元No.1ホストの「心をつかむ心理術」がストーリーで学べる【連載小説】

さえない自分を変えたくて、夜の世界に飛び込んだ主人公・海藤恵一は指名客ゼロのダメホスト(源氏名はKEN)。「パンツ1枚でタバコを買ってこい」というお客さんの一言がきっかけで、初めての指名客が現れた……。

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初めての指名客はNo.1キャバ嬢だった

ワガママな客・エリカさんの無茶振りにキレてしまった僕は、ヤケクソで歌舞伎町の街にパンツ1枚で飛び出した。当然、ホストはやめるつもりだったのに、店に戻ると「すごい!」となぜか英雄扱いされることになってしまったのだ。あの不機嫌なエリカさんがウソのように「すごい!」を連発していた。

そして、僕が初めての指名をもらったのも、そのエリカさんのおかげだった。パンツ事件の数日後、エリカさんが店に連れてきたナナさんが、僕の初めての指名客になったのだ。

「ナナさんはうちの店のNo.1なんだよ」

ナナさんについて話すエリカさんは、まるで自分のことを自慢するように得意げに見える。

長く伸ばした黒髪がよく似合うナナさんの清楚な雰囲気は、いわゆるキャバ嬢のイメージとは違っていた。目鼻立ちはちんまりしていて、メイクも薄く、カラコンもしているようには見えない。キャバ嬢というよりは、親しみやすい大手企業のOLさんといった雰囲気を漂わせている。

「本当にNo.1なのかな? って疑ってるでしょー?」

僕の渡した名刺を見ていたナナさんが口を開いた。頬を膨らませ、すねたような目で僕の顔をのぞきこんでくる。図星をつかれた僕は、「いえいえそんな……」と思わず口ごもってしまった。

「エリカちゃんが『歌舞伎町をパンツ1枚で歩いた面白いホストがいる!』って言うから来たんだよ。お世辞のひとつも言えないの? しょうがないなあ」

あきれたような顔で笑うナナさん。でも、その口調からトゲトゲしさは感じられない。これが他のお客さんだったら、明らかに「ハズレくじを引いた」みたいな顔になるのに、なぜかナナさんは楽しそうだ。

「すみません……。ホントに口下手で、ぜんっぜん、面白いことが言えないんですよ。それにイケメンでもないす、身長だって170cmもないチビだし。僕なんか指名してもお金の無駄かもしれないです」

お客さまにグチってどうするんだと頭ではわかっていても、つい口からぼやきがこぼれてしまう。

「それ、それ! それを逆手にとればNo.1になれるのに」

??? ナナさんは何を言ってるんだろうか……。

イケメンじゃないのにイケメンの真似してるから…

「気づいてないの? 普通の人は、パンツ1枚で歌舞伎町歩かないから。それができるKENは、No.1になれる素質があるんだよ。でも、イケメンじゃないのにイケメンの真似してるから、まだまだ時間がかかりそうだけど」

「自分がナオヤさんたちと一緒のことしてても、ダメだってことはわかるんですけど。じゃあ、どうすればいいかがわからなくて」

「自分の持ってる武器で戦うことだね」

「武器? 僕に武器なんてあります?」

「チビで口下手なんでしょ? それがKENの最強の武器になるの!」

とても信じられる話じゃない。黙り込んだ僕に、ナナさんはかまわず話し続ける。

「さっきKENは私を見て“キャバ嬢っぽくない”って思ったでしょ?」

「はい……」

私の武器はその“キャバ嬢っぽくなさ”なんだよね。盛り髪で頑張ってた時期もあったけど、同じ土俵でいくとハデな子たちと争っても絶対勝てないってわかったから、自分の武器を生かすことにしたの」

「でも、おとなしいキャラだと、売上げあがらなくないですか?」

うちの店のナンバーワンのナオヤさんは、常連さんとはしっとり飲むこともあるものの、基本的にはヘルプたちとワイワイ楽しく盛り上がる接客スタイルだ。話が弾んでノリよく盛り上がれば、お酒もたくさん飲んでくれる。

ナオヤさんに次ぐ売れっ子のヒカルさんは、上から目線のオラオラ系。「俺だけを見てろ」と自分だけに関心が向くように仕向けるのが上手くて、ハマっていくお客さんが多い。

どっちのスタイルも自分には無理そうだ……。

「でも、世の中にはワイワイ、オラオラしてない女性もいっぱいいるでしょ?」

「そう言われれば……」

人って自分に似てる人を好きになるの。ワイワイ系ホストのお客さまは明るくてノリがいい人が多いし、オラオラ系ホストにハマるのは、一見気弱な女の子かと思いきや本当はそうじゃない。押しが強くて自分に自信のあるタイプが多いんじゃない?」

「それはそうですけど……。僕に似てるお客さんなんています?」

「いるよ! コンプレックスがあるタイプかな。話を聞いてほしいとか、悩みを相談したいってタイプ。コンプレックスがない女性のほうが少ないんだから、ほぼ女性全員がターゲットになるよ。チャンスじゃない?」

相手の心を開くには、自分から先に弱みを打ち明ければいい

まだ納得できず、素直に首をタテに触れない。そんな僕に「じゃあKEN、あなただから言うんだけど」とナナさんが真剣な目つきで訴えてくる。

「じつは私、お店ではぽっちゃり系キャラなの。痩せたいけど昨日も夜中にプリン食べちゃって、お店のみんなにもバカにされてるの」

「そうなんですか!? 大丈夫ですよ。僕なんかチビで話が下手で指名も取れない“三重苦ホスト”って呼ばれてるんですから。ぽっちゃりくらいどうってことないです。ナナさん可愛いし」

「ほら! 私が自虐したら、KENも自然に自分の悩みを打ち明けたでしょ? それに、ちょっと私に親しみがわいたんじゃない?」

本当にそうだ。「ナナさんにもそんな悩みがあったなんて!」と、不思議とすらすらと言葉が出てきた。さっきまで、あんなに心の距離があったのに、今はすごくナナさんに親近感を抱いている。

「今度から、初回のお客さまにこうやって話してみなよ。お客さまより先に自分のことを打ち明けると、相手はKENに心を開いて好きになってくれるから」

ナナさんによれば、自分のことを打ち明けることを「自己開示」というらしい。自分の弱みをさらけ出すことで、相手は親しみを感じてくれるそうだ。たしかに僕自身のことを考えても、完璧でクールな人よりも自虐ネタも言えて人間味がある人のほうが親しみを感じる。

ただし、自虐は明るく笑えるもの限定。「どうせオレなんて……」みたいなグチっぽいものや、生い立ちに問題があるとか深刻すぎるものは、相手が反応に困ってしまうからNGとのこと。そもそも、相手に気に入ってもらうことが目的なのだから、当たり前といえば当たり前か。

「ちなみに、ナナさんはまったくぽっちゃりキャラじゃないけどね」と、ここまで黙って僕らのやりとりを聞いていたエリカがツッコミを入れてくる。

「うん、そこKENが否定しないから気になってた」とナナさん。

急いで言い訳しようとすると、「冗談だから!」「KENはすぐ本気にするからいじりがいがあるね」と2人はニヤニヤしている。僕も思わず吹き出し、3人で顔を見合わせて大笑いした。

新しい名前は「袋小路ケン」

お客さまにひたすら無視されていた僕に、こんなふうにお客さまと笑い合う日がやってくるなんて。ふと視界がぼやけた。いつの間にかウルウルきてしまっていたらしい。こんなことくらいで泣いたなんてことがバレたら、ナナさんを失望させてしまう。涙がこぼれないよう天を仰ぎ、再びナナさんを見ると、エリカと何やら話し込んでいる。

「じゃあ、KENなんてカッコつけた源氏名ともサヨナラだね」

そう言うとナナさんは内勤にペンを持ってこさせ、最初に渡した僕の名刺の裏にさらさらと何かを書きつけた。のぞき込むと、「袋小路ケン」と書いてある。

「袋小路ケン……、これって?」

「今、エリカと考えたんだけど、入店して3カ月経っても指名が取れなくて、もう後がない、行き場がないってことで、袋小路ってつけてみたんだけど。これならインパクトがあって覚えてもらいやすいし、何よりケンのキャラクターに合ってるよ」

カッコいい「KEN」に少しだけ未練はあるけれど、たしかに「袋小路ケン」のほうが僕には合っている。もしかして新しい扉が開いたのかも……。袋小路の先に明るい未来が待っているような気がする。あとは勇気を出して飛び込むだけだ。

<構成/伊藤彩子>

▶︎第11回は2020年1月29日(水)の公開予定です。

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この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito