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いい人止まりで終わってしまうのはなぜなのか?

「デート、うまくいったみたいだね」

まさみちゃんとのデートについて一通り話し終えると、ナオヤさんはうっすら微笑みながらこう言ってくれた。LINEで「次のデートの約束ができました」と結果を報告したら、「話を聞かせてよ」と返信があり、出勤前に会うことになったのだ。

ナオヤさんが連れて行ってくれたのは、原宿の竹下通りからわき道に入ったところにあるメキシコ料理店だった。店内はカフェスタイルで、これまで連れていってもらった店よりグッとカジュアル寄りだけれど、シェフがメキシコ人で、本格的なブリトーが味わえるという。

具や辛さが選べるのだが、ナオヤさんおすすめのビーフ塩麹・激辛をオーダーした。運ばれてきたブリトーにかぶりつくと、強烈だけど旨味のある辛さが絶品だった。しかも、肉は厚みのある姿からは想像できないほどやわらかく、あっという間に食べ終えてしまった。

「ブリトーってこんなにおいしいんですね!」

「塩麹に24時間肉を漬け込んでるから、このやわらかさが出るんだって。メキシコと和風の塩麹っていうかけ合わせが面白いよね」

ナオヤさんは今年の正月に休みを取って中南米の何カ国かを回ってきたという。ハワイやグアムに行く先輩ホストが多い中、やっぱりどこか変わっている。

「それで、デートのことだけど、漢字検定っていうのがケンらしいよね」

「僕らしいですか?」

「そう。漢検は悪くないけど、それだけだと“いい人”から先にはなかなか進めないよ。ケンは店でもそう。お客さんから気に入ってはもらえるけど、“特別な人”にはなれない」

「特別な人……ですか?」

「そう。相手にとって“特別な人”にならないとシャンパンタワーは入れてもらえないし、恋愛でも選んでもらえないんだよ。もう一歩踏み込んで、グッと距離を縮めないと」

相手の「特別な人」になるための3つのステップ

ナオヤさんいわく、「特別な人」とは、「この人は信頼できる」「この人には何でも話せる」という絶対的な信頼を感じている人のこと。人は、「特別な人」の言葉を信じ、「特別な人」から物を買い、「特別な人」からの好意を受け入れるのだとか。

「いきなり“特別な人”になるのは無理だから、3つのステップで考えるといいよ」とナオヤさんはアドバスをくれた。

<特別な人になるための3つのステップ>

  • STEP1
    相手から「なんとなく好かれる存在」になる
  • STEP2
    相手にとって「いないと困る存在」になる
  • STEP3
    相手と「秘密を共有している存在」になる 

STEP1 相手から「なんとなく好かれる存在」になるために

まず、「なんとなく好かれる存在」になるためには、相手が警戒心を解いて「この人の言うことなら聞いてみようかな」と親しみを持ってもらうことが必要だという。そのために大切なのが、次の2つだという。

  1. 生理的にダメと思われない見た目を保つ
  2. 自分から自己開示する

見た目はホストの仕事でだいぶマシになっているし、自己開示もナナさんに教わった「明るい自虐」でどうにかクリアできているはずだ。実際、パッとしないホストである自分の源氏名が「袋小路ケン」だと話したら、まさみちゃんも「研修が順調にいっていない」と悩みを打ち明けてくれたのが、その証拠だろう。

STEP2 相手にとって「いないと困る存在」になるために

次に、「いないと困る存在」になる、はどうだろう。自分はクリアできているだろうか。考え込んでいると、ナオヤさんがこんな風に解説してくれた。

「『また会いたい』と感じてもらうには、『この人なら話を聞いてもらえる』『自分を全面的に受け止めて認めてもらえる』と相手に思わせる必要がある。だって、普通は、人の話を聞いているより、自分が話すほうが楽しいでしょ?」

確かに、お客さんはみんな話を聞いてほしがっている。

「相手の話を聞いてない人ばかりなら、そこに自分の話を最後まで楽しそうに大きなリアクションしながら聞いてくれる人が現れたら、『また会いたい』ってなるんだよね」

STEP2をクリアするには、次の3つが必要だという。

  1. 観察する
  2. 理解する
  3. 同調する

①観察する:ホットリーディングで好印象を与える

「①観察する」は、自分の問いかけに対する相手のリアクションはもちろん、持ち物や服装、髪型などをよく観察するということ。確かに売上上位の先輩ホストたちを見ていると、その観察眼に驚かされることが多い。

お客さんがいつもと違うテンションだったり、違うバッグを持っていたりすると、すぐに「この前より元気ないね。何かあった?」「前の白いバッグも可愛かったけど、それも似合うね」と褒め言葉がすらりと出てくるのだ。

「それは、ホットリーディングっていうテクニックなんだ。事前に知った情報を使って、相手の信頼を得る方法なんだけどね。単純に自分ことを覚えてくれてたら、『自分に興味があるんだ!』と感じてうれしいよね? ナンバー入りしてるホストは、たいていお客さんの髪型や服装、持ち物、職業、話した内容なんかを写真やメモで残してるよ」

そういえば、まさみちゃんの服装を褒めはしたけれど、前と比べて褒めたわけではない。バイト時代のデニム姿と違って大人っぽいと感じたのに、そのことをちゃんと言葉にできなかった。そうか、このあたりがモテる男と自分の差なのかもしれない。

「話に出てきたテレビ番組や映画、本、お店はもちろんだけど、一緒に食事をした時に頼んだメニューなんかも覚えておくといいよ。次に会う時に、『あの映画観たよ』と話題にしたり、また同じものを頼んだら『この前も頼んでたよね、好きなの?」って聞いたりすると、喜んでくれるから」

  • 相手の持ち物や、話に出てきた映画のタイトルなどを覚えておいて、「前の白いバッグも可愛かったけど、それも似合うね」と褒めたり、「あの映画観たよ」と話題にしたりすれば、好印象を与えることができる

②理解する:共感はできなくても理解しようと考える

お客さんに指名してもらったり、女性に好きになってもらったりするには、イケメンでもこんなに努力してるんだ。僕がモテないのは当たり前だ。おそらく「②理解する」も僕はできていないのだろう……。

「『この人なら自分を受け止めてくれる』と思ってもらうには、本当は『そうそう!』『わかる!』って共感するのが一番いいんだよ。女性は特に共感を求める生き物だから」

「でも、女性の言うことって、男からすると共感できないこともたくさんあるじゃないですか」

「たとえば、『今日、服を買いに行ったけど、サイズがなくて買えなかった~。ムカつく~』ってグチるとかね」

「そうなんですよ!『そんなのしょうがないじゃん』って言うわけにもいかないし」

だから、どうリアクションすべきか困って、いつも会話が止まってしまうのだ。

「そういうとき、ナオヤさんはどうしてるんですか?」

「そんな話題でも、『そうなんだ、〇〇ちゃんはそういうときにムカつくんだ。なるほどね』って“理解”はできるはずだよ」

「……思い通りにならないことがあれば、ムカつくっていうのもわからなくはないです」

「でしょ? 理解すると自然に『わかるな~』って共感できるようになるんだ。だから、『そんなことオレに言われても』とか『他の服買えばいいじゃん』なんて否定するのは絶対ダメ」

  • 「この人なら自分を受け止めてもらえる」と思わせるには、相手に共感することがベスト
  • 相手の気持ちや感情に共感できなくても、なぜそう感じたのか理解することはできる。理解すれば共感が生まれるはず。

③同調する:相手に親近感を持たせる

じゃあ、「③同調する」とは、どんなことだろうか。

「これはテクニック的なことだから、覚えるしかない。メラビアンの法則って知ってる?」

「たしか、相手に与える印象で何がいちばん大きく影響するか。みたいな話でしたよね」

「そう。実際には、話している内容と、声のトーンや態度に矛盾があった時、人はどんな受け止め方をするかってことを調べた結果なんだ。簡単に言えば、『楽しい』と口にしていても、声のトーンがつまらなそうだったら、相手にはどう伝わるのかっていう研究。結果はこんな感じ」

追加でオーダーしたミートナチョスを食べる手を止め、ナオヤさんが見せてくれたスマホには、次のような結果が並んでいた。

言語情報(話の内容、言葉そのものの意味)が7%

視覚情報(見た目、表情、しぐさ、視線)が55%

聴覚情報(声の質感・大きさ、口調、話す速さなど)が38%

「つまり、言葉で『何を言ったか』ってことよりも、『どんな態度や話し方で言ったか』を人は重視するってこと。だから、女性には言葉であれこれ語るより、しぐさや話し方を同調、つまり真似することで、“自分に似てる”と錯覚させることができるんだ。」

「しぐさや話し方で錯覚させる……?」

「相手を観察、理解して同調することで、“この人は自分と似ている”って思わせることができたら、強い親近感を持ってもらうことができるんだよ。そのためのテクニックとしては、 “ミラーリング”と“ペーシング”が代表的だね」

この2つは、指名が取れない時に読んだ心理学の本にも書いてあった。どちらも「自分と似たものに親密さを感じる」という人の潜在意識を利用したものだ。ミラーリングは「相手の動作を真似ること」、ペーシングは「声の大きさや話すスピード、抑揚、リズム、息継ぎのタイミングなどを真似ること」

ただ、これは僕がやろうと何度か試みて、うまくいかなかった心理テクニックの代表だ。何がいけなかったのだろうか。

「これ、簡単そうに見えるけど、意外に難しいんだよ。やろうとして失敗してるヤツがいっぱいいるから、気にしなくても大丈夫。簡単な割にすごく効果が大きいから、頑張って続けてみてよ」

そう励ましてくれたナオヤさんは、うまくいくコツを教えてくれた。ポイントは、一度にあれもこれもやろうとしないこと、相手よりワンテンポ遅れでゆっくり行うことだという。

  • 言葉やしぐさ、表情などを相手に同調させる(真似する)ことで、相手に親近感を持ってもらうことができる
  • 同調の代表的なテクニックには、ミラーリングとペーシングがある

思い起こしてみると、ドリンクを持つ、飲む、足を組み替える、髪を触る、相手の息継ぎのタイミングであいづちを打つ、声の大きさや話すスピードを相手に合わせるなどなど、すべてを一度にやろうとしすぎて、相手の話に耳を傾ける余裕がなくなってしまっていた。

まずは、「相手が右手にグラスを持ったら、自分は左手に持つ」というひとつに絞って実践してみよう。さっそく店で試して、次のデートが本番だ。

「完璧じゃないにせよ、STEP1とSTEP2についてはクリアできているものもあったよね。でも、ケンにとっての高い壁は、STEP3だな。男と女にはいちばん必要な要素なんだけど」

そんなナオヤさんの言葉に、これまで積み上げてきたわかずかな自信が、あっという間に崩れ落ちた。「秘密を共有している存在」なんてどうすればなれるんだろう……。

<構成/伊藤彩子>

この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito