学生時代に比べ、社会人は新しい友達ができる機会が格段に減ります。でも、大人になってからの友達って、どうやって作ればいいんだろう?
そんな疑問を解消するためにお話を伺ったのは、株式会社おくりバント代表の高山洋平さん。社長を務める一方で、年間360日・1000軒以上を飲み歩く「プロ飲み師」でもあります。
「飲み屋に行くのは友達に会うため」と語る高山さんに、飲み屋で友達を作る極意を聞いてきました!
※この取材は2月に行われたものです。飲食店の利用については、コロナウィルス感染拡大の状況に応じて、ご自身で適切な判断をお願いいたします。ソーシャルディスタンスを守って行動しましょう。
飲み屋探しのポイントは「近所・カウンター・安い店」

──今日は、飲み屋で友達を作る方法を教えてください!
高山洋平さん(以下、高山):任せてください。まずは店の選び方からお教えしましょう。ポイントは「家の近所」「カウンターがある」「安い」の3つです。
──具体的でわかりやすい。それぞれどんな理由があるんですか?
高山:子どもの頃の友達って、みんな近くに住んでいませんでしたか? 大人も同じで、友達とは近所でつながるのが一番なんです。それに飲み屋が盛り上がるのは12時を過ぎてからですし、歩いて帰れる「家の近所」の店がいいですね。「カウンターがある」の理由はわかりますか?
──テーブルだと他の人と会話しづらいから……?
高山:その通り。友達を作りたいなら、店主や他のお客さんと話せるカウンターがマストです。最後は「安い」。高い店だと金がないと行けないので、経済状況に合わせて通い続けられる店を選んでください。僕は3000円くらいで済む店に通っています。

話しかけられるまで黙っているのが作法
高山:席に着いてドリンクがきたとしましょう。その後はどうすればいいと思いますか?
──隣のお客さんに話しかけるとか?
高山:残念、不正解です。正解は、「店主に話しかけられるまで待つ」。飲み屋のヒエラルキーを理解していないと、こうした間違いを起こしてしまいます。
──飲み屋のヒエラルキー……?
高山:飲み屋には明確なヒエラルキーがあるんです。一番上は店の主導権を持っている「店主」、二番目は店を支えてきた「常連」、一番下が「一見」です。飲み屋で友達を作るには、その店で常連の地位を獲得するのが大切。だから、初めて行った店では店主や常連への礼儀を守って、控えめに振る舞うのが重要です。

──マナーを破るのは怖いので、話しかけられるのを待ちます。
高山:飲みたいだけなら自由に振る舞えばいいですが、友達を作りたいなら上下関係を意識したほうがいいですね。黙っていると、「ご近所なんですか?」「どこかで飲んできたんですか?」など声をかけてもらえます。

飲み屋の会話はジャズと似ている
──お客さんと会話するにはどうすればいいですか?
高山:いい飲み屋だったら、店主がほかのお客さんにつないでくれますよ。「へぇ、野方に住んでるんだ。(隣のお客さんも)野方だよね?」とか話題を作ってくれるんです。そしたら「あそこのモンマートのおばちゃん最高ですよね」って話しかければいい。その後の会話は飲み屋の構造にのっとって進めてください。
──飲み屋の構造? 詳しく教えてください。
高山:7〜8人が座れるL字のカウンター席を、店主1人で回している店と仮定します。こうした店での会話はA・B・Cの3ブロックに分かれていることが多いんです。店主はそれぞれのブロックの会話にバランスよく入る。

──知らなかった……。
高山:ここで大事なのは、店主とばかり話さないことです。新参者が店主を独占したら、常連が話せなくなってしまいますよね。自分と同じブロックの人が手持ち無沙汰にもなってしまいますし。だからといって、突然別ブロックのお客さんに話しかけるのもダメです。
ただ、隣のブロックと合体したり、全体で盛り上がったりすることもあるので、流れを読むのが大切なんですよ。
──注意点が多くて、飲み屋に行くのが怖くなってきました……。
高山:何も怖がる必要はありませんよ。基本は「話しかけられたら答える」でいいんです。ちなみに、普段ジャズって聴きます?
──ジャズ? たまに聴くくらいです。
高山:飲み屋の会話ってジャズに似てるんですよ。ジャズには各楽器が順番にソロを回すパートがあります。会話も同じで、みんなが等しく話せないといけない。僕たちはみうらじゅんさんやタモリさんじゃないんだから、20分間のソロパート(独談)は担当できませんよね?
話しすぎたり無理に会話に入ったりせず、流れを読んで口を開く。そうすると、すごくいいグルーヴが生まれます。

飲み屋のコミュニケーションマナーはビジネスと同じ
──やっぱり、場を盛り上げるには面白い話や、みんなが知らない話をしたほうがいいんでしょうか?
高山:初対面の人を笑わせるくらい面白い話できる自信あります? 今ここで、僕が全く知らないストッキングのデニール数に興味をもたせられるような面白い話できます?
──……無理です。
高山:距離を縮めようとして突飛なことを言うのは逆効果です。「よくお一人で飲むんですか?」と聞かれたら、「はい、この辺りでよく飲みます」と普通に答える。そしたら「家が近所なんですか?」「よく行く店は?」と自然に続きます。
──その後は何を話せばいいですか? 鉄板トークテーマがあれば教えてください!
高山:小学生の時に友達としていた話でいいんですよ。自分が好きなことを話せばいい。ただ、気をつけてほしいのは、「みんなが知っているもの」であること。必要なのは共通言語です。
──共通言語?
高山:映画や音楽、漫画、ゲームあたりの知識があるといいです。飲み食いが好きな人が多いから、グルメの話もいい。と言っても、青山の創作フレンチの話は意味がないですよ。「近所に旨いラーメン屋を見つけた」「松屋の新メニュー食べた?」とか、相手も通いやすい範囲の話をすることです。
──自分が好きで、相手も興味があることを話せばいいんですね。

高山:さらに言うと、「みんなが知っているもののより深い話」ができるといいです。コンビニスイーツが好きなら、セブンイレブンとローソンのバスチーを食べ比べて、違いを説明できるようにするとか。
──「深い話」って考えると難しそうですが、それならできそうです。
高山:自分の思いをむやみにぶつけるのではなく、どう言えばわかりやすく伝わるのか、興味を持ってもらえるのかをしっかり考えるのが大切です。
──反対に、避けたほうがいい話題はありますか?
高山:ビジネスの自慢は嫌がられますね。他のお客さんの話を聞いて「自分も同じ業界です!」って入るのはやめたほうがいい。いきなり深刻な相談や愚痴を話すのもよくないです。あとは、店主に店のコンセプトを聞く系もダメ。友達に、「今日の服装のコンセプトは?」なんて聞かないじゃないですか。自分で察するのです。心の中で。

──お話を聞いていると、飲み屋のマナーは普段のコミュニケーションと共通する部分が多いように感じます。
高山:飲み屋に特別なルールがあるわけではありません。ビジネスのコミュニケーションと同じように、相手のことを考えて礼儀正しく接するのが大事です。あくまでもメインはコミュニケーションなので、飲み過ぎにも注意です。そこを忘れずに、飲み屋を楽しんでほしいですね。
常連になるコツは、3日連続で通うこと
──「一見」から「常連」にランクアップするにはどうすればいいんでしょうか?
高山:ズバリ、3日連続で通うこと。これが、短期間で常連の仲間入りをするコツです。
──3日連続……?!
高山:1日目で自分に合いそうな店だと思ったら、次の日も行ってみてください。すると、店主は「今日も来てくれた」と嬉しく思うはずです。3日目も行けば、完全に店主の印象に残ります。その後は、週に1回程度のペースで通ってください。

──たしかに、それだけ行けば「この店を気に入ってくれた」と思ってもらえそうです。
高山:店主と仲良くなれば、常連を紹介してもらえます。そこから徐々に友達を作っていけばいい。ただ、一日二日で友達になるのは無理ですよ。大人はそんなに軽くありません。関係性は時間をかけて築く必要があります。
──具体的に、どのくらいの時間がかかるものなんでしょうか。
高山:飲み屋で仲良くなって、プライベートでも遊ぶ仲になった人は何人もいますが、だいたい2年くらいはかかっています。
──2年……! 想像以上に長期戦です。
高山:小学生の頃は毎日学校で会って放課後に遊んで……というのを繰り返して、友達を作っていましたよね。大人も同じで、何度も会って会話を重ねるのが大事なんです。その過程を面倒がったら友達はできませんよ。
飲み屋に通えば心が豊かになる
──高山さんはなぜ、こんなにも飲み屋に通い続けているんですか?
高山:僕にとって飲み屋は、心を鍛えるジムなんです。知らない人と交流するのも楽しいし、仲の良い友達と話すのも楽しい。通えば心が豊かになる場所、それが飲み屋なんです。
──人との交流が、心を豊かにしてくれるんですね。
高山:同じ店に何年も通っていると、「結婚した」「子どもが生まれた」「転職した」など、人生の変化を知ってる友達ができるんです。互いのことを知っていて、くだらない冗談で笑い合えて、つらいことがあったら話を聞いてくれる。そんな友達がいる毎日って、最高じゃないですか?
大人になってからの友達って、いいものですよ。長く通える行きつけの店を見つけて、ぜひ友達を作ってみてほしいですね。
※この取材は2月に行われたものです。飲食店の利用については、コロナウィルス感染拡大の状況に応じて、ご自身で適切な判断をお願いいたします。ソーシャルディスタンスを守って行動しましょう。
高山洋平(たかやま・ようへい)
クリエイティブカンパニー、おくりバント代表。新卒で不動産会社に入社し、その後、インターネット広告企業のアドウェイズに入社。同社の中国支社の営業統括本部長を務めるなど、大きな実績を持つ。2014年にアドウェイズの子会社として株式会社おくりバントを設立した。「プロ営業師」「プロ飲み師」を自認するコミュニケーションのスペシャリスト。
Twitter:@takayamayohei1
取材・文/中村英里(@2erire7 )
撮影/中澤真央(@_maonakazawa_)