アップル・ジャパンが苦境にあった時、iPodビジネスの立ち上げからiPhoneを市場に送り出すまで、国内の最高責任者として同社をV字回復に導いた山元賢治さん

もともとはIBMで技術者としてスタート。外資系企業で専務や副社長を務めた後、スティーブ・ジョブズから直接口説かれてアップル入りしたという異次元のキャリアの持ち主です。

これまで採用面接を担当した若手の数は2000人以上。現在は世界で活躍できるビジネスパーソンを育成する「山元塾」を主宰する山元さんに「伸びる若手の条件」を聞きました。

20代半ばで「自分は何がしたい?」なんて考えるのは遅すぎる

山元賢治(やまもと・けんじ)。1959年生まれ。神戸大学卒業後、日本IBMに入社。日本オラクル、EMCジャパンなどを経て、2004年、アップル・ジャパンの代表取締役社長に就任。国内の最高責任者としてアップルの復活に大きく貢献。

──国内外で多くの若手を見てきた山元さんですが、伸びる若手にはどんな共通項があるとお考えですか?

山元賢治さん(以下、山元):答えはとてもシンプルです。成長に必要なものは情熱。それしかありません。仕事にどれだけ情熱を注げるか。猛烈に好きで何時間でも時間を忘れて夢中になれるかが大事なんです。

──それほどの情熱があれば成長も速いですね。ただ、そこまでの熱を持って取り組める仕事にめぐりあえないと悩む人も多いです。

山元:日本では、「今の仕事をずっと続けるのか」「自分は何がやりたいのか」と考え出すのが20代半ば、新卒で入社した会社を辞めて転職するタイミングで、という人は多いですよね。でも、それじゃ遅すぎる

──遅すぎる⁉ いきなり身も蓋もないんですが……。

山元:最近観た『フォードvsフェラーリ』という映画の中で、「10歳までに何になりたいか決まってるヤツは幸せだ。それに夢中になれるから、どんなことも苦にならない」ってセリフがあるんです。ハリウッド映画では、大人が子どもに「将来何になりたいの?」「夢を実現するためにどんな努力をしてるの?」って語りかけるシーンが普通に出てくる。

──子どもの頃からどんな仕事がしたいかを考えるのが当たり前だと?

山元:日本では、何も考えずに大学まで行って、就職活動で初めて仕事について考えますね。だから、給料がいいとか有名企業だとか、そんなことしか判断基準が持てない。その結果、時間を切り売りしてお金をもらい、「働かされている」とか「休んだほうがトク」っていう思考になってしまうんです。

──そして嫌になって3年で辞めてしまう、と。

山元:カッコいいビジネスパーソンのモデルがいないんですね。有名起業家が増えたとはいえ、会社員のゴールは、偉くなって運転手付きの車で出社すること、みたいなイメージがいまだにある。でも、スティーブ・ジョブズやティム・クック、ラリー・エリソン、僕が見てきたビジネスマンは本当にカッコよかった。みんな自分で運転してましたよ(笑)

子どもの頃から仕事について考えるアメリカ人と、20代半ばになってから考える日本人との差は大きいと山元さんは語る。

情熱を燃やす仕事を見つけたいなら「WHY」で考えろ

──今からでも情熱を持ったカッコいいビジネスパーソンになるにはどうしたらいいんでしょうか?

山元「WHY」の問いを立てて自分の頭で考えることです。上司に言われたからやるとか、人のやり方をただ真似するのではなく、「なぜ自分はこのプロジェクトにアサインされたのか」「なぜこの問題を解決する必要があるのか」と、あらゆることに疑問をもって考える習慣をつけることですね。

──トヨタでも「なぜ」を繰り返して考える「5回のなぜ」を徹底しているそうですね。

山元:これはビジネスでもっとも重要なスキルと言えるかもしれません。スティーブ・ジョブズが素晴らしいプロダクトを生み出せたのは、「なぜ、今のインターフェイスは感覚的に使えないのか?」「なぜ、もっとクールなデバイスがないのか?」というWHYを持ち続けたからなんです。

──日本の教育では、WHYを考える習慣は身につきにくいように思います。

山元:「どの本を読めばいいですか」「誰と会えばいいですか」っていう質問をしょっちゅうされます。僕とその人は違う人間なんだから、そんなのI don’t knowですよ。自分で本屋の書棚の前に立てば、ピピッとくるものがあるでしょ? そうでない本を買っても、積ん読になるだけ。でも、今はこういう「HOW」思考の人が多いんです。

──「HOW」思考の人ですか?

山元:WHYという根本的な問いを持つことなく、「どうやってやるか」といった小手先のHOWばかり気にしている人です。IBM時代、お客さまと十億単位の投資のミーティングをした後、「この提案書はパワポですか? ワードですか?」「色は何色使いますか?」と部下に聞かれた時は、驚きを通り越してあきれてしまいました。

──パワポかワードかは本質的な問題ではない、と。

山元:なぜ生きるのか、なぜ働くのかと考えることもないまま、すぐに答えが見つかりそうな近道ばかりを追い求めている。WHYでなくHOWで問題解決をしようとする人が多すぎます。僕は、これまで2000人以上と面接してきましたが、スペックが高くてもHOW思考しかできない人はすべて落としました

アップルの革新的なプロダクトは、スティーブ・ジョブズが良質な「WHY」を持ち続けたことで生み出されたという。

評価されないのは「上司の見る目がないから」ではない 

──面接で「こいつは伸びそうだ」というのは、どこでわかるんですか?

山元:最初の数秒でわかります。優秀なヤツは、とにかくキラキラしてますね。オーラや気が本当に違うんです。あと笑顔もいい。

──情熱を持っているからキラキラしているんでしょうね。

山元志望動機は重要じゃないんです。誰でもたいてい同じことを言うので。ひとつ言えるのは、「iPhoneが好きだからアップルに入りたい」と入社しようとする人は、たいしたことない人でした(笑)。安定した会社に入りたいだけなんでしょうね。あと、中途採用の面接では、9割の人が前の会社と上司の悪口を言ってましたね。

──そうなんですか!? 前職の悪口を言ってはいけないと転職マニュアルにも書いてあるのに。

山元:ほとんどの場合、会社や上司の悪口を言うのは一番になれない人。自分の能力不足を人のせいにしてるだけなんです。でも、見る目がないのは上司ではなくその人自身です。100%見習うべきところがない人などいません。人の悪口を言う暇があったら、まずは自分が同期やチームの中で一番になることを目指すべきです。

──ただ、上司との関係性はビジネスパーソンにとって永遠の悩みのように思います。

山元:上司から生理的に嫌われているケースを除けばですが、「すべて責任はおのれにある」と考えることです。「なぜ評価されないのか」「なぜ上司の言葉が厳しく感じるのか」、ここでも必要なのはWHYです。そうやって自己分析する中にしか答えはありません。

──真面目な人ほど、自分に責任があると考えることで追い込まれてしまうのでは?

山元:WHYで考えることと、自分を責めることは違います。自分を責めても問題解決にはなりませんが、「WHY」を考え続ければ、「コミットした仕事をやりきっていないから」「成長の加速度を示すことができていないから」といった理由が見えてくるはずです。

「スティーブ・ジョブズを目指したら彼を超えることはできない。誰かを目指すより自分がどうなりたいかを具体的に考えることが大事」と教えてくれた山元さん。

「ずるい日本語」でコミットした仕事から逃げるな

──WHYで本質的な思考ができれば、評価されない理由はシンプルだったということもありそうです。

山元:日本人はコミットという言葉を軽く考えすぎです。「3日後までにやっておいて」と言われて「ハイ」と返事をしたら、それはコミットしたということ。コミットは「契約」です。3日後に「あれどうなった?」と聞かれて、「すみません。まだ終わってません」では通用しません。

売上目標500億円とコミットしたなら、たとえ99%達成しても100%でなければ報酬がもらえないのがグローバルスタンダード。世界では、1回目は許されても2回やったらクビになります。

──頑張ってダメならしかたないという考えは通用しないんですね。

山元:僕が運営している「山元塾」には、次のリーダーを目指す人たちが参加しています。そこで僕は、「とりあえず」「まあ」「何となく」といった“ずるい日本語”を使うなって教えてるんです。

──ずるい日本語、ですか?

山元:たとえば、「とりあえずやってみます」ってよく言いますよね。でも、コミットしたからには「とりあえず」なんて、手を抜いた仕事のやり方は許されません。日本語って恐ろしい言葉で、自分を甘やかす言葉がたくさんあるんですよ。

プレゼンの時に、「私は話が下手なんですけど」と前置きするのもダメ。山元塾では、塾生がそんなことを言ったら、すぐにプレゼンを中止して席に戻らせます。

──つい、そういう前置きをしたくなる気持ちはわかる気がしますが……。

山元:でも失礼ですよね、下手な話を聞かせるなんて。世界では「私の話を聞いたほうが得ですよ」って言えないと相手にされません。これからのリーダーを目指すなら、世界に通用するコミュニケーション力を磨かなければならないんです。

山元塾では学生から経営者まで、幅広い人材がリーダーの哲学を学んでいる(画像はコミュニカのHPより)。

「伸びしろ」とは“体力”のことである

──成長の可能性を「伸びしろ」と言いますが、山元さんが「伸びしろがある」と感じるのはどんな人ですか?

山元伸びしろって「体力」なんです。それに尽きます。僕が成功できたのも、体力があったから。これまでお話ししてきた「情熱を持つ」「WHYで考える」「コミットしたらやり通す」「コミュニケーション力を磨く」ということの真ん中にあるのが「体力」なんです。

──言われてみれば、仕事をやり抜くのに必要な集中力や持続力は、体力があってこそですね。

山元:体力があるからこそ、集中できるし、最後までやり抜く力が持続する。それに、体力がないと好奇心も生まれません。好奇心は、情熱を燃やす燃料になってくれる大事なものなんです。疲れ切った人は、何かに興味を持つこともないでしょ?

──普段からトレーニングや運動をしておくべきなんでしょうか。

山元:いやいや、僕自身ゴルフはしますけど、特別なことは何も必要ありませんよ。ただ、いつでも体を動かせるような環境づくりや自己管理は徹底しています。おかげで風邪もほとんどひかず、人生で仕事は一度しか休んだことがありません。あとはできるだけストレスを受けない働き方をすることですね。

──ストレスを受けない働き方とはどんなものか教えてください。

山元嫌な仕事からやることです。アップル時代、僕は毎朝5時に会社に行って、必ず嫌なことからすませていました。たとえば、全国のお客さまと商談を繰り返してやっと契約をまとめたと思ったら、翌朝にはアメリカ本社から「あの件は中止」というメールが入ってすべて無駄になってしまう、ということもしょっちゅうありました。

──それはきついですね……。

山元:朝5時に中止のメールを確認したら、9時になるのを待って、すべてのお客さまに謝罪の電話を入れるんです。そのほうが、早くスッキリできて心身の消耗度合いが少ないんですよ。これを2、3日放置すると「あの件、どうしよう……」と心身にストレスがかかってしまう。

毎朝、100件はメールチェックしてましたが、そのうちの90件はこうした変更のオーダーかクレームでしたからね。笑顔で生きてこられたのが自分でもすごいと思います(笑)。

──心身ともにタフでないと生きていけませんね。

山元:IBM時代には、トヨタの「5回のなぜ」を超えて、最低7回は「WHY」の問いかけを繰り返すことを叩き込まれました。IBMには13年間いましたが、毎日毎日WHYを考え続けて、24時前に帰ったのはたった3回です。

──時代が違うとはいえ、働き方改革やワークライフバランスとは無縁ですね。

山元20代の間は必死で働いたほうがいい。だって何もわからないんだから(笑)。人生80年のうち、人が働いてる時間ってたったの11、12年なんですよ。睡眠に計25年、トイレには計3年も費やしているんです。それだけの時間しか働けないんだから無駄にできる時間なんて1秒もない。上司や会社の悪口を言ってる時間なんてもったいないですよ。

でも、ある意味、チャンスでもありますね。こんなに働かなくなった時代だから、少し人より余計に働くだけで大きな差をつけることができるはずなんです。

山元賢治(やまもと・けんじ)

1959年生まれ。神戸大学卒業後、日本IBMに入社。日本オラクル、EMCジャパンなどを経て、2004年にスティーブ・ジョブスに指名され、アップル・ジャパンの代表取締役社長に就任。iPodビジネスの立ち上げからiPhoneを市場に送り出すまで、国内の最高責任者としてアップルの復活に大きく貢献。現在は株式会社コミュニカのCEO兼Founderとして、「これからの世界」で活躍できるリーダーの育成、英語教育に力を注いでいる。

公式HP:講演会・リーダーシップ研修 | 山元賢治が次世代のリーダーを育てる | コミュニカ

取材・文/伊藤彩子