【小説で学ぶ、元歌舞伎町No.1ホストの「人を操る心理術」】

入店以来3カ月間無指名のダメホストだった主人公、袋小路ケン。チビで非イケメン、自分に自信が持てないケンは、好きな子にも「ただのいい人」としか見てもらえない。そんなケンが心理学に基づいたコミュニケーションのテクニックを学び始めたら……。

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どうすれば秘密を共有してもらえるのか?

いつも、ただの「いい人」で終わってしまう僕が、お客さんにシャンパンタワーを入れてもらったり、恋愛で選んでもらったりするには、相手にとって「特別な人」にならなければいけないらしい。これは、お店の先輩で、歌舞伎町No.1ホストのナオヤさんにアドバイスしてもらったことだ。

「特別な人」とは、「この人は自分をわかってくれている」「この人になら何でも話せる」という絶対的な信頼を感じている人のこと。人は自分にとって「特別な人」の言葉を信じ、「特別な人」から物を買い、「特別な人」の好意を受け入れるのだという。つまり、恋愛だけでなく、ビジネスでも相手にとって「特別な人」になることは、相手から思い通りにYESを引き出すために必要なことなのだ。

ナオヤさんの教えでは、特別な人になるためには3つのステップがある。僕にとって最大の難関は、STEP3の“相手と「秘密を共有している存在」になる”こと。

これができなければ、お客さんにシャンパンタワーを入れてもらえるような関係になれないし、大好きなまさみちゃんの恋人にはなれないらしい。人に言えない秘密を、どうしたら僕なんかに打ち明けてくれるのだろうか……。

認知的不協和を利用して「この人は特別」と錯覚させる

「それはさ、ニワトリが先か、タマゴが先かっていう話と一緒なんだよ。みんな勘違いしてるけど、必ずしも仲がいいから秘密を打ち明けるってわけじゃない」

「そうなんですか?」

「たいして親しくなかった相手でも、秘密を共有したことによって心の距離が縮まって、親密になるってこともあるんだ」

ナオヤさんによれば、本来なら親しくない相手と秘密を共有したりなんてしない。だから、理由はなんであれ、親しくない人に秘密を打ち明けてしまうと脳はパニックを起こす。パニックを起こした脳は、辻褄を合わせるために「この人は特別な人なんだ。だから秘密を打ち明けたんだ」と錯覚を起こすのだという。

「これを認知的不協和っていうんだ。人は矛盾を抱えた時、自分を正当化して安心しようとする。そのために脳が錯覚を起こして行動や態度を変えてしまうんだよ」

「なるほど。秘密を打ち明けてもらえれば相手が僕のことを特別な人だと錯覚するってことですね。でも……どうやって秘密を話してもらえばいいんですか?」

「基本は自己開示。どんどん自己開示してくる相手に対して人は、『私も、話さなくちゃ悪いかな』という好意の返報性という心理が働くんだ」

「心理学の本で読みました。“ここまでやってくれてるんだから自分もやらなきゃ”って考えることですよね。そっか、自分から先に秘密を打ち明けていけばいいんですね」

「そういうことだね。それじゃあ聞くけど、ケンならどんな秘密を打ち明ける?」

そう聞かれると、何を話していいのか見当もつかない。まさか子ども時代のイタズラとか? そんなしょうもないことを話して、まさみちゃんと仲良くなれるとは思えない。

<認知的不協和のテクニック>

  • 人は矛盾を抱えると自分を正当化しようとする。そのため脳が錯覚を起こして行動や態度を変えてしまう。
  • 相手に認知的不協和を起こすことができれば、相手を思うように誘導することができる。

<好意の返報性のテクニック>

  • 自分のために何かをしてもらうと、人は「ここまでやってくれたのだから自分もそれに応えなければ」と考えるもの。これを好意の返報性という。
  • 好意の返報性を利用して、自分の秘密を先に打ち明ければ、相手の秘密を聞き出せる可能性が高くなる。

相手と共有すべき「秘密」ってどんなこと?

秘密として話すべきなのは“恋バナ”と“猥談”。この2つだね」

「え!? まさみちゃんに、そんな話できませんよ!」

「でもさ、人に言えない恥ずかしい秘密って、それくらいしかないんだよね。仲が良くても、意外に恋愛や初体験とかの突っ込んだ話ってしないから」

「それはそうですけど……」

ナオヤさんは、ミートナチョスをひと口に運ぶと、笑顔を見せて続けた。

「店だったら、初回のお客さんと恋バナしてるでしょ?」

「恋バナっていっても『チビだから全然モテない』とか、『彼女いない歴=年齢』とか、そんな感じですけど」

「それをまさみちゃんにも話せばいいんだよ」

「でも、どうやって切り出せばいいのか……」

そうウジウジ言う僕に、ナオヤさんはこう聞いてきた。

「まさみちゃんとは、なんて呼び合ってるの?」

「まだお互い名字で呼んでるんですよ。店だと、『なんて呼べばいい?』なんて平気で聞けるんですけど」

下の名前で呼び合うのは距離を縮める基本中の基本だからね。まずはケンがまさみちゃんを名前で呼んでごらんよ」

ナオヤさんが教えてくれた方法はこうだ。まずは、自分の名前の由来や昔のあだ名を話す。その後に『ところで○○ちゃんって名前の由来は?』と話を振り、さりげなく呼び方を名字から名前に変えていけばいいという。

「好意の返報性」を利用して相手の秘密を引き出す

「名前で呼ぶことでちょっと距離が近づいたなって思ったら、恋バナをスタートさせればいい。根ほり葉ほり聞き出そうとすると警戒されちゃうから、まずは自分から話すこと。これも自己開示のテクニックだよ」

「たとえば、どんなことを話せばいいんでしょうか……。下手なことを言って、嫌われるのは避けたいんですけど」

自分の聞きたいことを話題にすればいいんだよ。どんな恋愛を相手がしてきたのか気になるなら、『今まで、いつも片思いばっかりの恋愛してきたんだよね。まさみちゃんは?』、どんなタイプが好きなのか知りたいなら『僕は昔から、好きになるのがショートカットの子ばっかりなんだけど、まさみちゃんは?』みたいな感じで」

「そうか。さっき教えてもらった好意の返報性を使うんですね。まさみちゃんの好きなタイプが知りたければ、自分の好きなタイプを自己開示すればいいのか」

「そうそう。教えてもらったんだから自分も教えなきゃって相手は思うからね。それで話が盛り上がったら、猥談に切り替えていくといいよ」

「猥談ですか……僕にとってはかなりハードルが高いです」

「『ちょっと恥ずかしい話なんだけど、ぶっちゃけトークしていい?』みたいな前フリをして切り出せば大丈夫。これは、“恥ずかしい”と前置きして自分を落とし、相手を優位に立たせるテクニックなんだ。自分は尊重してもらえたと思ってもらえば、相手の警戒心は自然と薄れる。心が開いた状態になるから、こちらの質問や要求を受け入れてくれる確率が高まるんだよ」

話しにくい話題を切り出す時は、心理テストを利用する

ナオヤさんがホストクラブでもよく使っている鉄板の下ネタが3つあるという。こういったトークは、その場で考えるのではなく、いくつか決まったネタを持っておくといいそうだ。このパターンに持ち込めば相手をうまく誘導できる、という自分なりの方程式を持てたら強い。

<秘密を共有するためのネタ例>

  1. 「僕のファーストキス(初体験)は〇歳なんだけど、〇〇ちゃんは?」
    ディープな下ネタに持ち込む前フリとして。
  2. 「SとM、強いて言えばどっち?」
    ライトな下ネタ。ぶっちゃけトークのきっかけとして。
  3. 「いい歳して恥ずかしいんだけど、そういうホテルって行ったことないんだよね。〇〇ちゃんは?」
    これでポロリと本音を話してくれるかもしれない。

「それでもハードルが高いって感じるなら、こういうのを使うのもオススメだよ」――そう言って、ナオヤさんが見せてくれたスマホの画面にあったのは心理テストだった。

<大人の心理テスト>

◆彼から指輪のプレゼントをされました。その時のサプライズ演出は?

【A】バルーンの中にリングを入れる

【B】食べ物の中にリングを隠す

【C】街を歩いているときに突然渡す

【D】ゴージャスなリボン飾りをつける

一見、普通の恋愛テストのような内容だ。これなら相手も答えやすいだろう。でも、答えを見てみると……。

◆このテストでわかることは、あなたの眠っている性癖です

【Aを選んだあなた】

あなたは非現実的なシチュエーションでのセックスに憧れがあります。いつもとは違う大胆な場所でのセックスを妄想するだけで興奮しちゃうタイプのようです。

【Bを選んだあなた】

あなたは目隠しをしたセックスで興奮するタイプ。彼に目隠しをしてもらい、視界を奪われることで聴覚や触覚が敏感になるでしょう。

【Cを選んだあなた】

あなたは人に見られながらのセックスに興奮するタイプ。見られながらすることで、いつもとは違ったドキドキが楽しめるでしょう。

【Dを選んだあなた】

リボンは、拘束への関心を表しています。あなたは縛られることで興奮するタイプ。タオルやベルトで軽く縛られてみては?

「性的な話題を自然に切り出すなら、こういう心理テストが一番なんだ。いくつか覚えておくといいよ。相手も『心理テストだから』ってことで答えやすいからね」

「それでもやっぱり僕には、相当ハードルが高いように感じるんですけど…」

「まあ、相手の特別な人になるには、それなりの秘密を共有しないとダメだからね。ちょっとはリスクを負わないと。まずは店で試してみたら? 普段の接客ではまったく猥談してないでしょ? 効果を実感してみるといいよ」

そうか。まずは店で試してみよう。ナオヤさんが教えてくれたテクニックを身につけることができたら、すごい武器になるかもしれない。話に夢中になってしまい、放置していたミートナチョスをナオヤさんとたいらげながら、僕は密かに期待で胸を膨らませていた。

<構成/伊藤彩子>

▶︎第17回は、6月11日の公開予定です

この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito