2000年に浦和レッドダイヤモンズに入団して3年間キャプテンを務め、日本代表選手としても活躍した鈴木啓太さん。2015年の現役引退を機に、AuB(オーブ)株式会社を設立しました。アスリートの便から検出した腸内細菌を研究して得たデータをもとに、コンディショニングサポート事業やサプリメントの開発を行っています。

サッカー選手から起業家へと大きなキャリアチェンジを遂げましたが、創業当初は腸内細菌の知識もビジネス経験もまったくのゼロで「人に頼ってばかりだった」そう。周囲の力を借りどのようにしてビジネスを導いてきたのか、お話を伺いました!

腸でコンディションを整えていた現役時代

鈴木啓太(すずき・けいた)。1981年、静岡県生まれ。2000年に浦和レッドダイヤモンズに入団。ベストイレブンに2度選ばれ、オシムジャパンで唯一全試合スタメン出場を果たすなど活躍。2015年10月にAuB(オーブ)株式会社を創業。

──腸内細菌ってかなりニッチな分野だと感じています。ビジネスを立ち上げようと思ったきっかけは何だったんでしょうか?

鈴木啓太さん(以下、鈴木):調理師をしている母親の口癖が「人間は腸が一番大事」だったんです。その影響もあって、現役時代はサプリメントを飲んだりお腹にお灸をしたりと、腸のケアでコンディションを整えてきました。

──お灸まで⁉ 現役時代から腸を大切にしていたんですね。

鈴木:そうなんですよ。そんな中、トレーナーを介して便の研究をしている方と会う機会があったんです。いろいろ話を聞いて「アスリートの腸内細菌を調べたら面白いのでは」と、どんどん興味が湧いてきました。それが最初のきっかけですね。

──そこから会社を立ち上げるまでの経緯を教えてください。

鈴木:実はその方に会う少し前から、不整脈で思うようにプレーできない状態が続いていたんです。現役引退を考えていたタイミングでの出会いだったので、不思議な巡り合わせを感じて。その日のうちに「会社を立ち上げよう!」と一念発起しました。

初めは知識ゼロ。周りがアイデアの実現を手伝ってくれた

会社について語る姿は、「元サッカー選手」ではなく「起業家」そのもの。

──サッカー選手から起業家って、大きなキャリアチェンジですよね。当初、腸内細菌や経営に関する知識はどのくらいあったんでしょうか。

鈴木:まったくのゼロでした。

──ゼロ⁉

鈴木:「アスリートの便を調べたら、こんなことが実現できるんじゃないか」というビジョンはあっても、そのビジョンを達成するために、具体的にどんな研究をすればいいのか、どのくらいの人数の組織を作り、どうやって収益を上げるのかという部分はまったく想像がつかなかったんです。

──足りない部分はどうやってカバーしていったんですか?

鈴木:まずは、「こんな事業をやりたいから協力してほしい」と各方面に呼びかけました。そしたら、新規事業の立ち上げ経験がある方やスポーツトレーナー、腸内細菌の専門家など、経験と知識がある方が集まってくれたんです。その方々が「会社を立ち上げるには何をしなければならないのか」「ビジョンを実現するにはどんな事業・研究に取り組めばいいのか」を明確化してくれて、進むべき道が定まりました。

──経験と知識がある方が具体案を考えてくれたんですね。

鈴木:当時サポートしてくれていた方々に怒られながら、失敗を重ねつつやってきたんです。その過程で、自分自身も知識を深めていくことができました。最初のうちはビジネスアイデアを聞かれても、「わからないけど気合い入れてやります!」なんて答えていたんですよ(笑)。でもそんな時に、厳しいことを言いつつも具体的なアドバイスをくれる人たちが周りにたくさんいたんです。

起業に「気合いで頑張る」は通用しなかった……。

──厳しい意見をくれる方って貴重な存在ですよね。

鈴木:厳しいことを言うのって、すごくエネルギーを使うじゃないですか。それをあえて言ってくれる人が周りにいるのは、すごくありがいことですね。今もまだまだ足りない部分はたくさんあるので、走りながらずっと学び続けている状態です。

──「もっと知識をつけてから取り組もう」よりは、「やりながら学んでいこう」との考えだったんですね。

鈴木:わからなくてもとりあえずやってみる主義なんです。食べ物でも、食べてみなければ好きかどうかわかりませんよね? 同じように仕事も、やってみなければ得意か不得意かわからないと思うんです。

──知識があると逆に難しさを知ってしまって、チャレンジしにくくなる場合もあります。

鈴木:サッカー選手を目指そうと思った時も同じでした。プロになれる確率やプロとして活躍する厳しさを前もって知っていたら、踏み込めなかったかもしれません。

知識を蓄えるのも大切なことですが、新しいことにチャレンジする時には、思い切りも大事なんじゃないかなと。「死ななきゃいいか!」くらいの気持ちでとりあえずやってみるようにしています。

ビジネスの“いろは”がわからなくても、誰かが助けてくれる

──特に「これがわからなくて苦労した」ということはありますか?

鈴木:「これがわからなかった」というよりも、ビジネス経験がないので何もかも初めてで、わからないことだらけでした。それこそ、最初はプリンターの使い方もわからなくて。

「実は、今もうまく使えないんです」

──そこからのスタートだったんですね……!

鈴木:社内のメンバーはビジネス経験が豊富な人ばかりなので、毎日が学びの連続です。特に学びになったのは、ゴールまでの戦略の立て方ですね。商談では事前に複数の案を用意しておいて、「この案では難しい」と言われたら、「ではこの別案ならいかがでしょう?」と、すぐに別の提案をできるようにしておくとか。

──商談ではよくある光景ですね。

鈴木:ビジネス的には当たり前でも、新鮮に感じることは多いです。あとは、目標を達成するために必要なタスクを細分化して、マイルストーンに落とし込むというタスク管理の方法もメンバーから学びました。

──サッカーとビジネスだと、畑がまったく違いますもんね。

鈴木:でも実は、振り返ってみると「これってサッカーでもやっていたな」と気づくことも多くて。サッカーは週に1回試合があって、次の試合までに反省と戦略を立てるというサイクルですが、ビジネスは、一年・半年・四半期など期間が長いので、最初はうまく置き換えて考えられませんでした。

──たしかに、ゴールを決めるまでの戦略を事前に複数練っておくなど、サッカーに通じるところはありそうです。

鈴木:社内のメンバーから学んだことをサッカー経験にうまくリンクさせながら、自分のものにしていきたいですね。

確固たる「理由」を持てば、人に頼るのも怖くない

──「頼るのが恥ずかしい」と感じてしまう人もいますが、鈴木さんは周りのサポートを上手に使いながらビジネスを進めているように感じます。

鈴木:頼るのが恥ずかしいなんて考えたことはありませんね。僕のモットーは“おんぶに抱っこ”なんです……というのは冗談ですけど、仕事って役割が分かれていると思うんです。

──役割?

鈴木:頼るべきところは頼りつつ、自分の役割をしっかりまっとうするのが大事なのかな、と。僕はファイナンスや人事、マーケティングに関してはプロじゃないから、得意な人に頼っています。その代わり僕にしかできない仕事もあるので、そこは全力で取り組みます。

──鈴木さんは会社の代表という立場ですが、ご自身の役割はどんなことだと考えているのでしょうか?

人に頼っていいところと、自分でやるべきところをきちんと判別するのが大切。

鈴木:僕の一番の役割は、「会社の夢を発信し続けること」です。会社の方向性をブレさせないための旗振り役というイメージですね。

ベンチャーなのでうまくいかないことも多いですし、目先の仕事に追われてしまうこともある。そんな状況でも「こんな世界を作りたい」「自分たちがやろうとしていることは、こんなふうに人の役に立つ」というのを、社内外へ広く発信していくのはとても大事だと思っています。

──旗が掲げられていると、助けてくれる人が集まってくるんですね。

鈴木:まずは自分の中でやりたい理由を明確にするのが大事です。自分が心の底から納得していなければ、「協力してほしい」と頼んだとしても、説得はできません。

──やりたい理由を明確にするための方法はありますか?

鈴木:僕がやっているのは、自分自身に「なぜやりたいのか?」と繰り返し問いかけることです。4〜5回「なぜ?」を繰り返して「こうだから」と言えるなら、「これは自分が本当にやりたいことだ」と腹落ちできて覚悟も決まります。

──理由を明確にする作業が、覚悟にもつながるんですね。

「僕は会社を動かすガソリンでありたいんです」と鈴木さん。

鈴木:「サッカー選手になりたい」と思った時も、「なぜ?」と自分に問いかけたんです。「ボールを蹴るのが楽しい」「ゴールを決めるとうれしい」などいろいろなことが浮かびましたが、どんどん掘り下げていくうちに、「小学生の時に、ゴールを決めた瞬間の母親の喜ぶ顔がうれしかったから」という理由に行き着きました。

──そこが一番の原動力だったんですね。

鈴木:周りには、「サッカー選手になんてなれる訳ない」と言われ続けました。でも、「自分のサッカーで誰かを喜ばせたい」という揺るがない思いがあったから、誰が何と言おうとサッカー選手になると決めて努力を継続できたんです。そうするうちに、少しずつ協力してくれる人が増えていきました。

──実際にサッカー選手になった鈴木さんが言うと、すごく説得力があります。

鈴木:会社を立ち上げてみて、「これってビジネスでも同じことだな」と気づいたんです。まずは自分の中に確固たる「やりたい理由」を持つこと。そうすれば、頼るのが恥ずかしいなんて思う間もなく、やりたいことに向かって突き進みたくなります。

「頼る」って、全然悪いことじゃないですよ! 実際僕も、現役時代から今までずっと、たくさんの人に頼って、支えられてきました。ひとりでできることには限りがあります。どんどん頼って、チームで限界を超えていく。それが、新しいチャレンジを成功させる鍵なんじゃないでしょうか。

鈴木啓太(すずき・けいた)

1981年、静岡県生まれ。2000年に浦和レッドダイヤモンズに入団。ベストイレブンに2度選ばれ、オシムジャパンで唯一全試合スタメン出場を果たすなど活躍。2015年10月にAuB(オーブ)株式会社を創業。アスリートの便から検出した腸内細菌を研究して得られたデータを元に、コンディショニングサポート事業やサプリメントの開発を行っている。

Twitter:@keita13suzuki

取材&文/中村英里(@2erire7 )
撮影/金子山