現役プロレスラーであり、株式会社DDTプロレスリングの大社長、高木三四郎さんは、プロレス業界でいち早くネット発信に着手。まだSNSもない90年代から、ニッチなファンサイトを回遊し、ネットツールを使って動員を増やしてきました。

2017年には株式のすべてをIT大手、サイバーエージェントに譲渡。自社の動画配信サービス「DDT UNIVERSE」の他、「AbemaTV」を活用して、プロレスカルチャーの拡大に貢献しています。

『年商500万円の弱小プロレス団体が上場企業のグループ入りするまで』を上梓した高木大社長に、ネットを活用したファンコミュニティや情報発信方法、プロレスラーの採用活動など、いろいろ聞いてみました。

メディアに相手にされず苦肉の策で始めたインターネット

高木三四郎
高木三四郎(たかぎ・さんしろう)。1970年生まれ。経営とプレーヤーの両面からDDTを支える社長レスラー。

──DDTは、立ち上げ初期から自社の情報発信を積極的にしていたそうですね。プロレス団体ではめずらしいのだとか。

高木三四郎(以下、大社長):はい。そもそも、団体を立ち上げた1997年の段階では、ブランド力がなさすぎて、プロレス専門誌が取材に来てくれなかったんですよ(笑)。だから、自分たちで発信していくしかなかったんです。

──やむを得ず、苦肉の策だったんですね。

大社長:当時の僕らは、年商たった500万円。興行を打っても、チケット4000円で動員が100人くらいという状況が続いていました。グッズも出せなくて、収入はチケットの売上げだけ。プロというより、アマチュアに近い立ち位置だったんですよね。

高木三四郎
早くからネットでの情報発信に取り組んでいたDDTにとって、インターネットの普及は追い風になったという。

──現場に来てくれるファンが100人という状況から、どうやって情報が拡散されるように工夫したんですか?

大社長:とにかく、プロレスファンの声を拾いました。当時は、SNSはもちろん「iモード」すらなくて、個人運営の掲示板やホームページしかない時代です。そこに書き込まれる観戦記を読み込んで、「どうやったらこの人たちに評価してもらえるんだろう?」と必死で考えてました。ファンコミュニティに入り込むには、まず自分たちのホームページと掲示板を作らなければと、そこから始めました。

──ファンのホームページに「カキコ」してたんですか?

大社長:してました。ファンとの距離を縮めたかったので、当時盛り上がってた掲示板にはよく書き込みしましたね。プロレスラーでそんなことしてたのは僕とTAKAみちのく選手ぐらい。そうすると試合が終わった後に、ファンが話しかけてきたりして、いろんな人と話しました。

──ファンサービスがすごいです! やっぱり、当時からエゴサーチも欠かさなかったんですか?

大社長:団体に関わるワードは何でもサーチしていました。ネットに早くから慣れていたので、掲示板からmixiやTwitterといったSNSに移行するのもまったく苦にならなかったです。

高木三四郎
大社長がツイッターを開設したのは日本人プロレスラーとしては2番目の早さ。ちなみに1番は大阪プロレス(当時)の内田祥一選手だったそう。

モバゲーを使った採用戦略

──大社長は、新しいネットサービスをいち早く試すタイプなんですね。

大社長:何でもやってましたよ。TwitterやFacebookが流行る前の主軸はmixiで、Myspaceは海外のファン向け。モバゲーも頑張ってました。

──モバゲーまで! 若い人へのPRを狙って、ですか。

大社長:モバゲーは、人材獲得のためにやってたんです。若年層のプロレスラーが欲しくて。「プロレスラーになりたい人、僕に連絡ください」って、プロフィール欄に書いてたんですけど、実はそこから入ってきたのが竹下幸之介なんです。でも、開始1カ月くらいで運営から「勧誘行為はやめてください!」って言われて止めました(笑)。

DDTのエース、竹下幸之介選手は、モバゲーで「プロレスラーになりたい」と大社長にメッセージを送ったことがきっかけで入門したそう(写真提供:DDTプロレスリング)。

──「プロレスラーは文章力が大事!」という持論を掲げていらっしゃいますね。SNSの発信を意識してでしょうか。

大社長:そうです。選手にも「とにかく発信をしろ!」って、ずっと言っていますね。Twitterも、見かけのフォロワー数を増やすだけじゃダメ。僕自身も、「最低でも100いいね以上つくPOSTを1日1回はしよう」と心がけてます。

──フォロワー数よりエンゲージメント、ですね。

大社長:そうです。具体的なリアクションをくれるファンを増やしたいんです。今、プロレスと相性がいいのはTwitterだと思います。ただ、「海外進出したいなら、インスタもちゃんと育てておきなさい」と話しています。世界では圧倒的にインスタですから。僕はTwitter特化型なんですけど、これからYouTubeに力を入れようとしてるところです。

──動画編集は大社長自身で?

大社長:自分で編集してます。サービスにどんな特性があるのか、どんな投稿に効果が出やすいのか、全部自分でやってみて把握しておかないと気がすまないんです。でも、TikTokはプロレスが暴力的に見えたのか、裸と認識されたのか、理由はわからないんですけど、投稿が削除されました。これもやってみないとわからない。難しいですね。

アイドルやタレントをプロレスにスカウトする殺し文句

──さきほど、モバゲーで採用活動をしていたという話が出ましたが、まったく別ジャンルのタレントさんを選手として勧誘することもありますね。どうやって口説いているんでしょうか。

大社長:何でも同じだと思うんですが、結局一番のポイントは、その環境で本人が輝けるかどうか。今いる場所では埋もれてしまうとしても、プロレスをやったら個性が活かせるっていう人が必ずいるんです。そういう人を見つけて声をかけてます。

──これまで誘った選手で、印象深かったのは。

大社長:たとえば東京女子プロレスで活躍している伊藤麻希。彼女はLinQというアイドルグループで活動していたんですが、あまり輝けてなかったんです。「伊藤ちゃん、プロレスやったら? アイドルの中ではネタ要員にされちゃうけど、プロレスだったらスターになれるよ」って声をかけたんです。「この子はプロレス向いてるな」ってずっと思ってたんですよ。頭の回転が早いし。

アイドルからプロレスラーにキャリアチェンジ、カリスマ的な人気を持つ伊藤麻希さん。2019年10月にはインターナショナル・プリンセス王者に輝いた(写真提供:DDTプロレスリング)。

──DDTの採用基準というか、誘う人の共通点はありますか?

大社長:うーん、結構節操なくいろんな人に声かけてますよ。アイドルとかタレントの方には「プロレスやって、もうひとつ軸を作りませんか」って口説いてましたね。

──プロレス全力投球でなく、複業でもいいんですか?

大社長:「プロレスに人生かけろ!」とか、そんなこと言ったら誰もやらないですから(笑)。そこについては、僕はまったく抵抗ないですし、柔軟に考えてます。掛け持ちでやりながら、徐々にプロレスに特化してくれればいいだけの話じゃないですか。

──本当に柔軟なんですね。

大社長:きっかけさえ作れれば、この人はプロレスにハマるはずだっていう絶対の自信を持ってスカウトしているからでしょうね。舞台とかお笑いとかアイドルライブとかいろいろなステージがありますが、申し訳ないけれどプロレスのほうが絶対に魅力があると思ってます。

高木三四郎
「今いる環境で輝けるかどうかが大事」と語る大社長。モデルとして活躍していた赤井沙希選手をスカウトしたのも大社長なのだとか。

──以前のインタビューで、その時の「旬」の選手にスポットライトを当てるとおっしゃってましたが、旬の選手をどう見極めてるのでしょうか。

大社長:ファンの声を知るために、エゴサーチはもちろんTwitterでは「コアなファン」「ライトファン」とか色分けしたリストを作っています。そのリストを見てると、共通のワードや選手の名前が出てくるので、そこから「今はこの選手かな」っていうのがわかるんです。特定のワードでサーチするだけでは見えないトレンドをつかめるのもリストを使うメリットですね。

──他団体やフリーの選手に参戦してもらう場合もそうやって決めているんですか?

大社長:黒潮“イケメン”二郎も朱崇花も、コアなプロレスファンの間で「面白い」って言われ始めたのを拾ってスポットライトを当てたんです。この見極めって、僕自身が培ってきた “さじ加減”のようなものがあるので、リサーチは外注せず、すべて自分で手を動かしてますね。

──SNS以外のリサーチもされるんでしょうか。

大社長:もちろんしてます。たとえば新宿二丁目のゲイバーに行くことがあるんですが、「今誰が気になりますか?」って必ず聞いてます。二丁目のお姉さんたちの感性って、間違いないものがあるので。DDTでいうと今は上野勇希。一年くらい前から、上野の名前はSNSでも出てくるようになったんですが、二丁目でも「上野くん、いいわ」ってよく言われます。

新宿二丁目でもよく名前が出るという上野選手。端正な顔立ちと鍛え上げられた肉体は要注目(写真提供:DDTプロレスリング)。

国籍も年齢も性別も関係なく楽しめるのがプロレス

──プロレスファンを増やすためには、女性ファンも獲得していかなければいけません。どんな施策をしていますか。

大社長:ももクロさんのパクリではあるんですが、ひとつが女性限定興行「BOYZ」です。やっぱり女性はプロレス会場に入りにくいという人が多いので、そこを意識してます。そして何よりもプロレス自体の市場を盛り上げれば、自然と女性ファンも増えるはず。国籍も年齢も性別も関係なく楽しめるのがプロレスですから。

──海外ファンにもDDTは受け入れられていますか?

大社長:2020年4月にはグループの女子団体である東京女子プロレスが、アメリカで初の海外興行を行います。純粋な女性だけのプロレス団体って、ほぼ日本だけの文化なんです。ですから、女子プロレスには海外に市場を広げていける可能性があると考えています。

──女子プロレスといえば、新日本プロレスの親会社であるブシロードが、女子団体のスターダムを買収しました。強力なライバルになるのでは?

大社長:お互い切磋琢磨して市場全体を広げていきたいですね。スターダムさんは従来の女子プロレスを現代風に解釈し直した団体。東京女子プロレスは、プロレスとアイドル文化を融合させた団体です。団体の文化もファン層も異なるので、それぞれの市場を拡大していけばいいと考えてます。

高木三四郎
「ファンは残念かもしれないけれど……」と前置きをして、「女子プロレスは鎖国するべき」と持論を語ってくれた。

──競合関係ではない、ということでしょうか?

大社長:女子プロレスという大きなくくりで考えれば市場は同じなんですが、競合することも交わることもないでしょう。1990年代には女子プロレスの団体対抗戦が大ブームになりましたが、当時の団体はほぼ残っていません。結局、一時の熱を生み出しただけだったんです。それよりも継続が大事。市場を守るには、変に他団体とは絡まずに鎖国するべきと考えています。

──今後、DDTはどういう立ち位置で戦っていくかお聞かせください。

大社長: 興行収入は新日本プロレスについで業界で2番手くらいのところまできました。これは「他団体がやらないことをやる」というDDTならではの差別化を追求してきた結果ですし、コミカルな試合や路上プロレスといった初心者でも楽しめるプロレスができるのはDDTの強みです。その文化は守りつつ、大先輩の大仁田厚さんとコラボした爆破甲子園や崖のふち女子プロレスといった新しいビジネスのタネを育てていきます。

新日本プロレスは、ブシロードに買収されてから約5年で大きく成長しました。DDTがサイバーエージェントのグループ入りしたのが2017年ですから、5年後は2022年。そこまでに会社を大きく成長させたい。これからもDDTにしかできないプロレスを追求し続けます。

高木三四郎(たかぎ・さんしろう)

1970年生まれ。大阪府出身。身長175センチ、体重105kg。経営とプレーヤーの両面からDDTを支えている社長レスラー。旗揚げ20周年を迎えた2017年に保有する株式の100%を株式会社サイバーエージェントに譲渡し、同社のグループ企業入りを決めると業界内外にビッグニュースとして拡散された。経営者としてシビアな一面を見せる一方、路上プロレスではハチャメチャなプロレスを展開している。

公式HP:DDTプロレスリング公式サイト

Twitter:@t346fire

取材・文/小沢あや(@hibicoto
写真/鈴木勝