東京を中心に年間1000本以上のお笑いライブを主催する制作会社「K-PRO」。主催するライブには事務所の垣根を超えて多くの芸人が出演し、バイきんぐやオードリーなどスターを数多く輩出しています。

多くのライバルたちの中から抜け出すには、笑いの才能に加えて、周りに引き上げてもらう力が必要なはず。15年以上にわたって多くの若手芸人を見続けてきたK-PRO代表の児島気奈さんに、 “伸びる若手”の条件についてお聞きしました。

伸びる若手に共通するのは“かわいがられ力”

児島気奈(こじま・きな)。1982年生まれ。高校時代からお笑いライブにボランティアスタッフとして携わり、2004年、お笑いライブ制作集団「K-PRO」を設立。以来、15年以上東京のお笑いシーンを支え続けている。

──早速ですが、単刀直入に売れっ子になっていく若手芸人の特徴を教えてください。

児島気奈さん(以下、児島):人間的な部分で愛される力、かわいがられる力を持っていることだと思います。そういう人は、ファンの方だけでなく、先輩や後輩、スタッフなど周りも応援されて、引き上げてもらっている印象があります。

──愛され力……よく耳にはするものの、要するにどういうことなのでしょうか?

児島人前で失敗できることじゃないでしょうか。自分の周りにいる後輩を想像してもらえるとわかりやすいと思うのですが、ずる賢くなんでもこなせる子より、不器用だけど一生懸命な子のほうが「次は頑張ってほしいな」ってちょっと優しい目で見ることができたり、「応援したい」って思えたりしませんか?

──なるほど。児島さんが見てきた芸人さんの中で、芸人仲間からの愛され力が高くて売れっ子になっていった方がいれば教えてほしいです。

児島:バイきんぐさんですね。もともと愛されていたことにプラスして、先輩の話をどんどん聞くようになったことが、2012年の「キングオブコント」優勝につながったような気がします。どの業界でもそうですが、自分から先輩に話を聞きにいく若手はかわいがられるということもあって、応援されていましたね。彼らがウケると芸人たちも喜び、それがお客さんにも伝播していって、いい流れが生まれていました。

本人たちも、「若いお客さんは俺らなんか見に来ていない」っていう後ろ向きな姿勢から「俺らを見に来てない若いお客さんのことも笑わせてやる」っていう前向きな姿勢に変わって、そこからの伸びの勢いがすごかったですね。

──そのような愛され力を持っている若手をあげるとしたら……?

児島:今だったら、マセキ芸能社所属のコンビ・銀兵衛さんですね。2人ともクラスの中では目立たない子みたいな感じのキャラクターなんですけど、うまくいかなくて奮闘している姿が愛くるしさ満載なんですよ。

2人がウケているのを見ると、先輩芸人もお客さんも応援している側全員がうれしくなるんです。一緒に気持ちをつかみにいくのが上手だなと思いますね。

──失敗しても前向きに頑張ることで周りから応援してもらえるんですね。

児島:単に失敗するだけじゃなくて、失敗したことを隠さず、しっかり声に出せる人、そして自分から先輩にアドバイスをもらいに行ける人が伸びると思います。

──素直に周囲を頼ればいいということでしょうか。

児島:失敗を一人で抱え込んで「自分はお笑いに向いていないんじゃないか」と考えてしまい、伸びる伸びない以前に辞めちゃう子も少なくないんです。

でも、自分から失敗したことを周りに投げかけられる人は、なかなか辞めないし、その後、伸びていく。それは、周りからのアドバイスや励ましのひと言を自信につなげているからだと思います。

与えられるチャンスにとにかく挑戦する

──若いうちは失敗が大事だと頭ではわかっているものの、やはり失敗するのは怖いというのも本音です。

児島:まずは上司から与えてもらった場をチャンスととらえて挑戦することでしょうか。若手のうちは、面倒くさいことや不得意なことを頼まれることも多いのですが、「新しいことにチャレンジする場」と前向きにとらえることが大切だと思います。

──とはいえ、期待に応えられるものなのか、どうしてもプレッシャーが……。

児島:そもそも上司や先輩は、最初から若手に完璧さは求めていないことが多いです。私の場合、新しい場で失敗した子がいたとしても、それで見限ることはしません。必ずもう一度チャンスを与えます。

私に限らず、マネジメントする立場にある人は、若手の日々の行動などを見て素質を感じているからこそチャンスを与えるものです。失敗してしまうと、そこにばかり目がいってしまいがちですが、反省は本人に任せて「ここがよかったよ」と伝えるようにしていますね。

コロナ禍における無観客ライブの様子(K-PRO提供)。

児島:さらに言うと、一回失敗しただけで「もう無理です」とあきめるのではなく、自分から前のめりに「もう一回挑戦したいです」っていう姿勢を持てたら最高ですね。愛され力もアップすると思います。先輩からしたら、そういう子を引き上げてあげたくなる。

──なるほど。お話を聞いて、自分にチャンスを与えてくれる先輩の存在が重要なのかなと思ったのですが、そういう存在を見つけるにはどうしたらいいでしょう?

児島職場で一番怖い先輩を見つけてください。怖い先輩って、単にいじわるなんじゃなくて、自分に対しても相手に対しても仕事にストイックな場合が多くて、勉強になることが多いんですよね。

私は新人時代、そういう先輩に話しかける努力をしました。怖い先輩を乗り越えたらなんでも大丈夫って自信がつくんじゃないかなとも思って(笑)。

若手のうちの差なんて気にしないことも大事

──なにかと競争が多い若手ビジネスパーソンが、同期の中でも頭ひとつ抜けた存在になるにはどうしたらいいでしょうか?

児島:そうですね……周りを気にしないことが大事なのかなと思います。若手のうちの差なんて長い目で見たら些細なことですから、それよりも自分の良いところ悪いところをちゃんと見極めて伸ばせるかが大事かなと。

──なぜ周りとの差を気にする必要がないのでしょうか?

児島:まわりと比べる時代は終わったなとひしひしと感じるんですよ。お笑いでいうと1990年代から2000年の初頭は「売れっ子芸人はテレビに出てナンボ」みたいな風潮がありましたけど、最近は短いブームのために頑張るというより、長く続けられることに目を向けている人が増えていて。

──テレビだけにとらわれなくなったんですね。

児島:自分たちはひな壇でトークするよりもライブでネタをやるほうが好きだという人もいれば、漫才も好きだけどしゃべりが得意だからインターネットでラジオみたいなことをやってみようという人もいます。

テレビが求めているものに合わせるのではなく、自分たちの特徴とか得意なものを活かしていこうっていう流れになってきているんですよね。

K-PROお笑いライブの様子(K-PRO提供)。

児島:たとえばアルコ&ピースさんとかは、まさに時代がおもしろさに追いついてきたパターンだと思います。 若手の時から、ずっと一緒に舞台やっていたんですけど、今テレビで見る平子さんの無茶振りするキャラクターとか、アドリブでつないでいく芸風って、昔から楽屋でやっていたままなんですよ。

当時はやっていたのはオリエンタルラジオやはんにゃなどのポップでリズミカルな笑いだったので、アルコ&ピースさんのメディアウケは正直イマイチだったんです。だけど今、時代的にトーク力が求められてきていて、アドリブがきく彼らが評価されるようになった印象があります。

──なるほど。無理に合わせるのではなく、自分のスタイルを貫いていたら、時代が追いついてきて、長く活躍できるパターンもあると。

児島:そうですね。特に今の若手は、お互いを認め合う仲間っていう状態が顕著に現れていると思います。

──ライバル関係ではないんですか?

児島:昔は花形であるMCを狙って全員がライバルみたいな関係だったんですけど、今はお互いの良さを理解しあって、ここはこの人が得意分野だから任せようとか、この人が仕切ると全体見られるからこの人にやらせようとか。

こちらから多くを言わなくても、それぞれの適材適所を踏まえた企画を考えて、良かったところと悪かったところをみんなで話してアップデートしている印象です。

──なるほど。自分のポジションを見つけてから、一気に駆け上がっていった方というのもいるんでしょうか?

児島:ハナコさんは、特にそうですね。最初は、コントの技術はあるけど3人の素の良さがちゃんと出しきれてないという感じでした。でも、そこから少しずつ演技に余裕が生まれ、個性が出てきて、次第にライブでウケるようになった。つかんでから伸びるまでがすごく早かったですね。そのタイミングでMCやトークをお願いしてみたら、それらもすごく好調で、自信が表現に出た感じはありました。

──コントだけにこだわらず、MCやトークにも挑戦したことでさらに伸びた、と。得意不得意を決めつけずに挑戦することが大事なんですね。

児島:とにかく勇気を出して、失敗を恐れず行動することですね。失敗できるのは若手の特権ですから、どんどん失敗をしていきましょう。そして先輩にアドバイスを求めながら失敗を客観的に分析し、改善し、強みに変えていく。そうしていくうちに自分らしく輝ける場を見つけられると思います。

もし失敗したことに対して怒るような上司なら、失敗できる別の場所で挑戦すれば大丈夫。どんどん前のめりに行動してください!

児島気奈(こじま・きな)

1982年生まれ。高校時代からお笑いライブにボランティアスタッフとして携わり、2004年、お笑いライブ制作集団「K-PRO」を設立。以来、15年以上東京のお笑いシーンを支え続けている。

Twitter:@kpro10th

取材・文/於ありさ(@okiarichan27