NHK『みんなで筋肉体操』に出演して注目され、タレントとして活躍中の村雨辰剛さん。

単身スウェーデンから来日し、26歳の時に日本人に帰化。本業は庭師です。

伝統的な職人の世界に飛び込んで、親方の元で褒められたりすることがなくても、頑張れたそう。

「褒めるコミュニケーション」が重要といわれる中、なぜ、褒められなくてもモチベーションを保つことができるのか、また、常に新しいことにチャレンジし続けられる理由ついて、実は内向的だという村雨さんに聞いてみました。

“褒められないと頑張れないの?”という疑問

村雨辰剛
村雨辰剛(むらさめ・たつまさ)。スウェーデン生まれ。高校時代に日本でのホームステイを経験し、19歳で日本に移住、23歳で造園業に飛び込み、見習い庭師に。26歳で日本国籍を取得、村雨辰剛に改名。NHK『みんなで筋肉体操』で注目され、タレントとしても活動中。著書に「僕は庭師になった」(kraken)。

──趣味は「肉体改造と盆栽」。ストイックさがすごいです。

村雨辰剛さん(以下、村雨):僕にとって「肉体改造」は当たり前のことなので、ストイックなつもりはないんです。

──「筋トレをサボって夜中にラーメン!」みたいな日はないですよね?

村雨:ラーメンは好きですよ、納豆ラーメンとか(笑)。でも減量の時期だったら「夜中にラーメン」はないかな。「疲れたからトレーニングやめ!」という日もないですね。疲れていたり、ジムに行けなくてもできるメニューはあるので。

──トレーナーが見張っていたり、「頑張ってるね!」って褒められたりすることがないと、すぐにサボってしまいそうです。

村雨:むしろ、なんで“褒められないと頑張れない”の? っていう疑問がありますね。鍛えることって自分との闘いじゃないですか。周りは関係ない。

──潔い。その自制心って、筋トレから培われたものなんですか?

村雨:筋肉ともつながってるし、環境のせいもあるのかも。

──筋肉と環境。くわしく聞きたいです。

好きを突き詰めて、ついたあだ名は「日本人」

村雨辰剛

──筋トレはいつからやっているんですか?

村雨:スウェーデンの田舎町に住んでいた、中学生の時にはじめました。元空軍のパイロットの育ての父みたいに「強くなりたい」っていう気持ちがあって。それまではむしろガリガリ、やってみたら筋肉づくりにハマったんです。

──大人っぽい中学生ですね。

村雨:筋トレはともかく、スウェーデンの中学生は考え方が大人びている、ということはあるかもしれませんね。

──どういうことでしょう?

村雨:たとえば、中学で具体的に自分の将来について考えないと進路が決まらないですし、学校で模擬選挙も開催されます。自分がどうしたいのか、どう考えているのかを表現するトレーニングができている人が多いです。

──自主性が育つ環境ですね。日本に興味を持ったのは学生時代?

村雨:元々、いろんな国に行ってみたいという気持ちがあって、中学の授業で日本を知って興味を持ちました。さらに高校ではどんどん掘り下げて行って、徳川家康、上杉謙信、武田信玄について調べて「課題」として提出したり。「敵に塩を送る」というような武将の美学とか、独特ですよね。

──村雨さんも、学校ではめずらしいタイプだったのでは?

村雨:もうまったく理解されなくて。あだ名が「日本人」になりました(笑)。

変人扱いはされているんだけど、友達がいないわけではないんですよ。ただ、みんながパーティーしてる時、ひとり『トリビアの泉』を見て日本語の勉強をしたりしていました。

──筋トレと日本語の勉強に没頭。ひとりで探求することが好きなんですね。

村雨:ひとりで過ごす時間は、僕には絶対必要です。内向的なので、好きなことにじっくり向き合いたいんです。

内向的って、行動しないってことじゃない

村雨辰剛

──内向的とは意外です。スウェーデンからやって来て庭師になるって、行動力あふれる感じがします。

村雨:よく勘違いされてるんですけど、内向型は行動しないわけじゃなくて、掘り下げ型。自分のやりたいことに関してはむしろアグレッシブ。

──アグレッシブ? 意外です。

村雨:そうなんです。外向的なタイプは人といてエネルギーをもらうし、内向的なタイプは好きなことをしてエネルギーを生み出すのかなと。

──なるほど。来日を実現したきっかけもエネルギッシュですね。

村雨:初めて日本に来たのは17歳の時ですね。時差があるから午前3時に日本の学校にカタコトで電話したりしたけど、留学は費用の問題であきらめていて。でも、ヤフーチャットで日本の知り合いを増やしたりしているうちに、ご縁があってホームステイすることができたんです。

──そして次は語学教師として来日。その後、庭師に。

村雨:まずは自分のスキルでできる仕事をしながら、なにか伝統文化に関わりたいとずっと探していました。

──庭師はもともと選択肢にあったんですか?

村雨:いえ。社寺建築はどうだろうとか、いろんなところに当たってみたものの、一時ニート状態になっていて。そんな時たまたま近くで造園業の求人を見つけて、調べてみたら面白そうなので応募しました。

「褒めて育てる」の習慣はない庭師の世界

村雨辰剛

──「親方」「職人」の世界はどうでしたか? “褒めて伸ばす”習慣もなさそうです。

村雨:親方に褒められたことは、ほとんどないですね。

──それで落ち込んだりすることは……。

村雨:落ち込むというより、自分が成長しているかどうかがわからなくて困りました。でもだんだんと「今回は注意されることが少なかった」「前回よりうまく剪定(せんてい)ができた」など以前の自分と比較することによって目安ができて、自己分析ができるようになりました。

──自分で成長がはかれるようになったんですね。

村雨:職人を育てる「徒弟制度」についていうと、誰かに褒めて育ててもらうというより、自分で考えて成長していくものだと思います。質問もどんどんぶつけられる関係性があったので、褒められなくてもコミュニケーションに問題はなかったですね。

──自己鍛錬である筋トレも役に立ちましたか?

村雨:筋トレで筋肉は身に付きますが、実は鍛えられているのは精神。それは役に立ったと思います。でも鍛えていても日本の暑さには勝てないので、水分補給など気を付けないと(笑)。

新しいことにチャレンジするのはみんなこわい

村雨辰剛

──なかなか村雨さんのような勇気を持てず、チャレンジするのを躊躇(ちゅうちょ)してしまうことがあります……。

村雨:僕もめちゃくちゃこわいですよ。こわがっていないように、見せているだけなので。

──そうなんですか。NHKの『みんなで筋肉体操』も?

村雨:武田真治さんたちに失礼はないのか、現場でちゃんとできるのか、いろいろと不安があって。別の番組ではじめて生中継をした時も一週間前から眠れなかったし、新しいことはいつもこわいですよね。

──こわい時、どうやって克服するんですか?

村雨:僕は、逆にこわさを利用します。

こわい気持ちって、不安から来る緊張感ですよね。その緊張感があれば、人はけっこうな力を出せるんですよ。

──筋トレ的な。

村雨:そうですね。筋肉も追い込めば育つので(笑)。

知らないことはみんな絶対こわいんです。でも、その不安の中身をよくみて見れば、対策できることに気づけるので。たとえば、僕でいえば「筋肉や庭についてはいつもやってることだから大丈夫、じゃあ何を準備すればいいのか?」を考えて、対策します。

自分の中にスケールを持てば、他人の評価にふりまわされない

村雨辰剛
取材場所の近くの公園で、涼しい顔で懸垂をする村雨さん

──内向的だからこそ「好き」「得意」なことがはっきりしていて、自己分析できているからこそチャレンジできるのかも?

村雨:そうですね。何でも「一回はチャレンジしたい」という気持ちがあるんです。一回やってみたら、そこから何かを学べます。失敗して傷ついたり、怒られたりするのは、こわいですよね。でも、失敗はみんなすることだから、しょうがないんです。

──村雨さんが失敗することはなさそうですが。

村雨:たくさんありますよ。怒られることもありますし。でもできるだけいったん離れて、感情的になりすぎないようにしています。

──落ち着いてから判断するんですね。ほかに仕事で大事にしていることはありますか?

村雨:親方から教わった仕事の基本、「安全に・きれいに・はやく」。これはどんな仕事でもいえることだと思います。無茶なやり方をしても、続かないですし、成長もはかれます。

──それを基本として、今までの仕事と比較する自分のスケールがあるから、褒められなくても成長できると。

村雨:たとえ褒められて満足しても、そこで完成ってことはないので。庭師としての腕がどんなに上がっても、まだ足りないことは必ずあるし、謙虚な心はいつも持っていたいですね。

完璧だと思ったら、姿勢が崩れて、完璧から離れてしまうと思うので。

筋トレと同じですね(笑)。

村雨辰剛

村雨辰剛(むらさめ・たつまさ)

1988年7月25日、スウェーデン生まれ。中学時代に世界史の授業で日本の美意識に感銘を受ける。高校時代に日本でのホームステイを経験し、19歳で日本に移住、23歳で造園業に飛び込み、見習い庭師に。26歳で日本国籍を取得、村雨辰剛に改名。日本語、スウェーデン語、英語の3カ国語を操り、趣味は肉体改造と盆栽。愛猫はキジ三毛の芽吹きちゃん。NHK『みんなで筋肉体操』で注目され、タレントとしても活動中。著書に「僕は庭師になった」(kraken)。

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取材・文/樋口かおる(@higshabby
撮影/小原聡太(@red_tw225