「仕事楽しい!」「仕事で自己実現!」とやる気満々な人もいれば、「担当業務さえきちんとやっていればいいんじゃない?」と思う人もいて当然。与えられた責任を果たしていれば、どんなふうに仕事と向き合うかは人それぞれです。

しかし、まったく働かないダメ社員を描いた漫画と出会い、Dybe!は衝撃を受けました。「働きたくない」と思うのはいいけど、「会社にいながら働かない」のはどうなんだろう……?

そこで『働かざる者たち』の著者である漫画家のサレンダー橋本さんにお話を伺いました。新著『全員くたばれ! 大学生』では、卑屈な大学生を描いたサレンダー橋本さん。もともとはご自身も卑屈で周囲を見下すことで自分を守っていたのだとか。

社会に意外と潜んでいる! 働かない人図鑑

サレンダー橋本
サレンダー橋本(されんだー・はしもと)。会社員との兼業漫画家。1988年、神奈川県生まれ。2013年、『オモコロ』でギャクマンガを描き始め、現在に至る。最新刊に『全員くたばれ! 大学生』(扶桑社)。

──『働かざる者たち』にはダメすぎる会社員がたくさん出てきて、衝撃を受けました。橋本さんは、企業に勤めながら漫画連載をしている兼業社員なんですよね。これは、やはりリアルな体験を元に描いた作品でしょうか?

サレンダー橋本(以下、橋本):キャラクターは、どれも実在する人物をモデルに描いています。僕の周りにいる人や、友達から聞いた話をベースにしています。『働かざる者たち』は、みんなそれぞれ働かない工夫というか、「働いているように見せる」振る舞いをしているんですよね。

(1)メモ帳にウィキペディアを貼り付けてずっと読んでいる社員

サレンダー橋本
(c)サレンダー橋本/エブリスタ

橋本:出現率が高いのがこのタイプ。さすがに、仕事中に動画は観られないんですよ。すぐバレるから。ウィキペディアをメモ帳やエクセルに貼り付けてひたすら読んでいるとか。さらに上級者だと、仕事してる感を出すために、英語のウィキペディアを開いてるタイプもいます。英語だと、「何か海外の資料を読んでいるのかな?」という印象になるからでしょうね。

(2)ずっとゲームを続ける社内ゲーマー

橋本:古来からPCあるところに必ず発生するのが社内ゲーマーです。Windows内臓の「ソリティア」「マインスイーパー」「フリーセル」が鉄板で、特にお年寄りの社員は「ソリティア」が大好きな印象です。ただ、最新のWindows10から初期状態ではゲームが入っていないため、OSの更新とともに社内ゲーマーたちが滅びつつあるという話も聞きます。

(3)1日中オフィスをうろうろ、雑談ばかりしている社員

サレンダー橋本
(c)サレンダー橋本/エブリスタ

橋本:そもそも「働いてない」という自覚がない人も、たくさんいます。1日中オフィス内をあちこち歩きまわって雑談しているだけの人も「俺はこの部署の潤滑油だ」って思っていることもありますよ。同僚に話しかけても、煙たがられているし、時には無視されています。

誰でも「あっち側」になってしまう可能性はある

──みんなサボりのプロフェッショナル! いろんな働かない会社員が実在するんですね。

橋本:僕、大人になったらみんな真面目になると思っていたんですよ。でも、誇らしげに「俺、全然働いてないよ」なんて言う人もいて……とにかく衝撃だったんです。

──NewsPicks的世界観には、存在しないタイプの人たちですよね。

橋本:でも、社会には結構いますよ。『働かざる者たち』は、新聞社が舞台で、実際に働く知人を取材して描いた作品です。漫画を発表した後、いろんな新聞社の方から「あれ、ウチの話?」ってよく言われました。どこも似たような状況なんでしょうね。

──働かない人たちが、それだけ多く存在するってことですよね。

橋本:大きい会社って、必ず手を抜く人がいるんですよね。とはいえ、僕も最初は照れ隠しや謙遜で「働いてないよ」って言っていると思ってたんです。でも、よく見てみると、彼らは本当に働いてなかったんですよ。

──衝撃ですよね。

橋本:でも、組織って不条理なものだから、そういう人が出てきちゃうのもしょうがないのかなとも思うんです。会社員って、理不尽な異動になったり、合わない上司とぶつかって突然冷遇されたりすることもあるし、本人の資質とか努力不足のせいではなく、不本意に「働かない側」になってしまうケースもあります。

──腐ってしまう可能性は、誰にでもある?

