『英語日記BOY』著者の新井リオさんは、すべての勉強を“独学”で行い、アメリカやカナダでイラストレーター・ミュージシャンとして活躍してきました。自分の力だけで勉強を続け、成果を出す秘訣とは? コラムに綴っていただきました。

先日『英語日記BOY』という本を出版しました。

もう5年以上英語で日記を書いています。純粋に楽しく、好きです。

この習慣を通して英語が話せるようになり、アメリカでミュージシャンとしてライブをしたり、カナダでデザイナーとして働きました。

本のサインには「勉強はいつでもできる青春です」と書いています。

くさいんですが本気で思っています。

青春の定義は人それぞれでいいと思いますが、僕にとって青春とは「自分の努力からくる感動」です。

サッカーが好きなのでよくサッカーを観戦します。すごく感動します。でもその感動は「自分自身の青春」とは少し違うんです。スポーツ選手たちの青春純度が高すぎて、その感動を少しもらっているような感じです。

それも大好きなんですが、「自分自身の青春」も感じながら生きていたいなと思うんです。

で、それを一番身近に感じられるのが「勉強」です。

「恋愛」も青春と、よくいいます。そう思います。「自分が起こす行動によって感動する(感情が動いている)」のでめちゃくちゃ青春です。でも傷つくこともありますね。それも含めて青春なので結果的にいい経験なんですけど。

一方で勉強は、基本的には一人で、いつでもできる青春です。

知識が増えていく喜びを、純粋に、個人的に感じ続けることができます。

年齢もスタート時期も関係ありません。勉強はいつでも自分のものなんです。

勉強を好きになったきっかけ

かくいう自分も昔は勉強が嫌いでした。高3の時、全国模試で英語の偏差値38をとったこともありました。

そんな自分が「勉強したい」と思うようになったきっかけがあります。

20歳の夏、アメリカに一人旅に行きました。大好きなバンドのライブを観に行ったのですが、終演時間がかなり遅く、終電がないため宿に帰れないことがわかりました。

野宿することを決め草陰をうろうろしていると、同じくライブを観に来ていたアメリカ人の青年に「何をしているの?」と訊かれ、拙い英語で事情を説明しました。

ジョセフという名の彼は「危ないから野宿は絶対にだめ! 僕が車で宿まで送るよ」と提案してくれました。

なんて優しい。いま会ったばかりの英語もまともに話せないジャパニーズボーイにこんなに親切にしてくれる人がいることに驚きました。

お言葉に甘え車に乗せられた僕は、ほとんど明け方に宿に到着しました。

伝えたい言葉はたくさんありましたが英語力不足のせいで”I’m sorry. Thank you.”しか言えず、感謝よりも申し訳なさが上回るような、本当に悔しい経験をしました。

宿に戻り、僕は「感謝 英語表現」で調べて出てきたフレーズ

“I appreciate your kindness.”

(あなたの優しさに、本当に感謝しています。) 

を彼にメールで送りました。

そしてこのフレーズを、当時書いていた日記帳にメモしました。

次にジョセフのような優しい人に出会った時、すぐに言えるように。

もうあのような悔しさは一生経験したくないと思いました。

次の日、覚えた感謝のフレーズ「I appreciate your kindness.」を100回くらい口に出して練習したら、見ないでスラスラと言えるようになりました。

「もう一度ジョセフに会って、このフレーズを直接言いたい」と強く思いました。

その時気づいたのです。

「自分はいま、とてつもなく“理想的な勉強”をしているのではないか?」と。

あれだけ勉強が苦手だったのに、「この行為がいつかの自分を直接的に救うかもしれない」と思った途端、僕はのめり込むように勉強ができていました。

―自分が本当に知りたいことを、能動的に身体に取り入れ、それを実生活に生かそうとするプロセス―

もしこの一連の流れをこそ”勉強”と呼ぶのなら、もしかしたら僕は勉強が好きかもしれないと思いました。

この日から僕は英語で日記を書き始めました。

今日起こった出来事のなかで「これ英語で言えたらよかったのに」と思えるフレーズをすべて英訳し、ノートにまとめていきました。

教科書例文暗記は他人事のような気がして続かなかったけど、「自分事」ならできる、と思ったのです。ひとつひとつのフレーズに“ドラマ”があり、効率よく覚えることができました。

それから今日に至るまで約5年間、「英語日記」の習慣をほぼ毎日続けています。

感動したくて勉強する

周りから「よく5年間も勉強を続けられるね」と言われることがあります。

しかし、もともと“根拠のない自信”みたいなものが無かったので、勉強という“根拠のあるもの”によってしか、自信をつけることができないんです、たぶん。

そうして少しだけ強くなった自分が起こす新しい行動に「感動」してみたいんです。

「自分はいまちゃんと変われているんだぞ」と自分で確認し、安心したいんだと思います。

美容にお金をかける女性の気持ちがめちゃくちゃわかります。最近は男性もいるかな。整形も全然いいですよね。自分自身に感動するための努力。何がいけないのかわかりません。

これは勉強にも言えます。

「お金持ちになろう」とか「〇〇を成し遂げよう」みたいな目標もいいんですが、「この勉強を積み重ねている自分にリアルタイムで感動したい」というのも、新しいモチベーションとして考えてみてほしいんです。

いま、多くの人にとって“勉強”とは「紙とペン(またはPC)を持って机に向かい、あまり乗り気になれない何かを受動的にこなす」ことに限定されている気がします。「いつか結果をつかむための辛抱」みたいな。もちろんそういった側面もありますが、これだけだと勉強に対するネガティブなイメージがいつまでも払拭されないんです。

これっておそらく、その勉強対象が

「だれか(学校や会社とか)に強いられて始めたもの」

または

「なんとなく役立ちそう程度の理由で始めたもの」

だからなのではないか? と思います。

つまり、“精神的な思い入れ”がないんです。

給食に出てきた特に好きではないメニューを、“食べなきゃいけないから食べている”ような感覚。

そうではなくて、「昔から自然と憧れていたようなこと」や「実はずっとやってみたかったこと」を、いまこそついに勉強してみてはどうか? と思うんです。自己研磨的勉強。

お金稼ぎではなく、生活を豊かにするためのライフワークとしての勉強です。

給食と比較するなら、こちらは、イチから材料を調達し、ずっと食べてみたかった料理を自分で作ってみる“最高の自炊”みたいな感覚です。

僕は最近、美大受験予備校に通い始めました。

実際に日本の美大を受験する予定はありませんが、デザイナー/イラストレーターとしてのキャリアが7年目になり仕事にも慣れてきたタイミングで、改めて「勉強を主目的とする環境」に身を投じてみたくなったんです。

まわりは高校生ばかりでさすがに怯みましたが、「いまよりもっと絵が上手くなった人生はどれだけ楽しいんだろう」と考えると、世間体なんてどうでもいいんじゃないかと思えてきました。

もっと自分のために生きようって。

既に好きなものを深掘りする

いま述べた「昔から自然と憧れていたようなこと」や「実はずっとやってみたかったこと」が特に思いつかない人は、「いま既に好きなもの」を深掘りするように勉強をしてみるのも楽しいです。

どういうことか?

たとえば洋楽が好きな人。意外と「メロディ」だけで好きになっている曲が多いと思うのですが、その「歌詞」を、ネットを使いながら自分なりに翻訳してみるんです。

歌詞の意味までわかれば、その曲がこれまでの何倍も感動して聴こえてくると思います。

また、その歌詞を「自分で訳した」という実感が、曲に対するドラマをより強めてくれます。

そこで学んだ英語フレーズ、一生忘れないんじゃないかな。

僕は、大好きだったアメリカのバンドBoris Smileの「You Are Loved」という曲を初めて自分で翻訳した時、その歌詞の素晴らしさに感動し、本人にTwitterで感想を送りました。するとイイネをくれたんです! この曲がもっと好きになったし、歌えるようにもなりました。

歌詞を翻訳している時、“勉強をしている意識”はありませんでしたが、これもれっきとした(というかむしろ)理想的な勉強だったなと思うんです。

こういった「何かを能動的に勉強する喜び」を、もっと多くの人に感じてみてほしい。

大人になると、「仕事に直結しない(すぐにお金を生むわけではない)活動」に対する拒否反応みたいなものが生まれます。日本社会自体にそういう空気があるんだと思います。

子どもの頃は習い事をたくさんやっていたら褒められたのに、大人になると「いろんなことに手を出して」とネガティブにとらえられる。「ひとつに絞りなさい」と。しかもそれが仕事になってなきゃだめらしいのです。

でももうみんな、多分めちゃくちゃ頑張ってるんです。

それなのに生きづらさがあるとしたら、それって「お金」じゃなくて「心の豊かさ=日々感動しているか」なんじゃないの? と、偉そうにも僕は思います。

「先月できなかったことが今月できるようになる」って、ほんとに感動的に素晴らしいですよ。勉強って必ずしも「スコアや資格を取って仕事につなげるための我慢期間ではない」んです。

だから、まあ仕事のこともお金のことも一度忘れてここらで好きなこと勉強してみようぜ、というのが僕の意見です。

しかも、このくらいの気楽さでハマったものって、心地良くて楽しいので継続するストレスが少なく、結果的にスキルがグングン伸びるので、将来それが仕事になったりするんです、本当に。

個性ってこうやって生まれるんだと思います。

勉強が導いた青春

ちなみに、英語勉強の継続が、ある奇跡を起こしました。

先述したアメリカ一人旅から数年が経ち、僕のバンドPENs+はアメリカでレコードをリリースすることになります。音楽性を気に入ってくれたことに加え、「PENs+のボーカルは英語が話せるらしい」という情報がまわり、カリフォルニアのレーベルオーナーが直接僕に連絡をくれました。

そしてアメリカでソロライブツアーをすることになるのですが、ツアー会場のひとつに見覚えのある名前がありました。それは、野宿を決意し、ジョセフに救われたライブハウスでした。

その事実に気づいたのはライブ前日でした。急いでジョセフに連絡をしましたが、彼は予定がありライブに来ることはできないとのことでした。

その代わり、あの時の思い出を振り返るように、僕たちは数年ぶりに電話で話しました。

好きなバンドの話、最近の仕事の話など、当時は到底することができなかったような会話を英語でしました。

彼は、僕が英語を話せるようになっていることに心底感動していました。

彼から英語を褒められた時僕は泣いてしまいました。

そう、おれはこの日のために英語を勉強してきたんだよ、と。

これがしたくて頑張ってきたんだと。

勉強が導いてくれた数々の出来事が、僕にとってあまりにも青春すぎます。

さいごに

好きなことを勉強しているとき、僕は晴れた日の早朝に太陽の光を浴びている時のような気持ちよさを感じます。

いま、行き詰まりを感じている人がいたら、仕事やお金ではなく「生活的快感」を得られる勉強を、このタイミングで一度やってみてもいいのではないか? と思います。

多分みんな頑張りすぎています。きっとリフレッシュできます。そして能動的な自分に感動すると思います。

みんなは何を勉強したい?

何をしている自分に感動したい?

最後にもう一度言います。

勉強はいつでもできる青春です。

勇気を出して久しぶりに10分間勉強してみるだけで、心が疼くような興奮を久しぶりに感じると思います。

自分のこと少し好きになれる気がします。

この記事を書いた人

新井リオ

新井リオ(あらい・りお)

デザイナー / イラストレーター|2016年カナダに渡りフリーランスに。Sony Music Shop / TOWER RECORDS / ヴィレッジヴァンガードとのコラボグッズ、WIRED/ EYESCREAM web連載イラストなど。5年間書き続けた「英語日記」勉強法をつづった著書『英語日記BOY』(左右社)が、Amazon本総合人気度ランキング1位を記録。バンドPENs+のボーカルとして日本で4枚のCD、アメリカで1枚のレコードをリリース。

Web:Rio Arai