SNSでファンを増やし続け、新作が発売されれば即完売というファッションブランド「foufou(フーフー)」をご存知でしょうか。

大学卒業後、働きながら文化服飾学院(夜間)に入学、在学中にfoufouを立ち上げたのがマール コウサカさん。卒業後は、会社員との兼業で服作りを続け、2018年12月には月間売上げ1000万円超を達成、現在は会社を退職してfoufou専業になっています。

これだけ聞くと、さぞ強い上昇志向と折れない意志を持った人なのでは……と思うかもしれません。でも実際のマールさんは、子どもの頃から逃げ癖があるそうで、「勝てないと思ったら、すぐ逃げちゃうタイプ」なのだとか。

就活で失敗、流されるように文化服装学院の夜間に入学

マール コウサカ
マール コウサカ(まーる こうさか)。1990年生まれ。大学卒業後、24歳で文化服装学院の2部服装科(夜間)に入学。在学中にfoufouを設立。代表兼デザイナーを務める。

──マールさんは、いつから「デザイナーになるぞ!」という夢があったんですか?

マール コウサカさん(以下、コウサカ):いえいえ、もともとアパレル業界に行くなんてまったく考えていなかったんです。就活がうまくいかなくて、大学卒業後はアルバイト先にそのまま契約社員として入社したんですが、そこで出会った人にすすめられるがまま、文化服装学院に入学しました。

──えっ、急にですか!?

コウサカ:アルバイトをしながら、多摩美の夜間に通っていた先輩に「高坂くんは頭が柔らかいから、ものづくりさえできるようになったら、この先インターネット上でいくらでもモノが売れるよ」と言われたんです。

その先輩が『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』という本を貸してくれたんですよ。3Dプリンターとかが出てきて、どんな場所でもプロダクトを作れるようになるし、ネットを使えばどこにでも届けられるようになりますよ、っていう内容の本で。すっかり影響されちゃって。僕もものづくりがしたい! と思うようになったんです。

──服ではなく「ものづくり」という漠然とした夢だったんですね。

コウサカ:そうなんです。先輩が「高坂くんは服が好きだし、ファッションは?」「文化服装学院なら夜間の学費が安いし、働きながら通える。学校法人だから求人もたくさんもあるよ!」と、具体的な提案をくれて。そのまま流されるように文化の夜間に入学しました。24歳の時ですね。

──すごい柔軟性ですね。普段から、アドバイスはなんでも受け入れるようにしているんですか?

コウサカ:人からいい話を聞いたら、すぐ動くタイプですね。早めにやったほうが、何でも結果につながりやすいと思いますし。でも、自分から他人にアドバイスを求めたり、相談したりしたことはないんですよ。そもそも、悩むことがないんです。

──悩みが、ない……? 言い切れるの、すごいです。

コウサカ:モヤモヤが「悩み」になる前に、サッとあきらめちゃう(笑)。「僕には無理だな」と思ったら、いつでも止めて、何でも手放すようにしています。ずっとそういう人生だから、人に助けを自分から求めることもなかったです。そんな僕に、「わざわざ何か言ってくれる人」からの言葉は、素直に聞くようにしているんです。

マール コウサカ
いい話を聞いたらすぐに動くし、自分には無理だと思ったらすぐに止めてしまう。マールさんは驚くべき柔軟性の持ち主だった。

本社への最短距離を考え、「他が選ばない職種」へ

──じゃあ、バイト先の先輩にアドバイスをもらう前までは、まったく違う道に進もうとしていたんですか?

コウサカ:大学は文学部でした。大学受験の時に「4年後の将来像」を考えて学部を選びますけど、僕は附属生だったので、なんとなく流されて進学して……。文学部を選んだのも「法学部や経済学部は、真面目で頭がいい人が多いだろうな」と、逃げの選択だったんです。本当に、堕落した学生生活を送っていました。それこそ、W杯の時に渋谷でワーワー騒いでいるような若者でした(笑)。

──特に将来のことも考えてなかったんでしょうか?

コウサカ:就活の時に急に将来を考えなきゃいけなくなって、「さて、どうしよう?」と。ものづくりへの漠然とした憧れはあったものの、ダメ学生だったので就活は全敗でした。自分を出せなかったとかじゃなくて、出す自分がなかったんです。周囲の優秀さに圧倒されて、「僕、ダメだなあ……」とぼんやり思いましたね。

──文化服装学院へ入学してからは、アパレル業界を一直線に目指すことになったんですよね。

コウサカ:そうですね。でも最初からデザイナーになろうと思ったわけではないんです。アパレル業界って、基本的にほとんどが販売職。バイヤーなど本社配属になれるのって、一握りなんですよ。「最短距離で本社に行くにはどうしたらいいんだろう?」と考えて、「生産管理(MD)」の仕事に就くことを選びました。

──「生産管理」って、どんな仕事でしょうか。

コウサカ:経営・販売計画に基づいて、製造工程全体を総合的に管理する職種です。業界が変わっても活かせるスキルだし、生産管理ができるようになっておけば困ることはないだろうと思って、入学後すぐにキャリア支援室に行って紹介してもらいました。あまり人気がある職種ではないので、うまく入り込めましたね。

──「手に職」の仕事だし、ライバルも少ないわけですね。

コウサカ:文化服装学院を卒業する時点で、僕は27歳。現役専門卒の子たちは20歳だから、いきなり7つ下の子と働かなきゃいけないわけで。就活市場で若い子とやりあうには、「生産管理の経験があります!」っていう、わかりやすいキャリアを持っておいたほうがいいと思ったんです。

マール コウサカ
年齢のことを考えて、「わかりいやすいキャリアを持っておいたほうがいいと思った」と語るマールさん。

勝てないと思ったらすぐ逃げる

──お話を聞いていると、すごく戦略的に動いているように感じます。

コウサカ:いえいえ、戦略とかじゃなくて、昔からの逃げ癖なんです(笑)。僕は、勝てないと思ったらすぐ逃げちゃうタイプなんです。部活も、周りにすごい子が多くてレギュラーになれないのにつらい練習するのがしんどくて、あっさり辞めちゃいましたし。今思うと、小学校の頃から「足も速いわけじゃない、勉強もできない自分がいじめられないためには?」みたいなことを常に考えていました。

──逃げてばかりなのに、どうしてうまくいくんですか?

コウサカ:逃げ方を考えます。販売職以外の内勤って激戦で、そこで戦っても僕は自分を見せるのが下手なので選ばれない。ただ、服飾の学校ってなぜか縫製ばかりやらせるから、学生は縫製が得意だけどPCや数字は苦手な人が多いんです。僕は大学時代は別のことをやってきたし、仕事で使う一般的なソフトなら応用もできるから、そこで差別化できるなと。卒業する時には、おかげさまでいろんな企業から内定をもらえました。

──なるほど! 戦わないですむ方法を考えて、そこに逃げるんですね。

コウサカ:生産管理を選んだのも、今のブランドの運営方法もそうです。自社ECサイトの直販のみで、広告も打たずにやっていますが、それも「苦しいアパレル業界の中で、どのポジションに行ったらいいんだ?」と考えた結果なんですよ。

foufou

いい流れがあれば、明日にでも流されたい

──マールさんは「逃げ癖」と言いますが、「柔軟でいてよかった」と感じることは?

コウサカ:よかったと思うことだらけです。環境や他人に流された程度では消えないのが個性。「自分を貫く」っていうけど、最終的な決断だけしっかり納得した上で自分ですれば、大枠は柔軟でいいんじゃないかなと思うんです。他人に流されてもいいし、強みを持っていなくてもいい。いい流れがあれば、明日にでも流されたいですね。

──意外です。デザイナーさんって、こだわりのかたまり! のイメージでした。

コウサカ:一度、こちらの生産担当のミスで、発注した商品がまったく違う色の生地で納品されちゃったことがあったんですよ。でも、そのまま受け取ることにしました。お客さんには事情を説明して、返金でも割引でも、ちゃんとした色を待つでも、選択肢を用意して選んでいただきました。この色はこの色でかわいいなって思ったし、こだわらないことも大事にしているんです。

──えっ! 普通、予定と違うものだったら、やりなおしてもらいますよね。

コウサカ:普通はそうですね。でも僕は、ずっと生産管理をやってきたから、そういうことをしたくなかった。「事を荒立てるより、淡々と仕事を回したほうがいいな」という思いもあるし、相手に嫌な思いをさせてまで、こだわりを押し付けるのも違うと思うんです。あと、僕自身、ミスが多いので気持ちもわかる。

──波風立てたくないという気持ちからですか?

コウサカ:再納品となれば工場さんや担当者に負荷がかかるし、僕らとの関係も悪くなってしまいます。そのしわ寄せが最終的にどこに行くかといえば、それはお客さんだと思ったんですよ。それならと、お客さんに事情を伝えてセール価格で売ってみることにしました。普段のfoufouは、絶対に安売りをしないので。

──「セールをしない」というこだわりも手放したんですね。

マール コウサカ
ネクタイと名刺入れが同じ柄。こういうところ、見習いたい。

意図せずバズるのって怖い

──マールさんのお話を聞いていると、「欲」があまりないように感じます。どんどん事業を広げようとか、そういう野望はありますか?

