元No.1ホストの「心をつかむ心理術」がストーリーで学べる【連載小説】

さえない自分を変えたくて、夜の世界に飛び込んだ主人公・海藤恵一(源氏名はKEN)。指名ゼロの日々から抜け出したKENに、以前のバイト仲間から忘年会の誘いが。大好きだけどまともに口も聞けなかった彼女と半年ぶりに再開することに。

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営業とわかっていてもLINEをもらうとうれしいワケ

まずい。寝坊したかもしれない。あせって枕もとのスマホを見ると、すでに15時を過ぎている。慌ててカレンダーアプリで確認すると、「休み」という文字が目に飛び込んできた。

そうだ、今日は久々の休みだったんだ。昨日もいつものように、店が午前1時に終わり、ミーティングや掃除を終えて家に帰ってきたのは朝の5時頃だった。いつも7時頃寝て昼過ぎには起きるようにしているが、やっぱり5時間睡眠はきつい。だから、休みの日は際限なく寝てしまうことが多い。起きたらすでに夜……ということもめずらしくない。

でも、ホストは寝起きでもボーっとしてはいられない。お客さんからのLINEに返事をするのも、営業LINEを送るのも仕事のうちだ。

この前、店に来たシステムエンジニアのキャバ嬢・杏さんによれば、人は接触回数が多い相手に好意を持ちやすい傾向があるという。これは「ザイオンス効果」といって、キャバ嬢やホストの間では常識とされているらしい。

昔は「どうせ営業でしょ? そんなLINE送っても意味あるの?」と思っていたけれど、朝の「おはよう」、夜の「おつかれさま」という1日2回の営業LINEは思った以上に効果がある、と杏さんは力説していた。

そう考えると、まさみちゃんとは半年近く会っていないから、まったく忘れ去られているかもしれない……。

テレビ局のバイト仲間から届いた忘年会の誘い

LINEをチェックしてみると、まだ指名客の少ない僕に来ていたメッセージは1通だけだった。少し落胆しつつ、ベッドに寝転がったまま誰からのメッセージか確認してみる。それは、テレビ局のバイト仲間のグループLINEだった。

そこには、「忘年会開催のお知らせ」と書かれていた。12月の第1土曜日の18時から、会場は恵比寿の居酒屋。7月に『ペガサス』で働き始めてから、毎日無我夢中だったせいか、時が経つのが異常に早い。もう忘年会の季節なのか……。

20人ほどいるグループのほとんどが、すでに出欠の返事をし終えていた。自然と目がまさみちゃんの返事を探してしまう。

「連絡ありがとう。30分くらい遅れるけど出席します。久々に会えるの楽しみにしてるね!」

まさみちゃんも行くなら、何が何でも行くしかない。店のほうはなんとかなるだろう……。

就職が決まったみんなはすっかり落ち着いていた

指定された居酒屋に18時ぴったりに入っていくと、すでに席に着いている何人かがこちらを見て目を丸くしている。そうか。金髪にしてから、バイトには一度も顔を出していなかったんだ。

「お前……どうした?」

そう声をかけてきたのは、バラエティ番組のADに命令されて、真冬の海岸まで一緒に貝殻を拾いに行ったヒロトだった。長めの茶髪にパーマがトレードマークだったはずなのに、就活仕様のすっきりした黒髪・短髪になっている。ほかのメンバーも同じように、みんなすっかり落ち着いた社会人風のいでたちだ。

「いやー、超サイヤ人になりたくてさ」と、『ペガサス』で金髪にした理由を聞かれた時の鉄板ネタを口にしてみると、ドッと笑いが起きた。

「キャラ変わったね~」と口々に声をかけてくるも、この髪を見て空気を読んだのか、誰も「就職はどこに決まったの?」はもちろん、「就活どう?」とも聞いてこない。それでも仲間の話題は、自ずと内定者懇親会や入社前研修のことになっていく。話に適当に相づちを打ちながらも、目はどうしても店の入り口へ吸い寄せられてしまう。

気がきくようになったのはホストクラブで鍛えられたおかげ

何回、店に入って来る人をチェックしただろうか。19時過ぎ、ついにまさみちゃんがやって来た。顔を見るのは実に半年ぶりだ。

「相澤さん、久しぶり! 飲み物、何にする?」

幹事でもないのについ声をかけ、そそくさと自分の隣にまさみちゃんの席を確保する。こういう素早さも、以前の僕にはなかった。ホストクラブでナオヤさんやナナさん、杏さんたちに鍛えられたおかげだ。

「あ、海藤くん、元気だった? 金髪似合うね~。ここ、いい?」

まさみちゃんは僕を見るなり、金髪を褒めてくれた。腫れ物に触るような反応の周囲と比べて、気持ちいいほどあっさりしている。見た目やスペックで人を判断しない、彼女のこういうところが好きなのだ。

コートを脱いだまさみちゃんは、黒のスキニーデニムにざっくりしたブルーのニット姿だった。スタイルがいいから、こういうシンプルなコーディネートでも華やかに見える。でも、僕が知っているまさみちゃんよりも少し表情が暗いようだ。

「ビールと甘いのどっちがいい? それともお酒が厳しかったら、あったかいウーロン茶とかもあるよ」

少し疲れているように見えたから、ホッとひと息ついてほしかったのだ。

「……じゃあ、あったかいウーロン茶にしようかな」

そう言って、まさみちゃんはウーロン茶を頼んだ。

「では、まさみちゃんが来たところでもう1回、乾杯!」と、バイト仲間の盛り上げ役、ヒロトの掛け声が響きわたる。

歌舞伎町をパンツ1枚で歩けたなら、何だってできる。

最初こそ元気がなさそうに見えたまさみちゃんだったけど、バイトの思い出をみんなと楽しそうに話している。

寒そうにしていたまさみちゃんのために店内の温度を上げてもらったり、トイレまで案内したり、料理やデザートを追加でオーダーしたり。ヘルプホストばりに忙しく立ち働いてしまい、せっかく隣に座ったのにろくろく話せないまま終わってしまった。

結局、まさみちゃんはヒロトと楽しそうに肩を寄せ合って笑い合っている。2人の距離が近すぎるような気がするが、気のせいだろうか。

店を出ると、まさみちゃんは店の前で固まって話し込む輪の中に加わらず、「またね」と声をかけて、足早に駅の方へ歩いていく。

「相澤さん、待って!」

慌てて後ろから声をかけ、まさみちゃんに追いついたのと同時に、車が猛スピードで横を走り抜けていった。

「あ、危ないからこっちを歩きなよ。研修で忙しいと思うけど、今度、息抜きにごはんでも行かない?」

まさみちゃんを歩道側に寄せ、自分は車道側を歩きながら、どうにか会う約束を取り付けようと試みる。パンツ1枚で歌舞伎町を歩くことを考えれば、ごはんに誘うくらいは何でもない。

「来週の金曜日なら、研修もバイトもなくて空いてるよ。ただ、土曜日は内定者同士でディズニーランドに朝から行くことになってるから、遅くまではいられないんだけど」

しょっぱなから「2軒目は行かないよ」とクギを刺された気もしたが、とにかくあのまさみちゃんとデートにまでこぎつけられたんだから夢のようだ。

ヒロトのような生粋のモテ男にはなれないけれど、ホストクラブでの経験も無駄じゃなかった。冷たい風に吹かれながら、「デートはどこの店にしようか。グルメなナオヤさんに相談してみようか」とあれこれ思いをめぐらせながら一人家路についた。

<構成/伊藤彩子>

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この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito