大好きな映画から会社を探した、おじさんの話

「僕の時代はインターネットがなかった。だから僕は、大好きな映画のエンドロールを見て、必死でメモして、電話帳を開いて、『求人してますか』って、訪ねにいってたの」

50代の男性が言った。その場にいた大学生たちは、目をまるくして聞いた。なぜなら彼らは、大手ナビサイトでの就職活動しか知らなかった

突然だが、私は自宅を地元の10〜20代に開放している。前職で、就活をサポートする仕事をしていたつながりもあって、仕事探しに悩む大学生たちがしょっちゅう遊びにくる。何するでもないけれど、おなかが空いたら一緒にご飯を食べたり、しゃべったり。たまに、深い話になる。

ある日、私は、とある男性とZoomランチをしていた。そこへ、家に遊びにきていた大学生たちが入り込み、なんとなくの流れで、ゆるい就活相談会がはじまった。この男性が、冒頭に書いた「映画のエンドロールで就活をした」というおじさんである。

おじさんの当時の状況を詳しく説明すると、こんな感じだ。

おじさんが21歳の時のこと。彼は映画が好きだった。映画に携わる仕事がしたかった。大好きな映画を見に行くと、エンドロールには会社の名前がたくさん出てくる。編集、音響、美術、衣装、翻訳、配給…… おじさんはいつも、映画の余韻に浸りたい気持ちをグッと抑えて、流れてくる会社名を必死でメモした

入社できたところで、映画づくりに直接関われるかどうかはわからない。でも、この素晴らしい映画づくりに携わっている会社は、きっと素晴らしい会社に違いない。

家に帰って、電話帳を開く。電話番号や住所を調べる。そして、片っ端から連絡を取ったり、訪問をして、聞く

「求人はやっていますか?」

好きなものは服。広告業界志望、Uちゃんの話

おじさんが話をしてくれたとき、その場には大学生が3人いて、そのうち2人が就活中だった。大手ナビサイトでの検索しかしてこなかった彼らは、おじさんの就活方法に驚いていた

「すごいなあ」

「今じゃなかなかできないね……」

おじさんは「そうでもないよ」と言った。
みんなも知らず知らずのうちに、やってるよ。みんな僕より調べ上手だと思うよ」

私も同じ気持ちだったので、おしゃれが好きなUちゃんを見て、言った。

「Uちゃん、その服かわいい。どこで買ったん?」

「これですか?三宮です」

「なんてブランド?」

「なんやったかな、忘れました……(笑) でも、好きなアイドルの子が着てたブランドで」

「へー! どうやって見つけたの?」

「その人のインスタをフォローしてて、ブランド名がハッシュタグで書かれてて。ググったら、三宮に店あるやん! ってなって。このピアスもその人が付けてたやつなんですよー」

おじさんは言った。
「Uちゃんがしたのは、僕と同じことだと思うよ」

大好きな映画のエンドロールから、気になる会社を見つける。
大好きなアイドルのインスタのコメント欄から、気になる服を見つける。

Uちゃんは広告業界を志望していた。大企業の選考はうまくいかず、中小企業でピンと来るところも探し出せず、行き詰まっているところだった。けれど、おじさんの話から、大学生たちは盛り上がった。

「Uちゃんが好きな服のブランドで、いいなって思うポスターとかパンフレットがあったら、それを作ってるのはどこか、っていうので調べてみるのもいいんちゃう?」

「それめっちゃ良い! やってみよかな!」

私も服が大好き。

インスタで見たり、雑誌で見たり。ふと歩いているときにお店を見つけて入ったり、たまにはAmazonやメルカリで調べたり。趣味の似ている友達から教えてもらうこともあるし、仕事でご一緒した人の服が素敵だったら、「どこのですか?」って聞いたりもする。

服を、それぞれの一番好きなものに置き換えれば、みんな少しは、似たようなことをしている。音楽、ゲーム、ラーメン、旅行先。でも、就活での会社探しとなると、とたんに調べ方が狭まってしまう

大手ナビサイトはとても便利だし、大企業を目指したい人は特に、登録しておいたほうが動きやすい。けれど、服の探し方がいろいろあるように、自分に合う会社の探し方も、もっといろいろあってもいい。働き方の多様性は広がってきているけど、就活の仕方の多様性は、まだまだいっぱいあるだろうな。

好きな人のタイプと重ねてみた、Sちゃんの話

他の大学生たちも、大手ナビサイト以外での探し方を、それぞれ考えて試すことになった。すると後日、「いい会社見つけた!」と、Sちゃんから連絡が来た。

詩を読んだり、自分で書いたりするのが大好きなSちゃん。希望する業種や職種は一応あるけれど、そこから調べても、ほとんど同じに見えたと言う。おじさんやUちゃんの話をヒントに、枠をはずして、自分なりの調べ方を考えてみた。彼女の好きなものは、やっぱり「言葉」だ

Sちゃんは「自分が好きなフレーズ」スペース「企業理念」や「採用情報」でググってみた。すると、ナビサイトじゃたどり着かなかった、ビジョンも雰囲気もドンピシャなところを見つけたらしい。

彼女は興奮気味に言う。

「好きな人のタイプを聞かれたときに、『こういう言葉をよく使う人がいいな』って言ったことがあるんですよ。でもそれって会社もそうなんじゃないか、って思って。それでやってみたら、見つけたんですよー!」

ひとつ見つけると、どんどん新しい方法が生まれてくる。その会社の、公式SNSアカウントがフォローしている会社をたどったり。憧れの作家さんが登壇したイベントの、運営元はどこだろうとたどったり。そのイベントに、前回登壇していた人はどんな会社に勤めてきたのだろう。今、どんな会社と仕事をしているのだろう。

Sちゃんが言った。

全部、軸が自分の好きなことだから、調べるのが面白い。就活、しんどいイメージしかなかったけど、ちょっと楽しいかも」

もしも、会社探しが、デートの服選びだったら

大げさかもしれないけれど、
デートの服を選ぶくらい、会社探しが楽しくなったらいいなと思う。

デートじゃなくてもいい。自分が大切だと思う人に会うような、ちょっと特別な日の服選びは、夜中になっても「ああでもないこうでもない」となる。緊張するけど、嬉しくて楽しい。就活も、そんな気持ちでできればいいなあ

もちろん、そんなお気楽なものではない。エントリーシートが思うように書けなかったり、面接に落ちちゃったり。大変な気持ちになるほうが多いし、その人の中で根付く「働く」のイメージにもよる。それでも、もしも会社探しが「しんどい」じゃなくて「楽しい」だったら、いいエントリーシートを書けそう。いい面接になりそう。

「僕の時代はインターネットがなかった。だから僕は、大好きな映画のエンドロールを見て、必死でメモして、電話帳を開いて、『求人してますか』って、訪ねにいってたの」

そう言ったおじさんは魅力的だった。自分がもしも採用側で、「僕、この会社を、大好きな映画のエンドロールから見つけたんです」って言われたら、一気にその人に近づきたくなる

好きなことを語る人の姿は、とても魅力的だと思う。だからもっと、自分の「好き」をさらけ出せる就活になったらいいな、と願っている。

そして、「明日デートなんだよね」の顔で、「明日面接なんだよね」って言える世界が来たら、最高だなあと思う。

ちなみに、冒頭で登場したおじさんは、エンドロールを活用した就活の末、見事、映画関係の会社に内定をもらった。30年以上の時が経ち、今は大手シンクタンクに勤めながら、いろんな研究結果をメディアへ発信する仕事をされている。

おじさんは言う。

「変わらず映画は大好きだし、映画に携わる仕事を振り返ることもある。でも今は、僕の人生そのものが映画のようであればいいかな、なんて思って働いてるよ」

この記事を書いた人

島田彩

島田彩(しまだ・あや)

エッセイや脚本などを書く作家活動を中心に、企画やデザイン、司会業などを行う。2010年から「HELLOlife」で教育・就活分野のソーシャルデザインに取り組んだのち、2020年6月に独立。奈良在住、気まぐれで借りた家が広すぎて、寝室以外を開放中。得意技は愛すること。

Twitter:@c_chan1110