなのに、気づけば論破合戦になってて……。目的が「いかに相手を倒すか」に変わっちゃってるんですよね。そうなると、もはや言葉のキャッチボールではなく、ドッジボールです。

──ドッジボール……。当たったら痛いです。

榎森:言葉選びを意識してるからかわからないんですけど、僕に寄せられる批判コメントってちょっと柔らかいんですよね。こちらが柔らかい言葉で発したら、相手も柔らかい言葉で返してくれる。

──それは、よい傾向ですね!

榎森:動画を始めてよかったなと思うことの一つですね。ほかに気を付けているのは、笑ってもらえるポイントを最低でも3つは入れることです。僕は批評家とかコメンテーターではなくて、あくまでもお笑い芸人として発信しているので。とはいえ、笑えるポイントを入れるのは結構大変で。後から見返して全然おもんない時もあるんですけどね(笑)。

自信がない人こそ、人を傷つけない言葉を発信できる

せやろがいおじさん
意見の発信術について語る榎森さんの眼差しは、真剣そのもの。

榎森:僕って根は自信がない人間なんですよ。だからこそ“せやろがいおじさん”ができるんだろうなって思うんです。

──どういうことでしょう?

榎森:自信がある人は、「言葉の点検機能」を失っている気がするんですよ。ええ大学を出た政治家の先生とかが失言するのって、その典型的な例だと思うんです。でも、僕って学歴もなければ、全国で皆さんから知られている芸人というわけでもない。自分の考えを裏付けるものがないから自信もなくって、何かしゃべる前に「これでええんかな~?」ってめっちゃ悩むんです。だから、「思うことはあるけど、自信はない」って人ほど自分の言葉を点検して、きちんと話せる人なのかなって思ってます。

──でも、自信がないと言いたいことがあっても口をつぐんでしまいがちです。榎森さんは“せやろがいおじさん”になる前から言いたいことを言えたのでしょうか。

榎森:そこに関しては言えたような気もしています。自信がなくて言いたいことを言えない人って、おそらく「傷つきたくない」から発言できないんですよね。それって目線が内向きになっている気がするんですよ。そうじゃなくて外向きの目線を意識してみたら、言いたいことを言うのってそんなに怖くないと思うんです。

──外向きの目線?

榎森:僕の意見を聞いて、周りがどう思うかということですね。僕は7年くらい事務所のお笑いライブで座長をやっていたんですけど、各々が「これおもしろい」と思ったことを自由に発言したほうが確実におもしろくなったという成功体験があるんですね。だから、「言ったほうが得じゃん」って思ってるんです。もちろんすべることもありますよ。でも、すべったら次どうすればいいか考えればいいだけ。

──たくさんの人が意見を言ったほうが、いいものになる。

榎森:そうですね。「傷つきたくない」「間違えていたらどうしよう」って自分に目を向けるのではなく、周りの人のことを考えたら意見を言うってそんなに悪いことでもないし、自信が必要なことでもないと思います。

批判は怖い、だけどいつか自分のプラスになる

せやろがいおじさん
「批判は筋肉痛」そう明るく話す榎森さんも、批判されることは怖いそう。

──榎森さんは批判を怖いとは思わないんですか?

榎森:もちろん怖いですよ。でも、批判とか反対意見は怖いだけでなくて、聞くことでプラスの作用に働くこと、気づけることもあるはず。お笑いでもビジネスでも批判こそ受けいれたほうが成長できると思っていて……。ほら、筋トレと一緒ですよ!

──筋トレ……?

榎森:筋トレって筋肉痛を受け入れて、筋肉が大きくなっていくでしょ? 意見を言うことは筋トレ。意見を批判されるのは筋肉痛。その批判を受け入れて、物事への理解が深まるのは、筋肉が強くなること。批判されるのってすごい怖いことと捉えがちですけど、こういう風に考えたら気持ちが楽になりませんか?

──なるほど! たしかに批判は筋肉痛くらいで捉えたら、そんなにダメージを負うことがない気もします。

榎森:あとは、言い方を間違ったなと思った時に、「どういう風に言えばよかったかな?」って別の言い方を考える脳内シミュレーションを繰り返すことが大切ですね。だいたいね、世の中には批判されない意見なんてないんですよ。どんなに正しいことでも、全員から賛同される意見のほうが少ない。だから、もし間違っていたら「ごめんなさい」って言えたら大丈夫です! 完璧な意見じゃないと言っちゃダメだと思う必要はありません。

──間違えてしまったら謝ればいい。肩の力がスッと抜けました。

榎森:Dybe!の読者の方も、批判を受け入れたら成長できるという気持ちで、言葉を発することを恐れないでほしいです。僕はこれからも意見を発信し続けていくので、ぜひ「ワラしがみ」をチャンネル登録して、何かの議論のきっかけにしてみてください!

せやろがいおじさん

榎森耕助(えもり・こうすけ)

1987年、奈良県天理市出身。お笑いコンビ・リップサービスのツッコミ担当。沖縄を拠点に活動しており、琉球朝日放送の「お笑いバイアスロン」では四連覇を達成。沖縄の青い海を背景に赤いハチマキ、ふんどし姿で世間に物申すキャラクター「せやろがいおじさん」の動画をYouTubeチャンネル「ワラしがみ」で発信している。

Twitter:@emorikousuke

YouTube:ワラしがみ

取材&文/於ありさ(@okiarichan27
撮影/鈴木勝