締め切り間近の仕事があるのに、SNSのタイムラインを見るのがやめられない。そんな「集中できない自分」にイラついてしまうビジネスパーソンも多いことでしょう。

こういう時、なんとなく

「追い詰められないと動けない“性格”だから…」

「“意志”が弱いから…」

と言い訳して、自分を納得させていませんか?

一方で、自分をうまくコントロールしながら膨大な量の仕事をバリバリとこなす“集中の達人”もいます。今回お話をお伺いしたサイエンスライターの鈴木祐さんもその一人。1日平均15本の論文と3冊の本を読み、2~4万字の原稿を生み出し続けています。

鈴木さんの圧倒的な集中力を支えているのは、性格や意志ではなく、集中を持続させる“仕組み”。その仕組みを、科学的なエビデンスに基づくメソッドで作り上げれば、誰でも「ヤバい集中力」を手に入れられるのだといいます。

「本気を出せば何とかなる」と思いがちなあなたに、実践してほしい。鈴木流の「集中力起動術」をご紹介しましょう。

「集中の達人」は存在しない

──今日は集中の達人である鈴木さんに、その極意をお聞きしたいと思っています。

鈴木祐さん(以下、鈴木):はい。ただ、僕は「集中の達人」ではないですよ。むしろ、集中力がない人間です。というよりも、「そもそも集中力に期待しない」ほうがいいと思うんです。

──なぜそう思うのでしょうか?

鈴木:人はどこかであらぬ願望を持ってしまう生き物だと思うんですよ。やるべき仕事に集中できず、だらだら先延ばしにしてしまっていたとしても、どこかに「本気を出せば何とかなる」みたいに考えたことはありませんか。

──確かに、「土壇場になれば集中できる」と、自分に対して根拠のない期待をしてしまうところはあるかもしれません。

鈴木:それって、自分の集中力に期待しすぎてるんだと思うんですよ。いざとなれば自分は集中できる人間だから、今は少しくらい怠けても大丈夫だろうと考えてしまう。その状態で小手先のテクニックを身につけても、結局は続きません。

──耳が痛い……。確かに、集中にまつわるビジネス書を読んではみるものの、身についた記憶がありません。

鈴木:実は僕自身も、かつては書籍を読み漁り、集中メソッドを片っ端から試していた時期がありました。それこそ、定番の「ポモドーロ・テクニック」(※1)や「タスクの細分化」など。でも、片っ端から失敗しました。今思えば失敗の原因は明らかで、集中の原理や人間の基本的な仕組みがわかっていなかったからです。

──その基本的な仕組みというのが「人間はそもそも集中が苦手な生き物である」ということでしょうか?

鈴木:そうです。ですから、意志が強い弱いの問題ではないし、ましてや根性論でどうにかなるものではないんですよ。そもそも人は誰しも集中が苦手であるという前提で、その心の仕組みを知り、その上で自分をコントロールする方法を学ぶことが重要です。“自分をあきらめたところ”から試合は始まるのです。

鈴木祐(すずき・ゆう)。サイエンスライター。1976年生まれ。慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。著書に『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)、『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『科学的な適職』(同)など。

頭の中の「獣」を調教せよ

──鈴木さんは著書の中で、人の心の仕組みを「獣と調教師」の関係にたとえています。改めて、ご説明いただけますか?

鈴木:簡単に言うと、獣は「本能」、調教師は「理性」を表します。本能とは食事や睡眠など、人類の生存に関わる欲求で、生物進化の早い段階に出現したシステムです。一方、理性は「目標を達成したい」や「人間として成長したい」などの高次の思考をつかさどっていて、進化の上では比較的後になって生まれたシステムになります。

──つまり、進化的には獣≒本能のほうが先輩で、調教師≒理性は後輩であると。

鈴木:その通りです。本能は「それがないと生きられない」という生物の基本であるためパワーが強い。なにせ、人類が類人猿と分岐して直立二足歩行を始めたとされる600万年前から時間をかけて築き上げられた基本プログラムですし、理性で抑え込もうとしても無理があるわけです。集中している時でも、今日のランチや今晩のデートが気になってしまうことがありませんか。それだけ、本能は強いということです。

──なるほど……。調教師が獣に勝つ術はないのでしょうか?

鈴木:残念ながら、真っ向勝負では難しいと思います。ただ、弱者には弱者の戦い方がある。「合理性」という調教師の武器を活かし、獣をなだめすかしながら上手に導くんです。

集中力を構成する「3つの要素」とは

──では、その「獣を導く方法」を教えていただけますか?

鈴木:獣を導く第一歩は、集中のメカニズムを知ることです。「集中力」は単一のスキルではなく、物事に取り掛かるプロセスごとに異なる要素で構成されているんです。

  • 感情のコントロール

取り掛かりの段階で必要になるのが「感情のコントロール」。やる気が出ない、めんどくさいという気持ちを乗り越える力です。

  • アテンション・コントロール

作業を始めてからは「アテンション・コントロール」が必要。すなわち、注意を持続させる力です。

  • セルフ・コントロール

最後はやはり、自己を律し続ける力(セルフ・コントロール)が必要です。とりわけ、テレビやスマホなど周囲に多くの誘惑がある環境下ではこれが物をいいます。

それぞれメカニズムが違うため、対策も異なります。そもそもやる気が出ないのか、やる気はあるけれど注意が続かないのか、自分を律することができないのか。集中できない要因がどこにあるのか整理することが大事ですね。

「難易度設定」で一歩踏み出そう

──それぞれのプロセスで大事なポイントは何ですか?

鈴木:まず「感情のコントロール」ですが、仕事になかなか取り掛かれない背景には、その作業に対する「恐怖」や「不安」があるケースが多いと思います。仕事の難易度の高さに怯んでしまい、はじめの一歩を踏み出せないわけです。ですから、まずは不安をなくすためにタスクを分解するなどして、山を小さくしてあげる必要がある。僕はこれを「難易度設定」と呼んでいます。

たとえば、僕はサイエンスライターを本業としていますが、時には長大で難解すぎるテーマの原稿執筆にひるんでしまうことがあります。そんな時にはタスクを細分化し、まずはゼロイチの執筆よりも難易度の低い「引用資料探し」「文章の引用」から始めたりします。そうすると徐々に全体の構成が見えてきて、気づけば書き進められている。

逆に簡単だと感じる仕事は、心に余裕が出て他のことに気を取られがちなので、制限時間をつけるなどして、没入するきっかけを作ります。すなわち、山を高くするんです。

スマホは「物理的に」遠ざけよう

──どんな仕事であれ、あらかじめ自分の業務を分解して、気楽に取り掛かれるものを探しておくといいかもしれませんね。

鈴木:はい。次に、ようやく取り掛かっても、すぐに気がそれてしまうという問題。ここでは「アテンション・コントロール」が必要です。そもそも人の注意の持続力は成人の場合でせいぜい20分が限界といわれています。誘惑が多い現代においては、5分持てばいいほうかもしれません。

──私は3分です。すぐスマホを触ってしまうんです。

鈴木:それは短い(笑)。でも、僕も似たようなものです。だから、本当に集中したい時には物理的にスマホを遠ざけるしかないですよね。僕は「金庫」を使ったこともあります。タイマーをセットして、それまで中身を取り出せないガジェットがあるんですよ。スマホは刺激のかたまりなので、それくらい環境をコントロールしないとダメだと思いますね。

「if- thenプランニング」でタスクを自動化しよう

鈴木:最後に、「セルフ・コントロール」です。ここで必要なのは、スケジューリングのテクニックです。具体的なやり方は後程お話しますが、まずは、なぜ「セルフ・コントロール」が重要かという前提から。

人は目の前に迫った危険に備えるようプログラムされた生き物で、元々は1日単位の時間軸で生きていました。しかし、社会が発達して、1週間、1か月、あるいはもっと長期の単位で自分をコントロールしなければならなくなり、このギャップがパニックを起こしてしまうんです。

パニックの原理を、「不安」という感情をもとに考えてみましょう。不安は元来、目の前に差し迫った危険への対策をうながすアラームで、未来の危険には対応していません。そのため、未来を見越して行動しなければならない現代人は、自分が何に不安を感じているのかわからない「なんとなく不安」という状態に陥りがちです。「なんとなく不安」とは、不安を解消する方法がわからない状況。言い換えると、適切な自己管理ができない状況です。そのため、長大なプロジェクトになればなるほど、日々のスケジュール管理が重要になってくるんです。

──では、スケジュール管理で使える、おすすめのテクニックはありますか?

鈴木:各種のデータを踏まえると、シンプルかつ効果的なのは、「if- thenプランニング」だと考えられます。これは「if(もし〜が起きたら)、then(〜をする)」という文章の“〜”の部分に、やりたいことを当てはめる手法です。

たとえば、if=「朝ごはんを食べたら」、then=「仕事に取り掛かる」といった具合ですね。僕の場合は、最初のifに必ず「朝起きたら」が入ります。朝起きたら、ブログを書く。ブログを書いたら、本の原稿を執筆する。そんな風に、前の予定と関連するタスクをどんどんつなげていく感じです。

──鈴木さんの場合は、どのようにして「if」や「then」を設定しているのでしょうか?

鈴木:僕の場合はカレンダーアプリのスケジューラーに、その日の予定をすべて入力しています。そこにやるべき「then」がすべて入っていて、その前の予定が「if」になる。これをひたすら続けることで、考えなくてもタスクに取りかかれるようにしています。このような、if- thenプランニングを活用したタスクの連なりを、僕は「タスクの自動化」と呼んでいます。

カレンダーは週の初めにざっくりした予定を入れて、前日の夜に見直して微調整します。「爪を切る」や「猫に餌をやる」などの、かなり細かいタスクまで入れていますよ。というのも、そうした細々したタスクを放置しておくと、わずかに脳のリソースをとられて注意が削がれてしまうんです。

ある週のカレンダー。分刻みでスケジューリングされている(鈴木さん提供。画像を一部加工)

──そうやって1日のタスクを書き出しても、重い仕事を後回しにしてしまうなど、順番のルールを守れないことがあります。

鈴木:気持ちはわかります。でも、順番はなるべく守ったほうがいいですね。「獣」を飼いならすポイントは「自由を縛る」ことです。獣はいったん迂回ができることを知ってしまうと、永遠に迂回を続けてしまいます。結果、楽な業務ばかりを優先させてしまい、難易度の高い重いタスクだけが残ってしまうなんてことになりかねません。to do リストしか作っていないと、そうなりがちですね。

──なるほど。ただ、会社員だと上司から突発的な業務を振られることもあります。そこで集中力が途切れてしまうことも多々あると思うのですが。

鈴木:その場合は、「if:トラブルが解消したら」「then:さっきの仕事に戻る」といったプランニングをします。

要は、いったん割り切って前の仕事をスッパリ忘れることが大事なんです。前の仕事が頭になんとなく残っていると、そのことに脳のリソースがいくらか割かれてしまいます。たとえば、エクセルで資料を作成している時に、急な調べ物を命じられたとします。その場合はいったんエクセルを完全に閉じてから、調べ物を始める。前の仕事のファイルを開いたままだと、どうしても頭の片隅に残ってしまいますから。

──どうせ後でまたその業務に戻るのだから、開いたままのほうが効率がいいだろうと考えてしまいがちですよね。それに関係して、ひとつのブラウザでいくつもタブを開く人もいます。

鈴木:それは脳に優しくないですね(笑)。画面が開いた状態で、完全に忘れるのは無理ですよ。だら~っと中途半端に切り替えるくらいなら、完全に遮断して次の仕事に向き合ったほうが集中できるでしょう。

「チャンク化」でまとめて、習慣化しよう

──そうは言っても、会社員なら「マルチタスク」も日常茶飯事でしょうし、完全な遮断は難しいのでは?

鈴木:日々の業務にマルチタスクが必須なら、仕事を切り替えるスイッチとして、たとえば「指を鳴らす」といった“マイ儀式”を持っておくのもいいでしょうね。“指を鳴らしたら前の仕事を忘れる”というルールを設け、身体に染み込むまで意識的にやってみましょう。

あとは、それを「if- thenプランニング」に組み込み、「チャンク(塊)化」してみる。細分化されたタスクを順にこなしていくと、頭の中でひとつにまとまる時がきます。筋トレで考えてみましょう。ベンチプレスをやり、次にスクワットをやって…という流れが、最終的に「筋トレ」という一つのタスクにまとまる。これがチャンク化です。一つのチャンクを作ったら、また次を作る。そうしていくつものチャンクをつなげ、スケジュールを習慣化するわけです。

目的が前提になくてもチャンク化は可能です。仕事でたとえるなら、「未読のメールを読む」「未返信のメールに返信する」「1日のスケジュールを書き出す」「〆切日を基準にタスクの優先順位をつける」といった出社直後のルーティンを「朝活」と名付けてチャンク化するなどでしょうか。ここに「(終わったら)席から立つ」といった“マイ儀式”をくっつけると、次のタスクへの切り替えがスムーズになり、習慣化もしやすいと思います。

集中力を高めるカフェインのとり方

──こうしたスケジュール管理のテクニックに加え、誰にでも実践しやすいメソッドはありますか?

鈴木:最も手軽なのは、カフェインの摂取ですね。「150~200mgのカフェインを飲むと約30分で疲労感がやわらぎ、注意力の持続時間が向上する」という研究(※2)もあります。ただ、カフェインは脳への作用が強いため、取り方次第では逆効果になります。まずは、効果を得やすくするための以下のポイントを押さえておきましょう。

【ポイント1】
一度に缶コーヒー2本以上(カフェイン400mg)を飲まない

カフェインの感受性は個人差があるため一概には言えないものの、「400mg以上で副作用が出る」という研究(※3)があり、過剰摂取は逆効果になります。

【ポイント2】
コーヒーには脂肪分(ミルクかクリーム)を入れる

脂肪分にはカフェインの吸収を穏やかにする働きがあります。生まれつきカフェインに弱い人はコーヒーにミルクやクリームを入れて飲み、マイルドに脳を覚醒させるといいでしょう。

【ポイント3】
起床から90分はカフェインをとらない

起きてすぐカフェインをとると、コルチゾールという覚醒系のホルモンと合わさって脳への刺激が強くなりすぎてしまい、心拍数の上昇などの副作用が出やすくなります(※4)。通常、コルチゾールは起床から90分で減り始めるため、それ以降にコーヒーを飲むといいでしょう。

──なるほど。食事も集中力アップに影響するのですか?

鈴木:食事のポイントはシンプルで、「脳に良い食品を増やす」「脳に悪い食品を減らす」。この2点をまずは意識しましょう。

脳に良い食品は鶏肉やブルーベリー、サバ、ナッツなど数多くあります(※5)。また、脳に悪いのは揚げ物やラーメン、お菓子・スナック類など、こちらもたくさんあるのですが、まずは「揚げ物を週1回までにする」など、できることから始めてみてはどうでしょうか。

僕も、食生活を変えてからは体調や脳の働きが段違いにアップしましたから。

最後は集中力を制した者が勝つ

──では、最後に集中力が続かず困っている読者に向け、メッセージをいただけますか?

鈴木:繰り返しになりますが、程度の差はあれ、人は基本的に集中が苦手です。仮にあなたが仕事を先延ばしにしてしまう悪癖を持っていたとしても、それは怠け者だからではありません。何を隠そう僕自身も、もともとセルフ・コントロールが苦手な人間ですし、今も別に得意なわけじゃありませんからね。

ただ、昔は会社に一週間泊まってだらだら徹夜仕事を続けたり、ケアレスミスを連発したりと散々でした。それが数年前に、学術的な文献を乱読する中でセルフ・コントロールの重要性に気づき、それ以来集中力をどうにか運用できるようになりました。

──アウトプットの質や量が飛躍的に向上したと。

鈴木:はい。もちろん持って生まれた才能や生まれた環境も重要な要素ではありますが、最後には集中力を制した者が勝つ。これは数多くの研究論文、信頼度の高いデータが示されています。集中力は人生の成功を左右するといっても過言ではありませんよ。

(※1)「25分間集中」と「5分休憩」のサイクルで仕事や勉強を繰り返すテクニック。

(※2)2006年に米・シカゴ大学が102人を対象に行った実験で、このような結果が出た。論文名「Childs E el al.”Subjective, behavioral, and physiological effects of acute caffeine in light, nondependent caffeine users.”」

(※3)カナダ保健省は2010年、1日あたりのカフェイン摂取量を、健康な成人で400mg(コーヒーをマグカップで約3杯)まで、カフェインの影響がより大きい妊婦や授乳中、あるいは妊娠を予定している女性は300mg(コーヒーをマグカップで約2杯)までと推奨している。(食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~|厚生労働省

(※4)アメリカの神経科学者、スティーブン・ミラー氏のブログによる。(NeuroscienceDC: The best time for your coffee

(※5)「MIND(マインド)食」と呼ばれ、認知機能の低下を防ぐ食事のこと。2015年に米・ラッシュ大学医療センターが認知症の国際誌『Alzheimer’s & Dementia』で発表した論文によると、マインド食を実践するとアルツハイマー病のリスクが大幅に低下したという。

鈴木祐(すずき・ゆう)

サイエンスライター。1976年生まれ。慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。著書に『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)、『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『科学的な適職』(同)など。

Twitter:@yuchrszk

ブログ:パレオな男

取材・文/榎並紀行(やじろべえ)
写真/小野奈那子