僕は、歌舞伎町のホストクラブ「ペガサス」で働くホスト「袋小路ケン」。

ただし、ホストとは名ばかりで実際の僕は三流大学に通うチビで非イケメン。「袋小路ケン」という名前も、まったく指名が取れない僕に、「行き詰まって後がないから」とお客さんがつけてくれたものだ。

それでもホストを続けているのは、モテる男になって片思いの相手、相澤まさみちゃんに振り向いてもらうため。そんな僕をNo.1ホストのナオヤさんは気にかけていろいろ面倒を見てくれる。

謎の太客、エミリさんの正体は?

「エミリさんのレクチャーは参考になった?」。しばらくぶりに顔を合わせたナオヤさんがにこやかに話しかけてきてくれた。

つい先日、ナオヤさんの太客であるエミリさんがわざわざ店に来て僕にアドバイスをしてくれたばかりだったのだ。

「参考になるどころか、教わったことをさっそく店で使わせてもらってます!」

僕はナオヤさんに聞いてみた。

「ところで……エミリさんって、前に歌舞伎町のコンビニでレジ打ちしてるのを見たことあるんですけど、本当は何をしている人なんですか?」

VIPルームの常連ということは、旦那さんがお金持ちなのだろうか。

「エミリさんは、東京近郊でビルや土地をたくさん所有してる地主さんなんだ」

「え!? じゃあ、コンビニは?」

「道楽みたいなもんだよ。あそこも自分のビルに入ってるコンビニだから」

そうだったのか……。これまで僕の周りには、働かないで食べていけるようなお金持ちはいなかった。歌舞伎町はやっぱりすごい世界だ。

なによりもエミリさんのアドバイス通りに接客したら、初回のお客さまの反応がグンと良くなったのだ。実際、その手応えは指名数として目に見える結果につながりつつある。

「また会いたい」と思わせるために必要な3つのこと

初回のお客さんと話せる時間はせいぜい10分間。初めて来てくれたお客さまのテーブルには、いろんなホストが交代でつくのが店のルールだからだ。

10分間という短い時間で、「また会いたい」と思ってもらえなければ、永遠に指名されることはない

カッコつけたり、スカしてみたり、ネットで仕入れた恐竜やダンゴムシの雑学を披露しようとしたり……大失敗を繰り返してきた僕が学んだのは「自分を偽らない」ということ

チビで非イケメンの僕が、「かっこよさ」で勝負しても勝てるわけがないのだ。

【「また会いたい」と思わせるために必要な3つのこと】

  1. 自己開示して相手の心を開く
  2. 話を聞いて共感・理解を示す
  3. 相手への好意を示す

僕は頭の中で、これまでナオヤさんやお客さんたちに教わったことを思い出していた。

①自己開示して相手の心を開く

まず大切なのは自己開示。相手より先に自分のことを打ち明ければ、相手も警戒心を解いて心を開いてくれるのだ。特に、自分のダメなところや弱点をさらけだすことで、相手は親しみを感じてくれる

②相手の話を聞いて共感・理解を示す

次は信頼関係を作る。人は誰しも自分の話を聞いてもらいたいもの。だから、「うなづき」「相づち」で相手の話を聞いていることを示しつつ、相手に「共感」したり、「理解」や「同調」を示したりすることで、「この人は自分のことをわかってくれる」という信頼を得ることができる。

③相手への好意を示す

「あなたのことをもっと知りたい。仲良くなりたい」という好意を伝えることで、相手は自分を意識してくれるようになる。だからいきなり告白するのではなく、会話の中で自然に相手への好意を匂わせることが大切なのだ。

さりげなく相手への好意を匂わせるには?

僕はエミリさんに指摘されるまで、「相手への好意を示す」どころか、嫌われないよう自分の好意を隠すようにしていたのだ。それでは、大好きなまさみちゃんに「ただのいい人」としか思われないのも当然だ。

エミリさんに教えてもらった「好意を匂わせるテクニック」は5つ。

【相手への好意を匂わせるテクニック】

  1. 褒める、親切にする
  2. ミラーリング
  3. タッチング
  4. ボディ開示・アイコンタクト
  5. 思わせぶりな言葉

ミラーリングは、相手のしぐさや表情をトレースして相手に親近感をもってもらう心理テクニックのこと。タッチングは、さりげなく相手に触れて、相手のパーソナルスペースに入り込むためのテクニックだ。

ボディ開示は、顔や体をしっかり相手のほうに向けて、自分が心を開いて興味を向けていることを示すもの。これにしっかり相手の目を見て話すアイコンタクトをプラスする。

そして、「○○ちゃんと一緒にいると本当に楽しい」なんていう思わせぶりな言葉を使えば、「もしかして私のことが好きなのかな?」と思わせることができるというわけだ(詳しくは前回を参照)。

こうして教わったことをお店で何度も何度も繰り返しているうちに、お客さまの反応が徐々に良くなってきて、2回目の来店で指名をもらえることが少しずつ増えてきた。

次にまさみちゃんと会う時には、さりげなく好意を伝えて気持ちを探ってみよう……。

必死で考えた「思わせぶりな言葉」を言ってみた

なかなかお互いの予定が合わず、まさみちゃんに会えたのは前回のデートから2カ月後だった。久しぶりに合うまさみちゃんは、少し髪が伸びていた。ゆったりとしたブラウンのワンピースは、袖が流行りの形でかわいらしい。

勉強として女性ファッション誌を読み始めたせいか、まさみちゃんがさりげなく流行を取り入れていることがわかる。

「袖が可愛いね」「今年はワンピースを着てる子が多いけど、その中でもまさみちゃんが一番似合ってる」と、心臓をバクバクさせながら褒めることもできた。

まさみちゃんがビールを飲んだら、僕も数秒遅れでビールを飲む。さりげなくミラーリングを意識しながら、お互いの近況報告をし合った。

年が明けて2月に入り、まさみちゃんの研修も終盤にさしかかっている。

「4月になったら、まさみちゃんは新人アナウンサーか。デビューの日が楽しみだね。でも、顔が知られちゃうから、今日みたいなデートとかあんまりできなくなるのかな?

「アナウンサーっていってもみんな普通に電車通勤してるし、別にやましい関係じゃなければコソコソする必要はないんじゃない?」

「いやいやこれはデートじゃないから」と言われるのを覚悟で、あえて「デート」と言ってみたが完全にスルーされてしまった。

必死で「思わせぶりな言葉」を考えてみたのだけれど、やっぱりまさみちゃんは僕のことを恋愛対象としては見ていないのだろうか……。

自然なタッチングをするために考えた古典的な方法

「実は、お客さんで手相を見られる人がいて、見方を習ったから見てあげるよ!」

折れそうな心を必死で立て直し、僕は話を続けた。

本当は自分で手相の本を買って勉強したのだが、さすがにそれは秘密にしておいた。どうやって自然にタッチングするかを考えた結果、「手相見せて」に行きついたのだ。

古典的で何ともダサいが、これしか方法が思いつかなかった。今日、カウンターのある和食屋さんを選んだのも、手相を見る時に体を寄せ合うことができるからだ。

「そうなの? 海藤くんってそんなこともできるんだ。じゃあ、見てもらおうかな」

海藤というのは僕の本名。本によると、手の差し出し方にも性格が表れるらしく、指を開き気味の人は外交的、指を閉じている人は内向的な性格だという。まさみちゃんは、予想通り指を開いて手を差し出してきた。

手相を見ようと身を乗り出すと、フワリとまさみちゃんからいい香りが漂ってくる。

彼女の思わぬ言葉に、僕は固まってしまった

「何か知りたいことはある?」

「それじゃあ……アナウンサーに向いてるか見てくれる?」

お客さまの手相をずいぶん見て練習してきたから、コツはつかんでいるつもりだ。もちろん、エミリさんに教わったボディ開示も忘れずに実践している。

デコルテとつま先をまさみちゃんに向けて、アイコンタクトしながら話を進めていこうとするが、手に触れるという緊張感で心臓がバクバクして、冷静に手相を見ていられない。それに目を合わせるのも照れくさくてしかたがない。

でも、ここが正念場だ。後に引くわけにはいかない。

「ほら、中指の下から手首にかけて延びる運命線が、小指側に流れてるでしょ? これってタレント線っていわれてて、自然と人気者になれる手相なんだ」

「そうなの? じゃあ、一応向いてるってことになるのかな」

「ぴったりの職業を選んだんじゃない? それに……エロ線も出てるね

「エロ線!? 何なのそれ?」

「人差し指と中指の間から、薬指の間にかけて半円の線が入ってるでしょ? 名前はちょっとアレだけど、美的センスに秀でていて、異性からモテまくる人に表れる線だよ」

「そうなの? 実は最近告白されて……」

まさみちゃんの思わぬ言葉に、僕は固まってしまった。僕が躊躇している間に、先を越されてしまったのだ。

僕を待ち受けていたのは悲惨な結末だった

「誰に? 付き合うことにしたの?」

運ばれてきた海鮮かきあげを平静さを装って頬張りつつも、思わずストレートにたずねてしまった。どこのどいつなのだろうか。

「この前話した、同期でLINEを送り付けてくる人がいるって言ってたでしょ?」

あいつか……。僕がするより前に、SかMかの心理テストをまさみちゃんに持ちかけたヤツだ。

「ああ、あの“かまってくん”でしょ? あいつが告白してきたの? まさか付き合わないよね」

「もちろん! 今は誰とも付き合う気はないって断ったんだけど、ちょっと待ち伏せされちゃったりして困ってたんだよね」

「それは……大変だったね。僕に連絡くれればよかったのに」

「海藤くんには迷惑かけられないよ。ホストクラブって大変でしょ?」

かなり距離が近づいていたと思っていたのは、僕だけだったようだ。困った時に頼ってくれないなんて、寂しすぎる。

「それでヤツは引き下がったの? 大丈夫だった?」

「それでね、元カレに連絡して帰りに迎えにきてもらったりしてたんだよね。元カレとヨリを戻したからって説明したら、納得してくれたみたい」

「よかったね! そういえば、元カレってどういう人だっけ?」

たしか、大学の3学年上の先輩だったような記憶がある。その元カレが就職してから仕事が忙しくて会えなくなって、別れたのではなかったか。なんだかイヤな予感がする……。

「大学の先輩なんだよね。それで……最初は付き合ってるフリしてもらってただけなんだけど、何となく本当にヨリが戻っちゃった

ガンっと頭を思い切り殴られたような衝撃が走った。目の前が真っ暗になって頭がグラグラする。

なんで早く告白しなかったんだろう。こんな悲惨な結末が待っているなら、いきなり告白しても失敗するなんてアドバイスを真に受けなければよかった

何年ぶりかで再会した元カレが、いかに頼りがいある男に成長したかをうれしそうに語るまさみちゃんの横で、僕の頭の中は真っ白になっていた。

<構成/伊藤彩子>

▶︎第22回は9月3日(木)の公開予定です。

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この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito