仕事にはコミュニケーションスキルが必要。相手の懐に飛び込み、良好な関係を築くにはどうすればいいのでしょうか?

今回訪ねたのは、「プロ営業師」「プロ飲み師」を自称する高山洋平さん。大手インターネット広告代理店・アドウェイズ中国支社営業統括本部長を経て、2014年に株式会社おくりバントを設立。社長を務めつつ、プロデューサーや営業として実務にもあたっています。

その卓越した“人付き合い力”でビジネスの荒波を乗りこなし、現在では多数の企業や大学でコミュニケーションにまつわるセミナー講師も務める高山さん。その理論は一見ふざけているようでいて、じつは至極まっとう。かつ、深い思考が隠されていました。

中国支社で役立ったのは、語学よりも「三国志」と「香港映画」

──高山さんはアドウェイズ時代、中国語ができないのに中国の駐在員に立候補したそうですね。

高山洋平さん(以下、高山):はい。中国語は「ニイハオ」と「シェイシェイ」しか喋れませんでした。でも、『三国志』は中国人と同じくらい見てたし、香港映画も好きだった。『新流星蝴蝶剣』を知ってますか?

──リュウセイコチョウケン?

高山:主人公が弓で自分を飛ばして攻撃したりする、狂った映画です。じゃあ『スウォーズマン』っていう映画に出てくる東方不敗、知りませんか?

──トウホウフハイ……? そもそもスウォーズマンからして……。

高山:東方不敗は武術の達人なんですけど、自ら去勢して最強になる必殺技を習得するんです。すごくないですか? 僕は中国のビジネス環境はよくわからなかったけど、そういうワキの知識はあった。それを何とか伝えると、現地の人に喜んでもらえるんですよ。「おまえ、いい心掛けだな」って。

高山洋平
この風体にして、この(香港映画の)教養。惹きつけられないわけがない。

──確かに。逆に、日本駐在の中国人が日本のドラマや映画に詳しかったら、一気に親近感が湧きますね。

高山:はい。それがあったから、僕は中国に行っても活躍できると思っていましたし、実際にできました。語学が堪能でも相手と打ち解けられない人はたくさんいるし、コミュニケーションって言葉の問題でないのかなと思いますね。

──相手の懐に飛び込むにはまず、相手の土壌で話ができるかどうかが大事だと。

高山:そう思います。たとえば任天堂に営業に行くなら、任天堂のディープな話を持っていたほうが話が弾んで有利ですよね。「ファミコンウォーズのCMってフルメタル・ジャケットのパロディでしたよね?」くらいの小ネタをはさむと、鮮烈な印象を与えられると思いませんか。

でも、それって何も特別なことじゃないですよね。僕は広告の仕事をしていますけど、お客さんもゲームを知らない人より、好きな人に広告を作ってもらいたいって思うのが当たり前じゃないですか?

日常の万物から学び、幅広い知識を得る

──高山さんは三国志や香港映画に限らず、多岐にわたる分野の知識が豊富ですよね。

高山:まあ、映画だったり、音楽だったり、ラーメンだったり、何でもそれなりの知識はあるつもりです。

──豆知識が重要なんですね。

高山:豆知識ではなく、教養です。もちろん個々の分野で僕より詳しい人はたくさんいるけど、誰とでも共通言語を見つけられるくらいの一般教養は備えていると思います。

コミュニケーションにおいて、好きなものを同じレベルで語れるっていうのは大事なことだし、複数のジャンルに詳しいと、それを知らない人にもわかりやすく説明できるんですよね。たとえば、「天一(※1)のラーメンは音楽でいえばクイーン」です。

──……と言いますと?

高山:メジャーだけど孤高の存在だよね、みたいなことが言える。ラーメンとロックの知識を組み合わせるわけです。

──なるほど、わかりやすい。高山さんの場合、話術があるから余計に納得してしまいます。

高山:ただ、それもすべて知識に裏打ちされたものなんですよ。たくさんの知識があった上で、それをどう選択してアウトプットするか。その選択がセンスだと思っています。

──ただ、知識を身に着けるのもハードルが高いですよね。

高山:好きなことについて詳しくなる、というのはおそらく多くの方がイメージできますよね。僕の場合は、好きなもの以外、日常から学ぶことも多いです。森羅万象、すべてが師匠というか。たとえば、松屋と吉野家の牛丼の違いとか、ロイホ(※2)の新メニューとか、日々そういうものを注意深く観察しておくと、どんどん知識が貯まる。

ちなみに、ロイホの「蟹と海老のサンドイッチ」食べました? 食べてない? 駄目ですよ、ライターなら食べないと。1200円くらいするけど、ファミレスでありながら、ホテルの味ですよ。もはやホテルオークラなんですよ。と、ロイホに行くだけで、コミュニケーションのタネになる知識が得られる。

他にも、飲みに行ったらこの店のホッピーのナカは多いとか、いぶりがっこチーズはいつの間にか、どの居酒屋にもあるな、市民権を得たんだな……とか。ただ漫然と過ごすのではなく、いろいろ思考することで知識が身に付くのだと思います。

──でも、常に頭を使って疲れませんか?

高山:疲れます。でも、疲れたら頭をからっぽにしてリフレッシュすればいい。オススメはサウナとラーメン二郎ですね。どちらもスマホを持ち込めないから、情報を遮断できるのがいいんです。二郎でスマホを眺めながらちんたら食べていたら怒られますからね。

──二郎にいる時は、思考をストップしてラーメンと向き合う?

高山:はい。僕らはそれを「ゾーンに入る」と呼んでいます。

(※1)天一:ラーメンチェーン「天下一品」の略称。ドロリとした濃厚スープが特徴の「こってりラーメン」には熱狂的なファンが多い。ところで「あっさり」って食べたことありますか?

(※2)ロイホ:ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」の略称。ちょっと高い。

飲み屋はさまざまな人生を覗ける劇場

──高山さんは「プロ飲み師」を自称する、接待の達人でもあります。接待もコミュニケーションの一種ですが、ここでのポイントを教えてください。

高山:お店選びの時点で、勝負は始まっています。相手の嗜好を聞いた上でお店を選ぶのは基本ですが、自分がその店の良さをきちんと知っているかどうか、語れるかどうかを大事にしていますね。流行っているからといって、ろくに知らない肉バルとかを安易に選ぶよりは、行きつけの飲み屋やスナックのほうが喜ばれることもあります。

もちろん、肉バルについて知り尽くしていて、飲みをおもしろいエンタメにできるなら何の問題もありません。自分のホームグラウンドのほうが、余裕を持って接待できますしね。少なくとも、ちゃんと自ら利用して、いいと感じたお店であることが重要です。

──行きつけのお店が少ないので、ついグルメサイトの評価だけで選んでしまいます。

高山:あなたが僕の部下だったら、コップを投げてますね。そういう徳のないことをしてちゃいけません。来世でエロサイトのバナーに生まれ変わってしまいますよ。

──それ絶対にいやです。申し訳ありませんでした。ちなみに、高山さんはおひとりでも飲みにいかれますか?

高山:というより、基本は1人ですね。自宅がある中野や、高円寺、阿佐ヶ谷あたりで飲むことが多いです。

高山洋平
とうとう(麦茶を)一杯ひっかけだした高山氏。

──1人飲みの際の、お店選びのポイントは?

高山:やっぱり客層ですかね。ウザ絡みされるのは嫌ですけど、心地よいコミュニケーションがあるお店がいいですよね。いい飲み屋は店主がうまくお客さん同士を結んで、会話をつないでくれる。そういうプロが営む、ハンパないお店があるんですよ。

──ハンパないお店に、足繁く通われるのでしょうか?

高山:そうですね。毎日行くお店もありますよ。飲み屋はみんなの人生を覗ける劇場みたいなものだから、ひとつの店に長く通うと面白い。常連と長くつきあうと「君の会社も随分よくなったね」とか、「昔みたいにお金を借りにこなくなったね」とか、そういうことを語れる関係性ができてくるわけです。近所に住んでいる皆さんのことをよく知れて、地域社会とのつながりもできます。

渋谷や六本木で飲むのも嫌いじゃないけど、遠い店や高い店って頻繁に通えないから常連になれない。それじゃあ面白くないんですよ。

重要なのは甘えること。そして甘えてもらうこと

──「プロ飲み師」「プロ営業師」として突き抜けたコミュニケーションスキルを持つ一方、高山さんは「営業以外のことが何もできない」との噂もあります。

高山:それはもう、明らかにできません。先日も、出した請求書すべてにミスがあって経理のスタッフにキレられました。昔から書類を出すとか手続きとかに苦手意識があり、なるべく避けてきた。だから、ますますできなくなっていくわけです。わかります?

──わかりません。苦手ならば克服しようと努力すればいいのでは?

高山:それは早い段階であきらめたんですよね。経理みたいに細やかな仕事に対する才能がまったくなかったから、そこはちゃんとしたプロにお願いしようと。

そのかわり、社長をやっている今でもバカだアホだと言われますよ。その度にハイ、ゴメンナサイ!って素直に謝って、迷惑をかけたらおいしいものを奢ったりお土産を渡したり。たとえば沖縄に行ったら、経理のお子さんにアメリカ製の古着を買って帰る。これは大事なことです。だから、バカだと金がかかりますね。

──苦手なことは得意な人に頼み、自分は営業の道で頑張っていこうと

高山:はい。まあ、甘えているわけですけど。子どもの頃からそうでした。ミニ四駆を組み立てられなかったから、友達に作ってもらっていました。そんなんで面白かったのかなと思うとナゾですが。

そんなこんなで、ずっと人様に甘えてきた。ただ、一方的に甘えているわけじゃなくて、僕ができることは返している。いわば「甘え合い」です。たとえば、経理の子が疲れていたらそっとスイーツをお渡しするとか、精神的なところで支える。力関係はこちらのほうが弱くなりますが、いざという時に助けてもらえるというか。ギブアンドテイクがなんとか成立するんですよ。

