「常に全力の男」。ドラマや映画・舞台など幅広く活躍し続けている俳優・市原隼人さんにはそんな印象があります。

でも、仕事に本気を出し続けるのは簡単なことではありません。市原さんは、どうしてここまでストイックに取り組めているのでしょうか? 仕事にかける想いと本気を出すコツを伺いました。

本気を出すコツは「どんな山に登るのかを決める」こと

市原隼人(いちはら・はやと)。1987年、神奈川県生まれ。2001年に映画『リリイ・シュシュのすべて』で初主演デビュー。その後、映画・ドラマ・舞台へと活動の幅を広げており、2020年3月14日から公演の舞台『脳内ポイズンベリー』では主演の議長・吉田役を務める。

──市原さんは、常に熱量を持って仕事に取り組まれている印象があります。何か「本気を出すコツ」があるんでしょうか?

市原隼人さん(以下、市原):僕は何かを始める時、まずは「山」を決めるようにしているんです。

──山?

市原:「この仕事を通してどんなことを達成したいのか」をある程度決めておくんです。じゃないと、頑張るポイントがわかんなくなってしまうので。一生懸命やろうって取り組んでいても、何を頑張るのかがわかってないと、その気持ちがすごくもったいないじゃないですか。

──たしかに「頑張らなきゃ」って気持ちだけが空回りしていることはあります。

市原:現場ごとに目指すべきところは全然違うので、「役者」というひとつの総合芸術の中で、いろんな山に登っている感覚です。現場が変わると一緒に仕事をする人も変わるので、僕にとってのひとつの山は、会社員が部署異動になったり新しいメンバーとプロジェクトを組んだりするのと同じなんじゃないかなと思っています。

──「この仕事を終えた時どんなことをできるようになっていたいのか」を決めると、取り組む姿勢が変わりそうです。

市原:今回の作品『脳内ポイズンベリー』に関してもそうです。この作品を通して何を生み出すべきなのかを今まさに探しています。アラサー女性の強さや美しさ、刹那に変わっていく気持ちを描いているので、コメディとして笑わせるよりは、笑われるような感じにしたい。こちらとしては悲劇なんですけど、見る人からすれば喜劇に思えるような作品にできたらいいですね。

舞台『脳内ポイズンベリー』で市原さんが演じるのは、議長の吉田。携帯小説家・櫻井いちこの脳内で擬人化された思考が繰り広げる会議をまとめ上げる。

働く意味を考えたら、仕事に本気で向き合えるようになった

──市原さんは芸能活動が長いですが、昔から本気で仕事に向き合えていたんですか?

市原:いや、そんなことないですよ。業界に入った当初はお芝居に興味すらなかったです。眠れないくらい忙しかったりプレッシャーに押しつぶされそうになったりして、部屋の隅でシクシク泣いてたこともありました。

──それは意外です。何か仕事への姿勢が変わったきっかけがあったのでしょうか?

市原:20歳くらいの時だと思うんですが、この仕事をやる意味を改めて考えた時期があったんです。周りからどう見られるかよりも、自分のあり方に興味を持つようになって。その時に役者という職業の根源を考えたんです。

──職業の根源……。「何のためにこの職業があるのか」ということですか?

市原:そうです。何かしらの労働を通してお金を頂くことが目的なら、役者じゃない仕事をしてもいいじゃないですか。でも自分はこの仕事を選んだのだから、何のためにやっているのかを追究したいと思ったんです。

──その結果、役者の根源は何だと考えたんですか?

市原:表現し届けることです。僕の演技や出演している作品が、誰かの支えや人生の糧になっている。例えば、「今まで会話したことがなかった人に話しかけてみた」とか、「不登校だったけど頑張って学校に行ってみました」とか。

──それは、幅広い方に演技を通して作品を届けられる役者だからこそできることですね。

「ファンの方から見えない力をいただいているので、その恩返しの想いも込めて仕事に向かっています」

市原:他の誰でもない僕がやったことで、何かひとつ変わったことが生まれた、誰かの背中を押せたと知った時に、少しだけ今の仕事に自信を持つことができました。

──でも、どうして根源に立ち返ると働く意味を見出せたのでしょうか。

市原:世の中何においても決まりきった正解はないと思うので、「自分の職業はなぜ始まって、社会でどのように貢献していて、どうして確立していられるか」ってことを考えるのが大切だと思うんです。

──正解がないから根源を考える……? もう少し詳しく教えてください。

市原:例えば、日本のルールや秩序・規則も海外では正しくなくなることもありますよね。仕事でもそう。同じ役者という職業であっても、現場が変われば正解も変わる。会社員だって、上司が違うだけでやり方もやるべきことも変わるじゃないですか。だからこそ、物事の根源を考えるんです。そこを追及していくと、何のために頑張ればいいのかがわかるようになると思います。

──自分の中で自分の仕事をする意味を見つけるってことですね。

市原:そうですね。結局は、自分と向き合っていくしかないと思うんです。誰かの言葉を借りることもできますけど、自分の中から出てきた言葉で考えたほうが納得できます。だって、そこから歩み続けるにしても、別の道に行くにしても、進むのは自分自身じゃないですか。

「『周りがこう言うから』ではなく『自分はこう思うから』を持っておくと、強くなれるんです」

頑張り続けるには、仕事を楽しむスキルが必要

──頑張らなきゃいけないとわかっているのに頑張れないシーンって多々あると思います。市原さんはそういう状況をどうやって乗り越えてきましたか?

市原:頑張れない時は、頑張らなくていいと思います。でも、「自分の立ち位置を誰かが奪い取っていったらどう思うか」は考えたほうがいい。それが嫌なら、投げ出さずにやっていくしかないと思います。僕は誰にも自分の立ち位置を渡したくない。自分が好きなことならそう思えるんじゃないかと思います。

──もし誰かに奪い取られたら……。

市原:うまくいかなくても、あきらめるまでは失敗にならないですからね。でも、もがいている最中は何もわからないし怖いので、やり遂げられないのが悪いことだとは思っていません。

──何もわからなくて怖い状況でも、市原さんが前に進み続けられるのはどうしてでしょうか?

市原:突き詰めていくと、絶対に何かを見つけられると考えてるんです。どんな職業であっても、気づかない間に職人になっていく。僕自身、これまでいろんな仕事をしてきましたが、ひとつも無駄だったことはないと思います。どんな経験でも、積み重ねることに損はないはずです。

「どれだけ怖くても、踏ん張ったら見える景色があるんです」と語る市原さんの言葉は力強い。

──取り組み続けることが大事なんですね。

市原:結局、終えなければわからないことってたくさんあるんですよ。やっている最中は何もわからない。山の話をしましたが、その目的は山頂に行くためではありません。そのプロセスで試行錯誤を繰り返していくことが、その後の自分に影響を与えてくれるんだと思います。

だから何かを我慢してでもしんどくても、もう少しだけ目の前にあるものから目をそらさないでほしいです。そうやって向き合い続けていくうちに、僕は仕事を遊び場だととらえられるようになりました。

──突き進むことと仕事を遊びととらえることは、矛盾しているような……?

市原:苦しみながら突き進み続けるのはつらいので、楽しみながら頑張れるようになるのが大切だと思うんです。芝居でも取材でも、力の入れどころがわかれば他の部分で遊べます。瞬間瞬間ではオンモードのスイッチを入れますが、メリハリをつけないと僕もボロボロになってしまうので。いろんな山を登り続けるうちにそう思えるようになりました。

市原さんは、どこまでも真っ直ぐ。

──「本気で突き進む=がむしゃらで苦しい状態」ってイメージがあったんですが、本気を出しながら楽しむこともできるんですね。

市原:仕事を楽しむには、楽しむためのスキルがいるんです。頑張れない時に頑張らなきゃいけないのはしんどいですが、楽しみ方を覚えれば自然と仕事自体が楽しくなるはずです。あとは、「おいしいものを食べる」みたいなご褒美を作ったり、人に話してみたりしてリフレッシュするのも大切だと思います。

──市原さんも誰かに相談することがあるんですか?

市原:だいたい地元の友達に話しますね。何のために仕事をしているのか迷っていた20代の頃に、「お前より飯も食えなくて、やりたいこともできない人が五万といるのに、贅沢な悩みすぎる。もっと突っ張ってもらわなきゃ困るよ、お前は俺らの誇りなんだから」って言われたのは、いまだに心の支えになっています。慰めるだけじゃなくて、しっかり背中を押して前に進ませてくれる友達がいてよかったなって。

市原隼人さんが主演を務める舞台が3月14日から公演です!

舞台「脳内ポイズンベリー」

市原隼人(いちはら・はやと)

1987年、神奈川県生まれ。2001年に映画『リリイ・シュシュのすべて』で初主演デビュー。その後、映画・ドラマ・舞台へと活動の幅を広げ、2004年『偶然にも最悪な少年』では日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞している。近年は写真家・映像監督としても活動中。2020年3月14日から公演の舞台『脳内ポイズンベリー』では主演の議長・吉田役を務める。

取材・文/於ありさ(@okiarichan27
撮影/鈴木勝