元No.1ホストの「心をつかむ心理術」がストーリーで学べる【連載小説】

さえない毎日から抜け出し、好きな女性に振り向いてもらうためホストになった主人公、海藤恵一。入店から3カ月、いまだに指名ゼロという現状に焦った海藤が、「どうしたらいいですか?」と先輩ホストに相談してみると……。

▶︎【第1回】内定ゼロ、彼女なし…。チビで非モテの就活生に未来はあるのか?

▶︎【第2回】ただ「優しいだけの良い人」から抜け出すために

▶︎【第3回】面接を受けに夜の歌舞伎町へ

▶︎【第4回】ついに運命の体験入店が始まった

▶︎【第5回】ダンゴムシは水に沈めても死なない?

深夜2時の焼肉店で

本入店してからわかったことだが、ナオヤさんは『ペガサス』で3年連続ナンバーワンホストの座をキープしている1億円プレイヤーだった。ホストの中でも、ほんの一握りのトップ・オブ・ザ・トップだ。大物なのに「オレがトップでいられるのはみんなのおかげ」と後輩の面倒見もよく、みんなに慕われている。

相談させてもらうのにご馳走になるのはおかしな話だが、ホストの世界では稼いでいる先輩が後輩におごるのは当たり前とされている。店が終わった深夜2時過ぎにナオヤさんに連れて行ってもらった焼き肉店は、シックなモノトーンのインテリアで統一され、接客する女性は全員和服という、見るからに高級店だった。もちろん肉はA5ランクの黒毛和牛だ。

「最初のひと皿って普通はタン塩だと思うんだけど、ハツでもいい? この店は、すごくハツが美味しいんだ。ハツは扱いが難しい部位だから、本当においしい焼き肉屋さんを見極めるにはハツを頼むのが一番なんだよ」と、どんどんオーダーしていく。

運ばれてきたハツをナオヤさんが焼いて、「塩かレモン、好きなほうでどうぞ」と皿にとってすすめてくれた。恐縮しながらレモンをつけて口に入れると、独特のコリコリした食感で弾力もある。たまに僕が行く、安いホルモン焼きの店のゴムみたいなハツとは全然違う。

僕は肉を頬張りながら、自分なりに見た目を磨いたり、話のネタに雑学を仕入れたりしているのに、まるでお客さんに相手にされない。チビで非イケメンでトークも苦手な自分は、もうどうしたらいいのかわからないとナオヤさんに訴えた。

それこそ、ナオヤさんは店で女性を相手にしている時と同じように、「うん、そうなんだ」と優しくうなずきながら僕の話を聞いてくれる。

「金髪にしてみれば?」とナオヤさんは言った

「ひとつ聞きたいんだけど」

それまで黙って話を聞いていたナオヤさんが口を開いた。

「KENは本当に指名を取れるって、自分で信じている?」

「それは……」

予想外の質問に、うまく言葉が出てこない。

「今、僕から言えることは2つかな。ひとつは、自分は本当に変われる、指名が取れるって、強く信じて行動すること。たしかに入店したての頃に比べれば、見た目はずいぶんこざっぱりしたけど、自分をぶっ壊すところまではいってないよね。まずはその黒髪、金髪にしてみれば?」

「髪を染めたくらいじゃ変わらないって思ってる?」

まさか金髪にしろだなんて、そんなありきたりなアドバイスをされるとは思わなかった。髪色を変えて何かが変わるなら、日本人のほとんどが金髪にしてしまうのではないだろうか……。

僕が黙り込んでいると、ナオヤさんは「金髪がイヤだったら、シルバーでも緑でもピンクでもいいんだけど」と笑いながら話を続けた。

「もしかして、髪を染めたりするくらいじゃ、何も変わらないって思ってる? でもさ、ホストになったからって、急にトークが上手になったり、モテ始めたりするわけじゃないよね。ホストになっただけじゃ、KENはKENなんだから、すぐに中身は変わらないよ」

言われてみればその通りだけれど、だとすれば、髪を染めたって、余計に無駄なことのように思える。自分にホストなんて、土台無理なのかもしれない……。

「KENは『自分がイケメンじゃないからモテない』って決めつけてるけど、うちの店だってイケメンが必ずしもナンバー入りしてるわけじゃないの知ってるよね? KENの友だちのシュンだって、イケメン枠じゃないけど、たくさん指名もらってるし」

でも、そうだ、そもそもイケメンでも何でもないシュンこと青山が、モデル級の美人とフェラーリに乗っているのを見て、ホストに興味を持ったんじゃないか。僕はよくわからない希少部位の肉を飲み込みながら、3カ月前にキャンパスで見た光景を思い出していた。

思わず口をついて出た僕の本心は…

「人って絶対変われるんだよ。KENにも『自分は変われる!』って心から思ってほしいんだよね。でも、いきなり性格を変えたりはできないでしょ? だから、まず見た目や行動から変えていくのが手っ取り早いし、『変われた!』って自信になるんだよね」

「でも、僕なんかが金髪にしていったら、『いきなりどうした!?』ってバカにされそうで……」

金髪にしろと言われた時に湧いた反発心がウソのように、思わず本心が口をついて出る。

「あー、KENみたいに、自分が変われるってことを信じられないタイプの人間は、不安やデメリットに意識が向きがちなんだよ。だから、変わることに自分で歯止めをかけてしまう。でも、変わることに抵抗がないタイプの人は、『金髪にしてモテすぎちゃったらどうしよう』ってイメージするんだ」

「モテすぎちゃったらなんて、考えるヤツが本当にいるんですか?」

「それがいるんだよね~。でも、大丈夫! ネガティブなことを考えてしまう自分は変えられないけど、ネガティブとポジティブ、どちらに意識をフォーカスするかは自分で選べるから。『今、自分はネガティブなことを考えてるな』って自覚して、『大丈夫。自分はできる、変われる』ってポジティブなほうに意識を向け直すことはできるでしょ?」

それなら自分にもできるかもしれない。周囲の目がまったく気にならないといえばウソになるけれど、思い切って金髪にしてみようか。どうせこれ以上落ちることはないんだし。まあ、キャンパスに顔を出すのは勇気がいるけれど……。

▶︎第7回は11月20日(水)の公開予定です。

<構成/伊藤彩子>

この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito