今日中に会議資料を作らないといけないのに、うまく進まない。とりあえず上司に頼まれていたリサーチ業務でもやるか。あ、メールも返さないと……。気づけばもう定時。やばい、まだ資料全然できてない!

今年こそは仕事のスピードを上げて、こんな状況を打破したい。でも、どうすればいいのかはわからない。

「実は私も、30歳まではそんな状態でした。でも、ちょっとしたコツで改善できますよ」と語るのは、『0秒で動け』(SBクリエイティブ)の著者であり、リーダーシップ育成のプロでもある伊藤羊一さん。

伊藤さんを変えた仕事のスピードを上げる方法を伺ってきました!

仕事が早い人はアウトプットに時間をかけない

伊藤羊一(いとう・よういち)。Yahoo!アカデミア学長、グロービス経営大学院客員教授などを務め、リーダー育成に携わっている。著書に『1分で話せ』『0秒で動け』『やりたいことなんて、なくていい。』など。

──2020年は仕事のスピードを上げたいんです! そもそも、仕事が早い人とそうじゃない人にはどんな違いがあるんですか?

伊藤羊一さん(以下、伊藤):大きな違いは、アウトプットまでのスピードです。仕事が早い人はどんなタスクに対しても「ひとまず自分はこう思う」という結論をすぐに出して、周りに意見を求めているんです。

──任されたタスクなら、周りに頼らず自分で結論を出さなきゃと思うのですが……?

伊藤:一人の頭の中で完璧な答えが出ることってほとんどないんです。日々の仕事も、自分なりの結論を出して、フィードバックをもらって、修正して、またフィードバックをもらって……というサイクルになっているはず。どれだけ時間をかけて考えたとしてもフィードバックをもらわないと仕事は進まないので、ひとまず自分はこう思うという「頭出しの結論」がすばやく出せるようになれば仕事のスピードは上がります。

──ひとまずの結論でいいんですね。でも、「もっと考えてこい!」と突き返されることはないんでしょうか?

伊藤:あまりにも甘い結論だったら突き返されてしまうかもしれませんが、きちんとした根拠があれば話は聞いてもらえるはずです。根拠のある「頭出しの結論」をすばやく出すために「スキル」と「マインド」の両面を伸ばす意識を持ってみてください。

──「スキル」と「マインド」? 詳しく教えてください!

伊藤:「スキル」は瞬時に根拠を導き出すための思考法で、「マインド」はすばやく結論を出すための経験則です。「スキル」のほうから説明しますね。

「頭出しの結論」に根拠を後付けする

伊藤:「スキル」を伸ばすには、思考法のひとつとして「ピラミッドストラクチャー」を知っておくといいですよ。「ピラミッドストラクチャー」とは、ピラミッド型で根拠と結論を整理する手法のことです。ただ、一般的にビジネススクールで教えるやり方と、私が実践している方法は、少し違っていて。

──どう違うんでしょうか。

伊藤:ビジネススクールの場合、「たくさんの事実をもとに根拠を考え、そこから結論を導き出す」という下から上に考えていくやり方を教えるのが一般的です。もちろんそれが正しい使い方なのですが、この方法だと結論を出すまでにすごく時間がかかるんですよ。

私が「早く結論を出す」場合は、「まず直感で結論を出して、そこに紐づく3つの根拠を後付けで考える」という上から下に考えていく手法を取っています。

──「結論」と「根拠」どちらから考えるかが違うんですね。

伊藤:そうなんです。たとえば、A案とB案のうちどちらを採用するかを決める場合は、直感で「A案がいい」と結論を出してから、「なぜなら、ユーザーが集まるし、誰もやったことないし、儲かるから」というように後付けで根拠を考えていくんです。何もないところから根拠を考えるよりも、結論を裏付けるための根拠を考えるほうが時間はかかりません。

──たくさんの事実を考慮してからじゃないと結論は出せないと思っていました。

伊藤:もちろんこのやり方には欠点もあって、自分の先入観で決めてしまいがちになります。ですが、「先入観で決めてしまう可能性がある」と意識したうえで、あくまで周囲からのフィードバックを得るための「仮結論だ」と考え、人の意見を謙虚に聞き入れる姿勢を持っていれば問題ないと考えています。

過去の経験を整理して判断軸を明確にする 

ホワイトボードを使いながらお話ししてくださった伊藤さん。学生時代の講義を思い出しました。

伊藤:次に「マインド」の説明をしますね。マインドには志、情熱、ぶれない心、などいろいろありますが、ここでいうマインドとは、過去の経験にもとづいた価値観のことで、「やりたい・やりたくない」を決める判断軸となるものです。

先ほどと同様、A案とB案のどちらにするか決める場合、過去にB案と同じような事例で、自分があまり乗り気になれず失敗した経験があれば、直感で「B案はやりたくない」と思いますよね。過去の経験を整理して判断軸が明確になっていると迷いがなくなるので、頭出しの結論を出すまでのスピードが早くなるんです。

──自動的にジャッジできるようにしておけばいいんですね! でも、主観的な意見だからこそ上司の反応が不安です……。

伊藤:「私はこう思う」という軸の上で「相手はどう考えるか」「自分の意見に同意してもらうにはどうすればいいか」を考えるのがいいですよ。

そのためにも、自分が出した結論をジャッジする人とのコミュニケーションを増やしてみてください。会議の時だけではなくて、普段から会話をたくさんするのがおすすめです。相手の判断軸がわからないから、「こんなことを言ったら反対されるんじゃないか」と怖くなるんです。

──確かに、相手の考えていることがわからないから意見を言いづらいという面はあります。

伊藤:ランチに行ったり雑談をしたりといったことを重ねるうちに、「課長は利益率を重視するから、その条件を満たした結論を出そう」といった対策も練れるようになるはずです。

苦手な仕事は習慣化して乗り切る

──苦手な仕事をサクサク処理する方法はありませんか? なかなかやる気が出なくて後まわしにしてしまうんですよね……。

伊藤:苦手な仕事は習慣化して乗り切るのがいいです。モチベーションを上げるのはあきらめましょう。

──えっ? やる気があれば仕事のスピードも上がるんじゃないんですか?

伊藤:やる気やモチベーションだけで人は動けないんですよ。だって苦手なことって、モチベーションを上げるだけでは克服できないじゃないですか。「毎日この時間に必ずやる!」と決めて、溜め込まないようにするのが大事なんです。歯磨きと同じです。毎朝、モチベーションを上げて歯を磨く人っていませんよね。完全なる習慣となっていると思います。歯磨きレベルで自動化できれば最高です。

──モチベーションに左右されないくらいの習慣にすれば良いんですね。

伊藤:苦手な仕事でも、取り掛かれば少しは進みます。溜めれば溜めるほど手を付けるのが億劫になるので、習慣化したほうが負担は減るんです。

私の場合、苦手な事務作業は眠くなりがちな昼過ぎにやるようにしています。どんな仕事も眠いとあまり進まないので、はかどらなくても自分を責めなくて済みますし(笑)。

震災がきっかけで、すぐに結論を出す大切さを認識

──伊藤さんご自身が、「すぐに結論を出してよかった」と思ったご経験はありますか。

伊藤:東日本大震災の時ですね。当時私は、オフィス家具や事務用品のデリバリーを行う東京の会社で、物流を担当していました。震災で物流機能が一時ストップしてしまいましたが、軍手やゴム長靴、台車など、被災地で役立つものを扱っていたこともあり、「一刻も早く物流を復旧させなければ」と思ったんです。

──確かにあの時、通販サイトは軒並み営業停止していましたよね。

伊藤:これまでに経験したことのない大規模災害で、何が正解かもわからない。それでも、とにかくすばやく判断をしなければならない状況だったので、必死に考えました。

どう考えてもロジカルな答えが出せなかったからこそ、すばやく動くには直感を信じるしかない、と気づいたんです。

──そこから考え方が変わったんですね。

「実は、すぐ動けるようになったのも最近なんです……」

伊藤:そうですね。30歳くらいまでは全然ちゃんとしていなくて、仕事を後回しにしてめちゃくちゃ怒られたこともありました。そんな私でも「スキル」や「マインド」を意識したり、苦手な仕事を習慣化したりすることで少しずつ変われたんです。無理にやる気を出す必要はありません。押さえておくべきポイントを実践すれば、仕事をこなすスキルは高まるはずですよ。

伊藤羊一(いとう・よういち)

ヤフー株式会社の企業内大学「Yahoo!アカデミア」学長として、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ系科目の教壇に立つほか、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター・アドバイザーを務める。

著書に『1分で話せ』『0秒で動け』など。近著『やりたいことなんて、なくていい。』(2019年12月14日発売)。

Twitter:@youichi_itou

取材&文/中村英里(@2erire7 )
撮影/金子山