他の人が言わないような“気の利いた褒め言葉”をサラッと言うことができたら、初対面の人や、よく知らない人とも仲良くなれるかも……。
そう考えてお話を伺ったのは、プロ営業師として名高い「おくりバント」代表・高山洋平さん。多くの企業や大学でコミュニケーションにまつわるセミナーの講師を務める、いわばコミュニケーションのプロ。そして、Twitter上でユーモアに富んだ褒め言葉を連発しています。
営業マンがよく客先会議室で「このオフィスって見晴らし良くて最高です。ここで仕事出来るの羨ましいです。」などのオフィス褒めをしますが、どうせ褒めるなら「このオフィス見晴らし良くて最高です。ここに住みたいです!月いくらで貸してもらえます?」ぐらい言った方が経験上お客さんにウケました。
— (株)おくりバント社長 高山洋平 (@takayamayohei1) March 5, 2020
思わず笑ってしまう“行き過ぎた”褒め方を高山さんに聞きました。
<人と仲良くなる褒め方のコツ>
褒め言葉のチョイスは「コント感覚」で

──高山さんの褒め言葉のチョイスは絶妙ですね。
高山洋平さん(以下、高山):真面目に褒めても相手との距離は縮まりません。相手が思わず笑ってしまうくらい、行き過ぎた表現を選ぶのがポイントです。
──行き過ぎた表現、ですか?
高山:たとえば、妻がうちでママ友会をやっていたとしましょう。初対面のママ友に、「妻がいつもお世話になってます」と言った後、何と言って褒めたらいいと思いますか?
──えっ? 初対面だと人柄を褒めることもできないし……。高山さんだったら、どう褒めるんでしょうか?
高山:「すごく洗練された雰囲気ですけど、パリのご出身ですか?」って言います。
──パリ? それって、どうやって考えるんでしょう?
高山:洗練された雰囲気の人なら「おしゃれ」とか「品がある」って言葉が思い浮かびます。そのまま言ってもつまらないので、花とか街とか何かにたとえてみる。「おしゃれな街」でパリが思い浮かんだので「もしかしてパリのご出身ですか?」って言ったんです。
──直接的な言葉で褒めないことがポイントなんですね。
高山:僕が人を褒めるのは、怒られたくないから。自分のミスがある程度許される状況を作るためなんです。そもそも、怒られるのがすごく苦手なんですよ。
──褒めてポイントを稼ぐ、的な意味合いですか?
高山:ちょっと違います。僕の場合は、ただ褒めているんじゃなくて冗談を言っているというか、コントをしている感覚に近いんですよ。相手を褒めることで自分が得をしようというより、ユーモア混じりのやり取りができるような関係性を相手と築くことを大事にしてるんです。
──褒め言葉を通して、より親しい関係を築いていくんですね。

相手のチョイスを「最上級のもの」にたとえて褒める
高山:では、仕事の打ち合わせで入ったルノアールで、先方がアイスレモンティーとハムトーストを注文したとします。この場合、何と褒めますか?
──アイスティーとハムトースト……。褒めるポイント、ありますか?
高山:ルノアールでアイスレモンティーとハムトーストをチョイスする人って、そういないんですよ。そこが「エレガントだな」って僕は感じたんです。これは、ルノアールが好きで通い詰めてる僕だからこその感覚かもしれないけど。それで、「なんだか、ホテルオークラにいるみたいな気分になりますね」って言ったんです。
──え? なぜ、ホテルオークラ!?
高山:ハムトーストの最上級は? と考えた時に、ホテルのラウンジで出てくるハムトーストかな、と。ルノアールのハムトーストはシンプルで正統派な見た目だから、ラグジュアリー系のホテルの中でも、オールドスクールで品のあるハムトーストが出てきそうなホテルオークラをチョイスしました。
──相手のチョイスを最上級のものにたとえて褒める、ということですね。でも、中には「何言ってるのこの人?」みたいな冷めた反応をする人もいそうですが……。
高山:そういう時もありますよ。相手の反応を見て、その人と今後仲良くなれそうかどうかを見極めている部分もありますね。
相手の趣味や好きなものにたとえて褒める
高山:次は、もっと高度なテクニックをお教えしましょう。その名も「趣味褒め」。ある程度関係性がある相手じゃないと使えませんが、その分、効果も大きい褒め方です。
たとえば、「『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』のジョイ・ウォンみたいな髪型で素敵ですね」って言われたら、どう思いますか?
──チャイニーズゴースト……? 何ですか、それ?
高山:ってなりますよね? 『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』は香港映画、ジョイ・ウォンはその映画に出演している、台湾出身の美人女優です。香港映画を知らない人にはまったく通じませんが、詳しい人にはすごく刺さる褒め言葉です。
──自分の趣味や好きなものにたとえて褒められたら嬉しさも倍増ですね。
高山:「趣味褒め」には、2つの要素が必要です。ひとつは自分の知識。もうひとつは、相手の趣味を理解していること。この2つの間で共通点を探して、そこから褒め言葉を考えます。
高山:たとえば、「映画は好きだけど香港映画は見ない人」にはさっきのたとえじゃ伝わらないので、その人が好きなジャンルの映画の何かにたとえて褒めるとか。
──でも、自分でやるとスベってしまわないか心配です……。
高山:相手のことをしっかり理解できていないと的外れになってしまうし、自分にも同じ分野の知識がある程度必要なので、かなり高度な技なんですよ。でも、知識がベースにあるからこそ、薄っぺらくない褒め方ができて、相手との関係もぐっと縮まります。

教養を感じさせる褒め方をするには?
──「趣味褒め」のベースとなる知識はどんな風に身につけていったらいいんでしょうか?
高山:まずは自分が好きなものや、興味を持ったものをどんどん深掘りするのがいいと思います。そこからさらに知識の幅を広げるなら、大事なのは「遊び」です。
──遊び、というのは具体的には?
高山:ゲームや漫画、映画や音楽に酒……何でもいいんですよ。僕は子どもの頃から今に至るまでずっと遊び続けてきました。って言うと、「遊んでるだけなのに偉そうなこと言うな」なんて言われることも多いんですけど。でも40代になった今、遊びから得たものが活かされていると感じることは、すごく多いんです。
──遊びを通して幅広い教養を得ている、ということですね。以前のインタビューで、香港映画の知識があったことで、アドウェイズ時代に中国支社でも活躍できた、とおっしゃってましたね。
高山:即効性のあるノウハウが受ける世の中ですが、年齢を重ねるにつれ、そればかりでは通用しない場面も出てきます。若いうちから少しずつ、長期的に自分の中に教養を蓄えていくのは大事なことですよ。

「褒め言葉のセンスを磨くには?」のパラグラフ
──褒め言葉のセンスを磨くためにやったほうがいいことってありますか?
高山:映画のセリフは参考になりますよ。特に、昔からある名作映画は、「そんな表現する?」っていう言い回しが多いので。『カサブランカ』の「君の瞳に乾杯」とか、普通言わないじゃないですか。「男はつらいよ」の寅さんがヒロインに言う褒め言葉とか、路上で物を売る時の口上なんかも、すごく面白いですよ。
──映画でボキャブラリーを増やすんですね。
高山:あとは、普段から物事をよく観察することです。「ボンカレーゴールド」って知ってます?
──コンビニで見たことあります。普通のボンカレーと何か違うんでしょうか?
高山:香辛料やフルーツを贅沢に使ってるらしいです。あと、「ミニスナックゴールド」っていうのもあるんですよ。デニッシュ生地でストライプ状態にシュガーがかかっている菓子パンです。
この2つの商品を見た時に「ゴールドって何?」って思ったんですよ。何でどっちもゴールドなの? どういう意味なんだろう? って。
──高級なものとかハイグレードなものっていうイメージがあります。
高山:そう。ゴールドって光り輝く、価値があるものじゃないですか。つまり、素晴らしい商品であることを示すために「ゴールド」とつけているわけです。
他にも、特別感を演出するために、商品名の頭に「金の〜」や「匠の〜」、「プレミアム」とついていたりする。そういう対象の価値を底上げする枕詞に着目してみました。
──そうすると?
高山:それを応用して、「眩しい! なんでZoomのアイコンが光り輝いてるんですか……あっ、顔写真だった! 覇気で輝いてたのか。さしずめ◯◯さんは、『匠のゴールドプレミアム営業マン』ですね」みたいに使えますよね。
──めちゃくちゃすごい営業マンじゃないですか(笑)。
高山:何とも思わなかったり、「こんな商品、全然ゴールドじゃないだろ!」って怒ったりする人も、中にはいるかもしれませんが。でも、日常の中で触れる些細なことにも興味を持って「なぜだろう?」と考えることで、新たな気づきや学びが得られます。物事をよく観察すると、自分なりのセンスを磨くのに役立ちます。
──人を褒めるのにも知識や教養が必要なんですね。
高山:「褒める」はあくまでもコミュニケーションのひとつ。色々とノウハウじみたことをお話してきましたが、それらをただ真似て、表面的な褒め言葉を連発しても意味はありません。
最初は型を真似るところから始めてもいいですが、ぜひ自分らしい「褒め方」を編み出して、コミュニケーションに活かしてみてください。
高山洋平(たかやま・ようへい)
クリエイティブカンパニー、おくりバント代表。新卒で不動産会社に入社し、その後、インターネット広告企業のアドウェイズに入社。同社の中国支社の営業統括本部長を務めるなど、大きな実績を持つ。2014年にアドウェイズの子会社として株式会社おくりバントを設立した。「プロ営業師」「プロ飲み師」を自認するコミュニケーションのスペシャリスト。
Twitter:@takayamayohei1
取材・文/中村英里(@2erire7 )
撮影/中澤真央(@_maonakazawa_)