元No.1ホストの「心をつかむ心理術」がストーリーで学べる【連載小説】

さえない自分を変えたくて、夜の世界に飛び込んだ主人公・海藤恵一(源氏名は袋小路ケン)。やっと好きな相手をデートに誘うことができたものの、店選びに悩んでしまう。そんなケンが、先輩であるNo.1ホストから教えてもらった心理テクニックとは……。

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食事に行く店選びはどうしたらいい?

「来週金曜日に」と、まさみちゃんと食事に行く約束を取りつけたのはいいものの、すでに3日が過ぎてしまった。あの翌日、まさみちゃんに好みを聞こうと思ってLINEをしたところ、「何でも食べられるからおまかせ」という返事。余計に「お洒落な店で食事だけがいいのか」「気軽に入れるような店がいいのか」「飲みに行くのがいいのか」、迷宮に入り込んでしまった。

女性の「何でもいい」を真に受けてはいけないのは、お客さんとの店外デートやアフターで体感している。

苦労して店外デートにこぎつけたお客さんに「何食べたい?」と聞いた時も、「何でもいい」と言うから、その時話題になっていた煮干しスープ系のラーメン店に連れて行ったら、あとから「あれにはドン引きした。ないわー」というLINEが来たこともあった。だったら、何が食べたいか言ってくれればいいのに……。

でも、嘆いていてもしかたがない。そろそろ店を決めないと、まさみちゃんに連絡も入れられない。切羽詰まった僕は先輩のナオヤさんに助けを求めた。

閉店後、ナオヤさんがタクシーで連れて行ってくれたのは、夜パフェで知られる恵比寿のカフェだった。ナオヤさんによれば、北海道のススキノではお酒を飲んだ後のシメにパフェを食べるのが流行りらしく、そのカルチャーが約2年前に東京に上陸して以来、夜パフェがアツイのだという。

僕は桃1個をまるまる使ったコンポートが入った「ピーチ」、ナオヤさんは自家製のチョコレートムースにマスカルポーネアイスやサクサクチョコ、クランベリーソースなどを合わせた「チョコレート」を注文した。

「実は、お客さんを店外デートに誘っても断られてばかりなんです。店選びもうまくできなくて困ってまして……」

歌舞伎町No.1ホストのナオヤさんに、いきなり恋愛の相談を持ちかける勇気はない。とりあえず、仕事の相談を装って、「デートの誘いを断られない秘訣」と「どこの店でもいい」という女性への対処法を聞き出すことにした。タクシーに乗っている間に考えた作戦だ。

相手のNOを封じる「ダブルバインド理論」

「そういう時は、ダブルバインド理論を使うといいんだよね」

疑う様子もなく、ナオヤさんはそう言ってパフェを口に運んだ。

「ダブルバインド理論、ですか?」

「そう。ケンなら『食事に行かない?』って誘うのと、『カジュアルイタリアンと居酒屋のどっちに行きたい?』って誘うのと、どっちがうまくいくと思う?」

正直、よくわからない。ひとつめのほうだと、『行かない』と断られたら、そこで話が終わってしまう。だから、少なくともお店を選んでもらう2つめの質問がいいように思うけど、相手の気持ちや好みも聞かずに、勝手に誘う側が料理のジャンルを決めてしまっていいのだろうか……。

ナオヤさんに迷いながらそう伝えると、「わかってるじゃん」と笑って説明してくれた。

「YES・NOで答えられる質問をしてしまうと、相手が断りやすい状況になっちゃうんだよね。相手の『NO』を封じるには、どちらを選んでも答えは『YES=食事に行くことになる』ように、ダブルバインドの質問を投げかけることが大事なんだ」

ナオヤさんによれば、ダブルバインドとは、「二律背反」のこと。矛盾する2つの物事が成立してしまう状況を指すそうだ。たとえばホストの世界なら、店から「売り上げを上げろ」と言われのでお酒をたくさん飲んで売り上げに貢献したのに、寝坊して「飲みすぎるな」と叱られる……といった状況を指すという。

「2つめのやり方で質問すると、相手がイタリアンを選ぼうが、居酒屋を選ぼうが、どっちを選んでも答えは『YES』=『アフターやデートに行くことになる』よね。ダブルバインドな状況なわけ」

ダブルバインドの質問を投げかけることのいちばんのメリットは、相手に「自分で選んだ」と錯覚させながら、自分の思惑どおりに相手の「YES」を引き出せることにあるのだ。

「ケンは、料理を勝手に2つに絞っちゃっていいのかなって心配してたけど、どっちも嫌だったら聞かれたほうは『スペインバルに行きたい』とか、『食事より映画がいい』って答えるよ。2択にしておくと、相手の好みやリクエストを自然と引き出せるんだ。相手は気づかないうちに『デートに行く』前提を受け入れていることになって、真剣に食べたいものや、したいことを考え出すからね」

さらに「カジュアルイタリアンか居酒屋」と、あらかじめ自分の懐具合を知らせることで、相手にバカ高い高級レストランをリクエストされて慌てるようなことにならずにすむ効果も、ダブルバインド理論にはあるという。

  • 相手の「NO」を封じるには「ダブルバインド」の質問を投げかける
  • ダブルバインドの質問をすれば、相手に「自分で選んだ」と錯覚させながら「YES」を引き出せる

「事実+誘導」で相手を動かす「アンカリング」

「あと、『アンカリング』も、初めてのデートで有効だよ」

「何ですか、それは?」

「心理誘導のテクニックのひとつ。人の潜在意識はいつもと違ったことを選択するのを怖がるから、未経験のことには無意識のうちに警戒心が働くんだ。だから、特に最初のデートだと、相手が心のどこかで『この人、いいかも』と思っていても、『2軒目に行こう』『次も会おう』ってただ誘うだけだと、断られちゃう可能性が高いんだよ」

「その警戒を解くのが、アンカリングっていうやつなんですね?」

まさみちゃんを食事に誘った時、「翌朝は早いから遅くまでいられない」って言われたけど、試してみる価値はあるかもしれない。

「ナオヤさん、アンカリングって具体的に何をするんですか?」

“事実+誘導”で相手に働きかけるんだ。たとえば、『これを飲み終わったら、2軒目に行こうか』とか、『次の給料日になったら、またデートしようよ』っていう感じでね」

それだけ!? そんなことで誘導できるのだろうか。

ナオヤさんは、いぶかし気に黙り込んだ僕の顔をのぞき込み、「疑ってる?」と笑いかけてくる。

「そんなことはないんですけど……。簡単すぎませんか?」

「おすすめのテクニックなんだけどな。やっぱり信じられない?」

「……すみません。やっぱり、今ひとつ信じられないかも」

「じゃあ、『このテクニック、実際に使ってるホストが多くておすすめなんだよ』って言ったら、どう?」

「そう言われると、信じたくなります」

「でしょ? でも、『使ってるホストが多い』からって『本当にすごいテクニックかどうか』『ケンにも合ったテクニックかどうか』はわからないよね?」

「あ……たしかに」

「アンカーって“船のイカリ”のことで、先に相手に与える情報のことを言うんだ」

「イカリですか?」

「そう。人は何かを判断する時に、最初に伝えられた事実や数字に引っ張られて大きく影響されてしまう。ダイレクトに『おすすめだよ』って言われても信じられないよね。でも、『使ってるホストが多い』という“事実”を先に与えると、それに惑わされて『すごいテクニックに違いない』『自分も使いたい』って“誘導”されてしまうんだよ」

ナオヤさんの話だと、家電量販店などで「値引き前の価格」と「値引き後の価格」が表示されているのも一種のアンカリングだそうだ。本来なら「値引き後の価格」だけを見て買うかどうかを判断すればいいはずが、「値引き前の価格」を見せられると「これだけ値引きされている」というお得感が生まれるので、つい買いたくなってしまうのだ。

  • 相手のNOを封じるには「A(=事実)だからB(=誘導)」という「事実+誘導」で働きかけるのが有効
  • 「事実+誘導」で働きかければ、最初に示した事実がアンカーとなって、相手の判断に大きな影響を与えることができる

やっぱりナオヤさんはすごい!

おかげでまさみちゃんとの初デートが楽しみになってきた。明日、まずはダブルバインド理論を使って、LINEでまさみちゃんの好みを聞き出そう。

<構成/伊藤彩子>

▶︎第14回は2020年4月7日(火)の公開予定です。

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この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito