自分の好きなものや、ブレない軸を持つのはいいことだとされています。が、今回、Dybe!ではそれが強すぎて周囲と協調できなかったという人にお話を聞きました。90年代の音楽シーンを牽引し、今も最前線で活躍するカジヒデキさん(52歳!)です。

かつてスカートをはいてメイクをしていたというカジさんは、「自己主張が強すぎて協調性がまったくなかった」そう。デビューしてからも「もっと注目されなきゃ」と、インタビューやラジオで空回りした発言をしたこともあるのだとか。

「ありのままの自分」と「周囲に求められる自分」、カジさんはどうやってその折り合いをつけてきたのでしょうか。好きな仕事を楽しみながら長く続ける秘訣についても伺いました。

「人と同じ」がイヤ。いつも一人で行動していた10代の頃

カジヒデキ
カジヒデキ(かじ・ひでき)。ミュージシャン、音楽プロデューサー。1967年、千葉県富津市出身。89年、ネオアコースティック・バンド『ブリッジ』を結成。96年にソロデビュー、90年代の渋谷系を牽引した。2008年には映画『デトロイト・メタル・シティ』の音楽を担当。DJイベントの主宰、ラジオパーソナリティ、音楽フェスのキュレーションなど幅広く活躍している。

──カジさんは、とてもおだやかで優しい印象があります。もともと、子ども時代からおっとりした性格だったんですか?

カジヒデキさん(以下、カジ):いやいや、そんなことないです。10代の頃は尖ってましたね。人に負けたくない気持ちがすごく強かったし、「自分は周りとは違う」っていう意識を持っていました。

──カジさんにも中二病っぽい時代が……! 意外です。

カジ:人と同じことをするのがすごく嫌だったし、単純にファッションや映画、音楽も好きなものが周りとは違ってました。パンクが好きだったから、高校の時には春休み中に髪を派手な色に染めたりして。

──春休み中だけ、っていうのが真面目ですね。

カジ:不良ではないので、校則は守って(笑)。友達はいたけれど、地元は千葉の田舎だし、自分が好きだったニッチなカルチャーについて話せる相手がいなかったので、映画やライブに行くのはいつも一人でした。

──思春期に一人で行動するのって、勇気がいることだと思います。苦痛に感じたことはないですか?

カジ:全然! 自分の好きな場所にどんどん行けるから、自然と一人で行動していました。友達と一緒だと、相手に合わせないといけないのがイヤだったんです。一人なら東京のライブに行って終電がなくなっちゃっても、「オールナイトの映画館に行けばいいや」って思えますから。

──友達がいたら「朝までファミレスで始発待ち」とかになりがちですものね。

カジ:今は友達の大切さも、一緒に何かをする楽しさも知っていますが、同時に「一人でも何でもできる」って思う自分もいるんです。だから、人付き合いで悩んだことがあまりなくて、気が楽ですよ。

カジヒデキ
誰かと一緒だと「終電で帰らなきゃいけないかな」と気にしたり、行動を合わせたりしなければならないのがイヤだったと語るカジさん。

カジ少年を変えた『フリッパーズ・ギター』の二人との出会い

カジ:でも、「このままじゃヤバい! 協調性なさすぎるかも!」と焦った時期もありました。

──ずっとマイペースだったのに、急になぜですか?!

カジ:本格的にバンドが組みたくなった時に「やっぱり自分主義じゃダメだ!」と思ったんです。20歳くらいまでの僕はとにかく協調性がなかった。当時の僕は服飾系の専門学生で、ゴスファッションが好きでメイクしてスカートをはいていて。みんなとは違う、自分だけの世界に住んでいるような感覚でした。

──自分のスタイルを持つのは、いいことだと思いますが……。

カジ自己主張が強すぎて、みんなの意見を聞くことができなかったんです。だからバンドを組んでもギスギスすることが多くて、結局やめてしまったり。協調性がなさすぎて、これじゃダメだって思ったんです。

──そこから自分を変えるきっかけは?

カジ:その頃、『フリッパーズ・ギター』の前身のバンド『ロリポップ・ソニック』に出会ったんです。小山田(圭吾)くんも、小沢(健二)くんも、すごくカッコよくて、「僕がやりたかった音楽はこれだ!」「この人たちについて行こう!」って、衝撃を受けました。

カジヒデキ
『フリッパーズ・ギター』の二人に衝撃を受けた1987年当時のカジ少年

──カジさんのキャリアを振り返る上で、90年代の音楽シーンを牽引した、超重要人物の名前が出ましたね。今も活躍している重鎮の二人です。

カジ:どうにか仲良くなりたいと思って、彼らのファッションを見ると、当時流行っていた古着のデニムをカッコよく着こなしていて。「僕もデニムをはかないと、あの輪には入れない」と思って古着のデニムを買いました。あんまり似合わないなと思いながらも、ボタンダウンのシャツも着るようになりましたね。

──ファッションをちょっとでも寄せようと努力したんですね。……カジさん、それ、クラスの人気グループに入りたい女子中学生がよくやるやつです(笑)。

カジ:ほんと、そうですよね(笑)。りゅうちぇるさんみたいに、自分のスタイルを貫ける強さは、当時の僕にはなかったんです。

──ありのままを受け入れてもらうのではなく、デニムをはいて、擬態して馴染むことを選んだんですね。

カジ:でも、自分を殺して無理に合わせたわけでもないんです。いざ輪の中に入ってみると、みんな、ありきたりではない自分のファッションを楽しんでいて。そのことに気づいてからは「このほうが全然パンクじゃないか」って思うようになって、自然となじんでいきましたね。

カジヒデキ
好きな音楽のためにスカートを脱いで古着のデニムを買ったカジ少年は、ボタンダウンが似合う52歳に。

いい仕事をするには「いい自分」でいることが大事

──好きな音楽のためとはいえ、自分を変えるのって大変です。

カジ:その経験から、協調性や人の意見を聞くことの大切さにも気づけました。自己主張しすぎると周りと衝突してしまう。だから、引くべきところは引いて、主張する時にはしっかり主張すればいいかなって。そのほうがうまくいくことって、多くないですか?

──では、今は戦略的におだやかさを保っているとか……?

カジ:どこかで、そういうところがあると思います。ただ、意見を交わしてぶつかり合うところからいいものが生まれることはあります。主張すべきところと抑えるべきところと、そのバランスが大切ですね。

──協調性を学んでから、すぐに今のようなカジさんに?

カジ:いいえ。バンド活動を経て29歳でソロデビューしたんですが、当時はどこか天狗になっていたように思います。90年代って、時代的にも今より競争意識が強かったし、僕自身も「負けられない」って思いが強かった。当時のインタビューを見ると、一人称が「俺」。言葉もきつめだし、ちょっと嫌な感じの発言もしていて(笑)。

──「俺」から「僕」に切り替えるなどのイメチェンは、意識的なものでしたか?

カジ:ある時、カッコつけてる自分を「嫌だな」って思ったんですよね。別に「アーティストだから」みたいな空気を出さなくてもいいかなと。そうすることで強い影響力を持って成功している人を否定するつもりはありません。ただ、僕自身は、ミュージシャンではあるけれど、ごく普通の人間ですからね。

──そうして、今のようなおだやかなカジさんになっていったんですね。

カジ:何よりも、良い仕事をするためには、良い仲間と良い環境が必要。そのためには「良い自分」がいないと成り立たない。僕が感じ悪かったら、誰も協力してくれませんから。ダメなところもたくさんありますが、発言や行動などは、できるだけきちんとしようと意識しています。

カジヒデキ
面白いものを作る人とは年齢関係なく付き合いたいというカジさん。若いバンドの音楽を聴き、自分のイベントに出演してもらうこともあるという。

以前は、何とか爪痕を残そうと空回りしたことも

──「負けられない」と思っていた頃についてもう少し聞かせてください。

カジ:その頃は、「もっと売れなきゃ」とか「もっと注目されなきゃ」という思いもありましたね。それこそ、フリッパーズギターの二人が面白い尖った発言をしていたので、二人よりももっと面白いことを言わなきゃって勝手にプレッシャーを感じていたんです。ラジオ番組やインタビューでも何か爪痕を残さなきゃと、後で思い返すと恥ずかしい発言をしてしまうこともありました。

──焦って空回りしてしまった、と。

カジ:結局、自然体で無理をしないことが大事。僕が、小山田くんや小沢くんと同じことをしようとしても、それは無理だし、逆に自分の良さを殺してしまうことになるんだろうなって。今はそう思えますね。

──そんなふうに思えたきっかけは何かありましたか?

カジ:僕の場合は、2000年にカフェライブを始めたことが大きかったですね。50〜100人くらいが入る狭めの空間でアコースティックでライブをやり始めたんですが、お客さんの表情や反応がよく見えるんです。お客さんがどうすれば楽しんでくれるのか、自分が何を求められているのかを知るいい機会だったなと思います。

──人から自分がどう見えているのか、自分が何を求められているのか迷っている人が多いんです。

カジ:自分が周りからどんなことを期待されているのか、自分らしさってどんなものなのかって、年齢を重ねて、人と関わっていく中で自然とわかっていくものだと思います。だから、今はわからなくてもそのうち見えてくるはず。ただ、人の期待に応えることばかり考えていると、自分のやりたいことが見えなくなってしまうので、そこは気をつけてほしいですね。

カジヒデキ
長く仕事を続けるために、食事は節制し、毎朝ランニングしているそう。ただし、「頑張りすぎると続かないので、無理はしません」。

自分がご機嫌でいるためにカジさんがしていることは?

──今のカジさんは、プレッシャーから解放されているように思います。モチベーションをコントロールしたり、自身のご機嫌をとる秘訣は?

カジ:僕は何かを好きになると、飽きずにずっとのめり込むことが多いんです。好きなものを調べて掘っていくことは、まったく苦にならないので、好きなものを追い続けて毎日を楽しく過ごしたいと思っていることが大きいかもしれません。

──たとえば、どんな“好き”がありますか?

カジ:音楽以外だと、モンティパイソンやローワン・アトキンソンといったイギリスのコメディが大好きです。日本では、ローワン・アトキンソンといえば『Mr.ビーン』以外はほとんど知られていませんが、他にも人気のある作品が多くあるんです。そういう「マイナージャンルにも詳しい自分」に、小さな優越感を持ってるのがうれしい部分もありますね(笑)。

──仕事で壁にぶち当たった時は、どうやって乗り越えるんでしょうか。

カジダメだと思ったら、あまり考えないようにして寝ちゃいます。音楽制作って、思うようにいかなくて「もうダメだ!」と思うことが多々あるんです。だからって、音楽だけに集中しようとするとかえってダメで、「ああ、今日もできなかった」ってどんどん気持ちが内向きになって苦しくなっちゃう。

──「今日もできなかった」っていう気持ち、よくわかります。

カジそんな時は「明日頑張ればいいや」って、いったん終わらせちゃうんです。それから、仕事以外のスケジュールをどんどん入れてしまいます。仕事以外の予定で日々を忙しくしていたほうが、いざ音楽を作ろうとした時にかえって集中できて、いいものが作れるように思います。

──仕事とプライベートのバランスを上手に取りながら、ご自分のペースを保っていらっしゃるんですね。最後に、つい人と比べてしまって自分を見失いがちなDybe!世代の読者へメッセージをお願いします。

カジ:僕も自分の音楽活動が思うようにいかなかった時期に、知り合いのバンドのことが気になって、「もうこんな会場でライブをやってる」なんてチェックしては毎日焦っていました。でも、人と比べて競っている自分、競争に振り回されて楽しめていない自分がカッコ悪いなって思うようになったんです。

いい仕事をしたいなら、誰かに勝つことよりも自分の目標を達成することのほうが大事。もちろん仕事をする上で競争は避けられないんだけど、自分が楽しんでいなければ、楽しいもの、本当によいものは作れませんから。人と競うことに振り回されるよりも、自分がやりたいことに邁進して、人生を楽しんでもらえたらいいなと思います。

「夏の終わりのセシルカット」Cafe Live Tour

  • 東京:阿佐ヶ谷ロフトA
    【日時】2019年8月29日(木)
        18:30開場 19:30開演
    【料金】前売り¥4,000/当日¥4,500
       (飲食代別。要1オーダー¥500以上)
    【出演】カジヒデキ、塚本功
    チケット:阿佐ヶ谷ロフトA
  • 大阪:Cafe Orangerie
    【日時】2019年9月14日(土)
        19:00開場 19:30開演
    【料金】¥3,500(ドリンク代別)
    【出演】カジヒデキ、堀江博久
    Thank you sold out!
  • 四日市:radi cafe apartment
    【日時】2019年9月16日(月)
        15:00開場 15:30開演
    【料金】¥3,500(ドリンク代別)
    【出演】カジヒデキ、堀江博久
       DJ:OYAZIコマダマヤ(SO NICE! BE HAPPY!)
    チケット:ラジカフェHP
         SO NICE! BE HAPPY! 
  • 仙台:SENDAI KOFFEE
    【日時】2019年9月22日(日)
        17:30開場 18:00開演
    【出演】カジヒデキ、NARI(SCAFULL KING)
    詳細はこちら:HIDEKI KAJI Official Website

KOYABU SONIC 2019

9月14日(土),15日(日),16日(月・祝)に開催される「KOYABU SONIC 2019」に出演。

【出演日】2019年9月15日(日)

 チケット、詳細:KOYABU SONIC 2019

GAMA ROCK FES 2019

【日時】2019年9月21日(土)

    開場:9:00 開演10:00

【開催地】宮城県塩竈市みなと公園(塩竈緑地内)

チケット、詳細:GAMA ROCK 

カジヒデキ

カジヒデキ(かじ・ひでき)

ミュージシャン、音楽プロデューサー。1967年、千葉県富津市出身。86年、ゴスバンド『Neurotic Doll』に加入し、本格的に音楽活動をスタート。87年、『ロリポップソニック』(後の『フリッパーズギター』)のデビューライブに衝撃を受け、89年にネオアコースティック・バンド『ブリッジ』を結成。96年にソロデビュー、90年代の渋谷系を牽引した。2008年には映画『デトロイト・メタル・シティ』の音楽を担当。DJイベントの主宰、ラジオパーソナリティ、音楽フェスのキュレーションなど、音楽の紹介者としても幅広く活躍している。

Twitter:@hidekikaji

公式サイト:Kaji Hideki

取材・文/小沢あや(@hibicoto
写真/佐野円香(@madoka_sa