元No.1ホストの「心をつかむ心理術」がストーリーで学べる【連載小説】

好きな女性に振り向いてもらいたくてホストになった海藤恵一、源氏名はKEN。必死で頑張ってもお客さんからの指名はゼロ。そんな海藤に先輩がくれたアドバイスは、「お客さんは感情を満たしてほしがってる」というものだった。でも、「感情を満たす」とは……?

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ナオヤさんが言いたかったもうひとつのこととは?

金髪にしてみたら――。1億円プレイヤーのナオヤさんが、指名ゼロの僕にくれたアドバイスは、見た目や行動から変えていけというものだった。ホストになったからといって、人の中身までは急に変わらない。だから、自分の殻を壊すくらいのことをしなければいけないという。

閉店まぎわの店内にはキャバ嬢らしき女性や、高そうな宝飾品をいくつも身につけた年配の女性などまだ数組の客がいた。眠らない街、東京・歌舞伎町のすごさを改めて感じずにはいられない。

そういえば、ナオヤさんは言いたいことが2つあると言っていた。昨夜、ナオヤさんにもらったアドバイスを思い返してみる――。

なぜ自分磨きを頑張ってもうまくいかないのか

金髪にするか迷っている僕の頭の中を見透かすように、「もうひとつ言いたいのは……」とナオヤさんが話し始める。焼肉も食べ尽くし、普段ならとっくに眠気が訪れてもいい頃だが、まだまだナオヤさんの話を聞いていたい。

「もうひとつ、KENに覚えておいてほしいのは、コミュニケーションのマインドセットなんだ。マインドセットっていうのは、その人の考え方のクセみたいのもののことなんだけど」

「そのマインドセットってやつが、僕はマズいんでしょうか?」

「KENはお客さんを楽しませようとして、雑学を仕込んだり、見た目を整えたりしてるんだよね。でも、それは自分磨きを頑張って婚活してるのに、まったく結婚相手が見つからない人と一緒なんだ。考え方が間違っている」

「え!? でも、お客さんのためにやってるのに……」

「そうだよな」とナオヤさんは優しく微笑みながら、「でもね……」と諭すように語り始めた。

モテたいなら相手の「感情」を満たしてあげる

「よく考えてごらん。酒屋なら1本2万円で買えるドンペリがホストクラブだと10万円するんだよ。そのドンペリで数百万円のシャンパンタワーをオーダーするお客さんは、なんでそんなに高いお金を使うんだと思う?」

「え? 考えたこともなかったです」

「それじゃダメだよ。お客さんはドンペリが欲しくてお金を払ってるわけじゃないのはわかるよね?」

「イケメンと話せるから、ですか?」

「それもあるけど、イケメンじゃない売れっ子ホストもいるよね」

「じゃあ……、トークスキルが高い、とか?」

「そこが勘違いされがちなんだけど、必ずしも話が面白いヤツが売れるとも限らないんだよね」

「え? じゃあ……」

「なぜお客さんは、大金を払ってホストクラブに来るのか。その答えは、褒められたい、認められたいっていう“感情”を満たしたいからなんだ。じゃあ、感情を満たしてあげるためには、どうすればいい?」

「見た目をカッコよくしたり、面白いトークをしたりっていうんじゃダメなんでしょうか」

どうしても僕の答えはそこに行きついてしまう。それ以外に、相手を楽しませる方法なんてあるのだろうか。

僕の答えを聞いたナオヤさんはこちらにグッと身を乗り出し、真剣なまなざしで僕を見つめてきた。

「感情を満たしてあげるには、相手の気持ちを理解すること。それしかないんだよ。もちろん見た目がいいに越したことはないし、雑学的な知識が多いことは悪いことじゃない。でも、それって関心のベクトルが“自分”だけに向かってるよね。関心のベクトルは“相手”に向けないと」

「でも……、初めて会ったお客さんの気持ちを理解するなんて、できるんでしょうか?」

4年間、バイトでずっと一緒だったまさみちゃんの気持ちだってよくわからないのに…と、僕は心の中で付け足した。

「水に沈めてもダンゴムシは死なない説」がウケない本当の理由

「ちょっと考えてみてよ。自分が心から会いたいって思ってた人が目の前に現れて、その時しかチャンスがないとなれば、必死に相手の情報をキャッチしようとするよね」

ナオヤさんの言葉は続く。

「好きな男性はどんなタイプなのか、どんな食べ物が好きなのか、好みの映画や休みの日は何をして過ごしているのかを聞いたり。そうして相手の表情や反応を見て、彼女がしてほしいことをしてあげようとするでしょ?」

ナオヤさんの言う通りだ。口下手な僕だって、まさみちゃんにはできるだけ話しかけていた。いつバイトをやめてしまうかわからないから、「話せる時に話しておこう」という思いだった。

「そうした必死な気持ちは相手に伝わって、『この人は、私にこんなに関心を持ってくれているんだ』と悪い気はしないものだよ。これは、ホストクラブのお客さんだって、恋愛相手の女の子だって同じこと。

むすっとした顔で黙りこくっていたり、話の流れから浮いた雑学を披露されたり、自分の髪型ばかり気にしていたりするような男が目の前に座っていたら、『あー、私に関心ないんだな』と思っちゃうよね」

「じゃあ、僕のやっていたことって……」

「残念ながら、売れないホスト、モテない男の典型だね。コミュニケーションは自ら発信するより、相手が発信するものを受信するほうが大事だから」

自分のしてきたことは、まったくの見当違いだったのだった。「ダンゴムシはエラ呼吸だから水に沈めても死なない説」なんて雑学を披露していたことを思い出し、恥ずかしさに頭がクラクラする。相手を喜ばすどころか、ドン引きされていたに違いない。

きっと、僕とナオヤさんでは同じ世界にいても、まったく違う景色を見ていて、まったく違う思考回路で物事を考えているのだ。

「まあ、焦らずにね。さっきも言ったけど、人は変われるから」

そうナオヤさんは励ましてくれたけれど、今の自分にはその言葉を素直に信じることはできなかった。

▶︎第8回は12月4日(水)の公開予定です。

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<構成/伊藤彩子>

この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito