なぜか周囲からかわいがられる人っていませんか? 上司や先輩の懐にスッと入り込むにはどんなコツがあるのでしょうか。

仕事の評価には業務のスキルだけでなく、コミュニケーションスキルも大きく影響します。「上司や先輩にかわいがられたい」と密かに思っている人も少なくないのでは。

今回、お話をうかがったのは、16歳の頃から年間5,000本の科学論文を読み続けているというサイエンスライターの鈴木祐さん。

科学的エビデンスから紐解く“かわいがられ力”の身につけ方を教えていただきました。

上司や先輩にかわいがられるのは「予測しやすい人」

鈴木祐(すずき・ゆう)。サイエンスライター。1976年生まれ。慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。著書に『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)、『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『科学的な適職』(同)など。

──早速ですが、科学的観点から上司や先輩にかわいがられやすい人の特徴を教えてください。

鈴木祐さん(以下、鈴木):調査機関「ハーバードビジネススクール」によると、言動や行動を予測しやすい、つまり、わかりやすい人(※1)ですね。

──わかりやすい? 素直な人という意味でしょうか。

鈴木:いえ、素を隠さないという意味です。ありのままの自分で仕事ができている人は行動や言動に一貫性があります。すると、相手の脳が処理をしやすいので、コミュニケーションをラクに感じてくれるのです。そもそも人間の脳は、わかりにくいものを嫌う傾向がありますから。

──相手の脳に負担をかけない人が、かわいがられやすいんですね。でも、素をさらけ出すことって、意外と難しい……。

鈴木:素の自分を隠すことは、嘘をついていることになるので、他人から見て、行動や言動がチグハグな印象に映ります。一貫性がないので脳が情報を処理しづらく、上司や先輩からは「なんとなくイヤな人物」として認識されてしまいがちです(※2)。

──ということは、上司や先輩のご機嫌をうかがって相手を褒めたり、空気を読んで同調したりすることは逆効果なのでしょうか?

鈴木:場合によりますが、その可能性は高いですね。迎合することは素を隠していることになりますから。

たとえば、上司の意見に反対しなければならない場面があったとしましょう。この時、普段から上司に思ったことをちゃんと伝えている人であれば、相手にとっては反発も予測範囲内のできごとになる。つまり、わかりやすい人として認識されますよね。

──なるほど。何よりも、予測しやすくてわかりやすい人でいることが大切なんですね。でも、自分の素を見せる勇気がない人はどうしたら……?

鈴木:あらかじめ上司に、コミュニケーションが苦手なことを伝えてしまうのが得策です。そうすることで上司は、あなたを“わかる”ことができます。

実は、僕も人と話すのがあまり得意ではないのですが、自分がいかに人見知りかというポイントだけは上司や先輩にはアピールしてきました。おかげで先輩から嫌われたことはなかったと思いますね。

同じように、自分が臆病な人間ならそこを伝えればいいし、かっこつけて素の自分を隠すクセがあるなら、それもちゃんと伝えておけばいい。この作業を行うだけで、相手の脳は不要な情報処理から解放されます。

──たしかに、自分から言ってもらえると、そういう性格だと認識できますし、言った側も気持ちがラクになりますよね。

鈴木:あとは基本的にはシンプルで、自分の行動と言動に一貫性があればいいんです。それが相手にとってのわかりやすさにつながります。

たとえば、上司と約束した納期通りに書類を提出する、誰にでも同じような態度で接する、わからないことはわからないと言う、といったように相手の予測を裏切らない行動を積み重ねていけば、信頼関係は自ずと築いていけます。

ただし、上司や先輩もひとりの人間なので、もちろん好き嫌いはあります。なかでも自分と共通点が多い人のことは、脳が処理をしやすいので好きになりやすい傾向にありますね。

部下や後輩を萎縮させる人にかわいがられる方法

──上司のタイプによってかわいがられる方法も違うのでしょうか。

鈴木:基本的に、上司のタイプによって求められる“かわいがられスキル”は変わりません。

──そうなんですね。でも、たとえば物言いがきつい、高圧的な態度の上司とのコミュニケーションは悩ましいものですが、どのように接したらよいでしょうか?

鈴木:強いて言うなら、ミスをした際には、上司や先輩からのお叱りに正しい反応を返すことですね。

具体的には、まずミスを犯したのは自分だという点を認めて、解決策を提示するのがベストです。現時点では、この謝罪法が最も効果が高いことが、オハイオ州立大学による実験(※3)で確認されています。これも「何かあっても対応する」という、わかりやすさと信頼につながりますね。

──上司や先輩と話す度に、緊張してしまうという人はどうすれば?

鈴木:対処療法ではありますが、アメリカ海軍でも採用されている「Box Breathing(ボックスブリージング)」という呼吸法を試してみてください。自律神経系を調整することで、ストレスをやわらげる効果があるといわれています。

<Box Breathingのやり方>

  1. 4秒間かけて息を吸い込む
  2. 4秒間、肺の中に空気が入った状態を保持する
  3. 4秒間かけて息を吐き出す
  4. 4秒間、肺の中に空気がない状態を保持する 

──(スーハー)たしかに、気分がスッキリした感じがします。

鈴木:また、上司や先輩の肩に手を置くイメージをふくらませながら、会話をするトレーニング(※4)がおすすめです。

──どういう効果があるのでしょうか?

鈴木:脳を騙して、リラックスさせるんです。相手の肩に手を置きながら会話できるのは、家族や友人など、親しい間柄の人ですよね。イメージトレーニングしながら話すことで、上司や先輩との心理的距離を脳内でバグらせることができるのです。

──友人と話しているような安心感が生まれるんですね。

鈴木:そうですね。とはいえ、こちらがいくら素を見せたり、コミュニケーションに対して努力をしたりしても、部下や後輩をまったくかわいがらないサイコパスやナルシストのタイプの人間も、100人に1人ぐらいの割合で存在します。そういう場合は、無理に自分の素を見せずに、割り切って考えましょう。

飲み会を断っても上司からの心象は悪くならない

──上司や先輩に可愛がられている人は、飲み会の誘いをあまり断らない、ノリが良いという印象があります。科学的観点から考えると、実際はどうなのでしょうか?

鈴木:飲み会の誘いを断っても、上司や先輩からの心象が悪くなることはありません。

カリフォルニア大学の調査(※5)では、上司からのホームパーティーの誘いに対してシンプルに「今夜は別の予定があるので」とだけ伝えて断ったとしても、信頼関係や仕事には影響が出ないという結果が出ています。

──それを聞いてホッとした読者も多いと思います。

鈴木:ちなみに、誘われる度に飲み会に参加したからといって、上司や先輩から好かれるワケでもないですよ。

──でも、よく一緒に飲んでいる上司と部下は仲が良い印象があります。

鈴木:たしかに、恥ずかしい失敗談を語り合うなど、飲み会でよくある“自虐コミュニケーション”は、仲を深めるのには有効だと思います。ただし、自分が有能であることを示せていないと効果はありません。ミスばかりしている人が自虐をしても意味ないです。

嫉妬をコントロールすると“かわいがられスキル”が向上する

──上司や先輩にかわいがられたいのに、相手から嫉妬心を向けられることもあると思います。

鈴木:嫉妬を回避するためには、その人に対して協力的な姿勢を見せる。これに尽きますね。

上司からの嫉妬問題は、ブリティッシュコロンビア大学でも研究対象になっていて(※6)、嫉妬されやすいのは、有能だけれども冷たい印象を与える人だといわれています。

──有能な人は、上司や先輩にとって脅威なのかもしれませんね。

鈴木:もし、上司が自分より仕事ができない場合は、相手のプライドを傷つけないように、アドバイスを求めたり、協力的な姿勢を見せたりするといいと思います。

──上司が同僚や後輩をひいきにしている場合はどうですか? 思わず嫉妬してしまいがちですが、その上司に自分もかわいがられるためには、どうすればよいでしょうか。

鈴木:上司の前で、その人がかわいがっている部下や後輩を褒めてみてください。自分が目をかけている部下や後輩を褒められて、うれしくない人はいません。

その際、嘘がない素の状態で話せるように、自分なりに褒める人の長所や魅力を掘り起こすことをお忘れなく。

今すぐできる“かわいがられ力”トレーニング法

──いろいろとお聞きしましたが、“かわいがられ力”をアップするためのトレーニング法があれば教えてください。

鈴木:上司や先輩にかわいがられたいと悩む人は、「自意識が邪魔する人」と「(上司や先輩など特定の人物に対する)対人関係が苦手な人」、この2つのタイプに分かれます。

まず、「自意識が邪魔する人」は、自分をアピールすることに意識が集中してしまうことが、コミュニケーションがうまくいかない原因となっています。

マインドフルリスニング(※7)」法で、相手の話を集中して聞けるようにトレーニングをしてみましょう。

<マインドフルリスニングのやり方>

2人1組で行うトレーニングなので、家族や友人に協力してもらいましょう。

  1. 最近あったことや気になることを2分間相手に話してもらう
  2. 相手が話している間は口をはさまず、話を聞くことに集中する
  3. 話が終わった後、聞いた内容を相手に伝える
  4. 内容があっていたか、相手に確認をしてもらう 

鈴木:次に、「対人関係が苦手な人」は、コミュニケーションでの失敗を必要以上に恐れてしまうことが、言いたいことが言えない原因になっています。

その恐怖を乗り越えるためには、高所恐怖症の治療などに用いられる「暴露療法(※8)のようなトレーニング方法が有効です。

──ショック療法的なトレーニングでしょうか?

鈴木:そうですね。対人関係に対する恐怖に、心と体を少しずつ慣らしていくイメージです。

家族や友人など、心理的距離が近い人から、自分の素を見せてコミュニケーションをとる練習をしてみましょう。慣れてきたら、友人から知り合いへ、知り合いから同僚へ、そして同僚から上司へと、ステップアップしてみてください。

最終的な目標を決めて、その目標から逆算するようにトレーニングの段階を決めるとスムーズだと思います。

<対人恐怖を改善するトレーニング例>

  1. 家族に今まで打ち明けてないことを話す
  2. 友達にも同じ話を打ち明けてみる
  3. 知り合いレベルの人と世間話をしてみる
  4. 宅急便やコンビニの店員さんに挨拶をしてみる
  5. 宅急便やコンビニの店員さんと世間話をしてみる 

鈴木:コミュニケーションへの苦手意識や恐怖は、日々の訓練で乗り越えていくしかありません。人間は新しい習慣を身に付けるのに、約2ヶ月から半年かかるといわれています。結果を焦らず、じっくりと向き合ってみてください。

──ありがとうございます。最後に、上司や先輩からかわいがられたいと悩んでいる人に向けて、メッセージをお願いします。

鈴木:上司や先輩にかわいがられたい一心でコミュニケーションをとると、相手に迎合してしまい、素の自分を隠した曖昧な行動や言動に繋がりやすくなります。

迷った時は一旦立ち止まって、相手にとって予測しやすい、脳の負担が少ないコミュニケーションができているか考えてみてください。

あとは、少しずつでもいいので場数を踏んでいくこと。対処療法や根本的な改善を促すトレーニングを取り入れて、コミュニケーションへの不安や恐怖を晴らしていきましょう。

自分の素をさらけ出すことができれば、もう上司や先輩の顔色をうかがう必要はなくなるはずですよ。

(※1)調査機関「ハーバードビジネススクール」の論文「To be or not to be your authentic self? Catering to others’ preferences hinders performance」より。

(※2)オレゴン大学の論文「Social Responses to Expressive Suppression: The Role of Personality Judgments」より。

(※3)オハイオ州立大学の実験「An Exploration of the Structure of Effective Apologies」より。

(※4)Richard M. Perloff氏の論文「The Dynamics of Persuasion: Communication and Attitudes in the Twenty-First Century」より。

(※5)カリフォルニア大学の論文「The Sweet Spot: How to Accomplish More by Doing Less 」(2015年)より。

(※6)ブリティッシュコロンビア大学による論文「Consequences of Downward Envy: A Model of Self-esteem Threat, Abusive Supervision, and Supervisory Leader Self-improvement」(2018年)より。

(※7)マインドフルリスニング法について「Shafir, R.Z. (2008). Mindful listening for better outcomes. In S. Hick (Ed.), Mindfulness and the therapeutic relationship (pp. 215-231). New York, NY: Guilford.」より引用。

(※8)ティモシー・A.サイズモア氏が提唱する暴露療法「セラピストのためのエクスポージャー療法ガイドブック:その実践とCBT、DBT、ACTへの統合」(2015年)より。

鈴木祐(すずき・ゆう)

サイエンスライター。1976年生まれ。慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。著書に『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)、『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『科学的な適職』(同)など。

Twitter:@yuchrszk

ブログ:パレオな男

取材・文/文希紀 (@gigi_kikifumi )