元No.1ホストの「心をつかむ心理術」がストーリーで学べる【連載小説】

チビで非モテの主人公、海藤恵一がさえない毎日から抜け出すため選んだのは「ホスト」になること。入店から3カ月、身だしなみにも気をつけて面白い話も仕込んだが、まだ誰からも指名がもらえない……。

▶︎【第1回】内定ゼロ、彼女なし…。チビで非モテの就活生に未来はあるのか?

▶︎【第2回】ただ「優しいだけの良い人」から抜け出すために

▶︎【第3回】面接を受けに夜の歌舞伎町へ

▶︎【第4回】ついに運命の体験入店が始まった

源氏名はカッコよく「KEN」と横文字にした

体験入店の日から3カ月が経った。

初めて『ペガサス』を訪れたあの日は、何もしなくても汗が噴き出すほどの暑さで、夏を過ぎても30℃超えの日がしばらく続いたが、ここ数日でようやく秋の気配が漂い始めた。ホストクラブがひしめく歌舞伎町「ホスト通り」を吹き抜ける風にも、もうベタつくような湿気は感じられない。

本入店を決めた後、源氏名は「ケン」ではなく、「KEN」という横文字に変えた。名前だけでもカッコよくありたいという僕なりのこだわりだ。

ゆとりがなくてファッションにはお金をかけられないが、ヘアワックスを変えたり、香水を試してみたり……。化粧水もつけるようになった。自分でも少しは清潔感が出てきたように感じるけれど、残念ながら3カ月経った今も、僕を指名してくれるお客さんは1人も現れていない。

ナオヤさんと一緒にテーブルを回った時は、会話に上手く参加できたとは言いがたかったが、あからさまに邪険にされることはなかった。でも、いざ本入店してみると、お客さんに「人」として認めてもらうことすら、そう簡単なことではないことがわかってきた。

ホストクラブはトラブルを避けるため、基本的に永久指名制だ。お客さんにしてみれば、1回指名してそのホストが自分の「担当」になったら、その先も別のホストに乗り換えることはできない。だから、お客さんも慎重になるし、その分だけ担当への思い入れも深いというわけだ。

指名を獲得するにはどうしたらいい?

じゃあ、担当のサポートをするために一緒に卓につくヘルプ=下っ端ホストたちは、どう指名客を獲得するのか。それには、3つの方法しかない。

ひとつめは、街頭でキャッチしてくること。

最近は風営法で客引きが禁止されているので、「声をかけて仲良くなった子を、自分の働いている店に誘い、指名してもらう」という体裁にしなくてはいけない。ナンパひとつしたことのない僕には、あまりにハードルが高い。

2つめは、初めて来店したお客さんに気に入ってもらい、次回から指名してもらうこと。

ホストにとって、初めて来店するお客さんは、指名を取る大切なチャンスだ。気に入ってもらえれば、次に来店した時に指名してもらえる可能性が高くなる。

ただし、安く設定されている「初回料金」目当てにやってくるお客さんも少なくないから、そうした「通う気のないお客さん」を見極めるのは、僕みたいな駆け出しにはむずかしい。しかも、積極的なお客さんは、店内の気になるホストさんを席に呼ぶ「場内指名」して、そこで気に入った相手を「送り指名」することも多いため、ルックスに難がある僕にはチャンスが少ない。

送り指名とは、お客さんが帰る時に出口まで送るホストを指名できるシステム。このシステムは店によってあったりなかったりするらしいが、送り指名をもらうと、次回から指名されて担当になれることが多い。

そして何よりも、初めてのお客さんには短時間のうちに多くのホストが顔を見せて、何とか指名を取ろうとする。つまり、競争が激しいわけで、やっぱり僕にとってはあまりにハードルが高い。

で、3つめは「枝」のお客さんに指名してもらうこと。

ヘルプでついたお客さんに気に入ってもらっても、指名替えしてもらうことはできないが、そのお客さんが連れて来た「枝」と呼ばれる初回客に、指名してもらうことはできる。僕に可能性があるとしたら、このパターンしかない。実際、多くのホストが「幹」といわれる担当のいるお客さんに、「枝」を紹介してもらっているのだ。

ダンゴムシは水に沈めても死なない?

しかし、現実は厳しい。ただでさえ、まともに女の人と話したことのない僕にとって、お客さんとの会話を盛り上げて気に入ってもらうにはどうしたらいいのかまったくわからない。何か面白い話ができればいいのだろうか……。

ついこの前も、担当ホストが別の指名客に呼ばれ、僕と2人きりになったお客さんはさっそくスマホを眺め始めた。

何とか話のきっかけをつかもうと、ネットで調べた「話すと絶対ウケる雑学」を披露しようとしたが、「知ってる? ダンゴムシってさ……」と言いかけたところで、「は? うるさいんだけど」と瞬殺。しかも、チラリともこちらを見ずにだ。

「ダンゴムシはエラ呼吸をしてるから、水に沈めても死なない説がある」という、自分としては「へぇー」と思ったなかなかのネタだったのだが。

そもそもお客さんがヘルプに「飲んでいいよ」と愛想よくするのは、担当ホストに良く思われたいからであって、担当ホストが別の指名客に呼ばれて席を離れたら、ひたすらスマホをいじっているお客さんがほとんどだ。担当ホストがいない時、場をつなぐのもヘルプの役目だが、いくら話しかけてもガン無視されるのがごく当たり前なのだ。

なぜ、普通に話すこともままならないのか……。さすがに“名ばかりホスト”状態が続くようでは、ホストになった意味がない。僕はカッコよく成長して、憧れのまさみちゃん――そう、バイト先のテレビ局で一緒になっためちゃくちゃかわいくて性格もいい、あの相澤まさみちゃんに男として見てもらうためにホストになったのだから。

完全に弱り切った僕は、清水の舞台から飛び降りるつもりで、ナオヤさんに「どうしたらいいのか相談させてほしい」とお願いした。

▶︎第6回は11月6日(水)の公開予定です。

<構成/伊藤彩子>

この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito