結果を出し続けるには、日々の成長が必要です。でも、自分で成長を実感するのは簡単ではありません。つい誰かと比べ、「勝った」「負けた」で一喜一憂してしまう……。

今回お話を伺ったのは、eスポーツ界の第一線を走り続けるプロゲーマーの梅原大吾さん。ゲームは勝敗ありきなイメージがありますが、梅原さんは「勝ち負けで成長を判断するのは危険」といいます。

では、どうやって成長を実感しているのでしょうか? 詳しくお話を伺いました。

追い詰められると力が出るから、プレッシャーは感じていたい

梅原大吾(うめはら・だいご)。日本人初のプロゲーマー。1981年、青森県生まれ。「世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマー」としてギネスに認定。現在はレッドブル、Twitch、HyperX、Cygamesの4社のスポンサード・アスリートとして活躍している。

──プロゲーマーの第一線を走り続けている梅原さん。トッププレイヤーだからこそ、プレッシャーに押し潰されそうになることもあるのではないでしょうか?

梅原大吾さん(以下、梅原):最近はっきりと自覚したんですけど、自分はどうも追い詰められるのが好きなんですよ。順風満帆すぎると生きがいを感じられなくなっちゃうんです。今は日本でもeスポーツに追い風がきてますが、昔の風当たりが強かった時期と比べたら物足りないなって思うくらいで。

──メンタルが強い……!

梅原:だから、プレッシャーにどう打ち勝つかはあまり考えてなくて。むしろある程度のプレッシャーは感じていたいと思っています。僕の場合、逆境の時に発揮するパワーみたいなものがあるんですけど、それはどう頑張っても平常時に出せないんですよ。プレッシャーがないと気が抜けてしまって、誰かが追い詰めてくれないとイキイキできないんです(笑)。

──市場が盛り上がったことで、ライバルも増えたと思うのですが、自分よりも上手な相手を見て、焦ったりはしないんでしょうか?

梅原:それもないですね……。むしろ「自分にはもっと成長できる余地がある」ってワクワクします。

「『もう選手として厳しいんじゃないか?』って思うほどワクワクするんです」

──えっ、ワクワク!?

梅原:大好きなゲームを仕事にしてしまったからこそ、成長し続けないといけないんです。

──好きを仕事にしたから? どういうことでしょう?

好きなことを嫌いにならないために、日々の成長を重視

梅原:プロになって1年半が経った頃、「今日はやりたくないな」と思うことが増えたんです。趣味でゲームをするのと、プロとしてゲームをするのって全然違ったんですよね。自分にとって仕事は食べるためにやるもの、そして僕の仕事はゲームをすることって方程式ができたばかりに、ゲームを嫌いになりかけたんです。

──でも、仕事である以上続けなければいけない状況だったと。

梅原:そうですね。プロゲーマーの仕事に人生をかけていたので、「この飽きはまずいぞ」と思いました。どうしたらいいかを考えた時に、何でもいいから毎日「今日は練習をやった意味があったな」とか「成長したな」と思えたら、モチベーションを維持できるのではと考えたんです。

──成長の実感が梅原さんのモチベーションを保っているんですね。

梅原:「ゲーム性がアップデートされる」「新キャラが出る」というような外部からの刺激に依存すると、飽きてしまう。だから、自分の内部から起こる刺激を作っていかないと、仕事として続けるのは難しいと気づかされたんです。

──でも、“成長”って自分で実感するのは難しいと思うんです。梅原さんは、どんな時に成長を感じるんですか?

梅原さんが成長を重視するのは、「趣味としての好きなこと」と「仕事としての好きなこと」とのギャップを埋めるためだった。

梅原:成長の種類は、大きく分けて2つあると思っています。まずひとつ目は「できなかった操作ができるようになること」です。麻雀や将棋と違って、格闘ゲームは「この技をやりたい」と思っても、レバーを操れなきゃ画面に反映できないんですね。ただ、自分のようにレバーの操作に慣れていると、結構早い段階でできないことがなくなってしまうんです。

──では、2つ目は?

梅原:シンプルに「知らなかったことを知ること」です。

──梅原さんほどのキャリアがあっても、知らないことってあるんですか?

梅原:ありますよ。たとえば、何回も戦っていると「攻めたほうが有効だと思っていたキャラだけど、実は守りのほうがうまくいくかもしれない」と新しい気づきがどんどん出てきます。少し検索すればざっくりとした攻略方法はわかりますが、そこまで細かい情報は出てきません。だから、そういう情報は自分が手作業で見つけていくしかない。

──知識をアップデートしていくんですね。

梅原:はい。ずっと同じキャラクターを使っていても、数年使っていると細かい情報が積み重なってキャラクターへの認識が変わるんです。だから、数年経つとキャラクターの動きもかなり変わっています。

勝ち負けと成長は結び付かない

「いかに細かい情報を積み上げられるかが、勝敗を分けるのかもしれません」

──成長を感じるのは、勝ち負けが決まった時だけではないんですね。

梅原:「勝った=成長」と単純に結びつけるのは、よくある落とし穴だと思っています。勝利を重ねると、自分はすごく強くなったと思いがち。でも、その勝利に先ほど話したような新しい情報や新しい刺激がない場合は、成長したとはいえないんです。

──では、負けた時はどう評価すればいいのでしょうか?

梅原:負けた時には、何がいけなかったのかを嫌でも考えさせられます。キャラクターが良くなかったのか、技術が足りなかったのか、判断を間違えたのか……。負ければ成長できるわけではありませんが、きちんと自分と向き合えば成長のきっかけになることは多いと思いますね。

──勝ち負けよりも自分と向き合うことで成長するんですね。

梅原:もちろん、勝ち負けも大事です。本番で相手を倒すことを目的に日々練習しているので。結果が出ていないのに「自分は成長しているからいいや」と思ってしまうのは危険です。

きちんと準備をすれば、緊張も乗りこなせる

──成長を実感できていると、自信が持てて過度な緊張も防げそうです。

梅原:実は結構緊張するタイプなんです。人前に出るのも得意じゃなくて。だからこそ、恥ずかしい振る舞いをしないようにすごく準備するんです。

──意外です! 準備で緊張は和らぐものですか?

梅原:和らげるよりは、「どうせ緊張してしまうから、なるべく準備をしておこう」って対処法なのかもしれませんね。心や頭が正常に機能していなくても、なんとか体を動かせるように覚え込ませておくんです。

緊張していても、ヘッドセットを付けると一気に集中モードになるそう。

──ものすごいプロ意識ですね。

梅原:実際に「あー、今日全然だめだったな」と思っても、後から見返すとしっかり動けていることもあるんですよ。それに、きちんと練習して「相手を越えた」と実感していれば、誰との対戦でもそんなに怖くなくなる。だから、準備はとにかく怠らないようにしています。

──トップランナーの梅原さんが練習の大切さを話すと、重みが違いますね。やはり相当な練習量をこなすんですか?

梅原:うーん……。ほとんどの人は練習の量で安心しようとしますよね。「こんだけやったんだからきっと大丈夫だろう」って。もちろん、それは間違いなく効果的だと思います。でも、時として逆効果になることもあるので、練習量に固執しすぎないようにはしています。

質が高ければ、練習時間は一日30分でもいい

──えっ、練習量が逆効果になることもあるんですか?

梅原:プロ1年目の時、自分の好きなことが仕事になってやる気に満ち溢れていたんです。それで、一日16~18時間くらいゲームをやって、3時間くらい寝て、また目が覚めたらゲームをやって、という生活を送っていました。

──一日のほとんどがゲーム……。

梅原:一時たりとも休んではいけないと思っていたんです。そんな練習量だったから世界大会では優勝できたんですけど、無理のしすぎでガタがきちゃって。その時はゲーム画面を見るのも嫌だったし、レバーに触るのも気持ち悪かったです。

──練習のしすぎが支障をきたしたんですね。

「やりすぎると前に進めなくなることもあるんだな、と実感しました。」

梅原:「これはもう仕事できなくなっちゃうな」と思いました。その時に、どんなに気持ちが前に向かっていても、頑張れる限界があるって気づいたんです。プロゲーマーにとって、ファンや観客が見て楽しいと思えるプレイができれば、練習時間が18時間だろうと30分だろうと関係ないわけです。だから、練習の量を増やすんじゃなくて、練習の質を高めるほうが大事。

──意味のある練習を積み重ねていけばいいんですね。

梅原:勝ち負けのある世界なので、全員が気持ちよく成果を出すのは無理でしょう。ただ、そういう世界で最後に勝ち残る人は、いつだって地道な努力ができる人なんです。でも、僕が見てきた範囲では、地道な努力ができる人ってほとんどいません。だから、歩みは遅くても少しずつ前に進んでいくことが大切だと思います。

なかには地道な努力を軽く見る人もいるかもしれませんが、「自分が前に進んでいる」と実感できていれば、周りからどういわれようとも気になりませんよ。

梅原大吾(うめはら・だいご)

1981年、青森県生まれ。プロゲーマー。14歳で国内一、17歳で世界一の称号を獲得。2010年に米企業と契約を結び、日本人初のプロゲーマーとなる。「世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマー」としてギネスに認定。現在はレッドブル、Twitch、HyperX、Cygamesの4社のスポンサード・アスリートとして活躍している。著書に『勝ち続ける意志力』、『勝負論』などがある。

Twitter:@daigothebeastJP

取材&文/於ありさ(@okiarichan27
撮影/山下亮一