会社を辞め、フリーランスのライターとして独立して4年。「フリーランスです」と言うと、よくうらやましがられた。

「フリーランスですか。自由でいいですね」

「会社に行かなくていいなんて、うらやましい」

時には、「会社員なんてやってられないですよね」なんて言う“フリーランス超推奨派”の人にも出会い、同意を求められて困ったこともある。

たしかに、フリーランスは“自由”だ。病院に行くのも役所に行くのも、会社員時代よりずいぶん楽になった。もともと体があまり強くないので、体調の悪い日に(打ち合わせや取材がない限りは)後ろめたい気持ちなしに休むことができるのは本当にありがたいし、収入と相談すれば「来月は仕事を控えめにしよう」と判断することだってできる。仕事内容も、フリーになってからいただく仕事たちはどれも新鮮で、刺激的だった。

このままずっとフリーランスでいる。その選択も、もちろんあったと思う。

けれど今年の2月からわたしは「会社にも所属すること」に決めた。今は、フリーランスとしての仕事はこれまでと変わらず続けながら、週に何日か会社に行っている。

「会社にも入る」という選択をしたのは、「フリーランスでしかできないことがあるのと同様に、会社でしかできないこともある」とこの4年で心底理解したからだった。

フリーランスの落とし穴は、収入ではない

前職時代に副業で始めた書き物の依頼が多くなり、「仕事を断りたくないな」と思ったタイミングで“いったん”会社を辞めて、フリーランスになった。“いったん”という言葉が、これほどしっくりくる心持ちもなかなかないだろう。収入がなくなったり、食べていくのに困ったりすればまた正社員に戻ろう……、そう思っていたから。

けれど実際のところ、大きな問題は「収入」ではなかった。フリーランスになる前に想像していた、収入やスケジュール管理、モチベーション維持なんかよりもずっとずっと深刻だったことがある。

「成長のスピードが遅くなったこと」と「挑戦できる環境が減ったこと」だ。

フリーランスである上にチームや相棒を持たず、まるきり一人で仕事をすることが多かったことが大きく影響していたと思うが、わたしは徐々に「自分の能力が停滞していくような感覚」に陥った。誰にもそれを指摘されたことはないから、事実かどうかはわからない。けれど、誰もわたしを(評価するという視点で)定点観測していないのだから、その感覚を否定してくれる証拠もない。

前職のチームメンバー

誤解のないようにきちんと伝えておきたいのだけれど、もちろんすべての仕事に全力で取り組んだつもりだ。ひとつ前の仕事よりも少しでもいい仕事をしたい、先月の自分よりレベルアップしたいと、いつも思っていた。

編集者不在の仕事が多かったために、自分で工夫できる範囲で修正を繰り返した。取り組み方を変えたり、わずかに新しい表現を入れ込んだり。でも、その努力が正しく成長に還元されているのかは、わからない。

手探りが続くその時間は、暗闇の中を突き進まねばならず、(おそらく)前へ進んでいるのだろうけれどそれを確かめる術もないといった感覚に近いように思う(ただ、物書きという仕事はそんなふうに孤独に自分の能力を磨いていくものだから仕方ないという人もいるかもしれない。そう言われてしまえば、わたしにはただじっくり腰を据え、自分を信じ、前に進み続ける勇気がなかっただけなのかもしれない)。

そのうち「挑戦する回数」も減った。

自分で出した企画を、自分一人で書き上げなくてはならないと思うと、大それた企画を立てることは恐ろしくてできなかった。フリーランスとして、仕事の評価が次の仕事を連れてくることは痛いほどわかっていたから、うまくやりたいという気持ちも多少はあったかもしれない。

とは言っても、実際に成長していなくても、個人的な挑戦をしていなくても、筆力があがっていなくても、クライアントの課題を解決できているのであれば何も問題はない。でも、「良い・悪い」とは別の話として、「手持ちのカードだけで仕事をやりくりしている」のは確か。このままでは、目の前の仕事ばかりこなすことに必死になっているうちに、未来が閉じていくのではないか? そう不安になりはじめたのは、フリーランスになってわずか2年後のことだった。

理想の環境が「会社」にあった

そうしてやっと出会ったのが、CHOCOLATE Inc.(以下、チョコレイト)という会社だ。

チョコレイトは、あらゆるエンターテイメントを作り出していく“コンテンツスタジオ”。企画作家、YouTuber、漫画編集者、デザイナー、映像作家など、さまざまな分野で活躍している人たちが集まっている(ちなみに、チョコレイトをフリーランスが集まる「ギルド系組織」だと思っている人もいるようだが、チョコレイトは“会社”だ。契約形態は、正社員・業務委託と人それぞれだが、ほとんどの人が会社に頻繁に通っている)。

会社では、ライターではなくプランナーとして、おもちゃ・漫画・映画・雑貨・番組などあらゆるコンテンツの企画をしている。これまで恋愛系の文章ばかり書いてきたが、チョコレイトでは恋愛以外の仕事ばかり。一度もやったことのない未知の仕事も山ほどあるが、助けてくれるチームがあるから怖くない。発想をのびのびと広げて、「楽しそう」「やってみたい」という純粋な気持ちで仕事を推し進めることができている。

幸い、フリーランスの書き仕事もまったく変わらずに続けられているから、「慣れた仕事」と「慣れない仕事」を行き来している状態。でもこの両輪があれば、これまでよりもずっと、遠いところまで行ける気がする。

個人でも十分に戦える人たちが集まっている。

それだけじゃない。定期的に会える人がいて、通える場所がある。ただそれだけのことが、こんなにも心に良い作用をもたらしてくれることを、思い出した。

多少の憂鬱にまみれている日でも、気を許している仲間と話しているうちに忘れられる。仕事の不安を一人で抱えておく必要もない。仲間の新しい発想に、ハッとさせられた回数は数え切れないほどだし、話せば話すほど刺激がある。時には、価値観の違うメンバーと意見のすり合わせをする必要もあるかもしれないが、一人の頭で考えるよりもずっといいものができる。

フリーランスでの仕事と、チームでの仕事。

この両輪で走りはじめて、かすみはじめていた未来がもう一度開こうとしている予兆を感じる。というか、そうでありたい。

仕事量は単純に考えれば2倍に増えたが、仕事の楽しさは2倍以上に増えた。わたしにとって今の会社は、窮屈な場所でも、人を縛る場所でもない。ここにいることで、一人よりもずっと遠くまで行ける。そう信じられる場所だ。

「フリーor会社」ではなく必要なものを選ぶ

いつまで会社で働くことになるのかは、正直まだわからない。数カ月後にはフリーランス一本に戻っているかもしれないし、逆にフリーランスの仕事をすっぱりやめているかもしれない。でも、そんなのは取るに足らないことだ。現状と自分の未来を照らし合わせて考えれば、その都度選択は変わるのが当たり前なのだから。

働き方が変わりゆく今、世間の声に惑わされて何を選べばいいのかわからなくなっている人もいるかもしれない。

もし今、「会社員になるべき?」または「フリーランスになるべき?」と聞かれたら、わたしは「あなたにとって今、本当に必要なものってなに?」と聞くだろう。

世間の風潮や、目先の利益、周囲の人の声などにとらわれずに、長い目で仕事人生を考えた時に、今本当に必要なものは何か。そこから導かれる答えに素直に向き合っていきたい。わたし自身も、何度でも。

この記事を書いた人

夏生さえり

夏生さえり(なつお・さえり)

山口県生まれ。青山学院大学卒。出版社、Webメディアでの編集経験を経て、ライターとして独立。取材、エッセイ、ショートストーリー執筆など、女性向けコンテンツを多く手がける。著書に『揺れる心の真ん中で』(幻冬舎)など。

Twitter:@N908Sa

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