元No.1ホストの「心をつかむ心理術」がストーリーで学べる【連載小説】

さえない自分を変えたくて、ホストになった主人公・海藤恵一。指名客ゼロの毎日から脱却するため、先輩ホストのアドバイスを受け入れて金髪にした海藤に、お客さんからとんでもない命令が……。

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思い切って金髪にしてみたけれど

「おっ、金髪にしたんだ。似合うね!」

「意外とイケるじゃん」

そんなふうに反応してくれたのは、ナオヤさんや同僚ホストたちだけ。お客さんたちは、まるで示し合わせように、みんながみんな無反応だ。

でも、ドラッグストアで買ったブリーチ剤の鼻にツンとくる刺激臭に耐えた後、鏡の中に現われたのは今まで見たことのない自分だった。ナオヤさんの言うとおり、勇気を出して一歩踏み出した分だけ「変われるかも」と希望の光が見えた気がする。

こうして金髪になった僕は、「もしかしたら指名が取れるんじゃないか」という期待を胸にテーブルについた。

「休みの日は何してるの?」「パンケーキ好き?」。

「感情を満たしてあげるには、相手の気持ちを理解すること」というナオヤさんにもらったアドバイスにしたがって、お客さんのことを知ろうといろいろ質問してみるけれど、何かがおかしい。僕の声は店内の爆音BGMに飲み込まれていくばかり。

たとえ反応してくれたとしても、「質問ばっかりしてきて取り調べか!」「教えたくない」「そんなこと聞いてどうするの?」と、一向に会話が弾まない。必死に相手の情報をキャッチしようとすれば、「私にこんなに関心を持ってくれているんだ」と思ってもらえるんじゃないのか?

ナオヤさんのアドバイス、「相手の感情を満たしてあげる」は、まったくうまくいかない。金髪にして少しだけ高まった自信とヤル気はみるみる萎んでいった。

目当てのホスト以外はゴミ扱い

金髪にしただけで変われるわけもないし、指名なんて取れるはずもない。今日もまたいつもようにヘルプで終わってしまうのか……。落ち込んだ僕は次のテーブルに呼ばれた。そこは、お店の常連、エリカさんの席だった。

エリカさんはまだ20歳そこそこのキャバクラ嬢。これまで何度か接客したことがあるけど、お目当てのホスト以外はゴミ扱い。ヘルプが潰れるまで一気飲みをさせたり、言葉尻をとらえてケンカを吹っかけてきたり、ひと言もしゃべらず無視したり……。

僕らのような下っ端ホストからアンケートを取ったら、きっと嫌な客ランキングの上位に入るのは間違いないだろう。ああ、また今日もゴミのように扱われるんだろうな……と思うと、僕のテンションはますます下がってしまった。

「あ、待って! いいこと思いついちゃった」

「タバコ買ってきて」

スマホに目を落としながら、僕のほうをチラリとも見ずに言い放つ。お客とはいえ、たぶん僕より年下のくせに。

エリカと一緒にいるよりマシか……と気持ちを切り替えて席を立つと、「ねえ、まさかとは思うけど、ただフツーに買いにいくわけじゃないよね?」という言葉が背中から飛んできた。

「逆立ちでもしながら行きますか?」と、精いっぱいの冗談で返すも、「はー? 相変わらずKENの返しはキレがないねぇ」とバッサリだ。無視されるのも傷つくが、いちいち否定されるのはやっぱりメンタルにくる。

「なーんもいいところがないんだから、せめて笑わせるぐらいしなよ」と、エリカが追い打ちをかけてくる。これ以上絡まれると面倒なことになりそうだ。苦笑いでごまかし、急いでこの場を立ち去ろうとする僕を、エリカが呼び止める。

「あ、待って! いいこと思いついちゃった」

嫌な予感が頭をよぎる。きっとロクでもないことだろう。

「どうせなら、パンツ1枚で行ってきな! 逆立ちよりワザがいらないから、KENにぴったりだよ。脱ぐだけだからカンタンでしょ?」

タバコを買いに行ったら、もうホストは辞めよう

一瞬、頭の芯がカッと熱くなる。エリカのどぎついピンク色に塗られた唇を見ながら、「やってやるよ」と心の中で吐き捨てる。怒りに任せて、僕はシャツのボタンを外し始めた。

シャツを脱ぎ終え、デニムも脱ごうとするが、細身に見せたくて履いたスリムすぎるスキニータイプだからか、なかなか思うようにいかない。悪戦苦闘していると、同じ卓についた別のヘルプが「いやー、さすがにパンイチはマズイっしょ? 上半身裸くらいにしときますか」と、エリカのご機嫌をとろうとしてくれる。

正直、助け舟になっているのかどうか微妙なフォローだが、その気持ちがうれしかった。でも、僕の心は決まっていた。

「いや、大丈夫。行ってくるから」

裸でタバコを買いに行ったら、ホストは辞めよう。金髪にしたからってどうせ何も変わらない。これ以上、続けるのは無理だ。

しゃべりが下手だから、無視されたり、イジられたりするのはしかたないにしても、自分より年下の客にこれだけバカにされるのは耐えられない。同じ我慢するなら、普通に就職してサラリーマンになるほうがマシだ。まさみちゃんのことは心残りだけど……。

まとわりついてくるズボンに転びそうになりながらも、ようやく足が抜け、パンツ1枚になる。いつも接客中は緊張で汗ばんでいるせいか、足がむき出しになると涼しくて、不思議と開放的な気分になってくる。ついでに靴下も脱いでしまえ!

1000円札を握りしめ、僕は出口へ向かった

ほかの卓のホストたちが接客しながら、こちらをちらちらと見ているが、それももう気にならない。心配そうな顔、面白がっている顔、下っ端がやらかしてるよというあきれ顔、いろんな表情が目に飛び込んでくる。

その中にナオヤさんの顔も見えた。お客さんをハグしながら、器用にも僕にウィンクを贈り、口をパクパクさせている。

何だろうとナオヤさんの口元に意識を集中させると、どうやら「や・る・ね」と言っているらしい。さっぱり意味がわからない。この状況が、どうして「やるね」なのだろう。

「じゃあ、マルボロのメンソールお願いね」

エリカがポンと卓の上に放り出した1000円札を握りしめ、僕は出口へ向かって足を踏み出した。

この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito