僕はデジタルメディアの企業を経営する傍ら、YouTubeやTwitter上でニュース解説をおこなっている。すると、よく「どうやって情報収集すれば良いですか?」とか「ニュースを読むコツを教えてください」という質問を受ける。

しかし個人的には、「役に立つスキル」や「ビジネスなんちゃら術」のようなライフハックは好きではない。「情報収集の極意」や「効率よくニュースを探せるコツ」を聞かれることもあるが、そんなものは存在しない

こうした質問は、そもそもなぜニュースを読むか? という大事な問いが抜け落ちた上で、「ニュースを読むことが大事だ」と思い込んでいることから生じる誤解だ。

では、なぜニュースを読むのだろうか。

たとえば、「ニュースを読むこと自体がエラい」とか「上司に褒められるから」という動機について、個人的にはオススメしない。上司や先輩にニュースを読むよう言われた経験がある人は多いだろうが、闇雲に情報収集することは、時間の無駄になる可能性が高い。

ニュースを読む意義とは、それが「基礎となる知識を蓄えて、雑多な情報に惑わされずに良質な情報を取捨選択して、論理だった理解・主張へとつなげていく作業」だからだ。

このプロセスは、日々の仕事や学びにおいて有益となる普遍的なスキルを身につける上で重要だ。すなわち、このプロセス自体がニュースを読む目的であり、だからこそ、ここをすっ飛ばして手頃な「ライフハック」や「なんちゃら術」を追い求めることは無意味なのだ。

もしあなたがニュースに興味がなくても、品質の高い情報を得て、より良いレポートや報告書を書きたいと思っているならば、この記事を読んでも損はないかもしれない。若手社会人にとって、有益な「方法」が見つかるはずだ。

なぜ「ニュースを読む方法」の習得が必要なのか

ニュースを読む方法を具体的に見ていく前に、そもそもなぜ方法が必要なのかを考えてみたい。

アートを例にしてみよう。絵画や彫刻などを鑑賞する時、作品そのものから面白さを読み取ろうとする人は多い。しかし、キャンバスにゴチャゴチャと色が塗られていたり、不可解な幾何学模様が並べられていたりして、「一体これの何が面白いだろうか」と頭を抱えた経験はないだろうか。

世の中には作品の美しさのみで感覚的に楽しめる人もいるのだろうが、僕のような凡人は、作品をコンテクストと共に楽しむ。コンテクストとは、「なぜその作品がその時代に生まれたのか?」「作者はどんな人生を歩み、なぜその作品を作ろうと思ったのか?」といった周辺情報だ。

コンテクストを理解すると、「なぜピカソやゴッホが人気を集め、ヘンテコに見える作品が評価されているか」が、少しだけつかめてくる。闇雲に膨大な作品を眺めているだけでは知的好奇心を満たせないが、方法があることによって先人たちの知識が暗闇を照らしてくれる。

ニュースも同じだ。ただ量を眺めていては見えてこないものが、前提知識をつかみ、正しく読み進めていけば、一気に解像度が高くなる

ニュースを読むために意識したい3つのステップ

では実際にニュースを読むための方法を見ていこう。具体的には、大きく3つのステップがある。

ひとつは自分の興味あるジャンルを絞ること。もうひとつは、フローではなくストック型の知識を持つこと。そして最後に、そのストック型の知識と日々のニュースを結びつけて「読む」ことである。

端的に言えば、ニュースアプリやTwitterに流れていく情報をダラダラと無秩序に拾っていくことは、ニュースを「読む」ことになっていない。

ステップ1. 追いかけるテーマを絞り込む

ジャンルを絞ることは、はじめの重要なステップだ。どれほど多才な人であっても、何かを学んだり、理解するには時間がかかる。仕事に関する話題でも、昔から興味があった話題でも、何でも良いので、まずは「追いかけたいテーマ」を決めよう

注意すべきは、「日本の経済」など広いテーマではなく「自動車業界の動向」や「中国で流行っているユーザー向けサービス」など、できるだけテーマを狭めることだ。ある分野に精通するには時間がかかる。あれもこれも雑多にテーマを追うと、結果的に遠回りになってしまう。

ステップ2. 前提となる知識を理解しておく

ニュースのように日々流れていくニュースアプリやSNSによって、日々触れる情報量は圧倒的に増えた。しかし、その情報が重要かは別問題だ。

大量の情報はほとんど意味がない。それどころか、害悪にもなる。重要な情報に触れる時間を減らすからだ。まずは日々流れていくフロー型の情報ではなく、蓄積され体系だったストック型の知識を取得すべきだ。

たとえば、追うテーマが「自動車業界の動向」であれば、自動車業界のニュースを手当り次第に漁るのではなく、「日本や世界にどのような企業があり、業界全体は伸びているのか」、「もし伸びているならその理由は何なのか」、「今後期待されるテクノロジーはなにか」といった業界の全体像や基礎知識をはじめに理解しよう。関連書籍から読みはじめても良いし、概要をザッと理解するならWikipediaでも問題ない。

注意しておきたいのは、ウソや偏った考えに騙されないことだ。最近はフェイク・ニュースという言葉をよく聞くが、フェイクは何もニュースに限らず、多くの本やTVに蔓延している。

それらを避ける簡単な方法は存在しないが、僕が目安としているのは「①「◯◯のウソ」や「真実」などの扇情的なタイトルを使っていないか」「②大学や研究機関、広く知られた企業に所属する人間が、過去の実績や肩書を明示した上で執筆しているか」「③同じテーマで執筆された書籍を比較した時、その本が批判的な文脈であっても引用されているか」などの視点だ。

ある分野に関する本を最低3冊ほど読めば、そのトピックやテーマについて漠然と理解できるだろう。ここまで来て、はじめてニュースを「読む」ための準備が整ったと言える。

ステップ3. 注意しながらニュースを「読む」

最後に、いよいよニュースを読んでいくプロセスとなる。しかし「読む」という作業には、いくつかのポイントが必要となる。

【1】事実と意見に注意する

事実と規範(「こうあるべき」というルールや意見)の切り分けは、最も基本的なポイントだが、混同されていることが多い。たとえば、ある政治家の汚職で「不正な資金を受け取っており、退陣するべきだ」という記述があった時、前半は事実の記述で、後半は個人的な意見である。

この手の誤りは、会社の報告書でも起きる。たとえば「Aという製品の売上が20%下がっているので、撤退するべきだろう」という記述は、後半の主張に根拠が存在しない。最低でも、「Aという製品の売上が20%下がっており、その結果として販売コストが利益を上回っており来月から赤字が予想されるので、撤退するべきである」という記載をするべきだ。

【2】因果関係に注意する

因果関係と相関関係を混同してはいけない。

2つの出来事が、原因と結果の関係になっていることを「因果関係がある」と言い、単に片方が変化すると、もう一方もあわせて変化することを「相関関係がある」と言う。ニュースでは、しばしば相関関係が因果関係のように説明されていたり、本当にその出来事の原因であるかが疑わしいまま、相関関係だと断定されていることは多い。

「政治家への不正な献金に対する不信感が、政権への支持率低下につながっている」と因果関係があるように語られる出来事であっても、それが本当かは疑わしい。支持率低下という結果をもたらしている原因は、政治家への不信感かもしれないし、景気の悪化かもしれないし、他に人気のある政治家が登場したからかもしれない。

正しい因果関係を見極めることは難しいものの、「疑わしい説明に注意する」という原則を持っておくべきだろう。

【3】「何とでも言える説明」に注意する

たとえば、「人間の行動は、すべて幼少期のトラウマが原因だ」という主張は、「自分にはトラウマはない」と言っても、「トラウマは気づかないうちに刷り込まれてので、自分ではわからない」とか「そうやって否定すること自体がトラウマだ」と言われてしまうので、絶対に論理的な反論ができない仕組みになっている。

こうした「誰も反論できないこと」を少し難しい言葉で「反証可能性がない」と言うが、これは科学的ではない主張だと言われる。

たとえば、「日本人は謙虚だ」という主張はよく耳にするが、この主張に反論しようと思っても、謙虚であることの基準は人それぞれだし、ある人の謙虚な部分を探そうと思えば、どこかしらに見出すことはできる。こうした主張は科学的には検証することができないため、問題がある。

ニュースでもしばしば反証可能性がない主張が蔓延しているため、気をつける必要がある。

【4】 イデオロギーは気にしない

因果関係や規範の問題に含まれるが、あえて別の項目にしたのは、ニュースがしばしばイデオロギーとあわせて語られるためだ。

たとえば「朝日新聞は偏っている」という主張は、イデオロギーへの注意を呼びかけているように見えるが、実はこの主張自体がイデオロギーにまみれている。実際には、あるメディア自体が偏っているかは重要ではない特定の記事や主張に論理的破綻や規範と事実の混同などがないかだけが問題である。

もちろん、規範と事実を混同したような記事ばかり出しているメディアは読むに値しないが、少なくとも「イデオロギーに気をつけろ」という主張自体が何をイデオロギーと定義して、どのように気をつけるべきかを明らかにしていないケースがほとんどであり、そうした主張は無意味である。

【5】情報源や引用に注意する

メディアには情報源の秘匿が求められることがあり、情報源が明示されていないケースがある。そのこと自体は問題ないが、「〜と言われている」とか「〜という声が高まっている」という記述には注意が必要だ。

特にある企業や政党に批判的な記事には、こうした根拠の不確かな情報を盛り込むことで、「みんなが批判しているんだ」という印象が持ち込まれやすい。

「世論の批判が高まっている」という記述であれば、世論の何%が批判しているかを明示するべきであり、それは統計的な調査によるものか否かを明示するべきである。

いつ誰が言っていたのかを明らかにせず、具体的なソースがないまま記述しているニュースには価値がない。情報源が秘匿されているニュースであっても、適切なものであれば、それが存在していることが明記されている。

【6】主張の根拠に注意する

単一事例からある主張を導き出されているケースには気をつけるべきだ。たとえば、黒人が殺人を犯したニュースから、「黒人には注意する必要がある」という主張がされていた場合、単に差別的であるだけでなく、科学的にも間違っている。こうした主張は、「飛行機は墜落する可能性があるので、飛行機に乗る人は愚かだ」という論理と同じくらい意味がない。

事実と規範が分離されていても、その規範的な主張に論理的な飛躍があるケースは少なくない

上記のようなポイントに気をつけながら、ひとつひとつのニュースを読み、ストック型の知識と紐付けながら理解すれば、おそらくその「読み」方は格段に品質が高まっているだろう。

以上3つのプロセスと、そして最後のプロセスにおけるさまざまなポイントを注意深く実行していくことが、ニュースを「読む」ための方法なのだ。

ニュースを「読む」ということ

ここまで見てきたように、ニュースを読むためには少し煩わしい方法が必要となる。しかし上記のプロセスを経て、はじめて本当にニュースを「読んでいる」と言えるだろう。

これらは、一朝一夕に身につく技術ではない。面白みのない地道な方法に見えるかもしれないが、「基礎となる知識を蓄えて、雑多な情報に惑わされずに良質な情報を取捨選択して、論理だった理解・主張へとつなげていく作業」とはそういうものだ。

個人的には、世の中のさまざまな出来事や事象を理解することは、この上なく知的好奇心を揺さぶる最高の暇つぶしだと思っている。ニュースを取っ掛かりとして、多くの若手社会人がその面白さに気づいてくれれば、これほど嬉しいことはない。

この記事を書いた人

石田健

石田健(いしだ・けん)

The HEADLINE 編集長。YouTubeチャンネル「イシケンTV」でニュース解説を行っている。大学院での研究生活を経て、株式会社マイナースタジオを創業。2015年にメンバーズ社(東証一部)より企業買収。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程(政治学)修了。

Twitter:@ishiken_bot