ミスチの愛称で親しまれ、販売開始とともに売り切れてしまうほど大人気のチーズケーキ「Mr. CHEESCAKE」を手がける田村浩二さん

20歳で料理人としてのキャリアをスタートさせ、31歳にしてミシュラン星付き店のシェフに就任するなど、料理人としてトップの道を走ってきました。

田村さんがトップを取るために考え、実践し続ける成長の秘訣とは?

自分の成長を可視化するには?

田村浩二(たむら・こうじ)。Mr. CHEESECAKE 代表取締役。若干31歳でミシュランの星付き店のシェフに就任。現在は複数の事業を手がける事業家として活動。

──田村さんは「30歳までにトップに立つ」と決めていたそうですね。今日は成長の秘訣について聞かせてください。

田村浩二さん(以下、田村):成長の秘訣といえば……タイマーです。タイマーって成長を可視化するツールなんです。

──タイマー? 時間を測るあのタイマーですか?

田村:そうです。料理人って単純作業が多いんですよ。毎日の仕込みがルーティン化して、マンネリ化してしまう。毎日同じ作業を繰り返していると、成長を実感できなくなってしまいがちなんです。

タイマーで成長を可視化する、とは!?

──たしかに、「修行中は野菜の皮むきが仕事」といったようなイメージがあります。

田村:皮むきにしても、タイマーで時間を測れば「昨日より3秒速くなった」と可視化できる。成長を実感できるんです。それに、自分の作業スピードを把握することで「この仕事は3分で終わるから、このタイミングでやろう」といったタイムスケジュールの管理もしやすくなります。

──いつもタスクを詰め込みがちなので耳が痛いです。

田村:時間を意識することは、モチベーション管理にもつながります。同じ作業をしているのに昨日の自分よりタイムを縮められないとしたら、絶対に手を抜いているか気を抜いているかのどちらかなんです。

厳しい……でも反論できない。

田村:ただ、常にタイムを縮めればいいわけではありません。スピードには限界があるので、一定の水準に達した後は自分の中で最低ラインを守ればいいと思ってます。

逆に、タイムが遅くなった時は自分でも気づかないだけで体調がよくなかったり、疲れていたりという気づきにもなります。タイマーという嘘をつかない数字が自分を管理してくれる感覚ですね。

働く8時間をどれだけ密な8時間にできるか

──タイマーを使うことで、自分をうまくコントロールしていたんですね。

田村:僕は効率的に動きたいタイプなんです。業務ごとにかかる時間がわかれば、1日のスケジュールを無駄なく組めるので、その通りに行動すれば余計なことを考えずにすむんです。朝起きてから家を出るまでにかかる時間や通勤時間なども計算していましたね。

──もしかして、電車の乗り換えも……?

田村:何両目の何番ドアから乗れば無駄がないか、きっちりしたいタイプです(笑)。

田村さん、やっぱりそういうタイプだったんですね。

田村:メンバーに指示を出す時も、それぞれの作業スピードがわからないと、時間内に終わる仕事を振れないんですよ。でも、そこがわかれば時間を効率的に使えますし、「余裕があるからこの仕事は苦手なあの人にお願いして慣れてもらおう」といった判断もできて、チームの成長につながります

──スピードを上げるには効率化も重要ですね。

田村:たとえばニンジンの皮をむく時にバットを置いておけば、簡単にゴミ処理ができます。でも、まな板の上でそのままむいてしまう人が多いんです。散らばった皮を一回まとめなきゃいけないから明らかに余計な時間がかかるのに。

──それがわかっていてもやらないんですか?

田村:毎日やってると慣れちゃうし、数十秒のことなので「まあいいか」って思っちゃうんですよね。でも、その数十秒が1日だと何分間で、年間だと何時間になるのか意識したほうがいい。そこで時間を稼げると1日は25時間にもなるし、他の人の10年が自分には15年になったりしますから。

──いつの間にか大きな差がついてしまう、と。

田村:自分を成長させるには、同じ8時間働くとしてもどれだけ密な8時間にできるかに焦点を当てるのかが大事。メンバーには小さなムダや違和感に気づいてほしいと言っています。そのままでもいいかと見過ごしてしまうことほど、改善するとすごく成果が出ますから。

スピードを伴わないクオリティに意味はない

──スピードを追うと、クオリティが落ちてしまうことはありませんか?

田村:その話は必ず出てきますね。うちのメンバーも言います。でも、商品を提供する上でクオリティを担保するのは最低限のこと。だから、クオリティが下がると言っている時点でもうダメなんです。

ダメ出しをいただきました……。

田村スピードを伴わないクオリティって意味がないんです。丁寧にやることは大事ですが、それで時間がかかって仕事が回らなければ存在価値がなくなってしまう。どれだけ丁寧においしく作っても、世に出せなければ価値がありませんから。

──でも、クオリティを保ちながらスピードを上げるって難しいですよね。

田村:難しいですね。ものすごく難しい……。

田村さんはその難題にどう取り組んでいるのか。

田村:たとえば100工程ある仕事で、100すべてを丁寧にやっていたらスピードは確実に上がりません。優先順位をつけて、ここはクオリティを追求する、ここは80点でいいからスピードを重視する。その精査ができるかが重要です。

──すべての工程で100点を取る必要はないと。

田村:チーズケーキを作る工程で言えば、ざっくり「材料を混ぜる」「型に流す」「焼く」の3つに分かれます。その中でどこが肝になるかというと、材料を混ぜるところ。そこさえしっかりできていれば、多少焼きがズレても製品としては成立するんです。

──絶対に外せないポイントを押さえてクオリティを担保しつつ、全体のスピードを上げるんですね。

田村:最終的にはすべての工程で100点を取るのがベストですが、会社として世に出せる85点のラインを明確に示して、まずは全員でそこに到達することが大事だと考えてます。そこがクリアできれば、さらにクオリティを詰めていくのはそれほど難しくないことなので。

チームの成長速度を上げるには?

──スピードとクオリティの意識をチームにどうやって浸透させているんでしょうか?

田村スピードを意識せざるを得ない環境を最初に用意することは大事だと思います。一人で淡々と作業していると、あまりスピードを意識することってないですよね。でも、何人かで同時に同じ業務をやったら必ずスピードに差が出る。

──自分が人より遅かったら、もっとスピードを上げなきゃと思いますね。

田村:時間がかかる人は速い人のやり方を見て学べますし、メンバーには仕事が速い人は苦手な人の改善ポイントを見つけてアドバイスをしてほしいっていう話をしています。そうすると、チームにいい流れが生まれて、組織全体の成長につながるんです。

「丁寧にやることは大事。でも丁寧にやるだけなら誰にでもできる」と田村さん。

──個人の成長がチーム全体の成長につながる、と。

田村一人ひとりがスピード感とチームとしての意識を持つと、チーム全体の時間の使い方も変わってきます。たとえば、3工程ある仕事ってひとりでやるよりも、3人で1工程ずつ分担したほうが確実に速いんですよ。

──わかります。

田村:だったら、手の空いたひとりがその仕事に取りかかるより、あと2人の手が空くまで待って3人同時に動いたほうがいい場合もある。考えて動けるかどうかで時間の密度もスピードもまったく違ってきます

──限られた時間でいかに効率よく仕事を回すかっていう話ですね。

田村:僕が指示しなくても、メンバーが自分たちで考えて効率的に仕事を回せるようにならないと、チームの成長速度は上がりません。逆に、日常的にそれができれば、新しい仕事にもすぐに対応できる強いチームになるはずなんです。

──たしかに、自律的に動くチームになれれば強いです。

「その仕事の先に何があるか」を意識する

田村:もうひとつ意識しているのは、会社やチームを軸にしてコミュニケーションを取ること。たとえば、「スピードを上げてほしい」とリクエストする時は「あなたの仕事が遅いから」ではなく、「チーム全体のスピードを上げたいから」と言うべきです。これはメンバーにも意識してもらってます。

──すごくいいと思います。個人の能力を否定するような言い方になると、受け取る側はちゃんと話を聞けなくなっちゃいますから。

田村:会社を軸にして考えることには別の意味もあって。それはメンバーが自分の仕事の先に何があるかを理解することなんです。たとえば、ケーキを包む紙を折る仕事があるとして、それが何につながってるかといえば、お客さまの体験なんですよね。

「仕事の先に何があるかを理解しないと、業務のための業務になってしまう」

田村:自分たちは1日に何百枚もの紙を折っているかもしれないけど、購入してくれるお客さまにとってはそれが最初で最後の体験かもしれません。もし、その仕事をおろそかにしてしまったら、受け取ったお客さまは必ず嫌な思いをするんです。

──そう考えると、どんな小さな仕事もおろそかにできませんね。

田村NASAの清掃員が自分の仕事について聞かれた時に、「人類を月に送ることに貢献している」と答えたっていう有名な話があります。それと同じで、メンバー一人ひとりにビジョンを共有するために小さなことから伝え続けたいですね。

会社を作って1年半ほど経ちましたが、僕と同じようにビジョンを語れるメンバーが何人か出てくれば、全体がレベルアップしていい組織になっていくのかなと思ってます。

田村浩二(たむら・こうじ)

新宿調理師専門学校を卒業後、乃木坂『Restaurant FEU(レストラン フウ)』にてキャリアをスタート。 ミシュラン二ツ星の六本木『Edition Koji Shimomura(エディション・コウジ シモムラ)』の立ち上げに携わった後、 表参道『L’AS(ラス)』を経て渡仏。三ツ星レストラン、 一ツ星レストランで修業を重ね、2016年に帰国。 31歳の時、世界最短でミシュランの星を獲得した『TIRPSE (ティルプス)』のシェフに就任。現在は Mr.  CHEESECAKE の他、消費者と生産者をつなぐ事業家などとして活動している。

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取材・文/伊藤美咲(@misaki2018jp
写真/金子山(@kanekoyama