元No.1ホストの「心をつかむ心理術」がストーリーで学べる【連載小説】

チビで非モテの主人公、海藤恵一がさえない毎日から抜け出すため選んだのは「ホスト」になること。大学の同級生が働くホストクラブで面接を受けた海藤は、そのまま体験入店することに……。

▶︎【第1回】内定ゼロ、彼女なし…。チビで非モテの就活生に未来はあるのか?

▶︎【第2回】ただ「優しいだけの良い人」から抜け出すために

▶︎【第3回】面接を受けに夜の歌舞伎町へ

体験入店で、僕は「ケン」になった

「君が体験入店の子? 名前は? オレはナオヤ。よろしくね!」

目の前に、めちゃくちゃテンションの高い180cmを優に超える長身の男性が現われた。彫りの深い顔立ちに銀髪、カラコンなのだろうか、きれいな青い目をしている。思わず、その日本人離れした見た目に圧倒されてしまう。

「か、海藤恵一です。今日は、よ、よろしくお願いします」とどもりながら挨拶すると、「緊張してる? 大丈夫、大丈夫」と物腰は意外にやわらかい。

「ケイイチって呼びにくいなぁ。ケイはうちの店にもういるし……とりあえず、今日は“ケン”ってことでいい?」

ケンなんてホストっぽくないような気もしたが、ナオヤさんの勢いに押されてうなずくしかなかった。

連れていかれたテーブルには、体にぴったりとした黒っぽいワンピース姿の女性が座っていた。気が強そうな雰囲気だけどすごい美人だ。明るい茶色のロングヘアは、念入りに手入れされていることが一目でわかるほどつやつやしている。

僕の周りにはいないタイプの女性だし、もしいたとしても、「どうせ相手にされないから」と話しかける気さえ起きなかっただろう。

「今日、体験入店のケンです。こちらの姫はカオリちゃん。こっちは大河ね。今日はヘルプでついてくれてるんだ」

「よ、よろしくお願いします」

僕のたどたどしい挨拶を笑うでもなく、カオリさんも、大河と呼ばれた僕と同年代の男も、予想に反して「よろしく」と笑顔で返してくれた。

テーブルでは話に入る隙なんて1ミリもない

「ケンはお酒飲める? 飲めないなら無理には飲まさないから正直に言って」

「飲めます、大丈夫です」

「じゃあ、カオリちゃん、ケンにも一杯いただいていい?」

カオリさんが「もちろん!」と答えるや、大河さんがすかさずグラスに氷を入れ、鏡月の水割りを作ってくれる。ふと見ると、カオリさんのワンピースにはスリットが入っていて、そこからのぞく真っ白い脚に目のやり場に困ってしまう。

「ねぇねぇ、聞いてよ」と、カオリさんが口を尖らせる。「ノルマがきついし、店長は細かいし、他の店に移りたい」とナオヤさんに並べられるだけの愚痴をこぼす。

「それに、『オレのこと好きでしょ?』って言ってくる客がウザい」

「そうなんだー。大変なんだ」

「もう最悪だよ」

どうやらカオリさんはキャバ嬢らしい。そんなカオリさんの話を、ナオヤさんは優しく聞いてあげている。完全にふたりの世界ができあがっていて、話に入る隙なんて1ミリもない。

カオリさんが笑えばナオヤさんも笑い、カオリさんが眉をひそめればナオヤさんも不愉快そうな表情になる。ナオヤさんは、カオリさんの表情をそのまま映し出す鏡のようだ。

カオリさんはひととおり話したいことを吐き出したのだろう。15分ほど経ったところで、ふたたび「今のお店がイヤ! 他の店に移る」と初めの愚痴に戻り、2周目に突入していく。

すると、それまで優しくうなずいていたナオヤさんが「大河って芸人の誰かに似てね? ほら、誰だっけ?」と話題を変えた。すぐカオリさんも「あーわかるー! 名前がわかんないけど」とはしゃぎ始める。

「ほら、大河~。モノマネやってよ! あの芸人だよ」と無茶振りされた大河さんが、席から腰を浮かせた瞬間、ナオヤさんの「グイグイ! グイグイ!グイグイよし来い! グイグイ!グイグイ!グイグイよし来い!」という大声がフロアに響き渡った。

その声に合わせて、大河さんは卓にあった鏡月のボトルをつかみ、一気飲みする。続いて「可愛いじゃん! なかなかいいじゃん!じゃんじゃん飲もうじゃん!」とカオリさんへのコールが始まり、何杯もグラスを空にしていく。この細い身体のどこに、こんなにアルコールが入るのだろう。

これがあの「コール」ってやつか――。昔、ホストが主人公のノンフィクション番組で似たような場面を見たことがある。

そんな一気が続くなか、「ナオヤさん、お願いします」と内勤から声がかかった。他の客からの指名だ。ベロベロに酔ったカオリさんが「えー行っちゃうの?」と、ナオヤさんに不満顔で迫る。ナオヤさんはまるであやすように、「カオリがいい子にしてたら、すぐ戻ってくるよ」とハグして席を立った。

さっきまでは“ちゃん”付けだったのに、今は呼び捨て。こんなに優しく話を聞いてくれたうえで、呼び捨てにされたら、心の距離が一気に縮まったような気がして、男の僕でもクラクラしてしまいそうだ。

ホストって本当にすごい……。

次のテーブルで待っていたのは、30代半ばくらいの女性。フリフリやレースがいっぱいついた薄いピンクのワンピースを着ている。ロリータファッションっていうやつだ。とても整った顔をしていて、美人の部類に入るはず。でも、その表情を見ると、どこか人形のような印象を受けてしまう。なぜだろう?

それだけでも気になったのだが、さらに僕が気になったのは彼女が抱えているある“モノ”だった。それは、薄汚れたクマのぬいぐるみ。耳はちぎれかけ、中の綿が少しはみ出ている。驚いてナオヤさんを見ると、小声で「大丈夫だから」と僕に言って、さっさと席に着いてしまった。

「コゼット、久しぶり! 元気だった?」

「うん、元気元気!」

ふたりの話を聞いているうちにわかったのは、コゼットはアニメの主人公で、彼女はホストクラブに来る時だけでなく、普段もコゼット設定で生きているらしいこと。ぬいぐるみはコゼットが相談相手として持ち歩いているもののようだ。そして、彼女はコゼットのような青い目を持つナオヤさんを慕っているのだ。

なんと言ったらいいんだろうか……、すごく個性的? 僕が彼女とふたりきりになったら、何を話していいのかきっと悩んでしまう。でも、ナオヤさんは「うんうん」と相づちを打ちながら、ごく普通に話をして、楽しそうに笑い合っている。

ホストって本当にスゴい……。どんなタイプの女性とも上手に会話を盛り上げ、悩みや愚痴を打ち明けてもらえるくらい信頼されている。まるで女性心理を知り尽くしたカウンセラーのようだ。しかも、半端ないお金まで使わせる。

オラオラしたホストになるのは無理でも、ナオヤさんみたいな女性に寄り添うようなタイプのホストになら自分もなれるかもしれない。

この時の僕はまだ、ホストの世界はそんな甘っちょろいものでないことに気づいていなかった。

▶︎第5回は10月23日(水)の公開予定です。

<構成/伊藤彩子>

この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito