地道にコツコツ働けば評価されるというのは間違いではありません。でも、それだけでは本当に価値のある人材になれないのも事実。『マーケティングの仕事と年収のリアル』(ダイヤモンド社)の著者で、戦略コンサルタントとして活躍する山口義宏さんに、年収を上げ続けるキャリア戦略をご寄稿いただきました。

「労働市場における自分の価値」を認識してますか?

「真面目に仕事をすれば報われる」という考え方があります。これは、従業員と企業との信頼関係の背景にあるもので、私も単純には否定しません。ただ、「仕事で評価されて年収を高める」という目的からすると、その姿勢だけで目的を達成することは難しい。

あえてドライな言い方をしますが、企業の経営陣からすれば、従業員には「商品」という側面があります。自社の売上げ・収益を高めるために、企業は(給料という)お金を支払って従業員という商品を購入し、従業員は労働力と成果を提供するという取引関係が成立しているといえます。

従業員でも、フリーランスでも、何かしら企業からお金を得ている人は、自分の「商品価値」を高めないと年収は上がりません。人間なのに商品……実に嫌な響きですよね?(苦笑)。

でも、企業と従業員が実質的な取引関係にある以上、この冷たい事実認識を持つことが大事です。キャリアや年収が行き詰まる人は、まずこの入り口の認識を誤っていることが多いと感じます。

この考えに反論があるのは重々理解しています。ですが、「自分は商品である」という考えに嫌悪感を抱く人も、いざ自分が消費者としてモノやサービスを買うときは、同じ機能のものであれば安いものを探しますし、もっと安い代替品やサービスが出てくればあっさりと乗り換えます。

非常に乱暴に言えば、企業と従業員の関係においても同じ力学が働くことを認識しなければなりません。ビジネスパーソンとして年収を上げていくには、商品としての自分を客観視し、その市場価値を高め続ける必要があるのです。

経営層が高い年収を払っても維持したい人材とは?

では、経営層が年収を高くしても採用したい、維持したい人材とはどのような人でしょうか? それには大きく分けて2つのタイプしかいません。

<年収が高くても企業が欲しがる人材>

  • 多くのリソースを束ねて協働し、優れた機能や成果をもたらすマネジメント人材(部下や同僚と協働し、同じ成果を半分の時間でもたらす人や、同じ時間で倍の成果をもたらすようなマネジメントができる人)
  • 他の人よりも、かなり高度で希少な専門知識を持つようなスペシャリスト人

要するに、マネジメントに優れた人か、市場で供給人数が限られた高度なスペシャリストのどちらかにならないと、代替可能な人材と見なされ、年収は上がりにくくなります。

「マジメに仕事すれば報われる」のは20代半ばまで

新卒で企業に就職してから1~2年は覚えることだらけで、その間は、業務知識の量に比例して、ある程度の額まで年収は上がっていきます。しかし、企業から求められたことに応えて、業務知識を増やせば評価される期間は、そこで終了です。

この図は成長のステージと年収レベルの相関性を示したものです。業務知識の向上に連動して年収もアップするのはステージ1、ステージ2まで。大卒なら20代半ばまででしょう。「マジメに仕事する姿勢・プロセスだけで、年収が上がっていく期間」は、それだけ短く、このルールチェンジを理解しないといけません。

業界や企業によって違いはありますが、給与水準が低い企業なら年収300万円程度、給与水準がそれなりに高い企業でも年収600万円程度になると、それ以降は全員一律で上がっていくことはなくなるのが一般的な傾向です。つまり、考え方を変えなければそこで行き詰まってしまいます。

「成果のみで評価される」流れは加速していく

一方で、評価のあり方も変わっています。現在、コロナウイルス感染拡大の対策として、リモートワークの比率が急速に高まっています。リモートワークでは、上司から業務のプロセスが見えず、成果だけで評価せざるえません。コロナという悲劇的な偶発イベントがもたらしたリモートワーク浸透は、「ビジネスパーソンが成果によってのみ評価される」流れを加速させることは間違いないでしょう。

リモートワークでは、日々の細かい調整やコミュニケーションがなくても成り立つように、仕事を分業化し、標準化していく力学がはたらきます。そうやって仕事が細切れになり、標準化されて成り立つことがわかると、経営層は固定費を払って正社員を雇い続けることに疑問を持つようになるでしょう。標準化された細切れの業務であれば、アウトソーシングで賄えるからです。

リモートワーク化により上司の日々の細かい管理の目は減っていきますが、その分、しっかり自己管理し、大きな成果を出さないと、年収を高めるどころか維持すら危うい可能性があるというのが、現在の環境変化の本質です。

私が働くコンサルティング業界では、新人コンサルタントが3日かけて調べて考えたことよりも、高度な専門性を持つコンサルタントが30分で導き出す見解のほうが、クライアントから高く評価されることはめずらしくありません。高度な知識とクリエイティビティが求められる仕事であれば、個人の生産性に100倍の差がつくこともあります。

こうした現象はコンサルティング業界だけでなく、あらゆる業界で当然になっていくでしょう。「付加価値を生み出していた本当のキーパーソン」や「たいした価値を産んでいなかったぶらさがり人材」が見える化され、人の評価と処遇の格差は拡がっていきます。たとえるなら、同じようにライブを開催しても、数万人を集客できる売れてるアイドルがいれば、10人も集客できないアイドルもいるのと同様の格差が、ビジネスの現場でも起こってくるのです。

キャリアと年収を高める3つの方向性

先ほどの図で言えば、ステージ2の担当業務の実行者を卒業した人が、そこから成長していくには3つの方向性があります。

  1. 今の専門領域のスキルを深めて100点を目指すこと(高度なスペシャリストの方向性)
  2. 隣接領域の知識やスキルを学んで、他者と共働して成果を出すレベルを上げること
  3. 上司であるマネジメント層の目線を深く理解して、より期待に応えられるようにすること

この3つの選択肢があるのに、多くの人はひとつ目の「今のスキルをそのまま深める」以外に目を向けられず、成果も年収も上げられないケースが多く見られます。そして、「専門性を高めたのに会社は評価してくれない」という不満をこぼすのですが、成果を出すという視点から考えると、2つ目と3つ目の選択肢に目を向けることがとても大切です。

2つ目の方向性について言えば、仕事の多くは、自分の業務だけで完結していることはなく、必ず他の業務や部門という横のつながりもありますし、上司や部下という縦のつながりもあります。

ひとつの分野で90点の専門知識を持つ人よりも、2つの分野にまたがってそれぞれ70点の知識を持つ人のほうが成果を出していることは多いものです。若いうちはついつい「ひとつの高い専門性を持って稼いでいるスペシャリスト」に憧れ、専門性を過剰評価しがちです。しかし、専門性の需要は時代と共に変化します。生涯ひとつの専門性だけで年収を大きく高めて維持するのは現実的ではないと言えるでしょう。

3つ目のマネジメント層の視点を理解することはさらに大切です。担当者はつい個別最適な成果を追求しますが、上司が会社に対して責任を負っているのは全体最適での成果です。その目線を理解し、積極的に全体最適につながる仕事ができれば、上司にとってこれほど頼もしいことはありません。間違いなく評価は上がります。また、こうした視点を持っておくことは、いずれ自分がマネジメントする立場になる予習にもなります。

もし、会社の評価や処遇に不満を抱いているならば、この3つの選択肢のうち、どの方向性を目指すべきかを考え、実行してみてください。的確な選択と努力があってこそ、はじめて仕事の成果が高まり、年収アップにつながっていきます。

キャリアは戦略の意思決定とコミュニティの質で決まる

恥ずかしながら、最後に私の若い頃のエピソードをお伝えします。私も若い頃は「センスのいい、カッコいい仕事がしたい」という、今思うと恥ずかしくなるようなレベルでブランドコンサルティングの仕事をしていました。

しかし、仕事のご縁から20代半ばで藤原ヒロシさんや小山薫堂さんといったトップクラスのクリエイターの方々と触れた時、「あぁ、センスで勝負していたら、どれだけ努力しても絶対にこの人たちの1/100の価値も生み出せないな」と思い知らされ、その道で戦うことには早々と見切りをつけました。今思うと、これが私の職業人生において運命を分けた最大の意思決定でした。

企画センスの比重が重いブランド・マーケティングのアプローチというレッドオーシャンから抜け出し、現在も業界で生き残ることができている要因の9割は、この意思決定によるものだと思います。それくらい戦略的な意思決定は重要で、努力の総量と同じくらい意思決定の内容が成果を左右するのです。

また、仕事というのは会社の枠組みを越えた人のつながりのコミュニティの中で生まれ、その中で回っていきます。つまり、良いキャリアとは、良いコミュニティに属し、優れた人と交流し、信頼されなければなかなか切り拓くことができません

私の場合は、たまたま幸運に恵まれ、今でも年に1~2回は会食をさせていただき、自分の近況報告をしながら背筋が伸びるような緊張感と刺激をくださるメンターと呼べるよう経営者の方が何名かいます。その方々から得た仕事の機会だけでなく、目線の高さやプロフェッショナリズムは、本当に自分の職業人生の支えとなりました。

これを読んでくださった皆様も、社内外に限らず、自分の目線を高め、良い刺激を得られる人がいたら、ぜひ一生の財産と思って大切にされてください。そのような人々と真摯に付き合い、得られた仕事の機会に誠実に応えて成果を出していれば、長期的には必ず自分のレベルにふさわしい機会は巡ってくると思います。それぞれの方に、それぞれの良いキャリアが築けること、心から願っております。

この記事を書いた人

山口義宏

山口義宏(yamaguchi-yoshihiro)

インサイトフォース株式会社代表取締役。東証一部上場メーカー子会社で戦略コンサルティング事業の事業部長、東証一部上場コンサルティング会社でブランドコンサルティングのデリバリー統括などを経て、2010年にインサイトフォース株式会社を設立。これまで100社を超える戦略コンサルティングに従事し、事業会社の社外取締役も担う。著書に『マーケティングの仕事と年収のリアル』(ダイヤモンド社)。

Twitter:@blogucci