──実際、高山社長には味方が多いですよね。「おくりバント」が傾きかけた時も、仲間が助けてくれたとか。

高山:何度か傾きかけてますが、いつのことですかね。

──……。

高山:一番危なかったのは4日後に700万円の支払いがあるのに、会社のキャッシュが3万円しかなかった時ですね。知人の会社に頼み込んで仕事を発注してもらい、前受け金をもらう形でなんとかしのぎました。新しい自転車操業の形ですね。あ、もちろんその後きちんと制作して納品してますよ。

人付き合いの原則が詰まった、高山流コミュニケーション六か条

──ただ、それも日頃の人間関係あってこそですよね。高山さんのように、苦しい時に助けてくれる仲間を増やすにはどうすればいいでしょうか?

高山:では、いざという時に助けてもらえる人であるために必要な六か条をお伝えしましょう。これは、弊社おくりバントの社訓でもあります。

高山洋平

──……解説していただけますか。

高山:解説、いります?

──……なぜタワマンに住んではいけないのでしょうか?

高山:儲かったからといってスタイルや主義主張を変える人は信用できないからです。寅さん(※3)が金持ちになったからといって、あの服装を変えると思いますか? 柴又から六本木に引っ越すと思いますか?

昔は中野で楽しく飲んでた友達が、もう俺は六本木じゃないとダメとか言い出したら嫌でしょう。僕はこれからも中野に住み続けますし、愛車デボネアに乗り続けますよ。壊れるまで。

──なるほど。「スナックでママに迷惑をかけない」、「大盛りを残さない」というのは?

:スナックで迷惑をかけないというのは、さっきのラーメン二郎の話と一緒ですよね。つまり、その店にはその店のルールがあり「金を払ってるんだから俺の好きにさせろ」という態度は通用しない。コミュニティの掟に従うということです。

そして、大盛りを頼んだら残さない。二郎でも「大」を頼んで残す人がいますが、話にならない。ようは、できないのに大きいことを言わない。やるといった以上は最後までやり遂げるということですね。

──ふざけているようでいて、じつはものすごく大切な真っ当な教えですね。

高山:わかってくれましたか。「金を借りたら必ず返す」というのも、金に限らず恩を受けたら必ず返すということです。逆に、積極的に“ギブする”ということも大事ですね。この取材だって「あの時、取材受けたじゃないですか」ってあとで言えるじゃないですか。勘違いしてはいけないのが、恩着せがましくふるまうってことじゃなくて、貸し借りによって生まれたつながりを大事にする。

──本当にその通りですね。肝に銘じます。

高山:結局、ガチで人と付き合うってことが大事だと思うんです。もしかしたら損をするかもしれないけど、積極的に誰かを助ける。結婚式や友達の会社の記念パーティー、ライブなんかにも顔を出す。義理を大事にする。それが、コミュニケーションの根幹だと思いますよ。

──素晴らしいお話をありがとうございました。……ちなみに、ずっと気になってたんですが、その首から下げているのは何ですか?

高山:友人に作ってもらったUSBネックレスです。あなたとの思い出をメモリーできるように付けてきました。

高山洋平
目にした瞬間、突っ込まないわけにはいかない。おそらく、これも高山氏のコミュニケーション上の仕掛けのひとつに違いない。

──えっと……ありがとうございます(?)。そういうファッションって、取引先によっては眉をひそめませんか?

高山:まあ服装に関しては、いつでも好きなものを着て、それで受け入れられなかったらしかたないと考えています。たまに、クライアントから「今日は上司も同席するので真面目な感じでお願いします」と言われたりもしますが、すぐに本性が出てバレるんだから、そこで取り繕ったってしょうがないじゃんと。ドラマで営業マンが得意先に必死で頭下げているシーンとか、よくあるじゃないですか。あれがけっこう嫌なんですよね。

──相手がお客さんといえど、過剰に平身低頭になる必要はないと。

高山:そうですね。それに、ちゃんとしたスーツを着ることよりも、いいものを提供することのほうが大事だと思うので。ラーメン二郎を見てくださいよ。お客さんがみんな割り込みもせずに並び、静かにラーメンを食べて、自分でテーブルを拭いて帰る。怒られることもあるけど、好きな人は通い続ける。あそこに商売の本質があるんじゃないでしょうか。

(※3)寅さん:映画『男はつらいよ』シリーズの主人公・車寅次郎。

高山洋平(たかやま・ようへい)

クリエイティブカンパニー、おくりバント代表。新卒で不動産会社に入社し、その後、インターネット広告企業のアドウェイズに入社。同社の中国支社の営業統括本部長を務めるなど、大きな実績を持つ。2014年にアドウェイズの子会社として株式会社おくりバントを設立した。「プロ営業師」「プロ飲み師」を自認するコミュニケーションのスペシャリスト。

Twitter:@takayamayohei1

取材・文/榎並紀行(やじろべえ)