目標を立ててもやる気が続かない、面倒に感じることほど、つい後回しにしてしまうといった経験、ありませんか?

今回お話を伺ったのは、スポーツメンタルコーチの鈴木颯人さん。脳科学と心理学、コーチングを掛け合わせたオリジナルメソッドで世界チャンピオンを5人輩出した“やる気を出させる名人”です。

そんな鈴木さんに「今年こそ目標を達成したい!」と、意気込むすべての人に向けて、やる気の継続法を教えてもらいました!

“数”ではなく“時間”を目標にすると続けられる

鈴木颯人(すずき・はやと)。日本スポーツメンタルコーチ協会代表理事。脳科学と心理学、コーチングを掛け合わせた「勝負ドコロで馬鹿力を発揮する」オリジナルメソッドを構築。野球、サッカー、水泳、柔道など、一流を目指すアスリートのメンタルコーチとして活躍している。

──今日はやる気の継続法についてお伺いしたいのですが、「年始めに決めた目標が3日坊主で終わってしまう」そんな人でも目標を達成できるようになりますか?

鈴木颯人さん(以下、鈴木):なりますよ(笑) モチベーションが続かない人は、目標達成にふさわしい習慣が身についていないだけなんですよ。

──ふさわしい習慣ですか?

鈴木:たとえば、腹筋を毎日続けるという目標を立てたとしましょう。そこからさらに細かく目標設定をするなら、どうしますか?

──1日腹筋を100回するとかですかね?

鈴木:残念ながら、それだと3日坊主で終わってしまいますね(笑) 実はそこに目標設定の落とし穴があるんです。

日本人は何か努力をしようとした時に、「数」を目標にしがちな傾向があります。1日100回腹筋すると決めたら、数をこなすこと自体が目標にすり替わってしまうんです。

すると、数をこせない自分が嫌になる。モチベーションが続かなくなってしまうわけです。

──ど、どうすれば続けられるようになるんでしょうか。

鈴木:「数」ではなく「時間」で目標を設定してみてください。腹筋なら1日10分。読書なら、まずは1日5分本を開くところから始めてみる。一気にハードルが低くなったように感じませんか?

──何だかできるような気がしてきました。

「究極、1日1分でもいいのでめげずに続けてみてください」

鈴木:時間で区切ると数を気にしなくなるので、続けることが苦にならないんです。少しずつ慣らしていくことで、習慣化できるようになりますよ。

──ではギリギリまでやる気が出ない、つい後回しにしてしまう人はどう改善したらいいでしょうか。

鈴木:気が向かない時は、思い切って休みましょう。

──えっ、それまでサボっていても休んでいいんですか?

鈴木: たとえば、仕事の締め切りが明日に迫っているのにどうしてもやる気が出ない。そんな時は、カフェに行ってのんびりしましょう。コーヒーを飲み終わる頃には、「そろそろやらないと……」と、焦る気持ちと一緒にやる気も湧き出てくるはずです。

──なるほど。それでもダメな場合はどうすれば……!

鈴木:荒療治ですけど、締め切り当日に無理やり予定を詰め込んでみたらどうでしょうか。できれば、プライベートで人と会う約束を入れるのがおすすめです。なかなかキャンセルしづらいですし、楽しみな予定があれば仕事もはかどりますよね。

「後回しを回避するためには、優しく自分を追い込んであげることがポイントです」

目的意識をハッキリさせるとやる気も力も出る

──これまで鈴木さんは多くのアスリートを担当されてきたと思うのですが、特に印象に残っている選手のメンタルコーチングについて教えてください。

鈴木:2016年に世界選手権で優勝した、空手の植草歩選手ですかね。帝京大学在学中に初めて出会ったのですが、当時彼女は大学卒業後に引退しようと考えていたんです。

──大学時代から第一線で活躍していた選手ですよね。なぜ引退を考えていたんでしょうか。

鈴木:2016年のリオ・デ・ジャネイロオリンピックで、惜しくも空手が公式種目に選ばれませんでした。当時彼女は24歳で、社会人としてその年齢で空手を続けるのは異例。完全にチャンスを失ったと思い、引退を考えたようです。そんなモチベーションだからライバル選手にあともう一歩というところで勝てずに、成績は伸び悩んでいました。

──目的意識を失っていたということでしょうか?

鈴木:そうですね。彼女が目的意識を取り戻せたきっかけは、空手が2020年の東京オリンピックの公式種目に選ばれたことでした。

同時に僕のメンタルコーチングを通して、目標を「勝つこと」ではなく、目標を達成するにふさわしい人である「空手を楽しむこと」に変えたんです。

すると、世界選手権と日本選手権を優勝、ワールドゲームズ連覇と、次々と結果を残せる選手に成長しました。

──すごい……それがメンタルコーチングの力なんですね。

植草選手から「今の自分は勝てるとしか思えません」と聞いた瞬間は、胸が高鳴りました。

鈴木:実は植草選手のように、競技として取り組んでいるトップ選手の中には目的意識がはっきりしない人も意外と多いんです。

──そうなんですか?

鈴木:周囲の期待や反応を気にして、選手としてあり続けざるを得ない状況の方に多いかもしれません。そういったモチベーションの選手は、必ず結果に現れています。

だから、僕のところに来てもらった時は必ずこう聞くんです。「競技を抜きにして、今やりたいこと、達成したいことは何?」って。

──皆さんどんな風に答えるんですか?

鈴木:中には、音楽をやってみたいという選手もいました。競技に集中しなければいけないという気持ちが趣味さえも楽しむ余裕を奪ってしまうんです。その選手は音楽を始めたことで、競技に伸び伸びと取り組めるようになって成績も上がったんですよ。

──相乗効果ですね。素晴らしい!

アスリートにとっては、東京オリンピックの存在が形骸化した目標になっていることも。選手が目標にしていなくても取材で必ず聞かれるので、嫌でも意識せざるを得ない状況になってしまうのだとか。

鈴木:アスリートに限らず、自分の意思で決めた目標だと思っていたことが実は外的要素で形成されている人は少なくないと思います。仕事で目標を決める時に、つい上司や周囲の目が気になって、求められていることを設定してしまった経験ありませんか? 自分の意思で目標を決めることが大切です。

結果にふさわしいメンタルを身につける

──確かに、外的要素で目標設定しているかもしれません。そう考えると、自分の意思で仕事の目標を設定するって、意外と難しいような気がしてきました。

鈴木:そういう時は、会社や上司から与えられた“表向き”の目標とは別に、“裏向き”の目標を決めることをおすすめします。

──裏向きの目標、ですか?

鈴木:裏向きの目標は、自分との約束です。できれば、考えるだけでワクワクするようなプライベートなことだと良いですね。旅行に行くとか何でもいいんです。自分の意思で目標を決めて達成することに意味があります。

──パッと思い浮かばない人はどうすれば?

鈴木:小さい頃にやりたかったことをリストアップしてみてください。そこから挑戦してみたいことが見つかるかもしれません。

また、表向きに付随したもうひとつの目標を設定するのもひとつの手です。50%くらいの力で達成できるものがベストですね。仮に会社で決めた目標をクリアできなくても、自分で決めたことを達成できていれば、そこでひとつ自信につながります。

「目標達成にふさわしいメンタルを持つことができれば、結果は後から必ずついてきます」

──自分のベストを尽くしてもなかなか目標達成できない場合はどうしたらいいでしょうか。

鈴木:望んだ結果を出した時に、自分がどういうメンタルを手に入れているのか。逆算して考えてみてください。

──成功した自分を想像するみたいな感じですか?

鈴木:たとえば、「今年は昨年比120%の売上を目指す」という目標を掲げたとします。その結果にふさわしい人はどういう人物なのか。積極性や平常心など、必要なスキルが見えてきます。

次にそのスキルに対して、今の自分に10点満点中で点数をつけてみましょう。そうすると「僕には積極性が足りない」と、改善すべき点がわかるはずです。

──なるほど。でも自己採点ってあんばいが難しいですよね。自信がなくてスキルを冷静に判断できなかったり、または過信して自己評価が高くなったり……。

鈴木:過信ぐらいがちょうどいいと思いますよ。過信しているかどうかを決めるのは、自分ではなく他人ですから。

「10点満点中、10点をつけたら過信を疑ってもいいかもしれません(笑)」

──最後に「今年こそ目標を達成したい」読者に向けて、メッセージをお願いします。

鈴木: まずは、自分の気持ちに素直になってください。今、本当にやりたいことは何ですか?

未来を決めるのは現状ではありません。常に「未来をどのようにしたいのか」想像し続けることが大切です。そこから、思い描いた将来にふさわしい自分が見えてくるはず。

目標が決まったら、努力する過程で成長していく自分をしっかりと受け止めてあげてください。金メダルを獲れるまで自分を認めてあげられないのはしんどいですから。

鈴木颯人(すずき・はやと)

1983年イギリス・ロンドン出身。スポーツメンタルコーチ。Re-Departure合同会社代表。日本スポーツメンタルコーチ協会代表理事。脳科学と心理学、コーチングを掛け合わせた「勝負ドコロで馬鹿力を発揮する」オリジナルメソッドを構築。野球、サッカー、水泳、柔道、京倫、卓球など、競技・プロアマ・有名無名問わず、一流を目指すアスリートのメンタルコーチとして活躍している。著書に『一流を目指すメンタル術』(三笠書房)、『最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす』(KADOKAWA)他。

Twitter:@HayatoSuzuki11

取材・文/文希紀 (@gigi_kikifumi )
撮影/小原聡太(@red_tw225