自分は、この仕事に向いていないかもしれない——そんなふうに悩んだ経験、社会人なら誰しも一度はあるのではないでしょうか。

今回お話を伺ったのは、23年間にわたり放送されていた子ども向け工作番組『つくってあそぼ』の“ワクワクさん”こと、久保田雅人さん。「初めの頃はハサミを持っても失敗ばかりで、自分がこの役に合っているとは到底思えなかった」と語ります。

現在、ワクワクさんとしての活動は31年目に突入。自分に合わないと感じていた仕事を、自分にしかできない仕事へ。そこに至るまでの挫折や葛藤と、どう向き合ってきたのでしょうか。久保田さんが歩んだ31年間には、自分のキャリアに悩む人へのヒントが散りばめられていました。

どうしても克服できないことは捨ててもいい

久保田雅人
久保田雅人(くぼた・まさと)。1961年、東京都出身。声優・タレント。NHKEテレで放送していた子ども向け工作番組『つくってあそぼ』に、ワクワクさん役で長年出演。現在も、工作ショーやYouTube『ワクワクさんチャンネル』にて、工作の伝道師として活動を続けている。

──久保田さん、ワクワクさんになる以前は俳優や声優のお仕事をされていたんですよね。

久保田雅人さん(以下、久保田):大学4年生の時に、声優の三ツ矢雄二さんや田中真弓さんが所属している劇団に入った後に、アニメ声優としてデビューしました。役者としての初仕事はたしか、Vシネマの死体役だったかな(笑)。

──『つくってあそぼ』への出演はどのようにして決まったのでしょうか。

久保田:27歳の時に、普通にオーディションを受けて役をいただきました。当時、ノッポさんでおなじみの『できるかな』の放送終了が決まったタイミングで、NHKさんが新番組の出演者を探していたんです。

番組ディレクターが求めていた、ノッポさんよりも若くてポップなおしゃべりができる、加えて手先が器用な人という条件に僕が当てはまっていて。劇団の先輩である田中さんが推薦してくださったんです。

──オーディションの手応えはありましたか?

久保田:落ちる自信ならあったかな(笑)。その場で出された課題が難しすぎて、何ひとつうまくいなかったんですよ。

『つくってあそぼ』で紹介する工作は造形作家のヒダオサム先生が考えられているんですが、オーディションではまず先生がお手本を見せてくれて、それから同じ工作に僕がトライする形式でした。1回目は見よう見まねで、2回目はしゃべりながらやってみる。

久保田雅人
劇団で大道具や小道具を作っていた久保田さんにとっても、難しいオーディションだったそう。

──実際にどんな課題が出たんですか?

久保田:いくつかあった中で印象に残っているのは、「男の子の顔を喜怒哀楽に分けて描いてみてください」というお題です。

喜んだ顔と楽しい顔の違いなんて急に言われてもわからないじゃないですか。その瞬間「あーこりゃ、絶対落ちたな」と確信しました。だから、役が決まったと報告を受けた時は驚きましたよ。

──予想外の合格だったんですね。初めての収録は緊張されましたか?

久保田:番組スタッフから「歌とダンスをやってみて」と言われた時は、冷や汗をかきました。僕、リズム感もないし音痴だから、ほんとにこの2つは無理なんです。たぶん、おふくろの腹の中に忘れてきちゃったんだと思う(笑)

──たしかに、歌っているのを観たことはないかもしれません!

久保田:僕の焦りが伝わったのか、頑張ってどうにかできるレベルじゃないってことをスタッフが察してくれたみたいで。結果的に、歌のコーナーは2回で終了しました。

どうしても克服できないことは、潔くあきらめるのもひとつの手だと思う。そのかわり、自分の強みを誰にも負けない強みに伸ばす。僕はこの時「魅せる工作を突き詰めよう」と決心しました。

「本当に辞めたい?」反対意見に触れて出た本音

──オーディションで苦戦した工作。番組がスタートしてからはどうでしたか?

久保田:最初の頃は、スムーズに成功したことのほうが少なかったんじゃないかな。使わなきゃいけない材料を使わなかったとか、失敗エピソードはあげればキリがないんだけど……。工作がテイク30まで成功しなかった時は、さすがに「もう辞めたい」と思いました。

──テイク30!それはつらい……。どんな工作だったんですか?

久保田:たしか、ペットボトルの上に紙の輪っかと一円玉を乗せて、割り箸で弾いて一円玉だけを落とすって遊びだったかな。これがなかなか入らなくて。ゴロリはテイク3で成功したんですよ。あいつ俺より器用なんだよね(笑)。 それで余計に焦っちゃって。

──ミスが続くと、仕事を辞めたい気持ちが加速してしまうこともありますよね。

久保田:そうですね。何度も辞めたいと思いながら、オーディションに推薦してくれた田中さんへのご恩を胸に踏ん張っていました。

仕事がうまくいかない時に感じる「辞めたい」は、ただそのつらさから逃げたい気持ちが原因の場合がほとんどなんですよね。僕も完全にそうでした。

久保田雅人
「はじめはすぐ打ち切りになると思ってたんだよね……」

──それに気づけたきっかけが何かあったのでしょうか?

