【連載】元No.1ホストの「心をつかむ心理術」

バイト先の好きな子に男として認めてもらいたくて、ホストになる決意を固めた主人公の海藤。面接を受けるため、同級生の青山が働くホストクラブがある歌舞伎町にやってきた……。

▶︎【第1回】内定ゼロ、彼女なし…。チビで非モテの就活生に未来はあるのか?

▶︎【第2回】ただ「優しいだけの良い人」から抜け出すために

平日だというのに夜の歌舞伎町は賑やかだ

さっきから汗が止まらない。

新宿駅の東口を出て靖国通りを渡り、夜の歌舞伎町に足を踏み入れた僕は、これまで感じたことのない緊張感に包まれていた。体験入店の面接を受けるため、僕は大学の同級生である青山が働いているホストクラブに向かっているのだ。

平日だというのに、夜の歌舞伎町は賑やかだ。とにかくごった返している。大学生と思われるグループや外国人、何の職業なのかよくわからない人もたくさん歩いているし、「ガールズバー 3000円」なんて書いた紙を持って、ただ立っているだけの女の子もあちこちで目につく。

新宿には大学の友達と時々飲みにきていたけど、歌舞伎町のホストクラブが密集しているあたりには近づいたことがない。グーグルマップを頼りに、周りを見回していると客引きが次々に声をかけてくる。

「居酒屋どうですか? 安くできますよ!」

「キャバクラ、どうですか?」

上京する前、僕に「東京は怖いところ。危ない場所には行くな」と繰り返し言っていた親父の顔がふと浮かんできた。これからホストクラブの体験入店だなんて知ったら、親父はどんな顔をするだろうか。そう考えた僕は「帰りたい」と思い始めていた

約束の時間に店の前に到着したけれど…

約束の20時きっかりに、ホストクラブ『ペガサス』の入居する雑居ビルの前に立つ。壁面にデカデカと掲げられた看板が余計に「帰りたい」気持ちを煽り立てる。

「ホストは顔で決まらない。生き方がAAA級の男たち」

こんなキャッチフレーズを上下に挟んで、KーPOPアイドルみたいなホストたちの写真が何枚か並んでいる。「顔で決まらない」と言いながら、みんなめちゃくちゃ男前だ。“似ている芸能人は某ブサイク芸人”と言われている僕の出る幕は、とてもじゃないがなさそうだ。目が細くて無表情、爽やかさゼロの青山は本当にホストで稼げているのだろうか……。

ビルの前でしばらく中に入るか引き返すか迷っていると、青山が外に顔をのぞかせた。

「ああ、海藤! 遅いからブッチされたと思ったよ」

愛想のいい言葉とは裏腹に、青山は僕の頭の先からつま先まで視線を走らせる。どんな格好でくればわからなかったので、とりあえず普段のポロシャツとデニム姿で来てしまったことを悔やんだ。

「オレ、明らかに場違い……だよな?」

そう言い終わらないうちに、なぜか青山は大爆笑し始めた。

「ゴメン、ゴメン! お前の反応、うちの店に体験入店した時のオレとまったく一緒! だからつい……」

「……」

「大丈夫、見た目は心配ないよ。格好は私服でオッケーだし、実際に働くとなれば先輩がいろいろ教えてくれるし。ほら、オレもちょっとはマシになってるでしょ?」

髪を触りながら話す青山をよくよく見ると、たしかに黒髪のままで派手さはないが、前髪が目にかかるくらい長く、ミステリアスな雰囲気に仕上がっている。

「写真だって、専門のスタジオで撮って修正、加工できるから」

そう言って笑う青山が着ているのは、ホストっぽいスーツではなく、こぎれいなTシャツと細身のスキニーデニムだ。胸には「GUCCI」のロゴが入っているし、高そうなネックレスや指輪も身につけている。大学1年の頃のもっさりした姿とは全然違う。

「まあ、細かい話は内勤さんからするからさ。あ、内勤っていうのは裏方さんのことね。お客さんを席まで案内したり、どのホストをどのお客さんにつけるか指示したり、売上げを集計したりするんだ」

青山の解説を聞きつつビルの中に入ると、地下まで吹き抜けになっていて、見たこともないような巨大なシャンデリアが天井からぶら下がっている。大きな額縁に入れて壁にかけられた、モデルばりのホストたちの写真を横目で見ながら階段を降りていく。すると、受付のようなところがあり、男が一人立っていた。

男は白シャツに黒ベスト姿で、黒縁メガネをかけている。30歳くらいだろうか。落ち着いた雰囲気で、普通のサラリーマンに見えなくもないが、かなりのイケメンだ。

「さっそくだけど、なんでホストになりたいの?」

 黒ブチイケメンが、にっこり微笑みながら「シュン、その子が体験の子?」と話しかけてきた。どうやらシュンとは青山の源氏名らしい。

「そうなんです、大学の友達で」

「じゃあ、こちらにどうぞ。シュンはフロアに戻って」

さすがに青山は、面接には同席してもらえないようだ。一気に不安が押し寄せる。

そんな僕の様子を見た青山が、「大丈夫、神崎代表は新人には優しいから」と耳打ちしてくれた。“新人には”というところが気になったが、店内のフカフカしたソファ席に通され、履歴書代わりのアンケートを記入したところで、面接が始まった。

「さっそくだけど、なんでホストになりたいの?」

思いのほか、まともな質問に面食らい、すぐ返事をすることができない。面接は適当で、すぐ体験入店かと思っていたが、考えが甘かったらしい。

「……就活がうまくいかないし、好きな女の子にも気持ちを伝えられなくて」

僕は何を言っているんだ!? 何の心の準備もしていなかったせいで、うっかり本音を口にしてしまった……。

「そうなんだ。実は僕も口下手で、全然モテなくてホストを始めたんだよね」

笑われてバカにされるのが関の山だと思っていたが、まさかこのイケメンが僕と一緒なんて。いやいや、モテないと言ってもレベル感が全然違う。僕の場合、そもそも男として認識されていないのだから。

ホストは顔じゃない!?

「あれ? もしかして信じてない? ホストって顔がいいに越したことはないけど、意外と関係ないんだよね。コンビニでも、最初は可愛い女の子がいると会いたくて通うかもしれないけど、その子の対応が悪かったら、いろいろ話しかけてくれるおばちゃんのほうが、よっぽどうれしかったりするでしょ?」

「言われてみれば……」

「シュンだって、あの見た目でいつも売上げはナンバー入りしてるんだから。“ナンバー入り”はトップ10圏内ってことね」

たしかに「青山にできて僕にできないはずはない」と思ったのが、ホストをやってみようと思った理由のひとつだ。たぶん……。

うなずく僕の顔を見て、神崎さんは話を続ける。

「今日は体験だけど、もし働くならバイトとレギュラーどっちにするつもり?」

「もう大学の単位は取り切っているので、がっつり働こうかと思ってます」

「そうだね、やっぱりバイトよりレギュラーのほうが稼げるからね、じゃあ、給料システムの説明するね」

給料は、最初の3カ月は指名なしでも日給1万円保証。それ以降は日給+歩合というのが基本システムらしい。

ただし、ドリンクなどの指名売上げの金額に応じて10〜30%と歩合が増えていく一方で、日給は下がっていく。月の売上げが100万円以上になると日給はゼロで売上げを店と折半、完全歩合制になるそうだ。金額ははっきり教えてもらえなかったが、売上げがある程度になると見習いホストの仕事である店内の掃除係からも卒業できるという。

売上げが少ないうちは日給が出るというのは嬉しいけれど、やっぱり稼ぐホストは「歩合」が勝負なのだろう。

「そろそろ先輩と一緒にテーブルにつこうか」

体験入店なんだから、当然こういう展開になるだろうとは思っていたが、緊張で「あ……はい」と返事をする声が裏返ってしまう。でも、神崎さんはバカにするそぶりもなく、「最初だから緊張するよねー」と穏やかな口調を崩さない。

「今日は体験だから、接客はしなくていいから。会話に入れそうだったらしゃべってもいいけど、無理に話そうとしたりお酒作ったりとかはしなくていいからね。じゃあ、今、先輩ホストを呼ぶからね」

いよいよだ。もう後戻りはできない。先輩ホストにどう挨拶するべきか。テーブルではどう振る舞うべきなのか。お客さんに何か粗相をしてしまったらどうしよう。

そんな不安が一気に押し寄せ、頭が真っ白になっていく……。

▶︎第4回は10月9日(水)の公開予定です。

<構成/伊藤彩子>

この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito