僕は袋小路ケン。歌舞伎町のホストクラブ「ペガサス」で働くホストだ。まったく指名が取れないダメホストだった僕だけど、先輩たちにアドバイスをもらい心理学を接客に応用するようになったら、少しずつ指名が取れるようになってきた……。

無口であまり話さないお客さまをどうほめる?

「サトミちゃんって、自分からはあんまり話さないけど、すごくよく話を聞いてくれるよね」

「え!? そ、そう?」

今、「ペガサス」のソファに僕と並んで座っているのはサトミちゃん。僕を指名してくれている大事なお客さまの一人だ。

サトミちゃんは無口なタイプで、自分からはあまり話そうとしない。仕事は看護師ということは話してくれたが、いろいろ話を振っても正直、いつも反応が微妙。そういうタイプなんだろうと自分を納得させて接客しているけれど、最初は困ってしまった。

それでも、月1回くらいのペースでお店に来てくれて、僕の面白いかどうか微妙な非モテ話を、毎回静かに微笑みながら聞いてくれている。

これまでは言わないよりはマシと思って、「ピンクが似合うね」「髪、ツヤツヤだね」と薄っぺらい褒め言葉を口にしてきたけれど、今日はこの前の合コンで知り合ったユカちゃんから教わった褒め方を試してみることにした。ユカちゃんは心理学専攻の大学生で、接客に使えそうなヒントを教えてくれたんだ。

「サトミちゃんが相手だと、緊張せずにペラペラしゃべれちゃうんだよね。聞き上手だから、本当に話しやすいよ!!」

「あんまりそんなこと言われたことないなぁ」

そう言いながらも、サトミちゃんはうれしそうにしている。

今、僕が試しているのは「ジョハリの窓」という自己分析方法を応用した褒め方だ。これは就活の自己分析にも使われるくらいシンプルなものだから覚えやすいらしい。

……が、就活経験者なのに、僕にはジョハリのジョの字も記憶になかった。

これをユカちゃんに教えてもらったとき、「さすが心理学を勉強している学生は違うね」と感心していたら、「海藤さんだって、就活時に教わったでしょ?」とあきれられてしまった(海藤は僕の本名)。今思えば、ろくに自己分析もせずに就活していたのだから、結果が出なかったのも当然の話だ。

恋愛にも応用できる「ジョハリの窓」とは?

ユカちゃんによると、「ジョハリの窓」とは、メンタルトレーニングや心理学の現場で使われているもので、自己分析して、人間関係を改善するために役立つという。1955年に心理学者のジョセフ・ルフトとハリー・インガムが提唱し、2人の名前から「ジョハリ」という名前になったそうだ。

①開放の窓

これは、自分が思っている自分の性質と、他人から見えている性質が一致している領域のこと。自他ともに認める性格や見ためなどがこれにあたる。この領域が広いと、他人から見た自分と、自分から見た自分のギャップが少ないので、コミュニケーションで行き違いが生じることが少なくなる。

②盲点の窓

盲点の窓は、自分ではわからないが、他人は知っている自分の性質のこと。考え方のクセや意外な長所などが該当する。この領域が広いと、他人から見た自分と、自分から見た自分のギャップが大きいということなので、コミュニケーションもトラブルが起きやすいということになる。

③秘密の窓

秘密の窓とは、他人には知られていないけれど、自分だけが知っている自分の性質。秘めた思いや人に言えないコンプレックスなどのことだ。

④未知の窓

これは、自分も他人も知らない自分の性質。まだ開花していない性格や才能などが未知の窓にあたる。

相手が本当にほめてほしいところを見抜くには?

本来は、自己分析や潜在的に持っている能力を開発するために使うジョハリの窓を、恋愛に応用するにはどうしたらいいのだろう。そのポイントは、【③秘密の窓】にある(とユカちゃんが言っていた)。

具体的には【③秘密の窓】を褒める、つまり、「他人は気づいていないけれど、本人が知っている性質」を褒めることが相手をオトす鍵になるそうなのだ。

たとえばこんなふうに褒めるといい(これもユカちゃんが教えてくれたの例なんだけど……)。

【褒め方の例】

「キミの経歴ってすごく立派だから、そこばかり注目されがちかもしれないけど、本当は謙虚ですごく優しい人なんだね。その姿勢、尊敬するよ!」

経歴がすごいというのは、【①開放の窓】で自他ともに認める事実。でも、そういう人ほど、【③秘密の窓】では“肩書きではなく内面を評価してほしい”という秘めた思いを持っていることが多い。

でも、ほとんどの人はそこに気づかず、見えているわかりやすいものを褒めようとする。だから、「仕事できるんだね」と褒めるよりも、「謙虚で優しい」ところを褒めたほうが、「この人、私のことわかってくれている!」「もしかして運命の人?」と思ってしまうというのだ。

根気強く相手に刺さる言葉が見つかるまで褒める

ユカちゃんの説明は、たしかに納得できるものだった。「でも……」とメンタルが弱い僕は思ってしまう。相手が秘密にしたいことなんて、そう簡単にわかるのだろうか。推測が外れて、的外れなことを言ってしまったら、そこでジ・エンドになってしまうのではないか。

そんな疑問をぶつけると、あの時、ユカちゃんは僕の顔をまじまじ見つめ返して言った。

「海藤さん、真面目すぎっていうか、頭が固すぎますよ! 占い師と一緒で、だいたい誰にでも当てはまりそうなことを言うところからスタートして、そこから深堀りしていけばいいんです」

相手に「そんなことないんだけど」と返されたら、そこを深堀りしなければいいだけだという。

肩書きがすごい人は内面を褒められたがっているというのも一般論で、もちろん当てはまらない人もいるし、内面を褒めるのにしても、気が利くところをほめられたい人もいれば、仕事に取り組む姿勢を認められたい人もいる。

このように評価されたいポイントは人それぞれだから、粘り強く何度も「③秘密の窓」にアプローチしていくことが大切だという。繰り返すうちに、何を褒められたがっているかが見えてきて、相手の心を開いてオトすカギが見えてくるというわけだ。

「要は、相手を一発でオトすような口説き文句なんかないんですよ。モテる男たちは、こうした作業を根気よく積み重ねているだけなんです」

あまりに説得力のあるユカちゃんの言葉に、僕は思わず唸ってしまった。自分が非モテなのを、“イケメンじゃないから”“チビだから”と言い訳していたけれど、結局は手間を惜しんでいただけだったのかもしれない……。

根気強く相手に刺さる言葉が見つかるまで褒める

じゃあ、今日のお客さんのサトミちゃんのようなタイプは、どこにオトすカギがあるのだろう。おそらく【①開放の窓】は「無口」「おとなしい」。このあたりは、自他ともに認めている性格だろう。

では、自分では自覚しているけれど、他人はあまり気づいていない【③秘密の窓】はなんだろうか。そこで思い浮かんだのが、話すのは不得手な代わりに、聞くのは得意だと考えているのではないかということだった。

そこから、「聞き上手だから、本当に話しやすいよ」と褒めてみたのだ。その結果は、どうやら的外れではなかったらしい。

「今日は、シャンパン入れちゃおうかな」

ずっと安い焼酎のボトルしか入れてくれなかったユカちゃんが、まさかシャンパンを入れてくれるなんて!

「じゃあ、モエシャンもらってもいい?」

「シャンパンコールやってもらえるんだよね?」

「もちろん!」

「じゃあ、それで」

「はい、モエシャンいただきました!」

モエシャンはお店価格で2万円ほどのスパークリングワイン。お店に置いてあるシャンパンの中では決して高いほうではないけれど、これまでサトミちゃんは1回の来店でせいぜい使っても2万円止まりだったことを考えると大成功だ。

「5番テーブルからモエシャンいただきました~」

店内にアナウンスが響きわたる。ほかのホストたちとコールしながら、僕は【③秘密の窓】を開かせるテクニックを頭のなかで復習していた。

<構成/伊藤彩子>

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この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito