元No.1ホストの「心をつかむ心理術」がストーリーで学べる【連載小説】

さえない自分を変えたくて、ホストになった主人公・海藤恵一。源氏名はKEN。自分を変えようと金髪にしてみたものの相変わらず指名はゼロ。「パンツ1枚でタバコを買ってこい」とお客さんに言われ、開き直ったKENは服を脱ぎ捨てて深夜の歌舞伎町へ……。

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真冬にパンツ1枚で深夜の歌舞伎町を歩く

夜の11時。真冬の夜空の下、パンツ1枚なのに、不思議と寒さは感じない。

エリカに見下された怒り、アドバイスしてくれたナオヤさんへの申し訳なさ、全然指名が取れない自分への落胆……。今にも叫び出しそうになる自分を抑えるのに必死で、寒さを感じないばかりか恥ずかしさすら湧いてこない。

ガールズバーや居酒屋、キャバクラなどの案内所などがひしめく通りを、歩いて5分ほどのところにあるコンビニを目指して、靖国通り方面に向かって歩いていく。いつもだったら居酒屋のキャッチや、何の店なのかよくわからない客引きが声をかけてくるのに、今日は誰も近寄ってこない。

それはそうだろう。僕だって、パンツ1枚で歩いている危ないヤツなんかとかかわりたくない。遠くからいぶかしそうに見ているか、面白がっているかのどちらかだ。サンタクロースとトナカイのコスプレをした呼び込みが、通りの向こうで指をさしてはやし立てている。

そういえば、店のミーティングでも、神崎代表がスタッフを前に、クリスマスイベントに向けて営業に力を入れろと喝を入れていた。でも、今日で店を辞めるのだから、どうでもいい。そもそも営業と言われても、指名客が一人もいない自分にできるのは、キャッチに精を出すのがせいぜいだ。

コンビニのおばさんだけが僕に優しかった

脇道に入ってまもなく目的のコンビニが見えてきた。皆がサーッと僕をよけ、自ずと道ができていく。店に入ると、ほわんとした暖房の熱気が素肌を撫でる。その暖かさで、かえって外にいる時より自分が裸だということを自覚してしまう。まずい。羞恥心が湧き上がってくる前に、いや、通報される前に早くタバコを買わなくてはならないのに、思いのほかレジが混んでいる。

しかたなく並んだものの、「この人、大丈夫!?」「ヤバくない?」とひそひそ話す声がして落ち着かない。目を伏せていると、「お兄さん、タバコ? 銘柄は?」と、突然、後ろから肘のあたりをつかまれた。驚いて顔を上げると、コンビニの制服を着た、ひっつめ髪に銀ブチの眼鏡をかけたおばさんだった。

うちの親と同じ50代くらいだろうか。化粧っけもなく、小太りで明らかに冴えない感じだが、レジにいるスタッフが小さく会釈しているのに気がつく。おそらく店のオーナーの家族だろう。

「手ぶらで並んでるんだからタバコなんでしょ?」

戸惑いながらも銘柄を伝えると、「そっちで待ってて」とアゴをしゃくって、その女性は出入口近くのレジ横のスペースに行くよう促した。

レジ横に移動すると、すぐに女性がタバコを持ってきた。握りしめていた1000円札を渡すと、お釣りとポケットから出したのど飴を、「ハイ、サービス」と言って僕の手に握らせた。

「あんた根性あるよ」という声が背中から聞こえた

「ねぇ、あんた、どこで働いてるの?」

「ペガサスですけど……」

「ああ、神崎んとこだね」

働いている場所を聞かれたということは、こんな僕でもホストに見えたのだろうか。少なくとも酔っ払いや変質者に思われていないことは確かなようだ。おまけに、神崎代表の名前が出てくるなんて、どういう関係なんだろう。

気にはなったけれど、それよりも一刻も早くペガサスに戻って、辞めると告げたかった。歌舞伎町を歩くことも、もう一生ないかもしれない。そう思いながら、僕は逃げるように店の出口へ向かった。

「あんた根性あるよ、頑張んな!」という声が背中から聞こえた。その言葉は慰めにはなったけれど、ホストはモテるのが仕事だ。お客に気に入られなければ、根性なんてあってもしょうがない。

漢方薬っぽい味のするのど飴を舐めながら、急ぎ足で店への道を戻っていく。行きに感じていたモヤモヤは消え、なぜかスッキリした気分だ。「これで辞められる……」そんな晴れ晴れした気持ちで歩いていると、店のほうから手を振りながら若い男が近づいてきた。さっき、一緒にエリカの卓についたヘルプ仲間だ。

「いやー、本当にパンイチで行ったの? なかなか帰ってこないから心配したよ」

「なんか腹が立って、勢いでコンビニまで行ってきた」

「マジで!? お前の後をついていけって、ナオヤさんに言われたんだよね。職務質問されたり、誰かに絡まれたりしたらフォローしろって頼まれてたのに、俺が職務質問されちゃって。見失っちゃって焦ってたんだよ」

そうか、ナオヤさんは心配してくれてたんだ。でも、これ以上あがいたって、自分がナオヤさんみたいな売れっ子になれるとは思えない。申し訳ないけど、辞めることに決めたんだ。

店に戻った僕を待っていたのは…

ヘルプ仲間が入り口のドアを開けてくれる。もうどうにでもなれとヤケクソ半分に、買ってきたマルボロのメンソールを手に高く掲げながら勢いよく店に足を踏み入れた。

すると、なぜかホストもお客も全員が立ち上がって、僕のほうを見ている。その直後、割れんばかりの拍手が耳に飛び込んできた。さっきまで仏頂面だったエリカが、ウソのようにニコニコしながら僕に抱きついてくる。

「KEN、あんたスゴいじゃん! 遅いから、捕まっちゃたっかと思ったよ」

狐につままれたような気分で、エリカの後に続いて席に戻る。ほかのホストやお客たちが「めっちゃウケる!!」「意外に捕まらないもんだね」と言い合っている。

「ついに覚醒、かな?」

いつの間にか僕の隣りに立っていたナオヤさんと目を合わせた瞬間、何かが頭の中で弾けた。

「もしかして……ナオヤさんに言われた“自分は変われると信じる”“相手の感情を満たしてあげる”っていう2つのことを、今、クリアしたんでしょうか?」

ナオヤさんは無言のまま、労わるように僕の肩をポンポンと叩くと、自分の卓へ戻っていった。きっと、これが返事なのだろう。

パンツ1枚でタバコを買いに行けと言われたから、服を脱いで買ってきた。ただそれだけのことなのにエリカは楽しそうに笑っている。今まで僕がしたことで、お客が笑顔を見せることなんて一度だってあっただろうか。お客さまの心を満たすっていうことを、初めて僕はわかった気がした。

3日後、エリカが女友達を店に連れていた。そして、その女友達が、僕の初めての指名客になった。

<構成/伊藤彩子>

▶︎第10回は2020年1月8日(水)の公開予定です。

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この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito