「私、失敗しないので」の決め台詞とともに、お茶の間をスカッとした気分にさせてくれたドラマシリーズ『ドクターX』。しかし、同作品を手掛ける敏腕ドラマプロデューサーの内山聖子さんは、「私、失敗ばかりなので」と語ります。

仕事ではミスを恐れてなかなか行動できないと悩みを抱える人も多い中、「失敗やムダこそ、成功に不可欠」という内山さんに、ずばり失敗しても打席に立ち続けることのメリットについてお聞きしました。

負け方のセンスを磨くのは2〜30代の失敗

内山聖子(うちやま・さとこ)。1988年、テレビ朝日入社。1995年からドラマプロデューサーとして、『ガラスの仮面』『黒革の手帖』『ドクターX〜外科医・大門未知子』などの数多くの大ヒットドラマを手掛ける。

──2004年に放送されたドラマ『黒革の手帖』以来、米倉涼子さんとタッグを組んでいますよね。長年一緒に仕事をしていると、ぶつかることもあったのでは?

内山聖子さん(以下、内山):彼女はハッキリと物を言う性格なので、衝突することは度々ありましたね。

以前、米倉さんと監督が揉めた時に、何だかその光景がおかしくて私が笑ってしまったことがあったんですが、その後彼女と顔を合わせるたびにしばらく怒られた記憶があります(笑)

──なんだか可愛らしいエピソードですね(笑)

内山:長く続く関係を築くためには、時には本音でぶつかることも必要だと思います。それは仕事でもプライベートでも。

──誰しもが米倉さんと内山さんのようなきちんと言い合える関係性だったらいいんですけど……。特に仕事上の関係では失敗すると修復するのが難しいからこそ、一歩踏み出せない人も多いのかなと。

内山:そうですね。人間関係の失敗は誰でも怖いと思います。でも、やがてキャリアを重ねて責任のある立場になった時に、失敗の経験値が物を言うことが多くあります。

歳をとると、負け方にもセンスが必要になってくる。ミスをしてもスマートにリカバリーをしなければならない。そのセンスを磨くのが、若い頃の失敗なんです。

「若い頃にがむしゃらに頑張って転び方を知っておくと、歳を重ねてケガの治りが遅くても立ち直りが早くなる。上手な転び方を知らない大人は、いずれ名誉を失墜することになりかねません」

失敗は信頼を勝ち取るチャンスでもある

──内山さんが今でも教訓にしている人間関係の失敗はありますか?

内山:付き合いが長くなってきた相手に対して「わざわざ言わなくてもわかるよね」というスタンスで仕事を進めてしまったことですかね。「何で俺に言わなかったんだ?」と、ひどくお叱りを受けました。

──相手に対して甘えがあったんですかね?

内山:新人の頃から可愛がってもらっていたので「私なら許される」と思っていたんです。これだけ周りに細やかに気を配って頑張っているんだから大丈夫“だろう”って。

──過信がミスを招いたんですね。

内山:気がついたら増えている贅肉みたいに、過信って注意しないと自分じゃわからないことが多いんですよね。人間関係の失敗は、10年築いた信頼も1日で壊れてしまう。

だからあれ以来、親しい方にお仕事をお願いする際は、その人に対する姿勢を1回、自分の中でリセットするようにしています。

──どんな風にリセットするんですか?

内山:普段はタメ口で話していても、ここぞという時は「内山です。よろしくお願いします」と、きちんと挨拶をする。そうすると、緩んでいた緊張感が少しずつ戻ってくるんです。

「基本的なことですが、勝手知ったる仲でも礼儀を大切にしています。相手に対する姿勢をリセットすると、過信のリバウンドを防げるんです(笑)」

内山:どんなに気をつけていても人間だから失敗することはあります。修復が難しい人間関係のミスは、リカバリーが早いに越したことはありません。

まずは、言い訳をせずに、誠実に謝ること。人は他人が失敗した時の言動ほど、注意深く見ています。「どんな風に対応するんだろう?」と周囲が注目する。だからこそ、リカバリー次第でさらなる信頼を勝ち取れる可能性もあるんですよ。

──もし内山さんが上司と揉めてしまったらどうリカバリーされますか?

内山:素直に謝った後、頃合いを見てご飯に誘います。これは私がたくさんの部下を抱えるようになったから言えることですが、部下から飲みに誘われて嫌な上司なんて、多分ひとりもいないんじゃないかな。

「なんだ〜誘ってくるなんて、あいつ珍しいな。気持ち悪い(笑)」なんて言いながら、きっと行ってくれるはずです。

忖度しない文化に触れて目覚めた“即行動のマインド”

──内山さんは子どもの頃から失敗を恐れずに行動できるタイプだったんですか?

内山:幼い頃は、どちらかというと物怖じするタイプだったと思います。早生まれだったので同世代より体格が小さくて、とにかくトロくて鈍くさかった(笑)

──何か変わるキッカケがあったんでしょうか。

内山:大学時代に経験したホームステイかな。子どもの頃お世話になった英語の先生が大好きで、昔から海外に憧れていました。

向こうに行って一番驚いたのは、お腹が空いてもご飯が出てこないこと。自分から主張しないと何も得ることができないんです。

──海外では、大人も子どもも同じ目線で会話しますよね。

内山:そう、忖度しないことにカルチャーショックを受けました。そこから「失敗を恐れずにとにかく言ってみよう、やってみよう!」精神が徐々に育っていったと思います。

「日本にいる時は家族に、そして学校に守られ、何もしなくても周りの大人が察してくれていました。多感な時期に忖度しない文化に触れられたことは大きかったですね」

責任感でガチガチな時は言い訳を作ってみる

──失敗した時の怖さといえば周囲の反応もそうですが、何よりも責任感に苛まれることだと思います。内山さんはそういう時、どんな風に自分と向き合っていますか?

内山:若い夫婦が愛娘を殺されてしまった実際の事件に影響されて作ったドラマ『つぐみへ…〜小さな命を忘れない〜』を撮影していた時、同じように悩んでいたことがありました。

とても重苦しい内容だったので、話数が進むごとにどんどんつらく苦しい気持ちになってしまって。営業部からも「ストーリーがつらくて売れない」という意見も出ていたんです。

──事実を基にしたストーリーだと一層のこと、重く響きそうですね……。

内山:精神的な重みに耐えきれなくなって、上司に思わず弱音をこぼしてしまったんです。「こんなつらい話、視聴者は見たくないかもしれない」って。

──どんな反応が返ってきたんですか?

内山:「大丈夫だよ。視聴者は1週間に1度しか見ないんだから心配しなくていい」って。その瞬間ハッとしました。ガチガチな責任感で凝り固まっていた私に、上司は言い訳を作ってくれたんです。

「この企画は失敗だったかもしれないと思っていました」 結果的には視聴者から大きな反響を呼び、スポンサーからは感動作と絶賛された。

内山:自分を追い込んでしまっている時は、他人から立ち直る言い訳を引き出してもらうのもひとつの手。居酒屋で相席をするようなノリで話を聞いてくれる人の方が、思わぬ言い訳をストンと作ってくれるかもしれません。

終わりの見えない失敗からは一度逃げてみる

──一瞬で終わる失敗もあれば、失敗続きの状態がずっと続いている、いわゆる「スランプ」状態に陥ってしまう人もいると思います。ヒット作を次々に手がけている内山さんも、そういった時期はありましたか?

内山:思いつくことが一切面白くないって時期がありましたね(笑) スランプの特効薬は、“逃亡”じゃないかな。先輩から「帰ってきたら、君の席はないかもね」と嫌味を言われたけど、不安な気持ちを押し切って長いお休みをもらったことがあります。

──それは結構キツい一言ですね……。

内山:当時はビクビクしていたけれど、振り返ってみたら全然大したことじゃなかった。誰かの言葉に傷つきそうになったら、自分のメリットがあるほうを信じればいい。鈍感になったほうが人生生きやすいです。

「今でもスランプを感じたり、イライラしたりする日は逃亡します。ドラマや小説で、フィクションの世界に没頭して嫌なことを忘れるんです。社会派やミステリーが好きだけど、最近はイヤミス(※)も読みます」ちなみに、最近読んで面白かったのは真梨幸子さん著の『3匹の子豚』だそう。(※)イヤな気分になる後味の悪いミステリーのこと。

──長期休暇をとってスランプは脱出できましたか?

内山:さっき大きいこと言っちゃったけど、当時は結局不安になって戻ってきたんです。でも、逃亡しなければ戻りたいとも思わないでしょ(笑)。 マインドを切り替えるためには、思い切って環境を変えることも時には必要なんです。

──最後に、失敗を恐れて行動できないと悩む読者にメッセージをお願いします。

内山:失敗ほど、わかりやすく経験値を積み上げていけることはありません。失敗すればするほど、仕事での立ち回りもリカバリーも上手くなる。若い頃にたくさん失敗した人は、信頼に足る人に成長します。

私は長年、米倉涼子さんと一緒にドラマを作ってきましたが、出会った頃の彼女は英語をまったく話せませんでした。でも、10年経たないうちに私よりも英語がペラペラになっていて、気づいたら日本人で45年振りにブロードウェイの舞台にたつ偉業も達成した。

月並みだけど、失敗を恐れずに行動した人だけが、大きなチャンスをつかめます。「私、失敗ばかりなので」と言える大人は、大門未知子(※)張りにカッコいいですよ。

(※)ドラマシリーズ『ドクターX』で主演の米倉涼子さんが演じる役名。

内山聖子(うちやま・さとこ)

1965年、福岡県出身。テレビ朝日・総合編成局ドラマ制作部・エグゼクティブプロデューサー。1988年、入社。秘書室に配属後、1993年から制作現場へ。1995年からドラマプロデューサーとして、『ガラスの仮面』、『黒革の手帖』、『ドクターX〜外科医・大門未知子』などの数多くのヒットドラマを手掛ける。著書に『私、失敗ばかりなので へこたれない仕事術』(新潮社)。

取材・文/文希紀 (@gigi_kikifumi )
撮影/小原聡太(@red_tw225