「自分が休めば、同僚の負担が増えて迷惑をかけてしまう」「みんな頑張っているのに、自分だけ休むわけにいかない」。こんなふうに休む勇気を持てず、忙しさに流されて自分を疎かにしてしまっていませんか?

今回、お話をお伺いするのは、34歳で脳梗塞を経験された、元テレビ東京アナウンサーの大橋未歩さん。がむしゃらに仕事に打ち込んでいたあの頃を振り返りながら、8カ月間の休養を通して変化した働き方や人生観についてお伺いしました。

キャリア迷子になっていた34歳で脳梗塞に

大橋未歩(おおはし・みほ)。フリーアナウンサー。2002年テレビ東京に入社。『やりすぎコージー』を始めとするバラエティー、スポーツ、情報番組を中心に多くのレギュラー番組にて活躍。2017年にテレビ東京を退社しフリーで活動開始。現在、TOKYO MX『5時に夢中!』他に出演中。2018年からパラ卓球アンバサダーを務めている。

──大橋さんは34歳の時に脳梗塞を経験されていますよね。倒れる以前に何か予兆を感じることはなかったのでしょうか。

大橋未歩さん(以下、大橋):それがまったくなかったんです。健康診断も毎年受けていて異常はありませんでしたし、本当に突然のことでした。スケジュール的にもちょうど、2012年のロンドンオリンピックの取材が終わった後で、そこまで忙しくなかったんですよね。

──お休みもきちんと取られていた?

大橋:ちゃんと週休2日でした。倒れた日もちょうどお休みで、自宅でデスクワークをしていたんです。突然、左手の感覚が麻痺して、ガクンと床に倒れてしまって。15分間ほど意識が朦朧として、救急車で運ばれた病院で「脳が4カ所死んでいる」と言われました。

──4カ所も……! ひとつ気になったのですが、お休みなのに自宅でもお仕事をされていたんですか?

大橋:あの頃は、常に仕事について考えていましたね。贅沢な悩みだと思うのですが、オリンピックキャスターやバラエティ番組への出演など、アナウンサーとしての夢をすべて実現できたので、目標を見失ってしまっていたんです。

加えて、当時出演していたスポーツ番組を後輩にバトンタッチしたばかりの時期で。次の目標も見つからない上に、スケジュール帳に余白があることが怖くてたまらなくて、お休みの日もがむしゃらに仕事の準備をしていました。

──週休2日でも、全然休まっていなかったのかもしれませんね。

「目標設定はやめた」。楽しんでやれば自然と努力できている

休養することで、キャリア迷子になっていた思考も整理できたそう。

──脳梗塞で入院後、8カ月間の休養をとられていましたが、お休みされている間仕事から離れて不安に駆られることはありませんでしたか。

大橋:休養中、自分と向き合うために日記を書いてみたんです。それでわかったのが、自分がいなくても、社会は差し障りなく動いているということ。社会から取り残されたような疎外感を覚えたことはありましたが、でもそれは単なる承認欲求で、悲観することじゃない。むしろ欠員がいても回るのが正常な組織の状態なんですよね。

──なるほど……。ちなみに脳梗塞を経験されて、一番大きく変わったことは何ですか?

大橋:人生の優先順位が明確になりました。今は命と健康が一番。それまでは我慢と根性が美徳だと思っていました。苦しい思いをしていないと、努力していないんじゃないかと思ってしまう自分がいて。

──わかります。そうやって自分を追い込んでしまうんですよね。

大橋:脳梗塞になる前は、どんなことでも努力でなんとかなると信じていました。でも、人の生き死にだけは努力ではどうすることもできない。

それだったら、生きている今日この瞬間を目一杯楽しくいきたいなと思ったんです。だから、思い切って目標を立てることをやめました。そのほうが私には合っているみたいで、以前より明日が来るのが待ち遠しいというか“今を生きている”実感があります。

楽しいことに飛びつくと、そこからまた新しく楽しいことの扉が開く。楽しさの自転車操業みたいな感じです(笑)

──目標を立てないって斬新です! でもゴールがない道のりを歩くようで少し不安な気もします。

大橋:目標がないと何も成せない気がする方もいるかもしれませんが、自分が楽しいと思えることに夢中になっていると知らず知らずのうちに努力もしているんですよね。

──目標を立ててタスク管理することで、仕事量を調整できる面もあると思います。成り行きに身を任せていたらキャパオーバーになってしまって結果休めない。なんてこともありそうですが……。

大橋:実は今、私もそうなりつつあるんです。以前の私だったらきっと無理して過度に仕事を入れていただろうなと思います。

今は迷ったら、自分がいかにワクワクできるかを基準に取捨選択するようにしています。特に初めての経験には心を動かされますし、心が動かない仕事はお断りさせていただいています。

思い切り遊んだ3週間の休暇で生まれた自信

大橋さんの場合は、頭痛の頻度や肌荒れが疲れているサインなのだとか。

──大病を経験されて体調管理にも敏感になったと思うのですが、今はどんなことに気をつけていますか。

大橋:体の声をきちんと聞くようにしています。以前は「気合いで乗り切れるだろう」と思って多少つらくても無理をしていましたが、病気をして体は消耗品だと痛感したので、違和感を放置しないようにしています。

──以前と比べてお休みは意識的にとるようになりましたか?

大橋:そうですね。今は、お休みの日に仕事のことは一切考えず、全力で遊ぶようにしています。昨年は3週間の長期休暇を取って、夫とアメリカにキャンプに行きました。4000m以上ある山を途中高山病になりながらも1日8時間くらいかけて歩いたんです。

──休暇の取り方もストイックですね。

大橋:めちゃくちゃしんどかったですけど、もうダメだと思っていても前傾姿勢になると一歩ずつ前へは進めるんですよ。それを繰り返していたら、いつの間にか峠を越えられていて。

そのとき、人生も一緒だなと思ったんです。以前は遠くの目標ばかり気にして不安になっていたけれど、目の前のことに集中して進めばいつの間にかゴールできるんだなと。

「以前はお休みの日も何か仕事に繋がることをと必死になっていましたが、全部忘れて思いっきり遊んだほうが意外と仕事に結びつくんですよね。登山の話もラジオで何回使わせてもらったかわかりません(笑)」

大橋:実は担当の先生曰く、私は脳梗塞の後遺症がたまたま残らなかっただけとのことでした。それで障害者と健常者の境界線はすごくあいまいだなと感じて、パラスポーツに興味を持つようになったんです。

──今年は東京パラリンピックが開催されますよね。パラスポーツは正直どう観たらいいのか悩むことがあります。同情の目で見てしまっていないかなと考えてしまうこともあって……。

大橋:それは幼い頃に受けた教育が原因かもしれません。みんなとどこか違う子は、なかよし学級に通っていた。区別することを無意識に学んでいたんです。

──言われてみると確かにそうかもしれないなと思います。

大橋:オリンピックと同じように、つまらなかったらつまらないと言ってもいいですし、無理に構えて観る必要はありません。私はパラスポーツを、福祉ではなくエンターテインメントとして楽しんでくれる方が増えたらいいなと思っています。

たとえば、パラ卓球は勝つために相手の障害を徹底的に攻めることがセオリーなんです。だから会場に入ってお互いの障害を観察するんですね。「障害を狙ってやろう」という執念は生々しくて人間の迫力を感じます。そういうパラスポーツならではの面白さをひとりでも多くの人に知ってもらえたら嬉しいですね。

──東京パラリンピックをきっかけに見方が変わる人が増えるといいですね。最後に「休む勇気が持てない」Dybe! 読者に向けてメッセージをお願いします。

大橋:毎日、お仕事を頑張っている皆さんは本当に素晴らしいと思います。お疲れさまです! でも、正直あなたがいなくても社会は回っていきます。だからこそ、誰のものでもないあなた自身の人生を生きてほしいです。

休むことで周囲に迷惑がかかることを懸念されているかもしれませんが、あなたが休めば他の誰かも休みやすくなるかもしれない。あなたの強い責任感を、何に対して発揮するのか、あなた自身が決断できるよう応援しています。

大橋未歩(おおはし・みほ)

1978年、兵庫県出身。フリーアナウンサー。2002年テレビ東京に入社。『やりすぎコージー』を始めとするバラエティー、スポーツ、情報番組を中心に多くのレギュラー番組にて活躍。2017年にテレビ東京を退社しフリーで活動開始。現在、TOKYO MX『5時に夢中!』やBSスカバー『PARA SPORTS NEWSアスリートプライド』に出演中。パラ卓球のアンバサダーやパラ応援大使を務め、エンターテインメントとしてのパラスポーツの面白さを普及している。

Twitter:@MIHO_OHASHI815

取材・文/文希紀 (@gigi_kikifumi )
撮影/小原聡太(@red_tw225