橋本:そうです。もともとはやる気があった人たちでも、心を折られてしまうことがあるんです。

──「働かざる人たち」はなぜ組織に居座ることができるんでしょうか。怒りは湧かないですか?

橋本:怒りはないです。とにかくびっくり。思ってた大人と違うし、こんな人が社会にいるんだ! っていう驚きですね。ただ、それぞれにいろんな歴史や思考があるんですよね。冷遇されたことで腐ってしまい、辞めずにいることで会社に復讐しているように見える人もいました。

──そんな状況にいるのは、本人にとっても悲劇ですね。

橋本:みんな転職したほうがいいんじゃないかなって思うんです。周囲から「働かない人」認定されたまま会社に居座るのって、辛いですよ。年功序列が主流だった時代なら、最低限のポジションは与えられたから定年までしがみつくことも可能だったかもしれないけれど、もうそんな時代じゃないし。

──居場所がなくなってしまいつつあるんですね。

周囲を見下して自分を守っていた大学生時代

サレンダー橋本
(c)サレンダー橋本/扶桑社

──サレンダー橋本さん、人間観察力がすごいです。新著の『全員くたばれ!大学生』では、卑屈な大学生を描いていますが、リアルでした。あれは、実体験ですか?

橋本:自分が大学生だった、10年前の日記を書いている感覚の作品ですね。今なら、狭い世界の話だってわかるんだけど、当時は大学がすべてだと思っていました。とにかく、自意識過剰だったんですよね。講義中、後ろの席の人にプリントを回すのも、「全力で振り向くのもダサいかな?」ってノールックパスしたりとか……そういう細かいことをいちいち考えて調整していました。誰も見てないし、友達もいないのに。

──細かすぎます! 周囲の目がすごく気になってたんですね。

サレンダー橋本
(c)サレンダー橋本/扶桑社

橋本:大学時代の僕は、「このキャンパスにいるやつ全員つまらねえ」って思い込んでました。「自分のほうが絶対に面白い!」って。東京の大学だったので、みんな地方から上京してきて「思いっきり遊ぶぞー!」っていうモードだったから、「え、何はしゃいじゃってるの? ダサい」みたいな気持ちもあって。

──当時から漫画を描いていたんですか? 「絶対にあいつらより成功してやる」みたいな。

橋本:いや、別に当時はなにもやっていなくて(笑)。深夜ラジオを聴いたり、映画を観たりしていたから「俺はいろんなものに詳しいぞ!」っていう自負があって。「俺のほうが世の中のことを知ってる」って、周囲を見下していました。

──そういう大学生は意外と多そうですね。

橋本:でも、本当は自信がなくて臆病だから、「人に話しかけて拒絶されたらどうしよう」という気持ちでしたね。とにかく自分が一番かわいくて、傷つきたくなかっただけで。本当にダメだったなと思います。

サレンダー橋本
(c)サレンダー橋本/扶桑社

──人はどうして卑屈になってしまうのでしょうか。

橋本:自分と合わないコミュニティに一歩でも足を踏み入れてしまうと、周囲に対して心の中で攻撃的になってしまうんだと思います。僕は社会に出て、いろんなことがどうでもよくなってから、ずいぶん楽になりました。

──どうでもよくなったとは?

橋本:社会人って、面白いこと言わなくていいんですよ。「検討します」「承知しました」とかを繰り返して役割をこなせばいいから、「俺のほうがあいつより面白い」とか思わなくてすむ。だから会社は割と楽ですね。僕がいるのが、個性が評価されるような業界じゃないのもあるんですけど。

サレンダー橋本
(c)サレンダー橋本/扶桑社

──卑屈だったサレンダーさん。就活戦線をどうやって勝ち抜かれたんですか?

