「ウソつき」「クズ」キャラとして何かと話題になる安田大サーカスのクロちゃん。SNSで毎日のように罵詈雑言を浴びせられても、まったく意に介さず、アイドル気取りの自撮りをアップし続けています。

モンスターとさえ言われるメンタルの強さはどこからきているのでしょうか。著書『クロか、シロか。クロちゃんの流儀』(PARCO出版)で、独自の人生哲学を語ったクロちゃんに聞いてみると、意外な素顔が見えてきました。

いつの間にか嫌なことも受け流せるように

クロちゃん
クロちゃん。本名は黒川明人(くろかわ・あきひと)。1976年、広島県出身。2001年、団長安田、HIROと共にお笑いトリオ・安田大サーカスを結成。

——まずは今回の本を書いた感想を聞かせていただけますか? ご自分の人生を改めて振り返るような感じがあったのではないでしょうか。

クロちゃん(以下、クロ):僕は自分で思っていた以上に、自分の中にしっかり理由があって行動してるんだな、って改めて思いました。たとえば「芸人になってからも親から仕送りをもらっている」っていう話をこの本でも書いたんですけど。

——クロちゃんの代表的なクズエピソードですね。

クロ:世間の人には批判されるんですけど、僕は親孝行だと思っているんですよね。子どもに手がかからなくなると、親がコロッといっちゃうことがあるっていうじゃないですか。僕は親に長生きしてほしいから仕送りをもらっているんです。そこまで考えてやってるから何が悪いのかわからないんですよね。

——何かと批判されがちだけど、信念があってやっているということですね。

クロ:そうです。信念はブレてません。あと、改めて読み返してみて、僕は自分の心が壊れないように生きてきたんだな、って思いましたね。

——どういうことですか?

クロ:僕は昔から声が高いせいで人目を引くことが多かった分、危機察知能力が高いんです。僕が育ったのは広島の中でもヤンキーとか暴走族が多いところで、絡まれることも多かったけど、そこで生き抜いてきましたから。いつの間にか嫌なことも上手く受け流せるようになりました。

——絡まれた時は、どう対処してたんですか?

クロ:僕の声だと、ちょっと失礼なことを言っても許されたりするんですね。「あーん、怖い。この人、チェンジ!」って言ったり。それで「何じゃこいつ!?」って思わせている隙にパッてどこかに逃げちゃえばいいんです。

——逆に高い声を利用して身を守ってたんですね。

クロ:ただ、その当時は、僕って人気者だから声をかけられるんだって思ってたんですよ。人にそれを話したら「それ、絡まれていただけだよ」って言われましたけどね。

——ポジティブすぎます(笑)

2019年9月には初のエッセイ、『クロか、シロか。クロちゃんの流儀』を出版。

SNSの罵詈雑言はどうやって受け流す?

——SNSで罵詈雑言を浴びせられても落ち込まないのは、受け流し方を知っているからですか?

クロ:そうですね。「シロちゃん」って言われたら「あーん、色違い、真逆!」って返すみたいに、心の中で切り返したりします。

「ふざけるな」って書かれたら「ふざけるのが仕事だから、別に悪いことはしてないしんよ」って思ったり。「もうテレビ出るな」だったら「テレビ出ないと営業が増えないからヤダ」とか。何か言われても、「そうじゃないよ」って自分の中で訂正していることは多いかもしれないですね。

——(安田大サーカスの)団長(安田)に怒られている時にも、話は一切聞かずに、どうやったら説教が早く終わるかだけを考えているのだとか?

クロ:早く終わらせるためにあえて謙虚になってみせることもあります。「そんなこと自分で気がつかなきゃいけないのに、団長に言わせてしまって本当にすみません」って言ったり。見透かされてもっと怒られることもありますけどね。

——反省してないことがバレてしまうんですか?

クロ:そうなんです。だから黙って聞いているほうが早く終わるかなって思うと、「黙ってたら終わると思ってるんだろ!」って責められたり。あと、「さっきから全然聞いていないよな? お前、俺が言ったこと初めからもう1回言ってみろ」と言われることもあって。

——それはヤバいですね。

クロ:ヤバいです。何を言われたか、ひとつも覚えていないですから。団長は本当に一番の天敵です。

クロちゃん
「団長は天敵です」とクロちゃん。怒られている時もどうしたらお説教が早く終わるのかしか考えていないそうです。

怒られても落ち込まないのはなぜ?

——普通の社会人は、大人になってからそこまで本気で怒られることはあまりないですよね。

クロ:たぶん僕って怒りをぶつけやすいキャラなんでしょうね。でも、その人がそれでストレスを発散できるんだったら、僕は一役買ったのかなって思ってます。それを僕が受け入れてあげればいいのかな、って。

——え! 優しい。どうしてそんなふうに思えるんですか?

クロ:そう思わないとやっていられないです。それに、それだけ怒られたっていうことは、その分、別の場面でめちゃくちゃ褒められるって思ってますから、あまりしんどくはないですね。もちろん反省したふりはしますけど。

——本当に反省しないんですね(笑)。

クロ:「ふり」っていうと言葉が良くないかもしれないですね。僕は反省しなきゃいけない時に、自分がだんだん悲劇のヒロインみたいに思えてくるんです。「僕ってダメだな。どうしてこんなにダメなんだろう?」って。そうやってかわいそうな自分に入り込んでいくのが好きだから、それはそれで楽しんでますよ。

クロちゃん
「それはそれで楽しんでますよ」

つらい時、泣けた自分に「ありがとう」

——それはすごい対処法ですね。この本の中でも、つらいことがあって泣いてしまった時に、泣けた自分に「ありがとう」と思ったという話がありました。

クロ:それは本当に思いますね。男の人は人前で泣いてはいけない、っていう昔ながらの考え方がありますけど、泣きたい時に泣けないのってちょっとかわいそうじゃないですか? 喜怒哀楽がしっかりないとロボットになってしまうと思うんです。僕はロボットにはなりたくない。

——そういうところは意外と純粋なんですね。

クロ:純粋ですよ。広島の田舎でのびのびと育ってきましたから。この業界に入った時に「先輩の言うことが絶対」っていう空気が本当に嫌だったんです。理不尽な先輩がいて、コンパを開いて女の子の前では「お金は全部自分が払う」って言っていたのに、あとから僕たち後輩にも払わせたりして。「もう、何なんだろう」って思ってました。

——たしかにそれは酷い

クロ:つらかったですね。その先輩といるだけでも時間がもったいないって思っているのに、お金も払わされて、先輩は狙っている女の子と上手くいかないと不機嫌になるし。人間力低いなって思ってました。だから、自分が知らず知らずのうちにそういう世界に染まっていると気づいた時に「ああ、嫌だな」と思って泣けてきたんです。

——その時に、泣けた自分に感謝したんですね。

クロ:人ってつらい環境にいると、何も感じなくていいように感情を殺しちゃいがちじゃないですか。だから自分が本当に苦しい時に泣けること、感情がしっかりあることに感謝したんです。「僕はロボットじゃない。まだ泣けた、ありがとう」って。

クロちゃん
「僕はロボットにはなりたくない」。クロちゃんは本当に純粋なのかもしれない。

短所だった「変な声」が長所に変わった瞬間

——クロちゃんって、実はすごく感情豊かなんですね。

クロ:感情の起伏はめちゃくちゃあると思います。でも、どうしてもしんどいなって思うことがあったら、いったんスパンと忘れることもありますね。そうしないと自分の体に支障が出るなって思ったら、考えることをやめて、1回全部忘れちゃいます。

——普通はそれがなかなかできないと思うんです。

クロ:会社員だったら、上司や先輩に何か言われて悩むこともあるじゃないですか。それが考えて答えが出る問題ならいいんですけど、考えても答えが出ないこともありますよね。それはもう悩まなくていいと思うんです。

——考えても答えが出ないこと?

クロ:たとえば人間関係の問題とか。「あの人がどうしても嫌いなんだけど」とか「またなんか言われたらどうしよう」なんて思っているとしても、それに対して必死で考えたところで答えなんて出ないですよ。それだったら、1回忘れたほうがいいですよね。

クロちゃん
「考えても答えが出ないことは悩まなくてもいいと思う」と真剣な表情で話してくれた。

——説教されたり怒られたりした時、全部を真正面から受け止めたら落ち込むじゃないですか。そこをクロちゃんは上手くかわしている気がします。

クロ:僕だって落ち込みますよ。ただ、僕はポジティブなほうだから、ガッツリ落ち込んでもすぐに戻って来られるんです。あとはやっぱり受け止めるベクトルを変えるのが大事ですね。同じことでも受け止め方によって全然痛みが違うから。

——具体的にはどうしたらいんでしょうか?

クロ:たとえば、仕事で上司に怒られて嫌だなって思ったら、「この上司は僕を成長させるために叱ってくれているんだな」とか「本当に器が小さいな。かわいそうだから聞いておいてやるか」って考えみるとか。嫌なことを言われたら、正面からではなく角度を変えて受け止めればいいんです。

——それができればだいぶ楽になりそうですね。

クロ:僕は小さい頃から「変な声してるね」って言われてました。でも、女性歌手のアニメソングが好きだったから、「この声だから歌える。ラッキー!」って思ったんです。それだけで短所だった声が長所に変わっちゃった。たぶん最初の分岐点はそこだったんでしょうね。どんなこともとらえ方次第だなって。

クロちゃん
「歌えてラッキー」と思ったことで短所だった声が長所に変わったという。

台本通りにやって失敗しても、それは僕のせいじゃない

——バラエティ番組に出る時に、クロちゃんは台本をしっかり読み込むそうですね。

クロ:読みますし、台本に書かれていることはきちんとやります。そうしておけば文句を言われないだろうっていう気持ちがありますからね。台本を無視して失敗したら、僕のせいにされますけど、台本に書かれていることをやってスベってもそれは僕のせいじゃないです。

——ただ芸人さんは、あえて台本と違うことをやる人が多いらしいですが……。

クロ:台本にないことを求められる場合も多いので、その時は自由にやらせてもらってます。でも、台本に書いてあることについては、リハでも本番でも基本的にまったく同じことを言いますね。僕のボケも勝手に考えてくれるから、「ボケ1個、得した」って思ってます。

——失礼ながら……それでも芸人として平気なんですか?

クロ:「平気」っていう言い方もおかしくないですか?(笑) そうしておけば、リハで言ったことが面白くなかった時でも、本番で修正できるじゃないですか。ただ、まったく同じことを2回聞いているから、本番でスタッフが笑わなくて困ってます。

——2回目だからしかたないのでは?

クロ:2回目だろうと本番なんだから笑えばいいじゃないですか。それなのに全然笑わないから「何なんだろう、この人たち。心が貧しいのかな?」って思います。僕は、それをやってくれって言われてやっているのに、「台本書いた人、なぜ笑わない?」って。

クロちゃん
台本に書かれていることは、きっちり守るのがクロちゃんの流儀。

「テレビと一緒でキモいって言われます」

——お話をうかがってみて、クロちゃんなりの考えがあるだけで、実は世間で言われるような「クズ」のイメージとは違うのかなって思い始めています。

クロ:僕は真面目だと思いますよ。3年前くらいからテレビでも「次に捕まるのはお前だ」とかいじられてたんですけど、そうやっていじってた側が問題を起こしたりとかしていて。逆に僕のほうがホワイトだったな、って思いますね。

……納得してないでしょ?

——まあ、完全には納得してないですけど……。

クロ:納得してないですけど、じゃないでしょ!(笑) 僕はクリーンですから。

——それが世間にいまひとつ伝わっていないのは残念ですね。

クロ:残念ですね。本当に頭がおかしいと思われてますから。結構しっかりしているつもりなんですけどね。若い女の子とかにはキャーキャー言ってもらえるけど、近づいたら「ギャーギャー」にすぐ変わるし。「怖い」って言われますもん。

——人気が出て、街中で気づかれたり、話しかけられたりすることは増えたのでは?

クロ:話しかけられることはもちろんありますけど、1〜2分くらい話していたら「キモい」「無理」とか言い始めるんですよ。普通は芸能人に会ったら「テレビで見るよりカッコいい」とか言いますよね。僕は「テレビと一緒でキモい」って言われますから。

クロちゃん
注目度は高まっても「女の子には全然モテないです」とクロちゃん。

——酷いですね。

クロ:あと、女の子と一緒にご飯とか行っても、自分のグラスを持ってトイレに行かれたりしますから。「不衛生だからやめたほうがいいよ」って言っているんですけどね。(※)

(※)『水曜日のダウンタウン』の企画で、クロちゃんが女の子との食事中に相手のグラスをこっそりなめているシーンが放映された。

——そういう人たちが、この本を読んだら、クロちゃんのイメージが変わるでしょうか?

クロ:変わるんじゃないですかね。読んでみてわからなかったら何回も読み直してほしいです。感想がTwitterで流れてくることもあって、「やっぱりクズだった」とか書かれてることもあるけど「読みやすくて面白かった」っていう意見も多いです。

——肯定的な意見も多いんですね!

クロ:肯定的な感想を1回見たら、僕は「そう思ってる人が多い」っていうことにしちゃってるんですけどね。ただ、それもとらえ方次第だと思ってます。

——やっぱりポジティブ! そんなクロちゃんの考え方に勇気づけられる人もいるかもしれないですね。

クロ:僕って、もともとは何もできない人間だったんですよ。そういう人間が、芸人の世界でなんとかやっていけてるっていうことが、少しでもみなさんの勇気になれば嬉しいなって思います。

クロちゃん

クロちゃん

本名は黒川明人(くろかわ・あきひと)。1976年、広島県出身。2001年、団長安田、HIROと共にお笑いトリオ・安田大サーカスを結成。趣味・特技は、ピアノ、社交ダンス、詩を書くことなど。初のエッセイ、『クロか、シロか。クロちゃんの流儀』(パルコ出版)が発売中。

Twitter:@kurochan96wawa

Instagram:@kurochandesuwawa

取材・文/ラリー遠田(@owawriter
撮影/佐野円香(@madoka_sa