内定ゼロ、彼女なし。チビで非モテな海藤恵一は就職活動中の大学4年生。バイト先に好きな子はいるものの、ただの良い人としか思われていない。ある日、大学にフェラーリに乗って現れた同級生を見た海藤が、一発逆転を狙って選んだのは……。

面接をサボった翌日、僕は朝からバイト先に向かった。家に一人でいると落ち込むだけだから、出かける先があって本当に助かった。

小さい頃、一瞬ジャニーズ入りを夢見たこともあり、華やかな世界に憧れて某テレビ局でのADのバイトを始めた。大学に入って、このバイトが唯一4年間続いていることだ。

ただ、現実には、海で貝殻を100個拾ってこいとか、番組で使った着ぐるみを返却してこいとか、肉体労働系の雑用ばかり。同じバイトなのに、一流大学のやつらは、バラエティ番組で使う海外の事件記事を翻訳したり、スポーツ中継に必要な資料作りを任せられたりしている。

悔しいけれど、しかたない。それでも辞められない理由がある。

僕がバイトを辞めない理由

「海藤くん、おはよー」

僕がバイトを辞められない理由。それが相澤まさみちゃんだ。僕とは住む世界からして違うけれど、いつもこうして明るく声をかけてくれる。

彼女は応京大学の4年生で帰国子女。英語はペラペラで、バイトでも翻訳を主に担当している。笑うとタレ目になる大きな目がめちゃくちゃ可愛い上に、スタイルはモデル並み。僕より背が高いし、僕より顔が小さい。大学1年の頃のショートヘアも元気な感じで良かったけど、今のセミロングも大人っぽくていい。

昨日、フェラーリで現れた青山が連れていた子もモデルっぽくて綺麗だったけど、あの子にだって全然負けてない。いや、僕は断然、「まさみ派」だ。

噂によれば、彼女は成城のお嬢様らしい。なのに、僕のような三流大学のバイト仲間にも、優しく接してくれる。女子学生の中には、学生バイトとは口をきかず、局の偉い人にだけ別人のように笑顔を振りまくヤツもいるから、彼女の性格の良さが余計に際立つ。

しかも、別のキー局のアナウンサー採用が内定している。なのにそれをひけらかすこともない。そういうきちんとしているところも好きだ。

もうすぐ彼女と会えなくなってしまう

「相澤さんこそ、今日も一番乗り?」

「うん。ここでバイトできるのも、あとわずかだから」

「いつまで続けるの?」

「今年いっぱいかな。そろそろ入社前研修も忙しくなってくるから」

「寂しくなるね……」

もうすぐ彼女と会えなくなる。心に穴が開くというのは、こういう気持ちを言うのだろう。ずっと一緒にバイトをしてきたのに、自分の想いを伝えられずに終わってしまう。悔やまれるけれど、当たって砕ける自信すらないのが自分なのだ。

「私も寂しいよ。4年間続けたバイトだからね。……海藤くん、就活はどう?」

「うん、絶好調……とは言えないかも」

まさか面接をすっぽかしたとは言えない。

「そっか……。でも、海藤くんは優しくって、人の話をちゃんと聞いてあげられる人だから、絶対仕事でも生かせると思うし、いい会社が見つかるよ」

優しい笑顔に心が癒される。社交辞令かもしれないけれど、うれしかった。最近は慰めてくれる友達もいなくなり、「適当に決めちゃえば?」「要領悪いんじゃないの?」と言われてばかりだったから。

僕は「優しいだけの良い人」としか見られていない…

「まさみちゃん、今日バイト何時まで? 終わったら飲みにいかない?」

突然、別の声がして、この幸せな時間を強制終了させられる。アラサーの独身ディレクター、柴田さんだ。いつも僕のことなど眼中になく、まるで透明人間扱い。

最近、彼女と別れてまさみちゃんを狙っているらしく、ことあるごとに誘っている光景を目にする。でも、彼女の返事は決まっている。

「すみません、柴田さん。まだ卒論が残ってて……。海藤君、またね!」

柴田さんが何か言う前に、彼女は素早く翻訳ルームに姿を消した。ガードが固い彼女は、誰かと噂になったことは一度もない。他の女子と違って恋愛の話もしないから、彼氏がいるのかいないのか謎のままだ。

彼女の背中を見送った後、自然とため息が出た。励ましてもらったのはうれしかったけれど、落胆もしている。やっぱり、彼女は僕のことをただの「優しいだけの良い人」にしか見てないからだ。

この4年間、彼女との距離は1ミリも変わってないように思う。自信がないから、自分からはアプローチできない。だから、嫌われもしないかわりに進展もしない。いつも適度な距離間の「良い人」で終わってしまう。

もっとイケメンで、高身長で、お金があって、いい大学に入っていたら、「まさみちゃん、ご飯行こう」くらい、自分にも言えるようになっていたのだろうか。

一発逆転を狙うにはこれしかない!?

でも、青山はどうなんだ? 育ちも、顔も、頭も、僕とそう変わらない。それなのに自信満々の様子でモデルのような子を連れていた。僕との差は金? それともホストの口説きのテクニック?

ホストになれば、きっとどちらも手に入るはず。だとしたら……。

バカバカしい考えかもしれないけど、一発逆転を狙うならこれしかないのか? あの青山にできたなら、僕にもできていいはずだ。

彼女が金になびくような子じゃないことはわかっている。でも、莫大な金を稼いで、いい車に乗って、モテまくる男になれば、まさみちゃんを前にしても、自分に自信を持てそうな気がする。

とりあえず、就活を続けながら、まずはアルバイトでホストをやってみよう。さっそく明日、青山に連絡を取って、ホストクラブを紹介してもらおう。

あとは、なるようになれ、だ。

▶︎第3回は9月25日(水)の公開予定です。

<構成/伊藤彩子>

この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito