仕事で求められる能力のひとつに、「周りを巻き込む力」があります。いかに周りの人に応援してもらい、力を貸してもらうかは、仕事で成果を上げるために大切な要素のひとつです。

今回お話を伺ったのは、司会者でエンターテイナーのWoWキツネザルさん。有名人でもないのに2度のクラウドファンディング(以下、クラファン)を大成功させました。

MCとしてお仕事のほか、生物多様性の保護や保全を訴える活動を行っているWoWキツネザルさん。身近に感じにくい環境問題を、どうやって「自分ごと」に落とし込んだのでしょうか。

初めてのクラファンで達成率275%

MC WoWキツネザル
WoWキツネザル(わおきつねざる)。マダガスカルに生息する絶滅危惧種ワオキツネザルに扮したエンターテイナーMC。2016年にクラウドファンディングで178万円の支援を受け、マダガスカルの魅力を伝えるドキュメンタリーを製作。

──WoWキツネザルさんは、過去2度のクラファンを“大成功”に納めたそうですね。失礼ながら、WoWキツネザルさんって……。

WoWキツネザル(以下、WoW):結婚式やイベント、コンテストやフェスなどの司会業をやっています。このWoWキツネザルというキャラクターは、マダガスカル島に生息するワオキツネザルをモチーフにしているんです。アテクシ(※)は子どもの頃からワオキツネザルが大好きだったので。

(※)キャラクター設定上、WoWキツネザルさんは「アテクシ」という一人称を使っています。

──そんなWoWキツネザルさんがクラファンを始めたきっかけは?

WoW:ワオキツネザルについて調べているうちに、ワオキツネザルが絶滅に瀕している現実やマダガスカルの環境問題に直面しました。何かしなければと、マダガスカルを知ってもらうイベントを開催し、駐日マダガスカル大使館にパートナーキャラクターとして認めてもらうまでに至りました。でも、あることに気づいてしまったんです。

──何に気づいたんですか?

WoW:こんなにワオキツネザルが好きでマダガスカルの魅力や課題を発信しているのに、その時はまだマダガスカルに行ったことがなかったんです。とはいえ、マダガスカルへ行くには時間もお金もかかります。そこで、クラファンに挑戦することを決めました。

──それが第1回目の挑戦ですね。

WoW:はい。2017年に『マダガスカルの絶滅危機の動物たちを知ってもらうため、ドキュメンタリーを撮りたい!』(*1)というプロジェクトを立ち上げ、達成率275%で終えることができました。

──275%! すごい数字です……。

WoW:安全面や衛生面を考慮して渡航費・宿泊費を計算すると、カメラマン2人と同行、2週間で180万円ほど。まずアテクシ一人分は確保しようと、スタート時の目標金額を65万円に設定したんですが、最終的には約180万円の支援を受けることができました。

マダガスカル南部に生息しているワオキツネザル。名前の「ワオ」は「輪尾」からきているそう。

巻き込む技術(1):周囲との信頼関係を築いておく

──成功した理由は何だったと思いますか?

WoW:10万円の支援をしていただく「法人様コース」を設定したのですが、準備期間の2カ月のうちに、これまで「WoWキツネザル」に仕事を依頼してくださった方々へ挨拶回りをしたんです。

目的は、プロジェクトを公開する前に支援達成できるよう支援者を見つけること。そうすることで精神的にも安定しますし、スタートダッシュできてプロジェクトも盛り上がりますから。そこで協力してくださる企業6社を見つけることができたのが、かなり大きかったと思います。

──10万円を6社ということですね! 仕事を依頼したことがあるというだけで出してもらえるものですか?

WoW:仕事を通して、アテクシという人間を信頼していただけていたのかなと思っています。司会者としての仕事を広げていくためにも、お仕事をいただいた方に信頼され、周囲の方にご紹介していただくことが何よりも大事だと考えていましたから。「君が挑戦したいというなら応援するよ!」と言っていただけたのは本当に嬉しかったですね。

──信頼を得るために具体的にはどんなことをしていたんですか?

WoW:司会業を始めた時から自分の周りの人たちに、(1)司会者として認識してもらう、(2)思い出してもらう、(3)紹介してもらう、というステップを大事にしてきました。ひとつの仕事が終わったらSNSに結果を書き込み、司会者としてのイメージを繰り返し刷り込むようにようにしました。

──そうしておけば、司会者が必要となった時に思い出してもらえますね。

WoW: あとは、「必ずリピートしてもらえるクオリティを保つこと」も強く意識しました。「満足」ではなく「感動」してもらえるレベルを目指すことで、リピート獲得や紹介だけでなく、イベントに来てくださった方の中から新たな顧客を生み出していくサイクルを作ろうと意識してきたのがよかったようです。

MC WoWキツネザル
ある社長さんは、「司会をしている姿を見てから、何か応援したいと思っていた」と30万円を支援してくれたという。

巻き込む技術(2):「想い」と「計画の妥当性」の両輪が必要

──信頼されていたとはいえ、支援してもらうのは簡単ではなかったのでは?

WoW:現場でお会いする方は必ず「なぜWoWキツネザルなの?」と聞いてくださるので、アテクシのワオキツネザルに対する想いを伝えることができました。その結果、「こんなにワオキツネザルが好きな青年が、長年の夢を叶えるためにマダガスカルまで会いに行く」というストーリーを自然に応援してもらうことができたんだと思います。

──想いを伝えたことが大きかったんですね。

WoW:ただ熱量を伝えるだけでなく、「必要な数値を論理的にまとめて伝える」ことは意識しました。滞在費や交通費、必要な物資にいくらかかるのか、といった数値を明確にしてロジカルに説明したんです。共感してもらえても、なぜそのお金が必要なのか納得してもらえなければ支援はしてもらえませんから。

──たしかに! 金額に妥当性と納得性がなければ出資できませんからね。

WoW:想いと論理を掛け合わせたからこそ支援していただけたのかな、と考えています。実現したいという想いと、計画の妥当性。周りから支援してもらうには、この両輪が必要だと思います。

MC WoWキツネザル
「なぜ、誰が、どこに、どうやって、何をするか」をわかりやすくクリアにすることが大切だという。

巻き込む技術(3):プロジェクトを「自分ごと」に感じてもらう

──第1回目のクラファンを成功させた後、翌々年には2回目に挑戦されてますね。

WoW:“絶滅を五感で味わう”というコンセプトのイベント、『絶滅体験レストラン』(*2)のクラファンを始めました。マダガスカルで消えていく自然や動物を目の前にして、何かできることをしなければと、講演などで環境問題や絶滅危惧種の動物たちとの共存と共生を訴えてきまして。でも、そこで大きなギャップを感じたんです。

──ギャップとは?

WoW:そもそも環境系の講演やイベントには、すでに問題意識を持った人しか来ないんです。でも、アプローチすべきは環境問題に関心のない人たち。そういう無関心な人たちの意識を変えなければ問題意識は広がらないし、状況は改善されないですよね。

──たしかに……。無関心な人たちに興味を持ってもらうにはどうしたらいいんでしょうか。

WoW:人は「自分ごと」でなければ興味をもちません。自分の飼っているペットが死ぬとなればそれは「自分ごと」ですが、遠く離れたマダガスカル島でワオキツネザルが絶滅すると言われても「自分ごと」ではないんです。そこで、どうすれば「絶滅」を「自分ごと」としてとらえてもらえるか考えた結果、体験してもらうしかないと考えました。

──絶滅を体験するんですか?

WoW: どう体験してもらうか思考を膨らませた結果、人にとって一番身近な「食」と「絶滅」を掛け合わせた「絶滅体験レストラン」が生まれました。「絶滅」をイメージした料理を出すだけでなく、パフォーマンスと展示を加えた3つのプログラムを体験してもらうイベントです。

──「絶滅」をイメージした料理?

WoW:それぞれの皿で現在から数十年後、1000年後の地球を表現したコース料理です。たとえば魚料理では、魚よりゴミの量が多くなると言われる2030年の海をイメージしてプラスチックのグラスを料理の上に乗せたり、素材をプラスチック片に見えるような姿に調理しました。食事からゴミを取り除いたり、ゴミそのものを食べたりする状況を体験していただくためです。

──パフォーマンスと展示についても教えてください。

WoW:ダンサーや俳優、マジシャンによるショーを上演しました。ダンスやマジック、ミュージカルなどで絶滅する動物や魚、虫たちを演じたんです。展示ルームには絶滅の危機にある動物たちの写真や造形物を展示しました。

プラスチックのグラスを添えた魚料理。魚よりゴミが多くなった海を表している。(写真提供:きるけ。)

巻き込む技術(4):計画には応援したくなる要素を残しておく

──かなり大掛かりなイベントですが、クラファンでの支援はスムーズに集まりましたか?

WoW:チケットを販売する形を中心に支援を募ったのですが、実は1回目に比べると苦労しました。始動1週間でチケットが数枚しか売れなかったんですよ。原因は、プロジェクトの完成度を高めすぎたことだと思っています。

──でも、実現するかどうかわからないものより、完成度が高いほうが信頼できるのでは?

WoW:どこか不完全だったり、頼りなかったりするほうが、人は応援したくなるものなんです。「絶滅体験レストラン」は、仲間が集まり、はじめから内容を作り込み過ぎた結果、「何かすごい人たちが大きなプロジェクトを始めている」と思われてしまって、応援する対象ではなくなってしまったようなんです。

──たしかに。「応援なんていらないじゃん」と思ってしまうかも……。

WoW:われわれプロジェクトメンバーは、支援が必要だと感じていたのに「応援したくなる要素」や「助けてあげたくなる要素」がなくなってしまった。周りを巻き込む力を消してしまったんです。

「絶滅体験レストラン」では、食事だけでなくマジックやミュージカルを通して絶滅に瀕する動物たちの存在を訴えた。(写真提供:きるけ。)

巻き込む技術(5):「面白そう」と思ってもらえる手法を考える

──それでも最終的には達成率174%と大成功を収めました。どう巻き返したのですか?

WoW:想いを伝えることが必要だと思ったので、クラファン内のブログをとにかく書きました。「なぜプロジェクトを始めたのか」「なぜ自分がやらなければならないのか」、想いを伝えようとすると自然と文章量も増えました。これを続けていくうちに、だんだんチケットも売れるようになってきたんです。

──熱量や真意が伝わったことで応援してくれる人が増えたんですね。

WoW:それから、「絶滅体験レストラン」という言葉に魅力があったのは間違いないと思っています。「何か面白そうだ」と、感度が高い人は名前に反応してくれていたかな、と。そのおかげか、イベント当日は環境問題に馴染みのなさそうな若い人たちも多く参加してくれました。

また普段から環境保全に取り組まれてるNGOやNPOの人たちが、従来の環境イベントとはまったく違うスタイルに興味を持ってくれたこともあります。イベントが終わった後には感激して泣きながら握手してくれた人もいました。

──「絶滅体験レストラン」をきっかけに、新しいスタイルの環境系イベントが他にも生まれるかもしれませんね。

WoW:環境問題はなかなか自分ごとに感じられません。だから、入り口は「面白そう」「変わっている」でいいと思うんです。そうして参加してくれた人の意識を少しでも変えたい。たとえば、タピオカのプラスチックカップをポイっと捨てていた人が、イベントに参加することで「もうやめよう」と思ってくれたら嬉しいですね。

──2回目のクラファンを終えて、人を巻き込むコツはなんだと思いますか?

WoW:「本質」と「手法」を分けて考えること。これはクラファンに限らず、常に大切にするべきことだと思います。「本質」は「目的」と言い換えてもいいと思います。

たとえば、「絶滅体験レストラン」でいうと「参加した人の環境への意識を変える」というのは、変わらない「本質」です。一方で、レストランの部分はアクアリウムやフェスなど、さまざまな「手法」に変えられます。本質は変えずに、いろいろなアプローチができるように設計することで、人をワクワクさせて巻き込むことができる余白が生まれると思います。

世界で実際に起こっている環境破壊を展示で表現した。従来の環境問題についての展示とはだいぶ印象が違う。(写真提供:きるけ。)

巻き込む技術(6):仲間になる価値を感じてもらえるかが大事

──では、どのように「本質」と「手法」を分ければいいのでしょうか。

WoW:「本質」と「手法」は混合しやすく、手法の検討を進めているうちに「何のために始めたのか」という初心を忘れがちになってしまいます。「本質」があって「手法」が生まれたはずなのに、「手法」が「本質」を変えてしまうんです。そこで大切な考え方は、コアメッセージの割り算です。

──コアメッセージの割り算とは?

WoW:今回の「絶滅体験レストラン」であれば「なぜ“絶滅体験”をやりたいと思ったのか?」「なぜ“食事”に焦点を当てなければならないのか?」、「なぜ」を繰り返し考えることで、最終的には「環境への意識を変えたい」という、割り切れない想いにたどり着きました。

──その「割り切れない想い」が本質なんですね。

WoW:なぜ? なぜ? と繰り返して「本質」にたどり着いたら、それが多くの人に共感してもらえるものかどうか考えてみてください。そこに自信が持てるなら、どうすればその「本質」を周囲の人に理解してもらい、支援してもらえるか、そのための「手法」を考えればいいだけです。

──共感してもらえなければ支援もしてもらえない、と。

WoW:クラファンは「お金を集めるシステム」ではなく「仲間を集めるツール」です。ただ単にお金が欲しいだけなら「仕事したら?」で終わってしまう。

そうではなく、仲間になる価値を感じてもらい、お金を出して支援する意味があるプロジェクトだと思ってもらえるかが大事だと思います。これは、クラファンだけでなく、普段の仕事でも同じことが言えるんじゃないでしょうか。

──最後に、これからの目標を聞かせてください。

WoW:「絶滅体験レストラン」の本質は変えず、さまざまなアーティストやクリエイターとコラボして、いろいろな「絶滅体験〇〇」を実現していきたいと考えています。「WoWキツネザル」を “環境保全を象徴するエンターテイナー”として認知してもらって、一人でも多くの人の環境問題に対する意識を変えていきたいですね。「エンターテインメントで地球を救う」を体現します。

(*1)『マダガスカルの絶滅危機の動物たちを知ってもらうため、ドキュメンタリーを撮りたい!

(*2)『絶滅体験レストラン

WoWキツネザル(わおきつねざる)

マダガスカルに生息する絶滅危惧種ワオキツネザルに扮したエンターテイナーMC。数多くのイベントに司会として出演するほか、生物多様性の保護や保全を伝える活動を精力的に行っている。2016年にクラウドファンディングで178万円の支援を受け、マダガスカルの魅力を伝えるドキュメンタリーを製作。「絶滅体験レストラン」主催者。駐日マダガスカル大使館パートナーキャラクター。トヨタ環境サポーター。

Twitter:@wowkitsunezaru_

Youtube:WoWキツネザルのスポークンサーカス

取材・文/高城つかさ(@tonkotsumai
撮影/黒澤宏昭