「主役タイプ」の人って、いますよね。明るくて元気で、仕事もできて、みんなに好かれる、自然と注目が集まっちゃうような人。もちろん評価もされるし、難なく出世できてしまう。

では、「主役タイプ」になれなかった「脇役たち」は、どう戦っていったらいいんでしょうか。

宮下草薙の宮下兼史鷹さんは、過去のインタビューで「そもそも“じゃない方”になるだろうなと思ってコンビを組んでる」と話していました。

あえて「じゃない方」に徹して結果を出している宮下さんに、脇役タイプの戦い方について聞いてみました。

宮下兼史鷹(みやした・けんしょう)。お笑いコンビ「宮下草薙」のツッコミ担当。2018年元日放送の『おもしろ荘』で一気にブレイク。

「今日の取材、僕で合ってます?」

宮下兼史鷹さん(以下、宮下)あの……今日の取材、僕で合ってます?

まさかビジネス系のメディアからご連絡が来るなんて思わなくて……。かっこいいこと言わせるドッキリじゃないですよね?

──ドッキリじゃないので、安心してください(笑)。「戦略的“じゃない方”」というめずらしい経歴の宮下さんに、脇役タイプの戦い方をお聞きしたかったんです!

宮下:そうですか? 参考になるかわからないですけど……よろしくお願いします。

──よろしくお願いします!

貯金で生活しながら漫談を100本。「いける」と確信して養成所へ

──宮下草薙を結成する前は、ピン芸人志望だったそうですね。

宮下:そうですね。周りにお笑いやりたい人があんまりいなくて、ピン芸人になろうかなと。どんな感じでいこうかなって考えてみたら、しっかりと1人で漫談をしている人が少ないことに気づいて。「これはいけるかも」と思ったんです。

事務所を太田プロに決めたのも、ピンでお仕事している方が多かったからですね。劇団ひとりさん、有吉(弘行)さん、土田(晃之)さんとか。

──養成所に入学する前から、かなり先を見据えていらっしゃったんですね。

宮下:僕自身、石橋を叩いて渡るタイプの性格なんですよ。「いける」という確信がないと動けない。芸人をやってる時点で説得力ないかもしれませんけど(笑)。

だから、養成所に行き始めたのは23歳と遅めでした。1年間くらい貯金だけで生活しながら、漫談を100本作ってたんです。それで満足のいくネタができて「よし!これならいける」と思ってから踏み出しました。

全力でお笑いに向き合うために、バイトしなくてもいい環境まで作っていたという徹底ぶり!

──100本も⁉ そんなにネタを持っていたなら、養成所に入るまでもないのでは……

宮下:いやいや、養成所で自分に足りないところを学ぶ必要がありましたから。ひとつ不安なことがあると勇気が出ないし、勝ちを確信していないと挑めないんですよね

「草薙を売れさせたい!」初めて計算なしで動き、コンビを結成

──養成所では常にトップの成績だったんですよね。ピン芸人として順調だったのに、なぜ草薙さんとコンビを組んだんですか?

宮下:養成所で初めて自分よりおもしろいと思ったのが草薙のコンビだったんですよ。でもそんな彼らが解散して、草薙が芸人を辞めるかもしれないって聞いたんです。

そのとき、俺はお笑いファンの1人として「こんなにおもしろい草薙という人間が、世間に出ずにいなくなってしまうのはもったいない!」と強く感じて、一緒にコンビを組まないかと誘いました。

草薙さん、3回目のコンビ解散だったそう。たしかに「もう辞めてしまうかも」と思うタイミングです。

──そのときは戦略的にというよりも、感情で動いたんですか?

宮下:そうですね。「草薙が辞めるなんて、どうしよう! やばいやばい!」と思って、とっさに動いてました。計算なく感情で動いたのは、あれが初めてだった気がします

──コンビでやっていく上で、勝算や成功するための戦略とかは考えていたんですか?

宮下:うーん……そこまで考えてなかったです(笑)。ただ、養成所でトップ1・2を争う2人が組むんだし、いけるんじゃないかみたいな変な自信はうっすらとあった気がしますね、あのときは。

葛藤はなかった?「じゃない方に徹する」覚悟と勝算

──ピン芸人として描いていた理想像と、コンビとしての姿の差に葛藤はなかったんですか?

宮下:意外となかったんですよね。初めから僕が「じゃない方」になる覚悟でやってたんですよ。

あれだけ個性が強くて、見た目やしゃべりにインパクトがある草薙とコンビを組むんだから。絶対に僕が「じゃない方」になるだろうな、と思ってました。

宮下:もちろんしんどいときもありましたけど、「なんで俺が注目されないんだよ」って思ったことはないですね。最初から覚悟を持って「じゃない方」になったんで。

「今は草薙を売り出さないと。自分は“じゃない方”に徹する時期だ」と折り合いをつけました。

──「じゃない方に徹する」というのは、具体的にどんなことをしたのでしょう?

宮下とにかく、草薙を目立たせることに徹しましたね。

たとえば、彼のキャラを引き立たせるために、自分は常に落ち着いている冷静なキャラであろうと決めたんです。草薙がネタを飛ばしたときも、落ち着いた素振りを崩さず、どーんと構えてる(笑)。2人して慌ててたら、お客さんも戸惑っちゃうでしょ。

宮下:あと、草薙は自然体でいるときが一番おもしろいんですよ。テレビに出始めた頃は、彼が気持ちよくテレビに出られるように精神面のサポートもしていました(笑)。一緒にご飯食べに行ったり、ゲームしたり。

──そんなことまで! 自分の役目とはいえ、プライベートでも草薙さんを支えられたのはなぜなんでしょう。

宮下:うーん……。

これはあくまで予測なんですけど、コンビの場合、どちらか片方が注目されたら、絶対に「じゃない方」が遊ばれる時期が来るんですよ。その時期まで、絶対待とうと思っていたんです。

宮下:ただ、出るのが早ければ賞味期限が早くなるだけなので、焦って「俺も俺も」とはせず、僕のターンが来るときに備えようと思っていました。

遠くのアンチより、目の前の人の評価を大事にしたい

──「じゃない方」って辛辣な扱いを受けるイメージが強いのですが、なにか辛い思いをしたことはありますか?

宮下:たしかに視聴者の方から辛辣なコメントをいただいたことはありますね。「ギャラ泥棒」ってメッセージが来たり、そういう内容の手紙が届いたり……

──え⁉ 思った以上に辛辣……!!

宮下:まあ、給料を折半してないのに、折半してるって草薙が嘘ついちゃって、俺が草薙のギャラももらっているって情報が出回っちゃったからなんですけどね(笑)。

完全に草薙さんのとばっちりなのに「芸人なんで、おもしろかったら全部許せちゃうんすよね」と笑って話す宮下さん。

──そのときのメンタルってどうやって保ったんですか?

宮下:うーん……言ったらよくないかもしれないんですけど、僕はそういうことを言ってくる人のことを敵だと思っていないんですよね。

「サバンナでジャッカルが吠えてるな、なんか怖いけど」って思うのと同じくらい遠いことというか。

──想像以上に遠い(笑)。

宮下:まあ、アンチがいるというのは人気の証というか、ありがたいことでもあるとは思うんですよ。それに多少なりとも、アンチの方の言葉でへこむのは事実です。

でも、遠くに感じているマイナスな意見よりも、目の前にいる芸人さんが「宮下、おもしろいな」って言ってくれることの方が、僕にとって大事なんですよね。だから、あまりメンタルを病まずにいられるのかなとは思います。

「闘志は出さない方がいい」溜めて燃やし、エネルギーに

──努力しているのに目立たないからって「もっと頑張れよ」と言われてしまうビジネスパーソンもいるのですが、もし同業の方からそんな風に言われたら、宮下さんはどうしますか?

宮下悔しい顔はしないようにしますね。心の奥底では、反骨精神や闘志はあるんですけど。やっぱり闘志って出しちゃダメだと思うんです

えっ、闘志って出すものじゃないんですか!?

宮下闘志を出すと、その分出ていっちゃう気がするんですよ。たとえば、上司が腹立つことを言ってきて反抗して、それでスッキリしちゃうってこと、ありますよね。

言わないで、燃やしといた方が、良いエネルギーになる。だから僕は溜めてエネルギーに変えています。

──たしかに、上司に怒られたことを同僚に愚痴ったらどうでもよくなっちゃった、っていう経験あります。

宮下:もちろん、それもひとつのやり方だし、その方が続く人もいると思います。あくまでも「僕は」です(笑)。僕、誰かに相談事とかもしたことないんですよ。「これが正解だ」と思ったら曲げない性格だからだと思うんですけど。

とにかく溜めて燃やす、すっきりしようとしないこと。今はそれでうまくいっているので、自分には合っているのかなと思います。体に合わない人もいると思うので、無理に実践する必要はないですよ(笑)。

自信は無理につけなくていい。大切なのは「どう見えるか」

──宮下さんは、自分の中で大切にしていることがきちんとあって、自信があるように感じます。どうしたら自信を持てるんでしょうか?

揺るぎない自信を持つことって結構難しい気がしますが……

宮下自信は無理につけようとしなくてもいいと思います。大切なのは自信がある風に振る舞うこと

だって、自信がないことを自信がない風に振る舞っても、なにも生まれないですからね。最近は言ったらスベるとわかっていても、あえて自信満々に言ってます。それで逆におもしろくなればいいかなって(笑)。

──なるほど(笑)。

宮下:ビジネスにおいてはわかんないですよ? でも、自信満々でやった方が楽しいじゃないですか。だから、とりあえず自信ありそうに振る舞うのがいいと思うんです。保証はできないですけど。

──たしかに、仕事ができるとは言えないけど元気だけはある人って、愛されキャラでいられる気はします。

宮下:そういう人が1人いるだけで、その場が楽しくなったりしますから、おもしろいと思いますけどね。まあ、一定の層からは反感くらうかもしれないですけど。

──(笑)。ちなみに宮下さんの自信の根拠はどこにあるのでしょう?

宮下:ありがたいことに全部、思い通りに進んでいることですかね。

僕、変に自信があるからこそ、向いてるか向いてないかはなんとなく判断できるんですよ。自信がないことはやらないようにしています。

宮下:あることをするとき、まずは自分がしている姿を想像するんです。イメージしたときに、違和感があったらやらない。今やっている雑誌の連載を始めるときも、5本くらい書いてみて「いけるな」と思ったから、お引き受けすることにしましたから。

うまくいったときこそ反省。「もっとできたこと」を探したい

──たくさんお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、宮下さんが成功した秘訣ってずばり何だと思いますか?

宮下:えー、どうだろう……。成功してるって思ったことないですね……。

ありがたいことに今は芸人だけで食べていくこともできていますけど、大事なのは継続することだと思いますし、将来のことはわかりませんから。たぶん、成功しているかどうかって死ぬ直前までわからないんじゃないかなって思います。

──出たかった番組に出られたり、予想通りのポジションに行けたり、かなり成功しているように見えるのですが……

宮下:いやいや。たしかに出たいと思っていた番組に出られると嬉しいなとは思いますけど、満足したことはないですね。まったく

宮下反省の方が圧倒的に多いです。それに、「うまくいったな」って思っちゃうと、次の現場でめちゃくちゃダメだったりするんですよ。だから、うまくいったと思っても、良い部分を振り返るんじゃなくて、「あのとき、もっと言えたな」って反省するようにしています。

──めちゃくちゃストイック……! ウケたら、喜んじゃいそうですけどね。

宮下:もちろん喜びたい気持ちもありますよ! でも、そこはもう喜ばないようにして、「次どうしよう」って先のことに目を向ける。

そうやって少しの喜びと、たくさんの「もっとできたこと」を積み重ねながら、次につなげて、できるだけ長く今の状態が続けばいいなと思っています。

宮下兼史鷹(みやした・けんしょう)

1990年群馬県出身。お笑いコンビ「宮下草薙」のツッコミ担当。太田プロダクション所属。2018年元旦放送の『おもしろ荘』で一気にブレイク。2020年1月、『TV LIFE』で連載中の「宮下草薙の不毛なやりとり」が単行本化。

Twitter:@admjpujpwd

取材・文/於ありさ(@okiarichan27
撮影/鈴木勝