僕がブラック環境で働いていた時、ほとんどの若手は潰れる前に逃げてしまった。ブラック環境は完全な悪で、そこから学ぶものはない。ただ、中にはブラック環境に耐え抜き、そこでたくましく才能を伸ばしていく若手もいた。

早く逃げ出せばいいものを、借金があったのか、他に行き場がなかったのか個々の事情はわからない。が、ブラックという厳しい環境下で芽を出した彼らの特徴を検証することで、伸びる若手の条件が見えてくるのではないだろうか。

気がつくといつの間にか伸びているヤツとは?

伸びる若手には2つのパターンがある。ひとつはいわゆる「デキるヤツ」。新人で入社した時から同期をリードして先輩社員を驚かせる。そして、驚かせた先輩をごぼう抜きして、僕のような器の小さい人間の妬みや嫌味を気にも留めずに、成功を積み重ねていくようなタイプだ。環境に左右されないスーパーマンといっていい。

このタイプは見切りも早い。「あいつはきっと優秀な幹部になる。今のうちに媚を売っておこう」という周りの思惑を裏切り、「こんなブラック会社には将来はありません」とあっさり会社を辞めていく。

会社を辞めた後、街中で会っても「ああ。先輩はまだあの会社にいるんですか」「どうです、会社の居心地は」と謎の上から目線で話しかけてくることが多くて、どうにも好きになれない。私怨である。

何より、このタイプはスペシャルすぎて参考にならない。

だから、今回、僕がお話したいのは、もうひとつの「気がつくといつの間にか伸びているタイプ」である。無責任な上司に悩み、理不尽なノルマに追われる職場で、埋没している目立たない隣の部署の地味なアイツ……、いつ辞めるかと思っていたら、数年後、上司に反論をするようになっている。

実際、そういうタイプのほうが、僕のような凡人にとっては参考になる。「あいつができるなら俺も」と思える。後輩であれ、年上であれ、自分に刺激を与えてくれる存在は貴重なのだ。

愚直で口ベタなヤツが伸びる

僕は20年以上、営業の仕事をしている。営業職において、伸びる若手というと人をひきつける話術のある人間というイメージを持たれるようだ。だが、実際は違う。僕の経験からいえば、うまく話せる人間というのは、むしろそれが仇になることが実に多い。そして、これは営業に限らず、あらゆる職種に共通して言えることだと思っている。

自称「人と話すのが好きで好きでたまらないので営業職を目指しました」マンに営業同行した時のこと。自称するだけあり、サービスの説明は華麗にこなしていた。ブラボーだ。しかし、面談を終えた後で、「あのお客さんが何を望んでいたか、わかる?」と質問してみると、「それは……」と返答に窮してしまう。

実はこれ、話がうまい人にはよくあることなのだ。

ここで「営業は話をするのが仕事じゃないですか!」と言い返してくる若手は、かなり高い確率で営業職としては失格の烙印を押される。ちなみに最悪は、「そこをフォローするのが先輩の仕事でしょう」と答えるヤツだ。

独り善がりに、相手の話を聞かない人間は伸びない。話上手な人間は、己の話術に溺れて、聞くことがおざなりになりがちなのだ。それに、うまい話し方というのは、慣れれば誰でもできるものなので、実はアドバンテージにならない。

僕の観測範囲でいえば、中長期的には、話し上手より、口ベタな若手のほうが伸びている。己の口ベタさを相手の話をじっくり聞いて補おうとするヤツは、間違いなく伸びる可能性が高い。誰だって最初はまともに客と話ができない。僕もそうだ。商談がうまくできなくても、めげずに聞き役になれるかどうかが、伸びる/伸びないの境界線なのだ。

上司と客とのやり取りから、役に立つ情報を聞き逃さないようにする。上司が客にどんな質問をしているのか、しっかり聞いて覚える。真似てみる。最初はうまくいかないことが多い。試行錯誤のうちに上司の営業トーク自体がクソであることに気づく。反面教師的に使ってみる。うまくいく。それでも話すのが苦手なのは変わらないので、相手の話を丁寧に聞くようにする。

そうして結果が出始めると、「俺の話術を盗め……」と言っていたクソな上司から、「バカ野郎。勝手に人の話術をパクってんじゃねえ!」と脅される(パクってなどいない、反面教師にしただけだ)。そんな理不尽な圧力にも屈せず、なぜこの人は怒っているのだろうと相手の話を観察するように聞く。

その繰り返しが愚直にできるのは、口ベタな人間である。中には口ベタをコンプレックスに感じている人も多いだろう。だが、話を聞くプロを目指すことで、いくらでも活路は見出せるのだ。

悲観的で落ち込む人間が伸びる

仕事をしていれば、誰でも失敗をする。経験のない若手であれば、なおさらだ。失敗をした時、どのような態度を取るかを見ていると伸びるか、伸びないか、だいたいわかる。

ブラック環境の場合、失敗しても上司はかばってくれることはない。これはマジでつらい。僕も事前に「俺がお前をバックアップするから」と後押ししてくれた上司に裏切られ、「失敗の原因はこいつの能力不足です」と主犯にされたことが何回もあった。

上司の命令を忠実に遂行したけれど、結果が伴わない。落ち込んだところに、あろうことか当の上司から責任を押し付けられ、厳しく叱責される。理不尽さに心が折れる。「俺がダメなのか、この世の中が地獄なのか」と地の底まで落ち込む。

結論から言うと、こういう目に遭った時、落ち込んで「僕はもうダメだ」「この仕事向いていないかもしれません」と悲観的になってしまう人が伸びるのだ。もちろん、そのまま潰れてしまう人もいるが、徹底的に落ち込んで、そこから這い上がってくる人は確実に伸びる。

「絶対に同じ失敗は繰り返さない。あのクソ上司に一発ぶちかましてやる」「あいつにやり返すまでは負けられない」という強いリベンジの意志は力になる。しかし現実は厳しい。復讐心は劇的に実力を向上させない。当然、また失敗する。落ち込む。めちゃくちゃ落ち込む。それでも、このままでは終われないと立ち上がる。

その繰り返しが若者をタフな戦士に変えていくのだ。激しく落ち込み死人のような顔をしていた者ほど、地獄を見た分、少々のミスに動じない芯の強いビジネスマンになる可能性がある。

それに対し、失敗した時に、切り替え早く「今回の失敗を学びにかえます」といって、失敗にめげないタイプはそこから成長できないことが多い。失敗に痛みを感じていない。反省がない。失敗するたびに安易に「学びにかえます」と繰り返す者は、やがて「また学びかよ」と周囲から見限られる。

そもそも、上司から「会社はお前の学校じゃねーぞ」と叱られても、「わかりました。今後に活かします」とわかっていない対応をしてしまう人は、ご自分で起業したほうがいい。本質的に会社員は無理だ。

失敗は失敗として受け入れる。落ち込む。自分がイヤになる。そこから立ち直る。それが失敗を自分の血肉にする、学びにするということだろう。切り替えの早い人より、悲観的になってしまう人のほうが、中長期的に見れば伸びているのは、失敗を悲観的に受け止め、真摯に向き合うからだと僕は考えている。

信は力なり、自分はやれると信じることが大事

最後に、身も蓋もないことを言うが、「自分は伸びる人間だ」と信じることがもっとも大事だ。

口ベタであろうが、悲観的であろうが、自分はいつか成功すると信じていればこそ、次の一歩が踏み出せる。そして、「上司に褒められる」「失敗をしない」「ブラックな環境で出世する」といった、目先の小さなサクセスに過度にとらわれないことも大切だ。はっきりいって、そんなサクセスは些末である。

僕が伸びる若手としてあげた人たちは、目先のわかりやすいサクセスをうまくゲットできず、回り道をすることも多いだろう。だが、自分の弱点を特徴として受け入れ、飼いならせれば、それは大きなアドバンテージになりうるのだ。

僕たち会社員にとっての大きなサクセスとは、大きな仕事を任せられる人間になることだろう。大きな仕事には、トラブルや失敗がつきものだ。そんな仕事を任せられる人間は、ミスを計画に入れられる人、つまり他人の失敗を容認できる人だ。

そして、失敗を容認できる人とは失敗を理解している人、自分も失敗をしてきた人である。口下手、悲観的、ほんの少し要領が悪い。そのせいで失敗をした経験を大事にしてもらいたい。それは要領よくサクセスした人たちには得られない貴重な経験なのだ。

自分を信じて、太く生きる人間になってもらいたい。では。

(所要時間:60分)

この記事を書いた人

フミコフミオ

フミコフミオ

海辺の町で働く不惑の会社員。普通の人の働き方や飲食業や給食について日々考えている。現在の立場は営業部長。90年代末からWeb日記で恥を綴り続けて20年弱、主戦場は、はてなブログ。

ブログ:Everything you've ever Dreamed

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