優れた組織には優れたリーダーが存在します。元日本代表でプロ第1号の卓球選手だった松下浩二さんもそのひとり。

日本初のプロ卓球リーグ「Tリーグ」を創設、それまで仕事と並行して卓球を続けるしかなかった日本の選手たちが、卓球1本で活躍できる環境を作り出しました。

©T.LEAGUE/Tリーグ開幕戦の様子。

Tリーグが実現するまでに松下さんはリーダーとしてどのように指揮を取り、舵を切っていったのでしょうか。松下さんが考える、あるべきリーダー像について教えてもらいました。

たった2年で世界最高峰のプロリーグに

松下浩二(まつした・こうじ)。1967年8月28日生まれ。日本のプロ卓球選手第1号として欧州3大リーグで活躍。2008年には日本初のプロリーグTリーグを創設し、今もなお日本の卓球界を牽引し続けている。

──Tリーグ、正直あまり耳なじみがないのですが、どういったものなのでしょうか?

松下浩二さん(以下、松下):Tリーグは簡単にいうと、サッカーだとJリーグ、バスケットだとBリーグのようなもの。2018年10月からスタートした国内外の選手が活躍する世界最高峰のリーグです。

──ということは……スタートからたったの2年弱で世界最高峰に!?

松下:そうですね。それまでは実業団リーグしかなかったので、皆さんがテレビで見ているような選手たちも卓球1本では食べていけなかったんです。

──オリンピックや世界卓球を見ていると、日本は強豪国のイメージがあったので、もっと環境が整っているものかと思っていました。

松下:そこがまさに僕がTリーグを立ち上げようと思ったきっかけでもあるんですよね。ありがたいことに年々卓球への関心が高まっている上に、日本は中国に次いで2番目に強い国というポジションにまで来ています。

──世界ランキング上位の日本人選手もいますね。

松下:それなのに卓球だけに専念する環境がない。日本を世界一の「卓球大国」にするには、国内での強化と競争力を上げていく必要がある。そのためにプロリーグを立ち上げようと2010年3月からプロジェクトを始動させました。

「自分ごと」と「他人事」、2つの軸でビジョンを考える

──ゼロからの立ち上げはかなり大変だったのでは?

松下:大変でしたね。最初から賛成してくれる人は少なかったです。選手としてドイツの卓球プロリーグにいた時、老若男女楽しめる文化として卓球が根付いているのを実感しました。でも、日本で卓球の魅力とプロリーグの必要性を理解してもらうのは本当に難しかった。

──それでも実現までに8年も心折れずに向き合えたのはなぜなのでしょう?

松下「自分がやりたい」という意志「誰かのためにやるべき」という使命感を強く持っていたからですね。どちらか一方だけであれば揺らいでいたと思います。自分ごとと他人ごと、2つの軸でビジョンを考えるのは何かを実現する上でリーダーに必要なことかもしれません。

──そもそもどのように人を巻き込んでいったのですか?

松下:新しいことに挑戦する時、人を巻き込むには、誰にどう言われても揺るがない本気度を見せることが大切だと思います。じゃないと、みんな不安がってしまって賛同を得られません。だからとにかく熱意は絶やさない。

──具体的にはどう説得したのでしょうか?

松下:熱意とともに説得材料もきちんと用意しました。なるべく紙の資料を作成した上でロジカルに説明して、安心してもらいました。

反対派を説得するより、賛同者の熱量を上げる

──反対する人もいたことと思います。反対派に対してはどのようにアプローチしたのですか?

松下:うーん……。僕は反対している人を無理やり巻き込むことはしませんでしたね。「賛成しなくてもいいから反対しないでくれ」ってつなぎとめたくらいでしょうか。

──てっきり反対派を切り崩していったのかと思っていたので意外です。

松下:ひとまず反対さえされなければ、敵になることはないですからね(笑)。

──たしかに。反対派から理解を求めるのって、かなりの労力がいりますしね。

松下:そうそう。だから、賛成してくれる人たちの熱量を上げることだけに注力しました。だって、反対派に理解を求めるパワーを使うよりも、はじめから理解してくれている人の理解度をさらに深めて、賛成派の勢力を大きくすることのほうが簡単じゃないですか。

──なるほど! より実現の可能性が高いほうにパワーを使ったんですね。

松下:それに、賛成したくても自分の立場が揺らぐから賛成できない状況ってあると思うんですよ。Tリーグの創設に限った話ではなく、ビジネスをしている上で、そういうことはよくあるので理解しているつもりです。

──それぞれ事情がありますしね。

松下:プロジェクトを進めながら思ったのは、賛同者の人数ってあまり関係ないんですよ。しかたなしに納得してくれた人が多くいるよりも、少数でもやる気や熱量が高い賛同者で声を上げるほうが実現に近づきますからね。なので、自分と同じ熱量の仲間と前進することだけを考えていました。

松下さんは日本のプロ卓球選手第1号として活躍していた。これは当時の様子。

チームの士気を高めるリーダーになるには

──チームの士気を高めるために、リーダーとして心がけていることはありますか?

松下:まずは大きなビジョンを掲げることですかね。Tリーグでいうと「世界一の卓球リーグを作っちゃおうよ」というような感じで、明るく楽しそうに。

──なぜそれがチームの士気に関係するのでしょうか?

松下リーダーが楽しんでいる姿を見せることが大切だからです。先ほどもお伝えしたように、ゼロからものを作り上げるということは、正解がはっきりしていませんから不安もつきまといます。

そんな中、リーダーがしんどそうな顔して取り組んでいたら、メンバーはなおさら楽しめないですよね。ああ、これは大変なプロジェクトに関わってしまったと、気が重くなるだけ。

──たしかにリーダーがつらそうに仕事をしていたら、チーム全体の雰囲気も落ち込みますよね。

松下:だから「みんなで夢を叶えよう!」と大風呂敷を広げることが大事だと思うんです。大きな声で大きな夢を語ることが、チームが楽しく働けるコツなのかなと。

──明るく前向きな空気を作り出すんですね。

松下:あとは、メンバーを信用して鼓舞することもチームの士気を高めます。ダメなところを指摘されるよりも、「やればできるよ」って言ってもらえたほうが自信を持って挑戦できるじゃないですか。だから僕はどんどん挑戦を後押ししようと思っています。

©T.LEAGUE/左から鈴木李茄選手・ヤンハウン(韓国)選手のペアと、平野美宇選手・前田美優選手のペアによる試合の様子。

メンバーを理解して信用することが大事

──リーダーとしてメンバーを信用したくても心配が勝ってしまうことはないですか?

松下:お互いに信頼し合えるようコミュニケーションを密に取っています。自分が相手を信用しないと、相手から信用されるのは無理ですからね。

食事に行って話を聞いたり、聞いてもらったり。表面的な付き合いではなく、その人を形成する要素全体を見るようにしています。たとえば、家族形成とか周辺環境とか、なるべく普段の姿を知るようにしています。

──プライベートについて聞かれるのを嫌がる人もいるのでは?

松下:プライベートを根掘り葉掘り聞くわけではないのですが、仕事以外の要素もその人の考えや人格に影響しているので、仕事の時の姿だけで判断したくないんです。

──それはどうしてですか?

松下:たとえばメンバーが悩んでいる時など、本人の意見を否定したり、考えを押し付けたりするのではなく、「僕だったらこうする」と助言したいんです。そのためには、その人の立場を想像することが大切です。でも、表面的なことしか知らなければ、その助言が的外れなものになってしまうじゃないですか。

──なるほど。ちゃんと相手を知ろうとする姿勢が大切なんですね。

松下:そうですね。僕自身、選手のマネジメントをしていた時に思ったのですが、人の気持ちをコントロールするのってほぼ無理なんですよ。だから人を管理しようだなんて思わないようにしているんです。信用して理解することしかできない

ピンチの時はすぐメンバーに相談する

──松下さんはリーダーとしてポジティブに振る舞うことを意識されていますが、窮地に立たされた時はどうするのですか?

松下:僕は能力がないので、自分にできないことはできないというし、その能力に長けているメンバーがいるとしたらすぐに相談しちゃいます。

──ポジティブでいらっしゃるから、つらいところは見せないのかと思っていました。

松下:いやいや、最終的には会社やプロジェクトが前進できればいいので、ひとりでできない時はチームで乗り越えようと思っています。ひとりで先頭に立つのがリーダーというわけではないですからね。

──なるほど。そうすることで、さらにリーダーに対しての信頼とチームの士気が高まりそうな気がします。

リーダーは“権力”や“立場”ではなく「役割」である

──松下さんにとっての理想のリーダー像をずばり教えてください。

選手のマネジメントも行っていた松下さん。

松下:難しいですね……。というのも、僕自身がトップダウン型のリーダーではないので「リーダーはこうあるべき」っていうのを持っていないんですよ。ただ、あえていうなら、立場としてのリーダーにこだわるのではなく、役割としてのリーダーをまっとうするのが大切かなと。

──役割としてのリーダー、ですか?

松下:たとえば僕の場合、その都度チーム全員で最適な選択を重ねて前進してきました。そこでのリーダーの役割って働くモチベーションを作ることだと思うんです。その組織でリーダーに求められる役割や機能をきちんと果たすのが役割としてのリーダー。

一方、立場としてのリーダーというのは、肩書き通り、組織を先導することや、カリスマ的な存在でいること。でも、僕は自分には能力がないとわかっているので、権力や立場にはこだわりがないんです。

──リーダーというポジションにこだわるのではなく、チームを機能させてビジョンを達成することのほうが大切なんですね。

松下:そうですね。いい仲間と働くこと、その仲間たちが存分に力を発揮できるために、どう立ち振る舞うかということを大切にしています。

──具体的に松下さんにとって、いい仲間というのはどんな人なのでしょう?

松下:優秀さよりも、夢を持っているかどうかや、やりがいを共有できるかということを重視しています。だからこそ、僕自身が夢を語って楽しそうな雰囲気を見せるようにしていますね。お金は後からついてきますから、それよりも仕事に関わることの意義を伝えるようにしています。

──お話を伺って、松下さんが先陣を切って卓球界を変えていけたのは、リーダーである以前に、人として素直に振る舞ってきたからなのかなと感じました。

松下:そうかもしれませんね。これからを担う若手ビジネスパーソンに言いたいのは、やりたいことがあれば、なりふり構わずやってしまえばいいということ。挑戦しないと何もつかめないってことはたしかですからね。

初めてリーダーを任された人も、リーダーとして立ち振る舞いに迷っている人も、ぜひ恐れずに楽しみながらチャレンジし続けてください!

松下浩二(まつした・こうじ)

1967年8月28日生まれ。日本のプロ卓球選手第1号として欧州3大リーグで活躍。2008年には日本初のプロリーグTリーグを創設し、今もなお日本の卓球界を牽引し続けている。

取材・文/於ありさ(@okiarichan27