『仮面ライダー』といえば、オダギリジョー、佐藤健、菅田将暉、福士蒼汰、竹内涼真などなど、名だたる俳優たちを輩出してきた「若手俳優の登竜門」として知られています。

そんな『仮面ライダー』シリーズを支えた一人が、東映プロデューサーの白倉伸一郎さん。平成シリーズの初作品である『仮面ライダークウガ』の途中からプロデューサー補として参加し、以降、プロデューサーとして多くの作品に携わってきました。

新人俳優を放送期間の1年をかけて成長させ、一人前にして送り出す……そんな『仮面ライダー』プロデューサーが考える“伸びる若手”とは。

オーディションで見ているのは「表情」と「理解力」

白倉伸一郎
白倉伸一郎(しらくら・しんいちろう)。1990年東映入社。『仮面ライダークウガ』(2000年放送)の途中からプロデューサー補として参加し、多くの作品でプロデューサーを歴任。現在は、東映株式会社取締役を務める。

──『仮面ライダー』は「若手俳優の登竜門」といわれ、多くの俳優さんを輩出しています。今日は新人をイチから育てることについてうかがえたらと思います。

白倉伸一郎さん(以下、白倉):ぶっちゃけトークでもいいですか? もともと、「新人を起用したい」とか「新人を育てたい」なんて微塵も思ってないんですよね。

─えっ! 企画の根幹が揺らいでしまいます……(笑)。

白倉:というのもね、製作費が乏しいので、ギャラをたくさんかけられないんですよ。作品のクオリティを考えたら、できあがっている俳優さんを起用したほうが、そりゃ安定しますよ。ただ、まっさらな新人俳優さんと組むことで、成長をつぶさに見られる楽しさはあるかもしれない。

──『仮面ライダー』シリーズでは配役を決める際、オーディションにこだわっていると聞きました。

白倉:募集して探すケースと、「この役は高度な演技が要求されるから」と、指名してお願いするケースがあります。ただ、どちらの場合でもオーディションは必ずやるんですよね。

──それはどうしてですか。

白倉:新人の俳優さんにお目にかかるチャンスってそうないので、最近はどんな若手がいるかのリサーチも兼ねたオーディションなんです。もちろん主役を選ぶためではあるけれど、話が進むごとにいろんな役どころも出てきますしね。

──主役に選ばれなくてもゲストとして配役される可能性もあるということですか?

白倉:ゲストとしてご登場いただくこともあるし、「そういえば2、3年前に会った方にこの役が合いそうだな」って、あとからお声がけすることもあります。学校のテストと違うのは、「受かった」「受からない」の二択じゃないところです。選ばれなかった方は「自分は評価されなかった」と落ち込むかもしれないですが、こちらが重視しているのは“役に合うかどうか”なので。

白倉伸一郎
たとえオーディションで選ばれなくても、あとからチャンスが巡ってくることもあるという。

──一度のオーディションでどれくらいの応募がありますか?

白倉:書類選考を含めると、5〜6000人くらいは集まると思います。オーディションにとれる時間も限られているので、そこから数百人まで絞らせていただいてます。少なくとも一人あたり2分強はとらないと、人となりがわからないですから。

──2分強という短い時間の中で、どんなことを聞くんですか?

白倉:ケースバイケースですけど、基本的にはムダ話ですね。中身はなんでもいいんですよ。これは私個人の意見ですけど、重視してることが2つしかなくて。

──えっ、どんなことですか?

白倉:ひとつは喜怒哀楽の表情。笑った顔が見たい、ちょっとシリアスな顔が見たい。もうひとつが、受け答えのスピード。突然、変なところからボールが飛んできて、それをどう投げ返すのか。

──なぜその2つを重視されているのでしょうか?

白倉:大事なのは、素の表情が魅力的かどうか。だから表情を見たい。受け答えのスピードは、すなわち理解力を見ています。これがあれば絶対、人は伸びる。自分が考えていた芝居とは違うアイデアを監督から提案されることもあります。その時に自分の考えだけで凝り固まってしまうんじゃなくて、周りの意見にも耳を貸すことが大事なんです。

──その時点で演技力がともなっていなくても……?

白倉:いいんです。オーディションでは芝居もしてもらうんですが、芝居の出来、不出来はあまり採点しないというか……。今できるかどうかと、1週間後、1カ月後、1年後にできるかは別なので。仮に今できていても、理解力のない人は伸びないです。

白倉伸一郎
「今できているか」と「これから伸びるか」は別。白倉さんは「理解力があれば人は伸びる」と教えてくれた。

佐藤健を発掘した伝説のオーディション

──これまでオーディションから発掘した俳優さんで、印象に残っている方はいますか?

白倉佐藤健さんは特殊ですよ。伝説のオーディションっていうか、佐藤健さんは、いわゆるこちらの眼鏡にかなったという次元じゃなかった。佐藤健さんが演じた『仮面ライダー電王』は、新人俳優さんにはあまり期待できない難しい役どころだったんですよ。

──『電王』の主人公である野上良太郎は、「イマジン」と呼ばれる精神体に憑依されることで人格が変わる役でしたね。

白倉:オーディションで台本を読んでもらうんですけど、「何を期待している台本かを読み取れるか」を見ているんですよね。佐藤健さんに渡したのは多重人格を演じてもらう台本だったんですが、「多重人格」とはどこにも書いていない。表面的に読むだけでは人格が切り替わっていることもわからないんですよ。

──多重人格の役だと見抜けるか試す台本なんですね。

白倉:そうです。勘の悪い人だと単に口調が変わっているだけだと思うし、勘のいい人だったら「AとBの人格があるんだな」と読み取れる。もっと勘のいい人はCの人格まで見える。

──Cの人格?

白倉:「これは2つ人格があるんだな」と思わせておいて、実は3つめも隠れているひっかけ問題的な台本なんですよ。こちらとしては、Cの人格まで気づく人がいるかを期待していたんです。でも、佐藤健さんはすべて的確に読み取ったのみならず、それを演じるのを楽しんだ

──はあ~、すごい。

白倉:本人が楽しんで芝居をすると、見ているこっちまで楽しい。「こいつの芝居見てると楽しいな、ずっと見ていたいな」って、俳優としてすごく重要じゃないですか。

白倉伸一郎
佐藤健さんのオーディションを振り返る白倉さんも嬉しそう。

自ら高みを目指せる人は多くない

──白倉さんは2019年8月まで放送された『仮面ライダージオウ』では数年ぶりにプロデューサーを務められました。主演の奥野壮さんはいかがでしたか?

白倉:奥野壮さんは素質があって、最初から及第点の演技ができるんですよ。そんな人自体が多くないので、それで十分なんです。でも彼は、たとえばそれが70点だとすると、「100点満点まであと30点ある」って自分で気づいて、高みに登っていこうとする。

──誰かに言われてやるのではなく、自ら気づけるのはすごいですね。

白倉:芝居って、スキルやテクニックを人から盗むこともできるし、教わることもできる。でもそれは一般的なスキルであって、奥野壮さん自身の芝居なのかというと、それはきっと違う。

自分の芝居は自分でつかみ取っていかなきゃいけないんです。それはものすごい努力が必要で、本当に苦しい作業だと思う。彼はそれに挑んで、少しずつ階段を登ったから「本当に偉いやつだな」と感心しますね。僕は奥野壮さんを褒めだすと止まらない(笑)。

──ベタ褒めですね。

白倉:若くて、しかもイケメンじゃないですか。チヤホヤされるし、カッコつけたがるんですよ、普通は! 自分がいかにカッコよく映るかのほうが気になって、ずっと前髪を気にしてたりとか。でも彼は、映像の中で自分がどう貢献できるかを考える

──なるほど。

白倉:「発掘する」とか「育てる」とかよく言われるけど、そうじゃないと思っていて。現場から学ぶか学ばないかは、その人次第な気がしますね。同じ経験をしたって学ばない人もいるし。

──前髪を気にするタイプの人は、どうやって意識を変えるんですか?

白倉:勝手に監督さんたちが叩きのめしてくれる(笑)。

──(笑)。

今年8月まで放送された『仮面ライダージオウ』。©2018 石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映

失敗してもいいから自分の幅を広げていくことが大事

─『仮面ライダー』では、俳優さんに合わせて役の設定や台本を変えることもあると聞きました。

白倉:ありますよ。わかりやすい例で言えば「ここまでできた」と思ったらセリフの行数を増やす。それができたら今度は逆にセリフを削ります。言葉で説明しないでも、表情や仕草だけで演技ができるんじゃないかと。

──マンネリを防ぐようなイメージですね。

白倉:そうですね。どうしてもヒーロー的なものって、決まり事が多くなっていってしまうんです。典型的なのは「変身!」ですけど。変身は“お楽しみ”だからいいのかもしれないけれど、同じようなことを毎回やってるとつまらないでしょう。こちらが工夫していかないと、見ている側ももたないし俳優も勉強にならない。

──俳優さんの勉強になるかどうかまで、意識されるんですね。

白倉:若い人は順応性が高くてすぐ慣れるので、こちらが気を抜くと“ヒーロー芝居”になってしまうことがあるんです。すると、最初はあったリアリティがなくなって、「ヒーローっぽいセリフを言っている人」になっちゃう。それって、もうヒーローじゃないでしょう。だからそれを崩すために、シチュエーションやセリフ量を変える。

──わかる気がします。でも「やっとつかめてきた」と思ったら、またそれを崩しにこられるというのは……。

白倉:いつ見ても同じクオリティが提供できるのはいいんだけど、それは若い人がやるべきことじゃない。失敗してもいいから、芝居を変えて、自分の幅を広げていってもらうことが大事なんです。画面を通して「こんな面もあるんだ」「こんな顔もできるんだ」って伝わると、お客さんも飽きないですし。

──『仮面ライダー』の俳優さんたちは、たとえば「仮面ライダードライブにハマってました」と言ったら、「竹内涼真の時の!」と名前でわかるように、「自分が売れていかなきゃ」と背負っているものがあるように感じます。

白倉:ははは(笑)。人によると思うけど、みんな何か背負ってますよね。今やってる(『仮面ライダーゼロワン』の)高橋文哉さんはわずか18歳。自分があの年の頃は何も背負ってないし、袖で鼻水拭いてたくらいなのに(笑)、今の若い人たちはすごいなって。

白倉伸一郎
歳下だからと見くびることなく真摯に向き合う白倉さんの姿勢は、インタビューからも伝わってきた。

仮面ライダーが怪人をすぐに倒さない理由

──時代の変化とともに番組の作り方も変わっているんでしょうか。

白倉:変わらざるを得ないですね。もともとヒーロー番組って1話完結だったんですが、『平成ライダーシリーズ』は大河ドラマ志向があったんです。「敵が出た」「闘った」の繰り返しだけど、せっかく1年間やってる番組なので年間を通じた物語を作りたかった。

でも、それだと今の時代には適応できないんです。今放送中の『仮面ライダーゼロワン』は完全に1話完結になっています。

──時代に合わせて1話完結に戻ったということですか?

白倉:今は毎週テレビの前で楽しみにしてくれてる子どもって貴重なんです。動画配信サービスが主流になって、どこから観てもついていけるような1話完結でないと観てもらえなくなってしまった。

──時代によって、表現方法が変わってきているんですね。

白倉:ただ、怪人を毎回倒すわけにもいかないという制限もあって。『スーパー戦隊シリーズ』っていう兄弟番組があるんですが、あっちのほうが製作費が潤沢なので、毎回怪人を倒せるんです。ところがライダーはそれよりお金が少ないので、とてもじゃないけど毎回は怪人を倒せない(笑)

──そんな裏事情が!

白倉:怪人を倒しちゃうと、消費しちゃうから。「怪人愛護運動」じゃないけれど、できれば怪人に長生きしてほしいんですよね(笑)。だから、「倒したと思いきや……」って見どころを毎回作って工夫したりします。

白倉伸一郎
怪人を一回で倒せない裏事情があったとは……。

「ジジイと付き合えたこと」が若手時代の宝

──今回のテーマは“伸びる若手”で、白倉さんも“伸びた”お一人だと思うんです。若いうちに培ってよかったことはありますか?

白倉ジジイと付き合ったことですね。

──ジジイと付き合ったこと?

白倉:たまたま特殊な業界にいたからなんですが、撮影現場って0歳の赤ちゃんタレントから90歳のベテランスタッフまでワンチームになるんですよ。だから入社したばかりの若手の時から、20歳も30歳も上の人とコンビを組むことがあった。それって若いうちにしかできないんですよね。

──徐々にリタイアしてしまうからですか?

白倉:いえ、若手じゃなくなると組む相手を自分で選べるようになって、目上の人や大先輩を指名しなくなる。でも、自分のやりやすさだけで仕事相手を選ぶようになっちゃうと、自分の仕事の幅って狭まるわけですよ。

──確かに……。

白倉:僕は若い頃に大先輩たちと仕事をしてきたおかげで、どんな相手とも仕事をする姿勢を叩き込まれた気がします。それに、若い頃は自分は何でもできると思い上がっていたから、世の中には自分よりすごい人がいることを思い知らされたのもよかったですね。

──自分の万能感はなくなるけれど、それが良い経験だったと。

白倉若い頃の自分自身のゴールって、自己実現なんですよね。「名を残したい」とか「出世したい」とか。でも、年を重ねるうちにそんなことはどうでもよくなるんです。それよりも、与えられた職責の中で、どれだけ力を発揮できるか、自分をどれだけ高められるかが重要。

若いうちはたくさん揉まれて、自分よりできる人に天狗の鼻を折られてもいい。その経験から何を受け取って自ら成長していけるかが何よりも大切なんじゃないでしょうか。

12月21日(土)劇場公開。『仮面ライダー 令和 ザ・ファースト・ジェネレーション』 ©石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映

白倉伸一郎(しらくら・しんいちろう)

1990年東映入社。『仮面ライダークウガ』(2000年放送)の途中からプロデューサー補として参加し、『仮面ライダーアギト』(2001年)以降、『仮面ライダーディケイド』(2009年)までの初期作品でプロデューサーを歴任。2019年8月まで放送した、平成最後の作品『仮面ライダージオウ』でプロデューサーに復活していた。現在は、東映株式会社取締役を務める。

取材・文/栗本千尋(@ChihiroKurimoto
写真/桝元清香