橋本:就活は、演技をすればいい場だととらえていたので、やりやすかったですね。「絶対にしゃべらなきゃいけない場」だと、うまく振る舞えるんです。でも、大学のグループワークみたいな「みんな、何となく雰囲気で仲良くやってね」という空間が、とにかく辛かった。

──そのままの個性を出さないでいい場所ではうまく振る舞えるということでしょうか。

橋本:そうですね。まだ「ダサいと思われるのが死ぬほど嫌」っていう大学生のマインドはなかなか捨てられないけれど、大人にはなりました。自分の中ではあれこれ考えちゃうけど、口には出さないし、他人は攻撃しません。

──自分の中の卑屈な部分と、うまく付き合っているんですね。

サレンダー橋本
(c)サレンダー橋本/扶桑社

自分だけの穴ぼこを掘り続ければいい

──卑屈な自分を飼いならすにはどうしたらいいでしょうか。

橋本:自分自身、まだ答えが出ていないんです。ただ、周囲が気になってしょうがない人って、生きづらいですよね。ひとつ言えるのは、価値判断の基準を全部自分で持っておけばいいんじゃないかな。

──他人と比べて落ち込まない、は大事ですね。

橋本:大学時代の僕は傲慢だったから、「みんなつまらない人間だ」って思ってたんです。僕みたいに思うことがいいとは言えないけど、ブレない自分の価値基準を持っていれば、むやみに人をうらやんだり、嫉妬したりすることはなくなると思います。

サレンダー橋本
(c)サレンダー橋本/扶桑社

──たしかに。自分は自分って思えますからね。

橋本:あとは、人前だけでも、切り替えること。上っ面だけでもいい。傲慢な人は傲慢なまま生きていくしかないんですよ。人付き合いでいっぱい失敗していけば、そのうち「カッコ悪いところを見られたくない」とか「ダサい自分は嫌だ」なんていう自意識もどうでもよくなってきます。

まだ大学生の人なら、孤立していてもいいと思うんです。大学でグループに属すことができなくたって、勉強さえしておけば必ずどこかに居場所は見つかりますよ。

──ひとりで勉強……。そういった「ひとり壁打ちのような努力」って報われると思いますか?

橋本:自分だけの穴ぼこを掘り続けたらいいんです。意味があるかはわからないけれど、僕は漫画にすることで糧になりました。それぞれ、好きなことを発信したらいいと思います。そうしたら、自然と仲間ができるので。僕は学生時代、ずっとひとりだったけど、今では漫画家の友達ができました。

──会社員をやりながら週刊連載もやっていらしゃるんですよね。相当ハードだと思いますが、そんなサレンダー橋本さんの原動力は?

橋本:僕も漫画を労働時間に入れたら、孫正義くらい働いてますね。でも、働いてる意識がないから続けられている。漫画を描くという作業自体が好きなんです。

大学や会社だけが世界のすべてじゃない。僕なんて、会社にいる時は「自分は漫画家だ」って思ってて、漫画描いてる時は「俺は会社員」という気持ちでいます。そうやって会社にも漫画家にも固執しないようにしてるんです。

もし、僕が専業漫画家だったら、「絶対に売れてやる!!!!!」みたいなプレッシャーで、すごいつらかったんじゃないかな……。複数の世界を持っていることで、自分を守れてるんだと思います。それが良いのかわかりませんが。

サレンダー橋本

サレンダー橋本(されんだー・はしもと)

会社員との兼業漫画家。1988年、神奈川県生まれ。2013年に『オモコロ』でギャグ漫画を描き始める。2018年より『週刊SPA!』にて『全員くたばれ!大学生』を連載、1巻が好評発売中。著書に『働かざる者たち』(小学館クリエイティブ)、『全員くたばれ!大学生』(扶桑社)など。

Twitter:@surrender_h

取材・文/小沢あや(@hibicoto