コウサカ:事業をやる上で、もちろん稼ごうという気持ちはあります。ただ、美しい仕組みで稼ぎたい。自分が美しくないと思うことはやらないと決めています。セールはやらない。関わる人が涙を流しながら働くことにならないようにする。在庫は持たずに売り切る。

「生産管理の時に抱えてきたモヤモヤを、全部改善させたらどうなるのかな?」という実験をしています。一番大切にするのは、なにより「割引なしでも買ってくださるお客さま」「工場の方々」「取引先」ですから。

──foufouに直接関わってくれる方々を最優先にしているんですね。

コウサカ:ネット広告をバンバン打てば、もっと事業は広げられると思います。けど、そこでかかる広告費は商品価格に反映せざるを得ません。結局は、お客さんに負担が行ってしまうんです。今のフェーズや僕らの規模感においては必要でない。だから広告費はかけません。むしろ購入導線は狭めています。

──その狙いは?

コウサカ:しっかりとお客さんの気持ちを知りたいので「なぜ売れたのか?」がわからないような売り方はしないということです。販売はオンラインストアか試着会に限定しています。Twitter、Instagram、note、LINE@の4つのSNSで情報発信していますが、TwitterやInstagramでは発売日など販売情報の告知はせず、必ず他のSNSアカウントを経由しないと、販売情報がわからないようにしています。

──なぜTwitterやInstagramでは販売情報を告知しないんですか?

コウサカ:お客さんの導線がわからなくなってしまうからです。導線がわかっていれば、次の販売計画が立てやすいし、Instagramやnoteで僕らの考え知ってもらえれば、顧客になっていただける可能性も高くなる。毎回購入してくださる方を大切にしていると、そこから認知が広がって行くし、お客さんも増えると信じてやっています。

──Twitterで販売情報を拡散して……と考えたことはありませんか?

コウサカ:僕のつぶやきが意図せずに3万RTされちゃったこともあるけど、バズるのって怖いんですよ。一時的な熱って、灰になるのも早い。また次の火種が必要になるので、どこかで消耗しちゃうんです。「無理せず続けるにはどうするか?」を考えていますね。

──あくまで「持続」を優先させると。冷静なんですね。

コウサカ:僕らの世代って、やってみたいなと思うことがあっても、それと同時に、自分の限界もわかっちゃうんです。SNSを通して、知らなくていい世界が見えてしまうので。

──人と比べてしまう、ということでしょうか?

コウサカ:Instagramを開いたら、毎週のように海外旅行していたりとか、ハイブランドに囲まれていたりするような「なんかわからんけど稼いでる人」がどんどん出てくる。「自分はそうなれない」とわかるから、変な夢は抱かないんですよ。

──現実的なんですね。

コウサカ:でも、どこかで「自分はこのまま平凡でいいのかな?」と考えてしまう。それで、小さな贅沢として、600円くらいのおしゃれなコーヒーを毎日買っちゃう、みたいな。

──ありますね。生活の中の、ちょっとした背伸び。

コウサカ:インフルエンサーや何かを成し遂げていそうな人に触発されて、「何者か」になりたくなっちゃう気持ちは普通のこと。だけど、それってけっこう危ういと思うんです。別におしゃれじゃなくても、しっかり目の前の課題に向き合っていけばいい。その上で、ダメだったらやめちゃえばいいんです。

「継続することが大切」っていう風潮がありますが、損切りは早いほうがいいと思いますよ。僕、未来が見えなくて疲れそうと思ったら、その前にやめちゃいます。

──「やめる」といえば、マールさんも最近会社を辞めて、foufou専業になったんですよね。

コウサカ:そうですね。今年の2月に会社を辞めました。会社自体も忙しかったし、人に迷惑かけてしまいましたけど、それもしょうがないかなって。「人から迷惑かけられても僕は許すから、みなさんもごめんなさい」という気持ちでいます。めっちゃ自分勝手ですけども(笑)。

インドでは、子どもたちにもそう教育するみたいですよね。「あなたたちも人に迷惑をかけるんだから、人の迷惑も許しなさい」と。それくらいの感覚でいられたらいいと思います。

マール コウサカ

マール コウサカ(まーる・こうさか)

1990年生まれ。東京都出身。大学卒業後、24歳で文化服装学院の2部服装科(夜間)に入学。在学中にfoufouを設立。アパレル企業で正社員として働きながら兼業で洋服を作り続け、2018年12月には月間売上げが1000万円を超える。19年2月に会社を辞め、現在はfoufou専業。

Twitter:@foufou_marl

Instagram:@foufou_ha_fukuyasan

Note:foufouのマール コウサカ|note

取材・文/小沢あや(@hibicoto
写真/鈴木勝