久保田:『つくってあそぼ』が3年目に突入した時、長女が誕生したことをきっかけに所属していた事務所を退社して、仕事をワクワクさん1本に絞ったんです。

迷いを断ち切るための選択だったこともあって、周囲に打ち明けた時は猛反対されました。でも不思議なことに、反対意見に触れるたびに「この役に人生をかけてみよう」という気持ちがどんどん強くなっていったんです。

──不安になるどころか、より決意が固くなったんですね。

久保田:そうそう。うまくできないから単純に逃げ腰になっていただけで、本心はワクワクさんを頑張りたいと思っていたんだなって。

何かに悩んでいる時って、自分の意見に賛成してくれる人に相談しがちじゃないですか。あえて反対してくれる人に気持ちをぶつけることで、迷子になった本音やモチベーションを引き出せることもあると思うんです。

失敗は認めることで前進できる

──つい同じようなミスを繰り返してしまうことってありますよね。久保田さんはそういう時、どんなふうに対処されていましたか?

久保田:まずは、ミスを失敗だと認めること。何かミスした時に限って「あの時は急いでいたから」「ああするしかなかった」って、自分に言い訳して受け流してしまうことありませんか? ちゃんと失敗したことを受け止めないと、自分以外に原因を探して成長につながらなくなってしまう。

あとは、頭で考えすぎないようにすることかな。

──頭で考えすぎない?

久保田:失敗の原因は、行動しないと見えてこないことが多いんですよ。

たとえば、工作ショーで工作の順序を説明する時に、「こう伝えればわかるだろう」と大人が考えることって、小さな子どもには全然伝わらなかったりするんです。実際に子どもたちの前でやってみないと解決策が見つからないから、幼稚園でライブイベントをやらせてもらいました。

──子どもたちと触れ合ってみて、どんな点に気がつきましたか?

久保田:想像していた以上に、子どもたちを置いてけぼりにしてしまっていたことを反省しました。

ポリ袋でビーチボールを作る場合、いきなり膨らませてお手本を見せるのではなく「みんな〜!これをどうすると思う?」と、投げかけてみる。会話を重ねるように工作の順序を伝えることで、作り方を正しく理解してくれる子が増えました。

そういえば、自分が早口だって気づかせてくれたのも工作ショーだったな。せっかちだから気を抜くと、どんどんおしゃべりが早くなっちゃうんだよね……。

久保田雅人
「今朝の工作ショーも少し失敗しちゃったんだよね」。31年目でも、完ぺきだと思えるパフォーマンスができたことはないそう。

──久保田さんがワクワクさんとして、納得できる仕事ができるようになったのはいつ頃からですか?

久保田:10年目かな。何百回、何千回って工作をやり続けてようやくモノにできた気がしています。オンエアを見て、自分でも「何かコイツ面白いな」と思えるようになって(笑)。 造形作家のヒダ先生から褒めてもらえるようになったのも、ちょうどその頃からでした。

あっでもね、思いがけずに仕事ができるようになることもあると思います。僕は子どもが生まれてから、口調や身のこなしが自然になったって言われるようになったんです。本人は何も変えているつもりはなくても、そういうのってにじみ出るもんなんですよね。

設定年齢20代後半。ワクワクさん31年目の葛藤

──長年ワクワクさんを演じてこられて、やっぱり他の役にも挑戦してみたいと思ったことはありませんでしたか?

久保田:年相応の役を演じられる同年代の俳優さんを見て、うらやましいと思うことはあります。僕は31年経ってもずっと20代後半ですからね(笑) 。役者として、歳を取り損ねました。ゴロリがうらやましいですよ。俺はナマモノだからさ。

それでも、人生をかけて演じられる役に出会えたことは何より幸せなことだと思っています。

──今年で58歳の久保田さん。活動は何歳まで続けていきたいと思っていますか?

久保田:死ぬまでかな。YouTubeも工作ショーもできる限り続けていきたいし、まだまだ工作の腕も磨きたい。

とはいえ、最近は体力の限界を感じる瞬間も多々あります。昔はイベントで走り回っていたけれど、今はずいぶんおとなしくなっちゃったからな〜。

久保田雅人
「今はステージで走ると息が上がっちゃうんだよね……」

──最後に、今の仕事が自分に向いていないかもしれないと悩む読者にメッセージをお願いします。

久保田:僕も同じようにずっと悩んでいました。つらい、辞めたいと思いながらも続けた結果、少しずつ誇りを持てる仕事ができるようになっていった。まさか、23年間も番組が続くとは思っていませんでした。たくさんつらい思いをした人が幸せになれるように、何度も悩んで失敗した人には必ず結果がついてきます。

どうしても仕事を辞めたいと思った時は、逃げ腰な考えになっていないか自分の胸に聞いてみてください。どうしてその仕事を選んだのか、原点に立ち返ってみるといい。僕もそれで、ワクワクさんとして生きていく覚悟ができましたから。

久保田雅人

久保田雅人(くぼた・まさと)

1961年、東京都出身。声優・タレント。立正大学・文学部史学科卒業。NHKEテレで放送していた子ども向け番組『つくってあそぼ』に、ワクワクさん役で23年間にわたり出演。現在も、工作ショーやYouTube『ワクワクさんチャンネル』にて、工作の伝道師として活動を続けている。

YouTube:ワクワクさんチャンネル

Twitter: @kubota_waku

取材・文/文希紀 (@gigi_kikifumi )
撮影/鈴木勝